7月中旬。
ジメッとした梅雨も終わりを迎え、カラッとした陽気はもうすっかり夏本番といった季節になってきた。
この県立の女子校でも、先週の期末テストが返却され始める時期。
来週に終業式があり、それが終われば夏休みだ。
【AM11:35 A棟ーB棟渡り廊下】
「暑っつー…」
次の授業へ移動するために外を通らなければならないのだが、ここ最近連日35度を超える猛暑日が続いている。
せいで、分かっていることだが、ついつい声に出してしまう。
「ホントに夏休みを前倒ししてくれないかなぁ〜」
隣でポニーテールを揺らし、下敷きをうちわ代わりにしながら歩く美鈴は割と涼しげな表情だが、そういう美鈴の額にも汗が滲んでいる。
クーラーの効いた室内で練習をする吹奏楽部の私に比べて、陸上部の美鈴はいくらか暑さに耐性があるのだろう。
「あっ…ごめんなさい」
ちょっとでも歩けば、意識が朦朧となりそうな暑さのせいか、前を向いていたはずだったが、すれ違う人と肩がぶつかってしまった。
幸いにも、ぶつかった相手は笑顔でペコっと会釈をしてくれた。
「もー架織前見て歩かないとー」
「前向いてたはずなんだけどなぁ」
他愛のない話をしながら、次の授業の教室へと向かった。
【PM2:20 A棟2階 2-C】
そうして暑さと戦いながら、やがて6時間目を迎える。
午後2時すぎとなり、1日の中でも一番暑い時間帯だが、クーラーの効いた自分の教室だったために、一歩も外を歩かないでいいのと、期末テストが終わったこともあり自習となっていることも架織の中では、テンションが上がっていた。
窓側に座る架織が、ふと外を見るとグラウンドには体育の授業を受けている、体操服姿の生徒たちが見えた。
熱中症寸前ではないかというほど動きが緩慢で、まるでゾンビたちがグラウンドを彷徨っているのではないかというほどだ。
体操服の色からして、3年生の先輩たちだろう。
哀れみを覚えるが、明日の5時間目は私たちのクラスが体育祭だったことを思い出す。
そして、視線を窓の外から前方へ移すと、前の席に座る美鈴も外を眺めていた。
あー美鈴も外で可哀想な生徒たちを眺めているのだなと思っていたが、窓に映し出される美鈴の表情はどこか寂しげな表情で、目にも生気がないように見えた。
すぐに窓を介して見られていたことに気が付いた美鈴は、ポニーテールを揺らしながら、勢いよく振り返った。
「何っ?」
「えー、いやー外の人たち可哀想だなって思って見てたんだけど、美鈴も外見てたからさー」
寂しげな表情のことを聞こうかと思った。だが、中学からの付き合いで、いつも元気な彼女がそういう表情を見せた時といえば、彼氏と別れた時くらいだっただろうか、気にはなったが、クーラーの効いた教室とはいえ、もしかするとずっと暑さに耐えていたのか、外の生徒たちを哀れんでいたのか、そういう表情になる時もあるだろうと、あまり気にしないでいた。
「ね、帰りカラオケ寄って帰らない?暑すぎて、陸上部も練習ないんでしょう?」
「えー、あ…うん。でも今日は辞めておこうかな?なんか、そんな気分じゃないや」
「ねぇ、美鈴最近どうしたの?なんか…この前だって恵里菜が誘ってたのに断ってたじゃん」
「いや、たまたま用事があるだけだよ!て、てかさ、吹部って練習ないの?なんか超スパルタで休みないってイメージだけど?」
「え、あーウチは強豪校じゃないし、一昨日から顧問が来てないんだよね」
「そうなんだ、ホントゴメン!」
「ま、いいけど、今度は絶対だからね!」
「うん!」
「あれ?愛菜どこいくのー」
「トーイーレ」
ふと、声がする方を見ると、学年でも有名な不良と名高い、金髪に染め、制服のリボンは緩み、夏服の第一ボタンが開かれている生徒がドアに手をかけているところだった。
取り巻きの少女1人がそれに対して声をかけていた。
自習であり、先生も最初に課題のプリントを置いて行ったために、割と自由な行動が許されている。
教室のドアが愛菜によって開けられた時に、少し騒がしいように感じたのだが、ピシャッと閉められた時にそれは聞こえなくなっていた。
