百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない   作:稲荷竜

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119話 キミの力(女子中学生)

 冬が来てまた一つ歳を重ねることができた。

 

 同世代たちはそろそろ誕生日というものを祝わなくなってきているようだった。

 三十歳も半ばになり、いよいよ四十歳に手がとどこうかとなるこの時期、みなそろそろ『老い』を気にし始めるらしい。

 

 顔を合わせれば健康と筋トレと親の老後の話ばかりだ。

 

 まあ『生ききる』ことを目的にしている俺としては興味のあることしかないのでいい。

 しかしそんなに年がら年中最新の筋トレ法やら長寿法やらが発表されるわけでもないので、どうしても話題は同じところをいったりきたりするだけになって、『新しい情報をくれ』という気持ちを禁じ得ないのも事実ではあった。

 

 そんな退屈にして平和な日々を破壊するかのようなメッセージが俺の携帯端末にとどいたのは、誕生日から数日経ったある日のことだった。

 

『誕生日おめでとう』

 

 誰? と首をかしげた。

 メッセージの送り主はカリナだ。それは見ればわかる。

 

 だが俺はあいつから誕生日を祝うメッセージをもらったことは人生で一度もなかった。

 

 送ってくるのが当日じゃなくて数日遅れたあとだというのは、『カリナだなあ』という感じなのだけれど、『他者の誕生日を祝う』という行動があんまりにもカリナらしくなくって、俺はアカウント乗っ取りによるスパムメッセージを警戒した。

 

 返信してもいいものなのだろうか……その迷いを抱いた俺は、既読した状態でとりあえず一日ほど熟成させてみることにした。

 そうしたら半日も経たないころに、再びメッセージが来た。

 

『キミの力が必要だ』

 

 まだスパムメッセージの可能性を感じる文面だった。

 が、こういう対処に困る文面はいかにもカリナらしい気もして、俺の中のカリナ度が上がっていく。

 

 不思議なもので、あいつがこういう回りくどいメッセージを送ってくる時はだいたい事態がどうしようもないほど切迫していることが常だった。

 なぜかあいつは『普通に助力を頼む』ことができない性格の持ち主で、他者に強く救援を求める時ほど、まわりくどいというか、伝わりにくい文言を選んで、相手から『どうしたの?』という反応を引き出したがる悪癖があるのだ。

 

 素直に言えよ……

 もう四十近い大人なんだからさ……

 

 俺は今使ってる端末のアカウントにスパムメッセージを送られたくないので、そこからさらに半日ほど寝かせることにした。

 そうしたら半日も経っていない夕食後のまったりタイムに通話が来た。

 

「既読無視しないでよ!?」

 

 だって内容がスパムみたいだったから……

 どこかの業者が俺の作ってるアカウント情報を買って誕生月に合わせて営業してきたかと思ったんだよ。

 知ってる? 個人情報ってそれなりに簡単に買えるんだぜ。

 通販サイトとかでアカウント作製の時に読む約款(やっかん)あるじゃん? あの中の『とある一文』がわかりにくいけど『あなたの個人情報売ってもいい?』って意味でさ……

 

「約款なんか読んだことない」

 

 まあ、だろうと思った。

 今度読んでみなよ。意外とおもしろいこと書いてあるから。

 それじゃ。

 

「切らないで!」

 

 カリナが面倒ごとを俺に持ってくる気しかなさそうなので話を逸らして切り上げようとしたら、さすがに気づかれた。

 まあ長年の経験からこの手の話題逸らしは無駄だとわかっちゃいるのだが、なんかカリナに対してはいったんはぐらかすのがクセになってて、やっちゃうんだよな。

 彼女と話す時、俺は童心に返っているのかもしれなかった。

 

「わかってるみたいだからもう本題入るけど、実はレックスにお願いがあるんだ」

 

 まあお前が俺の誕生月にお祝いをよこすとか、つきあいができてから二十年近く、一回もなかったからな……

 えっ、嘘、もう二十年もつきあいがあるの?

 意味がわからない……

 

「意味はわかるでしょ!? そうじゃなくって……レックス、君にしか頼めないことがあるんだ。実は……女子中学生を斡旋(あっせん)してほしい」

 

 いったん通話切るね。ちょっと警察に用事があるから。

 

「通報しないで! 怪しい意味じゃなくって! 女子中学生の力が必要なの!」

 

 カリナはこういう時、わざとなのかどうなのかはわからないが、非常にまわりくどく、とっちらかった話をする傾向がある。

 なのでまとめると、どうにも最近、彼女の描く漫画のファン層が上がってきていて、これに彼女は危機感を覚えているらしい。

 なので若い読者がほしいから、若い読者の意見を聞きたいそうなのだ。

 

 まあ俺がカリナに女子中学生を斡旋したのは部活顧問になったはじめの年だけで、以降は教育庁から『あそこの私学の文芸部顧問が漫画家に女子中学生の横流しをしている』とか言われてもイヤなので、なるべくカリナを部活から遠ざけ続けていた。

 当時の女子中学生も今や社会人なので、ここらで新しい女子中学生を入荷したいというのがカリナ大先生の思惑なのだろう。

 

