「第四試合!ハンゾー対ポックル!」
受験生たちの驚愕をよそに試験は進行していく。第四試合の参加者であるハンゾーとポックルが前に出ていくのを見ているとクラピカが声をかけてきた。
「イチリン、さっきの試合について聞きたいんだがいいだろうか?」
「んー、なに?」
「先ほどの試合、明らかに普通ではない現象が起こっていた。あれは一体なんなんだ?」
まあ、念を使えないクラピカたちから見ると私の拳は届いてないのにいきなり壁が壊れたりヒソカが吹っ飛ばされたりしてたように見えるからね。ヒソカの動きにしたって念が見えない状態だったら明らかに物理法則を無視した動きだったし。
見れば、キルアやレオリオも興味津々といった感じで耳を傾けている。
「あれは単なる技術の一つだよ。訓練すれば誰でもできる類の技術」
「……にわかには信じがたいな。明らかに技術の範囲で収まる現象とは思えなかったんだが」
まあ、そう思うよねえ。
「ただの技術と言うなら私たちにも出来るようになるのか?」
「そうだね。才能の違いはあるだろうけど、正しい修行をすれば誰だって出来るようになるよ」
「その修業とは?」
食いつくねえ。まあ、クラピカは復讐のための力を求めてるから、知りたがるか。
「まず瞑想なんかで体内のオーラを感じ取って、それをコントロールする訓練をすることで超人的なパワーを発揮することが」
「……いや、もういい」
本当なのになあ。どうやら、適当にごまかしてると思われたらしい。聞いてたキルアとレオリオも呆れたような顔をしてる。まあ、念って口頭だけで説明されると胡散臭いからなあ。声が聞こえる範囲にいた試験官たちも苦笑してるし。
そんな話をしている間に第四試合は終わっていた。ハンゾーとポックルは大きな実力差があり、加えてポックルはゴンのように意地を張ることもしなかったからすぐ終わった。まあ、自分があんな目にあうと分かって意地を張れる奴はそうそういない。それこそ、拷問に耐える訓練を受けているとかでもない限りは。意地だけであそこまで耐えたゴンはやっぱりちょっとおかしいな。
「第五試合!ボドロ対ヒソカ!」
今回もまた、実力に大きな開きがある試合だった。試合自体は一方的な展開だったが……。
「まだだ……まだ、まいったはせんぞ……!」
今回は第一試合のゴンのようにボドロが意地を見せた。おそらくは試合開始時点でヒソカが明らかにやる気を見せず、ボドロ本人に対して「熟れすぎた果実に興味はない」なんて言っていたのが原因だろう。武闘家としての誇りを傷つけられたんだろうな。第三試合を見て実力差は分かっていたからこそ、覚悟を決めていただろうからなおさらだ。このまま痛めつけたところで、意地と誇りにかけて死ぬまで降参しないだろう。
と、ヒソカが屈んで相手に何か耳打ちするのかな?何を言うのか気になるし、耳に凝して聞いてみようか。
「試合前の言葉は訂正するよ……思ったより楽しめた♣」
そしてその耳打ちの直後、ボドロはまいったを宣言した。降参させるためのリップサービス……ではないな。実際に機嫌よさそうだし。ボドロの気概をそれなりに認めたようだ。ヒソカからすればもともと期待もしてなかった相手から思いがけず楽しませてもらったわけだ。ちょっとした、サプライズプレゼントでももらった気分なんだろう。
その後、キルアとポックルの第六試合ではキルアが開始直後に「あんたとは戦う気がしない」と試合放棄。続けて、第七試合はボドロとレオリオの戦いになる予定だったのだが、レオリオがボドロの負傷を理由に延期を要求。ヒソカとの試合の後、キルアがすぐ試合放棄したからほとんど休めてないしねえ。審査委員会もこれを承諾し、先にキルアとギタラクルの試合が行われることになった。
「第七試合!キルア対ギタラクル!」
呼ばれた二人が前に出る。キルアは勝てるつもりでさっきの試合は放棄したんだろうけど、念も知らないキルアじゃ厳しいだろうな。