まあ、他のクラスも自習しているところがあるから、多少騒がしいのだろうと、自分の教室の現状を鑑みて納得させていた。
と、テレビの電源が入れられる音がした。
見てみると、教室の前方に設置された液晶テレビの電源がついていた。
去年、大企業に買収されたことで話題になった、国内有数の電機メーカー…というよりもその買収した側の大企業が無償で全国の学校に提供したらしい。
教室では誰が付けたのだろうと、みんなキョロキョロと様子を伺っているが、誰もテレビの電源をつけた人はこの教室にいなさそうだ。
まさか怪奇現象とでもいうのだろうか、変に曰く付きの教室になるのは勘弁して欲しい。
『はぁ〜い。皆さん、ごきげんはいかがですかぁ〜』
なんとも特殊な、赤子をあやすような、まるで幼稚園児に語りかけるような喋り方の女性。
そうだ。このテレビを寄贈した企業のスポークスウーマンだ。
名前は確かスマートレディ。
テレビの下部にしっかりとSMARTBRAINと2段に分けた、ロゴが記されている。
スマートブレイン関連のCMなど様々な広告媒体にイメージキャラクターのように起用されていて、ショートカットの髪に一部を水色に染めて、エナメル質の光沢のある水色と黒のノースリーブのワンピースに腕を覆う水色のグローブ姿も相まって謎の女性とされている。
『突然ですがぁ、
えーんという泣きまねのジェスチャーをするスマートレディ。
『でもでもで〜も、大丈夫で〜す!なんたって
一体何の話をしているのだろうか?全く検討が付かない。
『だから、今もう宣言しちゃいま〜す!今から人間とぉ〜〜〜〜〜〜〜オルフェノクの戦争を始めちゃいま〜す!』
「え、何?戦争?」
「オル…なんだって?」
「なんでこんな映像が流れてるの?」
「オルフェノクって何?」
教室内のざわつきは一層増していく。
オルフェノクという聞きなれない、いや聞いたことのない単語や人間と戦争という物騒な単語が混乱をさらに生んでいる。
そして、画面中央に映るスマートレディの両脇にスーツを着た男女が1人ずつ現れた。
スーツ姿の男女はスマートブレインの社章をつけているとこを見ると、スマートブレイン社の社員なんだろう。
それはなんの前触れもなく始まった。
それぞれの顔に奇怪な模様が浮かび上がったのだ。
やがて身体が膨張し、奇怪な音と共にそのスーツ姿であった男女は全身灰色で統一された、まるで鎧だろうか、騎士のような異形ともいえる姿へと
中肉中背であった男は大きな牙が口の辺りから生え、まるで猪であるかのように見える。
一方で、華奢で小柄な女の方は筋肉隆々な戦士、まるでライオンのような印象を受けた。
どちらもその体躯は2m以上もあり、先ほどまでの人物ととても同一人物だとは思えない。
それだけではなかった。
さらに画面上に小学生の男の子やセーラー服を着た女子中学生、買い物袋を持った主婦、金髪のヨーロッパ系の女性や、アフリカ系の男性も姿を現した。
金髪のヨーロッパ系の女性とアフリカ系の男性には見覚えがあった。
2人の着ているものでピンときた。
女性は陸上のセパレートのユニフォーム、男性はランニングシャツを着ている。
2人とも、ここ最近目覚ましい活躍している、陸上選手たちだったのだ。
他の3人は本当に一般人なのだろう。
そして、やはり先ほどの2人たちと同様に、顔や身体に異形の模様が浮かび上がると、奇怪な音と一緒にその模様に沿って身体が膨張し、灰色の異形の姿へと
小学生の男の子は口や鼻のあたりにドリル状のものが生え、鋭く尖った爪を持ち、まるで
セーラー服の女子中学生は、長く伸びた目が特徴で、
主婦だったものが変身したのは、頭頂部から長く伸びた部位は
ヨーロッパ系の女性は、頭部から触覚が生えた、
アフリカ系の男性は、嘴を模した頭部をしており、まるで
画面に覆い尽くされた灰色によって、スマートレディの姿は僅かしか確認できない。
『人間の皆さ〜ん、これがオルフェノクでぇ〜す!』
ばーんと画面の前面に踊り出てそう紹介する。