 片棒かつぐと思わぬところからリスクが飛び出してきそうだから、イヤだな。

 

「そんなこと言わないでさ……追い詰められてるんだよ。昨今は出版業界も縮小してきてるんだ。今、勢いがあるのは若者も見る無料配信漫画なんだけど、あれはセンスが若すぎてボクでは理解ができない……理解ある若者の理解した発言がほしいんだよ……生の声……女子中学生とか女子高生の生がほしいんだ……」

 

 どうしよう、カリナが言葉を重ねるほど、俺は紹介するのがイヤな気持ちになっていく……

 

 というか教師の立場で漫画家に女子中学生を個人的に紹介するとか、誰が聞いても真っ黒だから普通にやりたくないんだよな……

 

 しかし俺はこういった時に『カリナを切り捨てる』という選択がとれない性格を持っていた。

 生ききるためには切り捨てねばならないものが山ほどあるのは知っている。

 いっときの同情やストレスを重んじるばかりに、将来的な安寧を手放すというのが愚かなのは、比喩ではなく『死ぬほど』知っているのだ。

 

 が、それでもできない。

 

 ドライな選択をできる人格ではないのだった。

『天寿をまっとうする』と標榜し、そのために生きるとうそぶいておきながら、俺は自分が『目的のためにすべてを捨てる』というのができないのだと、とっくにあきらめているのだった。

 

 もちろん、精神の自己改造には余念がない。

 今の状態でも、最初期に比べればずいぶんと合理的で冷徹な判断をくだせるようになったとは思うが……

 カリナとここでつきあいを完全に絶つほど非情な決断をできるようになるには、あと数百年はかかるだろう。

 

 さりとてカリナに女子中学生を斡旋するのもリスクが高い。

 なので俺は説得を試みることにした。

 

 よく聞けカリナ。

 むしろ俺よりお前のほうがよく知っていると思うんだけれど、『読者の意見』はそこまで役に立つか?

 

「どういう意味?」

 

 いや、ビジネスの話だけどさ。

 顧客っていうのは、自分の要望を正確に言語化できないのが普通なんだよ。

 

 たとえば女子中学生の『こんな漫画読みたい!』を具現化するとするじゃん。

 で、読ませるじゃん。

 

 絶対に読んだあと『なんか違う』って言うぜ。

 

「……あああ……あああああああ」

 

 カリナ史上もっとも深い納得が吐息となって通話口から漏れてきた。

 

「編集さんとあるわー……ボクもなん社かとつきあいあるけど、なんか、『もうちょっとフューチャーな感じで』とか『いい感じに修正して』とか言うのに、具体案はおろか方向性さえ思い描いてない人いるわ……」

 

 まあそれと同じケースかは正直よくわからないんだけど、女子中学生の読みたいものを女子中学生に聞いたとしても、女子中学生の読みたいものを作るのに有益な意見はもらえないと思うんだよな。

 あとさ……

 そこまで具体的に『自分の読みたいもの』を語れる女子中学生がいたとしたら、普通に漫画描いてると思うんだよな。

 今は昔より漫画描き始めるハードル低いじゃん。

 

「あー! あるねー! あるねー! そういう可能性超あるねー!」

 

 だろ?

 

「ああくそう! おばさんはもうお呼びじゃないのか! 若者にウケる漫画を頭使わずに描きたかったのに!」

 

 どうして歳を重ねるごとに人としてダメになっていくんだろう……

 とにかく女子中学生は斡旋できないし、斡旋したとしてもお前の思う通りにはならないと思うから、あきらめな?

 

 それとさ……

 

「うん?」

 

 たぶん、『女子中学生斡旋して』って本音じゃないよな。

 

「どういう意味? ボクはいつでも女子中学生を斡旋されたいけど……」

 

 いや、なんか追い詰められて、解決法見つからなくて、どうにもならないストレスがたまった時、俺に連絡する癖があるじゃん。

 今回もそれでしょ。

 

「……」

 

 そういう時はさ、微妙に遠慮したみたいなスパムまがいのまわりくどいメッセージよこさないで、普通に連絡してくれよ。

 俺もこわいからさ。スパムメッセージ。

 

「えっ、こわい……レックスに言われてみたらたしかにその通りだわ……めっちゃこわい……レックス心読んでる……こわっ……」

 

 ええええ……

 自覚ナシか……

 

「でもさ、なんていうの? 物語の始まりみたいなのを演出する小粋なサービスじゃない?」

 

 お前の物語って、『勉強以外に取り柄がないおとなしい美少年とヤンチャで活発な少年が恋に落ちる話』ばっかりじゃん……

 俺の人生にそんな物語の始まりを演出しないで。

 あんまりにもその組み合わせで話描くから、ネット上でその組み合わせを『カリナってる』とか言うレベルじゃん。

 

「まあ……好きだからね」

 

 カリナは晴れやかな声で言った。

 そうして俺たちはその後も無駄話をいくらかしたあと、通話を切った。

 

 後日――

 

 カリナのSNSアカウントで『女子中学生の描いてほしい話を漫画化します!』とか募集していたのだが、それはまた、別なお話。

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