「始め!」
開始の合図に対して構えをとるキルア。対して、ギタラクルは……。
「久しぶりだね、キル」
そう言って顔に刺していた針を抜いていくギタラクル。顔が変形し、釘だらけの厳ついモヒカン男から、さらさらの長い黒髪をした白い肌の青年に変わっていく。
そして、その顔を見たキルアは明らかに動揺していた。目を見開き、冷や汗を流す。私がトリックタワーで練を使った時の反応に近いな。なるほど、あいつがキルアのトラウマか。
「兄……貴!!」
「や」
気軽に声をかけるギタラクルに対し、キルアは冷や汗まみれで後ずさる。
「キルアの兄貴……!?」
レオリオとクラピカも予想外の事態に多少動揺しているようだ。
「母さんとミルキを刺したんだって?」
「まぁね」
「母さん、泣いてたよ」
「そりゃそうだろうな。息子にそんなひでー目にあわされちゃ。やっぱとんでもねーガキだぜ」
「感激してた。あの子が立派に成長してくれてて嬉しい、ってさ」
その言葉に思いっきりずっこけるレオリオ。気持ちはよくわかる。息子に刺されて感激するってなんだ。
「でも、やっぱりまだ外に出すのは心配だから、ってそれとなく様子を見てくるように頼まれたんだけど。奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんて。実は俺も、次の仕事の関係上資格を取りたくてさ」
「別になりたかったわけじゃないよ。ただ、なんとなく受けてみただけさ」
「そうか。安心したよ。なら、心おきなく忠告できる。お前はハンターに向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから。お前は熱を持たない闇人形だ。自身は何も欲しがらず、何も望まない。陰を糧に動くお前が唯一喜びを抱くのは、人の死に触れたとき。お前は親父と俺にそう育てられた。そんなお前が、何を求めてハンターになると?」
……いやー、すごい一家だな。とは言え、本当にそんな育て方されたならキルアにはそもそも家出するという発想自体生まれなかったはず。おそらく、家出に対する叱責も込めてわざときつい言葉を使ってるのかもね。
「確かに……ハンターにはなりたいと思ってるわけじゃない。だけど、俺にだって欲しいものくらいある」
「ないね」
「ある! 今、望んでることだってある!」
「ふーん」
必死に食って掛かるキルアになんでもないように相槌を打つギタラクル。
「言ってごらん。何が望みか……どうした?」
イルミの問いかけにキルアは黙ってうつむいていた。
「本当は望みなんてないんだろ?」
「違う!ゴンと……友達になりたい」
キルアは兄と目を合わせられず俯きながらも言う。その声はもはや悲痛なほどだった。
「もう人殺しなんてうんざりだ。普通にゴンと友達になって、普通に遊びたい」
普段のキルアの性格からすれば考えられないほど、痛々しいほどに素直に発せられた本音。
「無理だね。お前に友達なんて出来っこないよ。お前は人という者を殺せるか殺せないかでしか判断できない。そう教え込まれたからね。今のお前にはゴンが眩しすぎて、測り切れないでいるだけだ。友達になりたいわけじゃない」
だが、ギタラクルは揺るぎのない声でその言葉を切って捨てる。キルアの体がびくりと震えた。
「違う……」
言葉では否定するが、それはあまりに弱弱しい。
「彼の側にいれば、いつかお前は彼を殺したくなるよ。殺せるか殺せないか試したくなる。何故ならお前は根っからの人殺しだから」
反論すらできずにうつむくキルア。
「キルア!!お前の兄か何か知らねーが言わせてもらうぜ!そいつはバカ野郎でクソ野郎だ、聞く耳持つな!」
そこにレオリオが一歩前に出る。試験官が釘を刺すが、彼はそれを制し声を張り上げた。相手が伝説の暗殺一家だと分かったうえで、義憤により啖呵を切れる。それだけの度胸を持ちながら、価値観自体は普通なままなのがやっぱ面白いな。