『そしてぇ〜、私たちはぁ、こうやって仲間を増やすので〜す!』
スマートレディが両手を大の字に上げると、主婦が変化したジラフオルフェノクは買い物袋を投げ捨て、女子中学生が変化したスラッグオルフェノクは通学鞄を投げ捨てて、画面外へと出てしまった。
数秒もすれば、悲鳴を上げるTシャツ姿の女性が2体の怪人に引きずられて、戻ってきた。
女性はこのTV局のスタッフだろうか。
それは呆気なかった。
それまで持っていなかったはずの先端に矢じりのついた棒を虚空から生成する。
そして、それを一気に女性の胸を貫いた。
ブルブルと2〜3度震えると、女性の膝は力なく折れ曲がろうとするが、後ろから押さえられておるお陰で、地面に倒れることはなかった。
矢じりのついた棒を女性から引き抜くと、ライオンオルフェノクはポーズを決める。
女性はというと突き立てられたはずの左胸には全く穴は空いていなかった。
『全国、全世界のオルフェノクちゃんたち!今こそ革命の時なので〜す!さぁ、人間をい〜〜〜〜っぱい、襲ってオルフェノクの世界にするのです!』
「え、こわっ」
「ホントに何なの?」
「ねぇ、これって映画か何かの宣伝?」
クラス中から突如として流れた映像に困惑の色が見えていた。
怖がっていた生徒もいたが、最後にポーズを決めたせいか、映画の宣伝であるという認識が一気に広まった。
「ねえ、ふざけてるよね〜これ〜」
美鈴にそう話しかけると、美鈴は俯いていて、何やらブツブツと呟いていた。
「美鈴…?」
そう、言ったときに教室のドアが開かれた。
そこにはトイレに行っていた愛菜が立っていた。
2〜3歩は普通に歩いていたと思う。
しかし、4歩目5歩目で、様子がおかしくなった。
ヨロヨロとし始めたかと思うと、愛菜の両手が灰色にくすみ始め、それが細かい粒子となって崩れていったのだ。
それが両腕から全身にまで広がり、最後には着ていた制服と下着を残して全て灰となったしまった。
教室は一瞬の静寂ののちに、一人があげた悲鳴を合図に阿鼻叫喚と化した。
そんな中、1人の来訪者が現れた。
隣のクラスの綾奈だ。
美鈴と同じ陸上部で、私も何度か遊んだことがある。
「あれ?これってもしかして愛菜?」
そう言って、しばらく見つめると、豹変したかのように笑い出した。
「あはははは!やった、私!人間を殺したんだ!ははははは!だけど、オルフェノクにはならなかったのかぁ…でも、まだ人間はいっぱいいるからいいや」
そういうと、さっきテレビ見たもの、それが眼前で起きた。
綾奈の顔や夏服から出る腕、膝上のスカートから見える脚にびっしりと奇怪な模様が浮かび上がった。
そのあとはどうなるかはもう知っている。
その模様に沿って、身体が隆起して、灰色の怪人になるのだ。
綾奈もそうだった。
肩口にオクラの切断面のような装飾を施し、胸部は女性らしい膨らみの頂点を隠すかのように、オクラの種を彷彿とさせるものが連なって、両肩のオクラの装飾の間をビキニのように隠し、下半身も際どいハイカットのビキニのようと、過激なビキニのような意匠をしている。
教室内は叫び声に包まれた。
『うるさいなぁ。どうせみんなこうなるんだからっ!』
オクラオルフェノクは近くに座る生徒の後髪を掴み上げると、左手の人差し指をまるで触手のように勢いよく伸ばして、口から挿入させた。
僅か数秒にのことだったが、攻撃を受けた生徒は床に倒れる。
綾奈の凶行は止まらない。
立て続けに周囲の生徒にも同じく触手で命を奪っていく。
前のドアから逃げようとする生徒たちには、虚空から生成させた、網状のネットを投げて、獲物のように捉えられる。
そこで私は前に座る美鈴が、この衝撃な光景に目を向けることもなく、まだブツブツと呟いていることに気が付いた。
「そうだよね。うん。絶対そうだ。よし!」
というと、スッと立ち上がる。
その瞬間。私の背筋が冷たくなった。
この嫌な感覚。人が異形に変化する予兆の感覚だ。
先ほどの綾奈の時と同じ。
私に背を向けて立っている美鈴の背中が見える。
