失楽園   作:若奈

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失楽園 ~宣言~

初夏の日差しが陽気に地面を照らす。

すっかり汗ばむ季節となった。

それにも関わらず、大きな広場には何千何万もの人が集まっている。

子連れのお母さんもいれば、学校帰りの女子高生、カップルや夫婦、性別や年齢も様々だが、その多くは若年層が占めている。

その場にいる全員がはやる気持ちを抑えて、何かを待ちわびている様子だ。

 

視線の先には特設されたステージが設置されており、その中央には豪華な演壇が設置されている。

集まった人々やテレビ用の大きなカメラも何台もジッと特設された無人の演壇を映し出している。

 

やがて、スーツ姿の壮年の男性が壇上へ姿を現す。

その姿はキリッとした目つき。おおよそ何かの上に立つのに相応しい雰囲気を身に纏っている。

 

ざわざわとしていた人々が一斉に静まり返る。

そして、視線やカメラの先は全て男性へと注がれる。

 

マイクを通して男性の言葉は眼前にいる何千何万もの人、カメラを通して何千万何億もの人に届く。

 

「今日、このテレビを見ている方、そしてこの会場に運良く招待された18356名もの方たち。我々は個から始まり、それがやがて小さな組織となり、今日という日を夢見ながら様々なことに挑みました。その過程で大切な仲間を失い、決別し、困難を極めました。しかし、その想いが遂に実る時が来たのです。我々は勝利したと言ってもいいでしょう。だが、我々はまだ道半ばと言ってもいい。名実ともにこの世界、地球の支配者として相応しい存在へとなり得るために我々…」

 

一瞬の沈黙。

壮年の男性はニヤリと口角を上げる。

 

「オルフェノクが全ての人間を根絶やしにしてこそ完全勝利となるのです」

 

その瞬間、人々は歓声を上げる。

いや、最初は歓声だった。

それが周りの雰囲気に呑まれ、やがて歓声はまるで獣の咆哮のように変化していく。

 

そして、会場の人々にも変化が訪れる。

ぽうっと瞳が白っぽく銀色に発光した。

それが、スッと肌全体へと行き渡ると、奇妙な模様が皮膚に浮かび上がる。

肉体が変化する音、水っぽい音とともに身体中の細胞や筋肉、内臓までもが人間とは異なる様相へと変化を遂げようとしているのだ。

個々が白っぽく発光し、何万何千人といる会場全体がまるで一つの太陽かと思えるくらいに発光し、全ての者がその変化を終える。

 

ウロコのような騎士の鎧のような灰色一色の分厚い皮膚に覆われた怪人たちがそこにいる。

太陽に照らされた彼らの身体は銀色に反射し、まるで一面銀色の海のように蠢いている。

そのほとんどが2mを超す身長を持ち、一見灰色に統一されているようにも見えるが、わずかにその濃淡に違いを見せている。

彼らは個々でまるで動植物の権化かのような姿を持ち、唯一分かるのは、男なのか女なのか性別くらいだろうか。

意匠は様々であり、ボクサーや神官、ビキニアーマーなどを思わせる姿、ゾウやサメなど獰猛な動物などを思わせる姿など様々な違いが見て取れる。

 

それが元々子連れの親子や女子高生、カップルや夫婦たちとは思えない姿をしている。

その場にいた18356人のほとんどがそのような姿へと変化したのである。

 

スマートブレイン社の社長である村上峡児は口に笑みを含み、壮観に眺める。

これこそ夢見ていた光景だ。

オルフェノクが迫害を受けず、安心して暮らせる世界。

スマートブレイン社周辺だけでなく、世界の隅々まで暮らす一般人がオルフェノクである事実。

また一歩、夢が叶うその瞬間に近づいた。

 

村上が違和感を覚えた時だった。

 

ドゴーン

 

18000体以上の獣たちの咆吼をかき消すほどの轟音とともに何ヶ所かで爆発が起きたのである。

 

