百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない   作:稲荷竜

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76話 面従腹背

『顧問をやってみてくれないか』という申し出はあまりにも唐突に思えて、俺は一瞬、言葉に詰まってしまった。

 だって俺には顧問要素が一個もない。

 

 顧問というのは『経営顧問』とかではなく、もちろん新米教師にその上司が依頼するのだから、『部活動の顧問』に他ならないと推測できるわけだ。

 しかし俺は部活動に所属したことがなかった。

 趣味がなかったのだ。

 また、内申点を稼ぐのに『部活動で一定の成績を残す』よりも『生徒会所属』のほうが難易度が低かったこともあり、部活動に熱意をかたむけようという気持ちさえなかった。

 

 まあしかしよくよく話を聞いてみれば、『指導はコーチがやるので、学園側の管理責任者として名前を貸してほしい』ということだった。

 

 それならまあ、とはならない。

 

 俺は――責任者になんかなりたくないからだ。

 

 なぜ見ず知らずの子供たちの行動に責任をとらなければならないのか……

 あまりにもリスクが高すぎる……

 責任者になるということは、俺が責任をとることになっている相手に、俺の昇進や降格、はては免職までをかけるということだ。

 

 もちろん『部活動でケガ人が出た』即『免職』ではないだろう。

 だが経歴には(キズ)がつくはずだ……ささいな疵が、将来においてどんなふうに足をすくうかもわからないのだから、おいそれと引き受けることは、やはり、できそうもなかった。

 

「まあまあ、そう言わずに……多少の問題が起きても、学園がどうにか処理しますから」

 

 処理?

 

 俺はゾッとした。恐怖を表に出さないように、多大な労力をはらわねばならなかった。

 

 今のは――脅迫だ。

 

 問題が起きても学園が処理できる――すなわちそれは、『お前という問題をいかようにも処理できるのだ』と言っているも同義である。

 

『敵』か?

 

 たしかに『敵』ではあるのだろう。けれど、これはまだ『敵』の本体じゃない。たぶんなにも知らずに、『敵』の味方をするようコントロールされているだけの一般市民なのだろう。

 

 この世界の『敵』は狡猾で、社会を裏から操る以上の行動をしない。

 いちおう『敵』の意図を直接言い含められるような立場であるかもしれないと警戒はするが、こんなに簡単に目の前に現われて、あからさまに『敵』みたいな行動をするコイツは、やはり『敵』そのものよりも、なにも知らない末端Aみたいなものだと考えるほうが自然だ。

 

 観察と警戒をおこたるつもりはないが……

 目の前のこの人を即倒せば、それですべてが解決する――とは、とうてい思えない。

 

 観察だ。

 

 俺は生来持ち合わせているヘタレさからではなく、『今、目の前の男を倒して問題が解決する可能性』と、『目の前の男を倒してなにも解決しなかった場合、負うリスク』を冷静に検討し、(けん)にまわることを決定した。

 

 そして――

 

 観察にまわると決定したうえで、次に俺がとるべき行動はなにか?

 

 それは決まっていた。『恭順』――正しくは、『面従腹背(めんじゅうふくはい)』だ。

 

 今までの人生も、『騙されているフリ』『従っているフリ』でなにごともなく乗り切ってきた。

 しつこく自分に言い聞かせていることだが、俺の『勝利』とは『生き抜くこと』である。

 つまり『問題の先送り』というのは、俺が天寿をまっとうするまで先送りし続けられるのであれば、勝利への近道たりうるのだ。

 

 わかりました。

 部活動の顧問――引き受けましょう。

 

「じゃあ文芸部……第二文芸部の顧問、よろしくね」

 

 そういうわけで、俺は文芸部の顧問になったのだった。

 ……えっ? コーチ来るの? 文芸部に?

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