ポニーテールに程よく焼けた首筋。
制服にはうっすらとブラジャーが透けている。
さらにその下にある肌には異形の模様がうっすらと見えた。
それはまるで最初からなかったかのように、ブラジャーも制服もすり抜けて、身体中の細胞が作り変わっている音なのだろうか、不思議な音とともにそれは姿を現した。
トレードマークのポニーテールなんぞなく、部活の時にできた体操服に沿って焼けた肌もない。
窓から差し込む日差しのせいか、そのボディは銀色に輝いて見える。
まるで重厚感のある鎧を身に纏っている騎士のようだ。
重厚感のある姿がだが、女性らしい膨らみはスポーツブラのような装飾で隠され、陸上の短距離選手のようなセパレートのユニフォームを着ているみたいに見える。
そうだ。美鈴は陸上部の短距離選手だ。
それに加えて、身体つきは草原を駆け回る動物のような、ボディに注目すると、体表は銀色がかった色と少し濃くなっている縞模様になっている。それはまるでシマウマのように。
驚愕のあまり声が出ないでいたが、美鈴の前に座る李依が異変に気付いた。
「ひっ!」
短い李依の悲鳴に
そしてゼブラオルフェノクは人差し指と中指を李依に向けて差し出した。
差し出された2本の指は触手のように指が伸びて、新体操のリボンのように美鈴の思うがまま、自由自在に空中を浮遊して、李依の口腔内から心臓へと突き立てられる。
きっと初めてなのだろう。でも、そう感じさせないほどの手際の良さだ。まるでそれが当たり前かのように。
ゼブラオルフェノクは長く伸びた触手のような2本の指を通して、オルフェノクのエネルギーを注入する。
この間わずか数秒。ゼブラオルフェノクによって注入されたエネルギーは李依の心臓を焼滅させた。
ガタンと机に崩れるように倒れた李依に生気はない。
周りの生徒の悲鳴は僅かにしか上がらない。
美鈴が変化して李依を襲うまでの間に綾奈がクラスの半分を襲い終わっていたからだ。
この2-Cは全部で34名在籍している。
綾奈によって投げられた網に絡まっている生徒が5人と逃げるに逃げられず、出口と反対側の角に追い込まれた生徒が10人、それと私。つまりはこの教室で生き残っている人間は16人。怪物に変身した美鈴を除けば33名中18名はもうこの世にいない。
教室を見渡せば、倒れたまま動かない生徒と身につけていたものだけを残して、ザラザラとした灰となって消え去った生徒が目立つ。
再びガタンという音する方を見ると、美鈴によって命を奪われた李依がよろめきながら机を支えにして立ちあがろうとしていた。
きっと、李依もこの後…
えっ…?
李依の目が銀色とも灰色ともいえる色で怪しく光った。
テレビの人たち、綾奈や美鈴と同じように顔には肌からスッと浮かび上がるように異形の模様が形成され始めていた。
ボコボコと李依の身体は変化する。
頭部には大きな灰色の三度笠はキノコの大きな傘を模しており、顔には垂れ布が下がり、スリットの入った面の部分は窓から差し込む日差しで銀色に輝いている。
両肩にはキノコそのままの装飾。それも灰色のキノコが何本も生えていた。
女性らしさのあるボディラインを強調とした姿をしており、胸部はキノコの笠が覆うだけでそれ以外はぴっちりと薄い灰色の膜が覆うだけで、女性らしさを強調している。
『
ふと、スマートレディがテレビで言っていたセリフが頭の中で再生された。
つまり、すごい力とやらを使って、
それに、全部の人間がオルフェノクになれるわけではなく、愛菜や他の子たちのように灰化して死んでしまう人もいる。
でも、中には李依のようにオルフェノクになってしまう人もいるようだ。
私は窓を背にへばりつくと、背後が騒がしかった。
窓下にはグラウンドが広がっている。
さっきまで、暑そうにゾンビのようにダラダラと緩慢な動きをしていた生徒たちは命の危機とばかりにグラウンドを右往左往と走り回っていた。
しかし 、地面に倒れている生徒もいる。
それは熱中症ではないことは一目瞭然だった。