その場にいた重厚な灰色の鎧を持つ異形たちの身体は宙へと放り出される。

爆発により、巻き込まれたオルフェノクは100は下らないだろうか、地面に叩きつけられる者、他のオルフェノクと激突する者もいた。

そのうちの何割かは灰と化してサラサラと消え去っていった。

 

オルフェノクたちの足元にボウっと青白い人間の姿の影が現れ、ざわつく。

その中には先程の子連れのお母さんや女子高生たち、カップルや夫婦もいた。

 

「人間解放軍だ!」

 

誰かがそう叫んだ。

 

爆発のあった近くの場所で、人間の姿をした男女10人ほどだろうか。

周りのオルフェノクたちに捕まり、暴れている。

 

「お前らの好きにはさせない!!」

「嫌だ、いや、助けて!」

 

憎悪を剥き出しにする者、助けを懇願する者。

その願いは届かない。

 

ある男の兵士は小学生の男の子が変化したナマコの特性を持つシーキュカンバーオルフェノクによって捕まり、ある女の兵士はその小学生の母親が変化したコガネムシの特性を持つスカラベオルフェノクに、長髪の男の兵士はセミロングの女子高生が変化したフジツボの特性を持つバーナクルオルフェノクに、痩せこけた女の兵士はおさげの女子高生が変化したサンゴの特性を持つコーラルオルフェノクに捕まった。

 

その他にも、象の特性を持つエレファントオルフェノクやメカジキの特性を持つソードフィッシュオルフェノク、カタツムリの特性を持つスネイルオルフェノク、カメムシの特性を持つスティンクバグオルフェノクが兵士を捕らえている。

 

それだけではない、周りにはワニやコウモリ、クワガタ、クモ、ヘラジカ、ツクシなど動物や昆虫、植物など様々な意匠を模った多種多様な怪人たちが囲んでいる。

 

リーダー格の男は会場の警備にあたっていたライオトルーパーたちによって会場から引き摺り出され、どこかへと連れて行かれた。

 

そして、シーキュカンバーオルフェノクは濃縮されたオルフェノクのエネルギーの体液を掌に発現させ、スカラベオルフェノクはまるでフェンシング選手かのようなサーベルを、バーナクルオルフェノクは口部から触手を出し、コーラルオルフェノクは口から生えた突起からゲル溶液を噴出させる。

 

人間解放軍の兵士たちは叫ぼうが何をしようが、オルフェノクの触手や武器によって心臓を一気に貫かれる。

臓器に突き刺さる音が響く。

ドクンドクンとエネルギーを流され、途端に青白い炎を上げて、心臓は灰化する。

 

まるで、予定調和かのように、テレビカメラはそれぞれの兵士を一台ずつ映し出し、全世界へと配信している。

 

そして、一瞬の間を置いて、兵士たちは徐々に身体を灰化させていき、最後は地面に身につけていた衣服と灰の山だけが残されていただけだった。

 

パチパチ

 

「素晴らしい!これは殺戮や報復ではない…愛なのです。彼らを苦しみから救うためにはこうするしかない。人間は争いを生む。ここにいる皆さんは分かっている。なぜなら、皆さんも元々は人間だった。でも、今は違う。オルフェノクは世界を愛で包むのです。人間から進化したオルフェノクはそれを成し遂げるために存在するのです。人間を襲わずして、オルフェノクは生まれない。これは愛ゆえの行為。今、この瞬間があるのは、オルフェノクとなった皆さんが、築き上げてきたと言ってもいい。オルフェノクを受け入れ、オルフェノクとして生きる。それだけなのです。オルフェノクが人間を襲えば、その人間は死ぬ。灰となって死ぬ人間が多い中、オルフェノクは生まれる。オルフェノクはそれだけ価値のある存在なのです。皆さんなら分かるはずです。皆さんも同じことをされ、同じことした。だから、今がある。人間を襲うことは悪いことではない。オルフェノクになれない人間の存在価値などないのです。だから悪いことではないのです」

 

壇上の村上がそう発言する。

そして、オルフェノクたちは先ほどよりも大きな咆吼を上げる。

空気を振るわし、地を震わす。

 

