百万回転生した俺は、平和な世界でも油断しない   作:稲荷竜

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感想ありがとうございます
親父になった主人公の人生をお楽しみください
あと娘の成長も(娘の性別、転生者か否かはサイコロ振って決めました)


97話 人生初の?

 アンナさんの結婚相手が一目で『すべてを持っている』とわかるイケメン野郎(しかもいい人オーラがにじみ出ている)だったのに妙なジェラシーを感じつつ、俺たちは帰宅した。

 

 家に帰ると食卓について一息つくのがルーティンと化していて、この時ばかりはサラがテーブルにのぼるのを止める気力が、俺たち夫婦にはなかった。

 

 まあ疲労はするとはいえ、子供を連れての結婚式出席も慣れたものだった。

 というか俺よりサラのほうが慣れている感じだった。外だと本当におとなしいし、言うことを聞く。

 

 学習能力も高いし、運動能力も高い。

 というか物事ののみこみが早いのだ……そう、まるで、これが初めての人生ではないかのような、すでにあまたの経験をしているかのような……

 

 俺は悪い予感を覚える。

 

 まさか……サラは異世界転生者なのではないか?

 

 この疑いを抱いた俺は発声器官の許す限り、記憶している異世界言語でサラに語りかけた……

 だがサラは楽しげに笑うだけで異世界言語に反応しない。

 俺の知らない言語系統の異世界から来た可能性も捨てきれないし、サラ側が俺を警戒している可能性もあるだろう。

 

 俺はミリムに相談した。

 うちの子が天才すぎるから、ひょっとしたら人生二周目以降なのかもしれない。

 

「いや……そういうのじゃないと思うよ……レックスみたいな感じじゃないもの」

 

 ミリムには俺が転生者ということで話が通っている。

 それを信じているかは、正直微妙だったのだが……今の発言を見るに、ミリムは『異世界転生』というものを普通に受け入れている様子だった。

 

「だいたい、天才って具体的にはどういうところからそう思うの?」

 

 具体性を問われると困るな。

 所作一つ一つというか……スプーンの使い方が超うまかったりそういうあたり。

 三歳になる前だっていうのに、食事をスプーンで投げ捨てたりしない。

 絶対に最初から食器の使い方を知っている動きだ。

 

「うーん……いや、最初のころはスプーンのこと投石機みたいに使ってたよ。ご飯とか投げ捨ててたよ。レックスも見てたでしょ」

 

 そうだっけ?

 俺の記憶では『最初から完璧だった』ことになってる……

 

 ……!?

 まさか記憶への干渉を受けているのか!?

 

「受けてないよ……レックスは記憶したいことしか記憶しないから……」

 

 ミリムは俺の『記憶したいことしか記憶しないエピソード』を挙げてくれた。

 それは実に多岐にわたった――中には俺の母から聞いた話も混ざっていて、なんと、この俺の人生において、アンナさんのことを忘れていた時期が存在するらしいという話もあったぐらいだ。

 

 俺は人生においてアンナさんを忘れたことなど一度もない……

 しかし母は『レックスがアンナちゃんを見て「この人誰?」みたいな顔をして、それでアンナちゃんが怒っちゃってね』と語ってくれたのだという。

 その話、俺、参加してない……

 

 というか嫁と(しゅうとめ)の仲がむっちゃよくて、『育児ストレス解消日』にミリムは母と会って、よく俺の幼いころの話などしてるらしい。

 その会合恐い。遠くで見てたいような、見たくないような……

 

「とにかくレックスは昔から、思考のスイッチが入ると暴走するところがあるから……」

 

 ミリムは淡々と『ミリムから見たレックス』について語り始めた。

 

 それは俺の認識していない俺の話だった。

 

 まず、俺はどうやら世間では『しゃべってる最中、たまにピタリと話を止めることがある人』のようだった。

 続いて『黙りこくったあとに妙なことを言い始める人』でもあるらしい。

 それゆえに『思いつきで行動をする人』に見えているのだとか。

 

 さらには『沈黙がこわい(いい意味で)』人だとも言われた。

(いい意味で)ってなんだよ。

 

「……パンパンにふくらんだ袋とかをさ、つぶすと、『パンッ!』って鳴るじゃない。『パンッ!』って鳴る前のつぶしてる時間、ドキドキしない?」

 

 えっ、それ、今の俺の質問に対する回答?

 

「そう」

 

 ミリムはたまにちょっとよくわからない表現をする。

 主語が足りないこともあるし、国語が苦手だったのかもしれない。

 

「とにかくレックスとは全然違うから、そういう心配はいらないよ」

 

 ミリムはあまり断言をしない。

『かも』や『と思うよ』などを語尾につけて発言にあいまいさを持たせることが多いのだ。

 その彼女が心配はいらないと言い切るのだから、きっと、俺には説明しがたい彼女なりの根拠があるのだろう。

 

 しかし、追求せざるをえないセンテンスがあった。

 

 サラが――俺と、全然違う?

 鼻筋とか似てるだろ?

 

「鼻筋は……わたしかな……。目とかも……わたしかな。……わたしだね」

 

 いや、鼻は……俺でしょ。

 

 俺とミリムは見つめ合った。

 そして――

 

 人生初の、夫婦げんかが始まったのだった。

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