なぜなら、その生徒たちの近くには灰まみれの体操服と灰色の怪人が4〜5体確認できた。
ああ、やはりこのクラスだけではなかったんだ。
その怪人たちは最初から
ふと、よろよろと立ち上がった生徒の身体が銀色に発光し、銀色に輝く姿へと変わった。
自らの身体の一部を触手のように伸ばし、逃げ惑う生徒を襲い始めた。
また、新しく
学校中、いやあの映像が流れていたということは日本中や世界中でこういうことが起きているのかも知れない。
教室に視線を戻すと、
そして、綾奈によってすでに命を落としていた生徒たちの何人かはまた自らも
戸惑うことなく、次の獲物を見つけ出すべく動き始めていた。
ああ、人類は絶滅するのだろうか…
私の眼には、その
【PM2:10 B棟2階 3-F】
「ねぇ、次体育だったよね?」
「しかもグラウンドで…」
「あー、着替える時間がねぇー」
そう言いながら、体操服を取り出して着替え出す。
更衣室はあるが、女子校であるため、ほとんどの生徒が教室で着替えるのが日常であった。
「お、志保の下着めっちゃエロくねー?」
「うわー大胆〜」
「うっせえな。これしかなかったのー」
「普段は全然色気ねー下着じゃあん?」
「はっはーん。さては男ができたなぁ?」
「いいじゃんか。星羅だっていつもじゃんか」
「私はこういうのが似合うんだよー」
すごくしょうもない話をしながら着替えを済ませる。
【PM2:35 グラウンド】
「えーまずは準備運動から」
この時間の体育の授業は3-D,E,Fの3クラス合同であった。
クラスごとに整列し、距離をしっかり取りながら体育教師の合図によって始まる。
開始早々だが、35度を超える暑さに生徒たちはダラダラとした動きしかできない。
時間が経つにつれてジリジリと焼かれていく。
一方の体育教師はかんかん照りもお構いなしに準備運動を続ける。
そして、約5分間の準備運動を終えると、クラスごとに分かれてサッカーが始まった。
クラスを2つのチームに分けて、ゲームを始めようとする。
「うへー。もうヘトヘトなんだけど」
「受験生なんだから勉強させてよー」
「可南子は元々勉強してないからいいじゃん」
「そういう星羅はもっとしてないよー」
「はぁ?私には必要ないね」
「おい!なんで遅れてきた!」
突如として体育教師の怒声がグラウンドに響き渡る。
授業開始から10分以上も経過しているため、お冠のようだ。
怒られた当の本人は小さく謝ろうとしている。
たまたま、目についたのだが、生徒の体操服のあちこちが、黒や灰色に汚れている。
体育教師もそれに気がついたのだろう。
「むっ?そうか、お前もそうなのだな?」
「…?」
生徒は何も言っているのか分からない様子だったが、教師はニヤッと笑う。
ボウッと身体が発光する。
形容し難い、音と共に身体を人間とは別の姿へと変貌させた。
分厚い甲冑を着たようなボディは灰色一色に染められ、ジリジリと太陽によって照らされた、胸部は銀色に輝いていた。
体育教師、
学生時代は水泳の全国大会の常連だった肉体は、程よく筋肉がついて、競泳水着の跡が残る小麦肌に焼けた肌の面影はない。
イカツイ表情に、女性らしい胸部の膨らみは小さく、胸板は分厚くなっており、腹部はシックスパックに割れ、僅かな布が胸部を最低限隠し、下腹部はハイカットのショーツのような灰色の布のようなもので隠してある。
それ以外はほぼ、怪物の灰色の地肌で無駄なものはなく、まるでボディービルダーのような印象を受ける。
東五 里邏はゴリラの特性を持つ、ゴリラオルフェノクへと変化した。
ゴリラそのままに自らの胸部を叩き、咆哮を上げる。
相対する遅刻してきた少女も、自らの身体を変化させる。
全身に異形の模様が浮かび、灰色一色のボディを形成する。
3-Dに所属する、
真里奈は弓道部に所属する少女だ。
小さなツノが2本生え、胸部は弓道の胸当てを模している装飾で覆われ、下半身は弓道着の袴のようなスカートを模した布に覆われている。
それも全て灰色一色だ。
手には弓矢が握られており、真里奈は変化完了したと同時に構えて、矢を発射させる。