それが、残された人間たちにもう地球は人間のものでなくなったことを痛感させられたのであった。

 

ーーー

「申し訳ありません。社長…」

「いや、それでいいのです」

「しかし、一般市民が人間解放軍のテロに巻き込まれて50名以上が亡くなりました」

「オルフェノクの身体を吹き飛ばせるほどの威力です。生き残った市民を褒めるべきでしょう。彼らは訓練を受けているスマートブレインのライオトルーパーやオルフェノクとは違う。普通の一般市民であり、気がつけばオルフェノクになり、流されるがままにオルフェノクを受け入れ、受動的に生きてきた人たちだ。我々にとって彼らは便利で都合のいい生き物なのです。ここまでオルフェノクが増えたのも、彼らがスマートブレインの意志やオルフェノクの種としての存在意義を理解し、人間を襲ってオルフェノクを増やしたから。それに、我々はより団結し、より民衆を簡単にコントロールできる。人間解放軍が危険なモノだと全世界のオルフェノクたちに知らしめられた」

「しかし、今回の会場にはこちらで抽選し、会場に入るまでの警備も厳重でした。なぜ、会場まで人間解放軍の兵士が紛れ込んでいたのでしょうか」

「ふふ。簡単なことです。オルフェノクの中に協力者がいたのでしょう。いずれ炙り出してやりますよ。今までスマートブレインに刃向かってきた者たちは亡き者にしてきた。オルフェノクに覚醒したにも関わらず、人間に味方し、共存とでも言えば我々が納得するとでも思っている。そんな輩を野放しにしていた我々にも責任があります」

「今回捕らえたリーダー格の男はこれから尋問にかけます」「そうですねぇ。死なない程度に吐き出させてください。その後は…民衆が望むのは公開処刑でしょう。柿落としにはちょうどいい。SMART BRAINスタジアム。ここで公開処刑をね」

 

村上がニィっと口角を上げ、視線を天井から吊るされているモニターに移す。

モニターには一人の女性が映し出されていた。

 

「あーあーマイクテストォー」

 

まるでニュースキャスターかのようにセットされたスタジオをバックに話し出す。

しかし、アナウンサーとは程遠い容姿と口調。

水色を基調として、所々に黒が配色されたノースリーブのエナメル質のワンピースを着用し、胸部とミニスカートの部分にはSMART BRAINとロゴが配されている。

スマートレディと呼ばれる彼女。

 

「はぁーい!今日はオルフェノクの皆さんが待ちわびた、我らが村上社長によるオルフェノクによる全世界の支配宣言が行われま~し~たあ~」

 

まるで幼稚園児に語り掛けるような口調とニュースを模した画面に強烈な違和感があるが、オルフェノクたちにとってはオルフェノクと人間が入り混じっていた頃、もうずっと前からこれが当たり前なのだ。

 

「村上社長によるすばらし~い演説~…でも…」

 

両手を目元に充てて、泣きまねを見せる。

 

「え~ん。人間解放軍たちによって爆破テロをされて、54人ものオルフェノクの皆さんが亡くなってしまいました~。でも、安心してね?会場の皆が敵を討ってくれました~!」

 

モニター画面には当時中継されていた映像が映し出されている。

 

「12人の人間界軍の兵士さんはオルフェノクたちによって天罰を!」

 

それぞれの兵士たちが使徒再生されるシーンが流された。

 

「そんでもって!リーダー格の男は捕らえました~!そこでお知らせです!今回は~来週の月曜日にSMART BRAINスタジアムのこけら落としにこの男の処刑をしま~す!」

 

バンっと男の顔写真が映し出され、その次にはそれの応募先が表示される。

 

「是非皆さんふるって応募してね♥ わ、もう応募がこんなに来てます!」

 

画面の右下に応募件数が表示されているが、ものすごい勢いで、その数が増えている。

 

「あ、ちなみに今回お亡くなりになった兵士さんの中でオルフェノクになった人は誰もいませんでした~ざぁ~んねん」

 

シュンとする表情を見せたかと思うと、とびっきりの笑顔で別の数字を告げる。

 

