1.プロローグ
それなりに高級感のある調度品が並んだ室内。
一人の女性が机に向かい、書類をさばいているところにノック音が響く。
「ん、入っていーよ」
「失礼します。頼まれていた287期ハンター試験の調査が終わりました」
「それは良かった。私がしばらく留守にするにあたってやっておかなきゃならない仕事ももうすぐ片付くし。予定通り明日には出立できそうだね」
姿勢を正したまま入って来た部下の言葉にそう応え、んーっと伸びをして体をほぐす。
「一つ気になる事があるのですが」
「あら、なに?」
「確かに情報はある程度は隠されていましたが、ハンター協会の隠蔽にしては中途半端と言うか……」
「ああ、それはそうだよ。向こうも本気では隠蔽してないもの」
「と、言いますと?」
「だって、協会が本気で隠蔽しちゃったら試験会場にたどり着ける受験者がいなくなるでしょ?」
そう言うと、彼女は納得した表情を浮かべる。
「なるほど、あくまでふるいとしての隠蔽、という事ですか」
「そうそう、ある程度の情報収集能力を持っていれば自力でたどり着けるように。なければナビゲーターを探しなさいって事」
「納得しました。ではこちら情報になります」
「ありがと」
受け取った情報に目を通す。ふむふむ、場所は公表されてる通りザバン市。で、そこから会場への行き方もばっちり。
「うん、十分。じゃ、予定通り明日発つから飛行船の用意よろしく。定期便じゃなくプライベートフライトでね」
「承知しました。ご武運をお祈りしてます」
そう言って部屋を出て行く彼女を見送り椅子に深く身を預ける。
……前世の記憶を思い出してから、もう15年か。早いような長かったような。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
私がこの世界に転生したのを自覚したのは五歳の時だった。
誕生日を終えて眠りについた私が目を覚ました時には前世の記憶が蘇っていた。
そして、両親になんて言おうかと頭を抱えた。
隠し通すのは無理だ。もし気付かれないと思うなら、それは親を舐めすぎだ。
そうして頭を抱えている内に、母親が私を起こしに来て……私を見て目を見開いた。
次の瞬間には凄い剣幕で何かおかしなことがなかったか問い詰められた。
と言うのも、後から聞いた話では昨日寝る前までは開いていなかった精孔が開いていたらしい。
事情を知った今では、そうもなるだろうと思う。娘が自分の知らないうちに念による干渉を受けた可能性が高かったのだから。
まあ、私が念について知ったのは後から説明を受けてなので、当時はなぜ一目で気付かれたのか混乱していたのだけれど。
ともあれ、問い詰められて観念した私は両親に洗いざらい話した。
最悪、娘を乗っ取った他人と言われるのも覚悟していたのだけれど、両親は私の事を娘だと言ってくれた。
仕草なんかを見れば間違いなく私は娘だと分かる、と。
前世の記憶があっても関係ない、私たちが育てたんだからお前は私たちの娘なんだと。
それに感動して終われば良かったんだけども。
前世の記憶の復活と念の覚醒に関して、何か妙な存在に目をつけられたのかもしれない。
ので、予定より早いが身を守る力を得るために念能力の修行を始めよう。ここまでは分かる。
ついでに、念能力以外の訓練も色々並行して始めてしまおう。まあ、これも分かる。
戦闘技術や様々な知識を身につけるのは分かるんだけど……どうして非合法な活動における諸々の作法を身につける事になったんですかね?
両親が明らかに堅気じゃなかった件に衝撃をうけながらの修行は10年ほど続いた。
そして、身体が成長したから肉体面の本格的な鍛錬のために両親の知り合いに預けられた。
生まれて初めてジャポンから出てたどり着いたのはパドキア共和国の天空闘技場。そこのフロアマスターが私の新たな師匠になるらしい。
肉体面の鍛錬に加え、発に関しても考えるようにと言われた。
まあ、発に関しては思いついていた事はある……と言うか、それ以外思いつかないと言うか。
と言うのも私の名前がジャポン語で「雲居 一輪」と言うのだ。
これは私の前世に存在した創作物、東方Projectに登場するキャラクターと同じ名前だった。
最初は単なる偶然かと思っていたが、成長するにつれ容姿も雲居一輪そっくりに成長した。
故にこそ作った発は決まっている。
『
まあ、苦労はした。
念獣は具現化系、放出系、操作系の全ての要素を複合する高等技術だ。加えて雲山は念を雲の性質にするために変化系の要素もある。
だがまあ、私の才能は高かったようだ。加えて、私自身の思い入れや師匠の指導もあって多少の制約はつけたが、どうにか納得いくレベルの発に仕上がった。
その後はジャポンに帰ったのだけれど、両親は大きな仕事があるとかで家を引き払うらしい。私に関してはもう一人前だから独り立ちしても大丈夫だろうと言われた。
仕方ないのでジャポンを離れてヨルビアン大陸に渡り、そこそこの組織のトップになっているわけだ。
そして、組織の運営もようやく安定してきたので私自身の目的のために色々と便利なハンター資格を取りに行くことにした。
……え?私の目的?
それはもちろん美味しい銘酒造りを……もとい、それを含めた色々な文化を保護する事だよ。
やっぱり、効率生産より昔ながらの手法で作ったお酒の方が美味しいんだよね。
一応、設定上は神様転生ではありますが、転生させた存在が作中に出てくることはありません。
興味のある方のために設定を語ると、本来オリ主の母親はお腹に宿った子に魂が宿っておらず死産となるはずでした。
それをたまたま見つけた神さま的な存在が適当な魂を放り込んだのがオリ主となります。
深い意味はなく、例えて言うなら人間が真夏に熱したアスファルトの上を這ってるカエルを捕まえて近くの水場に放り込むような上位存在の無責任で気まぐれな善意です。
一応、原作知識にあたる記憶だけは念入りに処理したのでその記憶だけは復活しなかったために原作知識がありません。
そのため、オリ主本人も自分が転生した理由など分かっていませんし、転生させた存在にしてもオリ主のことなんて既に忘れています。