ドスッ
放たれた矢が3-Eの生徒の1人に刺さる。
左胸に刺さった矢の先端からは青い炎が鮮やかに燃えている。
溶けるように矢は消え去り、青い炎をあげながら、緩やかに膝が折れ曲がり地面に倒れる。
フンとばかりに
今度は3-Dの生徒に突き刺さり、同じく地面に倒れる。
グラウンド全体に悲鳴が響き渡る。
ゴリラオルフェノクは逃げ惑う生徒の1人を捕まえ、自らの拳を生徒の左胸に叩き込み、エネルギーを送り込んだ。
そのまま意識を失うかのように生徒は倒れる。
グラウンドには3クラス96人と教師が1人。
その内、教師と生徒の1人はオルフェノクだった。
残った94人の生徒は逃げ惑う。すでにその内3人は命を落としている。
4人目は金髪の少女に命中した。
3-Fの
ディアーオルフェノクによって放たれた矢が突き刺さり、青い炎が上がっている。
ドサッと地面に倒れる。
数秒ののち、目が灰色に光り、起き上がる。
奇妙な模様が身体中を駆け巡り、星羅を新しい姿へと変化させた。
例外なく、全身は灰色に包まれ、垂れ下がった大きな耳、お尻には丸い尻尾が特徴的だ。
大きく膨らんだ胸部は大きくはだけ、灰色の双丘の下部は光沢のある銀色に近いバニースーツで隠され、鼠蹊部は鋭くカットされたハイレグになっており、腹部はぴっちりと身体のラインが強調されている。
太ももは筋肉が程よく発達しており、灰色の体表をさらに網タイツのような灰色の装飾が覆っており、全身像は女性らしさを全面に押し出し、セクシーさを醸し出している。
星羅はウサギの特性を持つ、ラビットオルフェノクとして覚醒したのだ。
数秒間は棒立ちしたのちに両手を見つめていたが、軽く膝を折り曲げて跳躍すると、20mほどの高さまでジャンプし、獲物となる別の生徒に飛びかかる。
馬乗りになると、先ほど自らがされたことを繰り返そうとしているのだ。
自らの垂れ下がった大きな両耳を触手に変えて、口からオルフェノクのエネルギーを注入する。
3体になったオルフェノクによって、10秒に1人のペースで襲われていく。
そうして、襲われた中からもまたオルフェノクに覚醒する生徒が現れ、時間を追うごとにオルフェノクは増えて、人間の生徒は減っていった。
3-Eの千奈美の眼前には全身はスリムな印象を受け、小さな灰色の翅が2枚と鋭く尖った口吻が特徴的な
蚊の特性を持つ、モスキートオルフェノクは3-Fの
逃げ惑っている最中に襲われて命を落としたが、彼女もまたオルフェノクとして蘇っていたのだ。
鋭く尖った口吻を千奈美の左胸に直接突き立てる。
まるで蚊が血を吸うように…
しかし、血を吸うのではなく、逆に千奈美の心臓にオルフェノクの特別なエネルギーを注入しているのだ。
ビクンと身体を震わす千奈美の心臓からは青い炎が燃え盛り、ドサッと倒れる。
モスキートオルフェノクは、エネルギーを注入し終えると、千奈美には全く興味がなくなったかのように、次の獲物へと飛びついていた。
体育教師の
最初にグラウンドにいた生徒たちの生存者はもうすでに40人ほどに減っていた。
怪人によって50人以上も命を落としていたが、そのうちの20人ほどは自らもその
グラウンドの端の体育倉庫の影になっている草むらをかき分けて、自らの手を口に当てて、息を潜みながら、震えている3-F 久村とゼッケンに書かれた少女がいた。
このまま息を潜めてやり過ごそうとしているが、目の前でいつもつるんでいる友だちが、怪物に殺されてしまったところを見てしまい、震えが止まらないのだ。
元から暑さによって、ある程度汗はかいていたのだが、今は恐怖による冷や汗によって、体操服は雨に濡れたかのようにびっしょりと濡れていて、身につけている下着が完全に透けて見えていた。
スタッ
背後に何者かの気配を感じ取る。
そこには体操服姿の生徒が立っていた。
3-E 鈴地と書かれていた。
ブルブルと震えている少女に声をかける。
「ねぇ?大丈夫?」
「しー!声を出さないで!」
少女は問いかけてきた人物に近寄り、耳元で小声で返答する。