「これで生き残っている人間の数は12557人!。1年前80億もいた人間がもうこんなに減ってます!もう少しでオルフェノクが安心して暮らせる世界が実現します!皆さん頑張ってね!♥」

 

 

~Fin~

 

【Chara DATE】

・シーキュカンバオルフェノク 『黄前 陽名多』

母親に連れられた小学生の男の子が変化する、ナマコの特性を持つオルフェノク。

都内の小学校に通う3年生で9歳。

幼いため戦闘能力は大人に比べると低いが、同級生の中では平均的な能力。

掌からはオルフェノクエネルギーを含んだ体液の他、コンクリートをも溶かすゲル溶液を放つこともできる。

 

・スカラベオルフェノク 『黄前 陽菜』

小学生の子供を連れた母親が変化する、コガネムシの特性を持つオルフェノク。

1児の母で、夫と3人暮らしの34歳。

元・体操選手で、身体の柔軟性は引退してからは失われつつあったが、オリジナルのオルフェノクに覚醒した夫によって、使徒再生されて、死亡。その後、オルフェノクに覚醒し、自らの手で息子である陽名多を使徒再生し、オルフェノクへと覚醒させた。オルフェノクへと覚醒した際にかつて以上の柔軟さを取り戻した。

身体の皮膚はかなり硬く機関銃を至近距離から受けても、全くの無傷で済む。

未経験ながら、フェンシング選手のような見事なサーベル捌きを見せ、サーベルを人間に突き刺すことで使徒再生を行える。また、このサーベルは厚さ20cmの鉄板を突き刺すことができる。

 

・バーナクルオルフェノク 『文月 未亜』

セミロングの女子高生が変化する、フジツボの特性を持つオルフェノク。

都内の名門校に通う高校2年生の17歳。

愛南とは中学の時からの付き合いで、この日も当選した愛南に誘われて会場へやってきた。

未亜は数ヶ月前に付き合っていた彼氏によって、使徒再生をされてオルフェノクに覚醒した。

全身にフジツボのような突起のある固い皮膚に覆われて、突進することによってコンクリートの壁をも破壊することができる。フジツボの他にアメフト選手を思わせる意匠も身に纏っている。

使徒再生は口部から触手を出すことにより、可能で、武器はボール型の爆弾である。

 

・コーラルオルフェノク 『知念 愛南』

おさげの女子高生が変化する、サンゴの特性を持つオルフェノク。

都内の名門校に通う高校2年生の16歳。

元々4人家族だったが、オルフェノクに覚醒した兄の彼女によって、愛南以外は灰と化してしまったが、愛南はオルフェノクとして覚醒した。

3つある口も突起物からは使徒再生できるオルフェノクエネルギーを放つことができる他、相手を硬質化させるゲル溶液を噴出させることも可能。

 

・エレファントオルフェノク女

茶髪ボブカットの女子大生が変化する、象の特性を持つオルフェノク。

 

・ソードフィッシュオルフェノク男

茶髪の男子大学生が変化する、メカジキの特性を持つオルフェノク。

 

・スネイルオルフェノク女

ラフな格好で訪れた女性が変化する、カタツムリの特性を持つオルフェノク。

普段は近郊都市のコンビニでフリーターをしている20代半ばの女性。

 

・スティンクバグオルフェノク女

女子中学生が変化する、カメムシの特性を持つオルフェノク。

 

・クロコダイルオルフェノク男

ピアスをしている男子高校生が変化する、ワニの特性を持つオルフェノク。

 

・バッドオルフェノク男

サラリーマンが変化する、コウモリの特性を持つオルフェノク。

 

・スタッグビートルオルフェノク男

スーツを着た男性が変化する、クワガタの特性を持つオルフェノク。

 

・スパイダーオルフェノク女

20代の主婦が変化する、クモの特性を持つオルフェノク。

 

・エキセタムオルフェノク女

ブレザーを着た女子高生が変化する、ツクシの特性を持つオルフェノク。

 




きっとオルフェノクたちの式典的なやつもあるはず。
ではまた次回。
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