百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない   作:稲荷竜

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78話 逃れられない

「想像してみてほしい。『先生』っていう言葉は――エロいよね」

 

「君たちはまだ気づかないだろうけれど、ボクらの周りにはカップリングがあふれているんだ。ほら、窓の外。小鳥が木の枝にとまっているだろう? あの時点ですでに『木の枝が小鳥に組み敷かれてそれを手を出すこともできずに見てる木の葉』って感じだよね」

 

「ボクはデジタル派だけど、たまにアナログをやるのもいいと思ってるよ。ほら、アナログでいい絵描けたりするとさ……嫉妬するじゃん、デジタルのヤツ」

 

 カリナ先生は様々なありがたいお言葉を中学生に聞かせて去って行った。

 あと俺の趣味が『BL同人誌の制作指揮』であることをバラされた。

 

 待って。趣味じゃないよ。

 

 たぶん世界広しといえど、「先生、私たちのBL同人誌の制作も指揮してくださいよー」と女子中学生に言われた教師は俺だけではないだろうか。

 やだよ。

 

 まあさらりとBL同人誌描きであることをカミングアウトされる関係になれたのはよかったかもしれない。

 俺は『威圧感のない、生徒と距離が近いタイプの教師』を目指している……カリナの来訪はその一点においては役立った気がする。他にいろんなものを犠牲にしてくれたような気もするが……。

 

 さりげに部員を同人サークルに引き抜かれたりもしたので、カリナが奪っていったものは多いかもしれない。

 

 かくして一学期の文芸部は『熱意ある行動をし、多大なる活動意欲が認められた』という評価になった。

 大会とかはないから名門文芸部になりようがないので(やってることがガチ文芸だったら名門の道もあったが、ガチ文芸は第一文芸部の役割だ)、成果の出しようもなく、このまま細々と続いていくのだろう。

 

 万一ぐらいにしかケガもない部活動なので責任者としては楽なのだが、カリナの来訪以来、『俺は沼の浅瀬で遊ぶ子供たちの背中を押して、腐臭のする沼にたたき落としてしまったのではないか?』という悔恨(かいこん)にさいなまれ続けることになる。

 

 カリナ関係でなぜ俺はこうもストレスを抱えることになるのだろう……?

 寝ても覚めてもカリナのことばかり考えている気がする……

 

 もう夏祭りも近いのに、きっとだらだらソシャゲ周回をしてるんだろうなとか――

 さぼってることに罪の意識があって俺に怒られるのイヤだから連絡を絶ってるんだろうなとか――

 ギリギリになって連絡してきて『今からでも間に合う制作スケジュールを組んでほしい。あと料理と掃除』とか言ってくるんだろうなとか――

 

 カリナの秘書的立ち位置をキープしたのは誤りだったかもしれない。

 

 そんなわけで夏には部活動をしたいという子もおらず(勝手にカリナのサークルに参加するため。俺が斡旋したみたくなってるので絶対に無理はさせるなと念を押した)、夏休みはもちろん通常業務はあるが、空き時間もそれなりに多くなった。

 

 というわけで、少々中途半端なタイミングだが、俺は引っ越しをすることになる。

 

 今住んでいる場所からそう離れていない場所に、やや広い家を借りるのだ。

 

 いよいよ二人暮らしを始めるのだ。

 

 この夏、俺はミリムと同棲を始める。


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