「ゴンと友達になりたいだと?寝ぼけんな!!お前らとっくに
「!」
「え?」
その言葉に反応するキルアとレオリオを見やるギタラクル。
「そうなの?」
「たりめーだ、バーカ!」
「そうか、まいったな。あっちはもう友達のつもりなのか」
顎に手を当てて、しばし考えるギタラクル。
「よし、ゴンを殺そう」
……それは、見過ごせないな。家族の問題なら口を出すつもりはなかった。だけど、そこにゴンを巻き込むのは筋が通らない。扉の前に移動する。まだキルアに何か言ってるけどどうでもいいな。なんにせよ、ゴンのもとへは行かせるつもりはない。レオリオ、クラピカにハンゾーも同じ意思のようで、扉の前に立ちふさがる。
「まいったなあ……仕事の関係上、俺は資格が必要なんだけどな。ここで彼らを殺しちゃったら俺が落ちてキルが自動的に合格しちゃうね。……あ、いけない。それはゴンを殺っても一緒か」
うーん、とうなりながらしばし考える様子を見せるギタラクル。そして、しばらくして名案を思い付いたと言うように手を打った。
「そうだ!まず合格してから、ゴンを殺そう!それなら仮にここの全員を殺しても俺の合格が取り消されることはないよね」
ネテロにそう確認を取るギタラクル。
「うむ、ルール上は問題ない」
それに対し、あくまで平然と答えるネテロ。
「聞いたかい、キル。俺と戦って勝たないとゴンを助けられない。友達のために俺と戦えるかい?できないね。なぜなら、お前は友達なんかより今、この場で俺に勝てるかどうかの方が大事だから」
その言葉に血の気が引くキルア。顔色はもはや蒼白だ。まあ、わざわざあんな不快な感じにしたオーラに晒されちゃあね。あんなの、私だって嫌になるわ。ましてや、念も知らないキルアの感じる恐怖と不快感は生半可なものじゃないだろう。
「そして、お前の中でもう答えは出ている。俺の力では兄貴には勝てない、と。勝ち目のない敵とは戦うな。俺が口をすっぱくして教えたよね?」
えげつないな。ゴンの命とキルア自身の命を天秤にかけさせ、
「まいった。俺の……負けだよ」
そして、今のキルアに恐怖の対象である兄に歯向かう気概はなかった。
「はっはっは、嘘だよ、キル。ゴンを殺すなんて嘘さ。お前をちょっと試してみたんだよ。でも、これではっきりした」
先ほどまでの態度が嘘のように朗らかにキルアに話しかけるギタラクル。
「お前に友達を作る資格はない。必要もない。今まで通り親父や俺の言うことを聞いて、仕事をこなしていればそれでいい」
そうして、第七試合は終わった。戻ってきたキルアに、レオリオやクラピカが声をかけるも反応すらない。これは、折れたな。家族の問題である以上、口を出す気はないけど、一応キルアが自暴自棄で変なことしないか見ておこうか。
「第八試合!ボドロ対レオリオ!」
名前を呼ばれた二人が前に出る。そして、試合開始の合図と同時に飛び出したのはその二人のどちらでもなくキルアだった。試験官が止める暇もないほど、迷いなく突き出されたその手がボドロを貫く……直前につかみ取る。
「!」
驚愕し、こちらを見るキルア。だが、何も言えない。ギタラクルのオーラに晒され心折れた彼では同じくオーラを纏っている私に食って掛かることはできないんだろう。……いや、流石に私のオーラはあんな嫌な感じのオーラではないよ?
互いに無言で見合う私とキルアの前に、黒服の試験官が立ちふさがる。一対一の試合に手出しは厳禁だ、と。分かってるよ。元から試合に手を出すつもりはない。
「……俺は、試験を棄権する」
そして、キルアは絞り出すような声でそう言うと、会場を出ていき戻ってくることはなかった。
委員会はキルアを不合格と見なし、ハンター試験は終了した。
と言うわけで試験終了です。
原作で死亡した人が何人か生き残ったくらいで試験の大筋は変わってませんが。ゴンのヒソカへの借りがなくなったくらいかな?