「え、なんで?」
「なんでって、化け物にバレてしまうからよ!」
口を抑えられる鈴地と書かれた少女はフンッと鼻で笑う。
少女が後悔したときには時すでに遅し状態だった。
鈴地という少女は全身に怪物の模様を浮かび上がらせると、そのまま
ツノのように触覚を有し、シースルーになっているマントのような翅はまるで蜂を思わせる姿だった。
ボウッと怪物の影が先ほどまでの鈴地という少女の青白い裸身に変わる。
『これが私の新しい姿…?はは!いいじゃん!はぁぁぁぁ…力が漲ってくる!』
鈴地という少女はオルフェノクに覚醒してから初めて変身したようだった。
スズメバチの特性を持つホーネットオルフェノク。それが千奈美のオルフェノクとしての姿だ。
ホーネットオルフェノクは尻に生えた、針が触手のように蠢き、先端部から透明の液体を噴出させる。
久村という少女の顔面にへばりつくようにくっつく。
粘性の高い液体はウネウネと息を吸うことができなくなった、少女の苦悶の表情が見てとれるが、徐々に口や鼻を通して体内に侵入する。
全てが体内に入ったところで少女は脱力し、倒れた。
それを確認すると、ホーネットオルフェノクは鈴地 千奈美の姿の戻すとその場を立ち去った。
5秒もなかっただろう。
久村という少女は目を開けて起き上がると、顔や腕、脚、汗で透けている上半身の下着の下にも怪物の模様が浮かび上がる。
それが肥大化すると、少女の身体は灰色一色のものへと変えた。
志保が変化したピルバグオルフェノクは草むらから飛び出すとグラウンドへ駆け出し、自らも
グラウンドにいた95名の生徒が全て襲われるまで10分も掛からなかっただろう。
襲われた95名の生徒のうち、36名の生徒はオルフェノクに覚醒した。
ある者はグラウンドにいる生徒を襲い、ある者は生者を求めて街へ飛び出し、ある者は校舎にいる生徒に襲いかかった。
【PM2:20 B棟2階 】
5時間目を告げるチャイムが鳴る。
教室内には制服の少女が1人。
「わ、もうチャイムなったの!?」
少女は慌てて着替えを始める。
どうやら次は体育のようだったが、まだ着替えられていなかったようだ。
【PM2:30 B棟 1階 3-A】
B棟にある3年生の教室はざわついていた。
突如として付いたテレビから謎の放送が始まったかと思えば、映画の宣伝のようなものが流れていた。
スマートレディという女性やら、人が怪物に変身したりとまるで映画のようだった。
最初はみんな気味悪がっていたり、面白がっていたり、興味深々に考察する者と、反応は様々だった。
この3-Aの教室でも例外ではなかった。
放送が終わるや否や、教壇の前には黒い艶やかなロングヘアーの生徒が立っていた。
それが異形の模様と音と共に怪人の姿へと変わる。
第一印象は虚無僧のような印象を受けた。
全てが他の生徒生徒たちが声を出す前に終わった。
生徒会長も務める
エキセタムオルフェノクの能力で、全身から毒性のある胞子を噴射したのだ。
僅か10秒で胞子は教室の全てを覆い、明日奈を除いた教室にいた31名の生徒の心臓は鮮やかに青く燃え上がり、焼滅した。
覆われた胞子が晴れ上がると、12名の生徒の身体が、教壇に立つエキセタムオルフェノクのように灰色や銀色一色の異形の姿へと変化していた。
その姿はグレーやシルバーと色は似通っており、その造形は騎士の鎧や彫刻のような造形美が見てとれるが、意匠は様々である。
ある者は、2本の触覚が垂れ下がり、グレーの体表に女性の象徴を表す胸部を光沢のあるシルバーのビキニを模した布のようなもので隠している、まるでアメコミのビキニアーマーを着た戦士のようだ。
またある者は、異世界の治癒師のような格好を模した灰色の衣装を身に纏ったような姿、その衣装のような物の下の体表ももれなく灰色に包まれている。
はたまた別の者は、銀色の艶やかな甲冑を身に纏った武将を思わせる姿。
さらに別の者は、灰色の体表を露わにし、競泳水着を模した濃い灰色の布状のものはぴっちりと体表にくっつき、ハイカットの鼠蹊部も併せて、艶やかなボディーラインを強調している。
