百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない   作:稲荷竜

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この世界に魔法はありまぁす!(バトルはないです)
引き続き主人公くんの人生をお楽しみください


13話 幼稚舎、忍び寄る新たなる暗い影

 街路樹が薄桃色の花びらを舞わせるころ、俺は幼稚舎へと進んだ。

 

 新しいおともだちの顔ぶれは保育所とさほど変わりがない。それはそうだ。保育所も幼稚舎も同じ巨大学園のいち施設であり、保育所のメンツがそのまま幼稚舎に行くし、幼稚舎のメンツはそのまま初等科に行くのが普通だからだ。

 

 あまり同期生と遊ばず年下のめんどうばかりみていた俺だが、浮いていたりはぐれていたりすることもなく、ただの幼児のように同期生たちの中に溶け込めていると思う。

 これならば『敵』も油断をすることだろう――そう、生き延びたいのならば己を弱く見せ相手の油断を誘う擬態こそがもっとも必要なのだ。『本気でつぶす価値もない』と思ってもらえれば、それだけこちらの生存確率が上がる。

 

 保育所でそうしていたように、幼稚舎でも俺は目立たず騒がず、適度に幼稚舎のせんせいに従順で、適度におともだちと仲良くし、適度にやんちゃなことをする――そういう生活を送っていくつもりだ。

 

 しかし代わり映えのない日常が始まるかと思われた幼稚舎生活に、一つの不穏な暗い影が落とされた。

 

 転入生だ。

 

 正しくは『転入生』ではない――違った保育所、または家庭保育からこの幼稚舎に入舎してきた者であり、入舎式で一緒になるのだから、『転入』と言うと少し違うだろう。

 

 ともあれ保育所で同じ鍋のミルクを飲んだ仲ではないヤツに対し、俺は当然、警戒した。

 警戒したならば、どうするか?

 当然、『知る』ことだ。

 

 世の中には警戒することが本当に多くて、そのすべてにマックスの警戒を続けることはできない。精神は疲弊し、体力を失い、いざという時に対処できなくなる。

 だから知ることで、警戒を続けるべきか、やめるべきかの判断をするのだ。

 

 俺は自由時間になると、保育所からのエスカレーター組を率いて、外部入舎組を取り囲んだ。いくぜおまえら! おー! 適度に目立たず適度に従順で適度にやんちゃした結果、俺は保育所組の大将みたいになっていた。適度ってすごい。

 外部入舎組はどこかおどおどしていて、俺はそいつらをジッとねめつける。

 

「な、なによ」

 

 外部入舎組の中にあって、一人、俺のほうへ歩み出る女がいた。

 

 お? と俺は首をかしげた。

 

 俺たちはまだ四歳だ。さすがに二足歩行に問題はなく、普通に走り回ることが可能で、木登りなんかもできちゃうし、手先は複雑な『折り紙』という技術さえ問題なくこなせる。

 言葉だって、さすがにハッキリしてきている。まだ一部不安な言葉もないではないが、日常会話をこなすには十分すぎるほど言語を操る。

 

 だが、その俺をしてさえ、そいつの『な、なによ』という発言は、なんだか大人びて感じられたのだ。

 言葉に舌足らずさがないというか、ハッキリしているというか。その大人みたいにしっかりした発音に、俺は思わず感心した。

 そして一つの仮説を立てる。

 

 さてはコイツ――『四月生まれ』か!

 

 俺が転生してきた世界の実に三分の二がそうであるように、この世界もまた、十二ヶ月制を採用している。

 一年は当然ながら一月から始まるのだけれど、不思議なことに、入舎などの行事は四月におこなわれるのだ。

 

 この制度によってなにが起こるかというと、『四月生まれがクラスの中で一番早く誕生日を迎える』ということが起こる。

 なんだ、そんなことか――意識の低い連中はそう思うだけだろう。だが、俺たちは四歳児だ。四歳の幼児はまたたくまに成長する生き物である。

 四歳十ヶ月と四歳二ヶ月とでは、四歳十ヶ月のほうが、体も頭も成長している――すなわち、強いのである。

 

 別に『赤ちゃんが魔法的に最強生物』ということもなかったこの世界において、『ほかのクラスメイトより早く誕生日をむかえる』というのは有利な補正と言える。

 俺はいっそうの警戒をもって外部組の女を見つめた――これだけ言葉がハッキリしていて、しかもよく見ると俺より背も高いそいつは脅威だった。敵に回してはならない。

 

 俺は指をくわえて悩む。四月生まれ。体の大きい女の子。どうしよう、ちょっとこわい。なんだか目つきもするどいし、怒らせてはいけない存在なのかもしれない……

 外部組の連中は保育所組の連帯感を見て不安なのかもしれないが、保育所組の俺たちだって、外部組という未知なる存在に対し恐怖を抱いているのだ。

 ファーストインプレッションでなめられないようにとりあえず大人数で囲んでみたものの、囲んだあとどうするかとかの具体的なプランがあったわけじゃないし、女の子は体が大きくてこわいし、どうしよう。泣きたくなってきた。

 

 しかし俺はもう四歳のおにいさんなのだ。おにいさんは泣かない。では、どうするか?

 そう、おにいさんは――優しくするのだ。

 

 俺は保育所で教わった心得を思い出していた。『おにいさんだから、年下の子には優しくしましょう』――保育所は人生に役立つ様々なことを教えてくれた。俺の人生は保育所とともにあったと言える。

 保育所。保育士。そこで学んだことは、幼稚舎に来ても俺の中にたしかに息づいていた。

 

 俺は四月生まれっぽい女に手を差し出した。

 ぼく、レックス。よろしくね。

 

 女は一瞬きょとんとしたあと、くしゃくしゃの赤毛の中に手をつっこんでから、俺へ手を差し出した。

 

「わたし、シーラ!」

 

 俺たちは手を握り合ってぶんぶん振った。

 そのあとみんなで折り紙をして遊んだ。

 

 せんせいが俺たちのことを笑顔で見ていた……

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