そしてある者は、灰色のセーラー服を模した姿をしている。
すっかり異形の者と化した彼女たちはつい2〜3分前までは、どこにでもいる女子高生だった。
ある者は、茶髪のミディアムを毛先にパーマをかけたどこにでもいる女子高生だった。
バスケ部に所属する
その手にはアメコミよろしくの灰色でできた防御用であろう丸型の盾と攻撃や使徒再生に用いるであろう鋭い剣が握られていた。
またある者は、綺麗に切り揃えられた前髪に黒髪のロングヘアーで穏やかな性格な女子高生だった。
吹奏楽部に所属する
右手には灰色の長い杖を持ち、上部には丸い銀色に輝く球体が携えられており、そこから発射させる光線は傷ついたオルフェノクの身体を治癒させる効果があり、先細っている先端は、人間に突き刺すことで使徒再生を行える。
はたまたある者は高く結んだ黒髪の長めのポニーテールが特徴の、剣道部に所属している、
竹刀を模した灰色の武器は突きをすることで、オルフェノクエネルギーを人間に注入し、仲間を増やすことができる。
さらに別の者は、茶色がかった髪色のセミロングヘアで、水泳部に所属する
水中では時速85ノット(約157km/h)で泳ぐことができ、武器となる短剣によって使徒再生を行える。
そしてある者は、亜麻色のツインテールの少女だった、
水兵を思わせるその姿は、灰色の襟に灰色のスカーフ。まるでセーラー服を見に纏っているようだった。
細い棍棒を使うことで、敵に対しての攻撃や使徒再生に用いることができる。
そのほかにも多種多様なオルフェノクが誕生していた。
それ以外の生徒はすでに燃焼し尽くして、ザラザラとした灰と制服を残して、この世から消え去っている。
ボウッと明日奈の裸身が青白く浮かぶ。
『さあ、目覚めた
それに応えるかのようにオルフェノクに覚醒した12名の生徒たちは3-Aの教室を飛び出し、他の教室に飛び込んで、他の生徒たちを襲い始めた。
ドン
ショートヘアに程よく焼けた肌が特徴の
そんな彼女の今の姿は銀色に近い体表に、顔はドクロのように眼窩からはミミズのような装飾が飛び出して、頭上で絡み合っている。
千夏はエキセタムオルフェノクによって噴霧された毒性の胞子を吸い込み、17年と301日の生を終えて死を迎えた。しかし、清水 千夏という少女はその身体に進化する遺伝子を持っていたのだ。一部の人間が持つという、その遺伝子は人類が次なる進化をするために死というギミックを経て発現するという。それがどこかの遺伝子に刻み込まれているが、それを持つほとんどの人間は、自らがそれを持っていることに気づくことなく天寿を全うし、そのまま人間として死を迎えて、ごく一部を除いて蘇ることはない。
しかし、オルフェノクのエネルギーが注入されれば話は別だ。注入されたオルフェノクのエネルギーは、遺伝子と反応して、次なる存在へと身体を作り替えるのだ。種の存続のために、進化した姿と人間に紛れるために、人間だった頃の姿を保ちながら、自らの意思で進化した姿に変身することができる。
そうして、清水 千夏という少女はミミズの特性を持つ、ワームオルフェノクとして覚醒したのだ。
眼前には、体操服姿の少女がペタンと尻餅をついていた。
頭頂部に絡み合っている無数の触手が少女を襲う。
体内に挿入された触手は少女の心臓にオルフェノクのエネルギーを送る。
そして、一瞬にして命を奪うのだ。
ドサッと倒れた少女。
ワームオルフェノクは気にすることなく、次の
一方で少女もむくりと起き上がり、フラフラと歩き出すその姿は異形の姿がチラリチラリと浮かび上がっていた。
こうして、3-Dの樫村 真里奈はオルフェノクとして覚醒したのである。
自らもオルフェノクとして、
【以下、後日更新します】2023.8.1
今年も灰の日ということで、一生懸命書いてましたが、時間が足りず途中で投稿することになりました。
すみません。。。
後日完成させようと思いますので、今しばらくお待ちくださいませ。
8月中にはなんとか…