狩人世界の入道使い   作:N2

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ヨークシン編
15.始まる競売 蠢く影


 ──8月31日、ヨークシン

 

 チェックインしたホテルでくつろいでいた一輪は着信音に反応して携帯に手を伸ばした。

 

「ん、ゴンか」

 

 着信画面を見て、知った相手だと確認すると通話をつなげる。

 

「もしもし」

 

『あ、イチリン!』

 

「やっほー、久しぶり」

 

 ゴンが天空闘技場のファイトマネーで携帯を買った時に連絡先は交換していたが、お互い用もないのに電話するタイプでもないためこうして話すのもひと月ぶりくらいか。

 戦闘技術の未熟なゴンはかなり美鈴(ししょう)にしごかれたみたいだけど、それで愚痴るタイプでもないし。

 

『今、ヨークシンだけどさ。お互いヨークシンにいるんだし、ちょっと会えないかなって』

 

「あー……確かにもうヨークシンには入ってるけど、オークション期間中はちょっと忙しくて時間取れないかも。

 会うのはもちろん良いけど、オークションが終わってからでいい?もし、途中で時間取れそうな日ができたらこっちから連絡するよ」

 

『そっか……わかった。じゃあ、また!』

 

「ああ……またね」

 

 その言葉を最後に電話は切れた。相変わらず元気だね。

 

「会うくらいなら問題ないのでは?別に全ての地下競売に参加するわけでもないですし、時間は取れると思いますが」

 

 確かに椛の言う通り、何もなければ暇な日くらいはできるだろう。()()()()()()

 

「分かってるでしょ。例年なら会う時間くらい作ったけどね。今年はすぐ動けるようにしておきたい」

 

幻影旅団(クモ)……ですか」

 

 そう、幻影旅団が来るとしたらのんびりしてる暇はおそらくない。

 

「本当に来るんでしょうか?」

 

 椛の疑問も、もっともだ。

 幻影旅団は、これまでもかなり大きな犯罪行為も犯しているが、地下競売(アンダーグラウンドオークション)を襲撃するというのはこれまでの犯行とはわけが違う。

 これまで、幻影旅団が敵に回していたのは警察関連やハンター協会などといった()()()()()機関だけだった。しかし、地下競売を襲撃すると言うことは、それに加えて同じ穴の狢であった犯罪者たち、その元締めであるマフィアやヤクザに片っ端から喧嘩を売って敵に回すということ。すなわち、世界のすべてを敵に回すということに等しい。

 まともな神経の持ち主なら、そんな事するはずがない。と言うのは、至極もっともな意見だった

 

「正直、情報源はあんま信用できない。……ただ、相手が相手だ。どれほど胡散臭い情報でも、警戒しすぎるってことはない」

 

 来ないなら来ないで、警戒しすぎてただけだった、で済む笑い話だ。だけど、いざ来た時に警戒してませんでした、は致命的な被害につながる可能性もある。

 

「それにね。今年は、何か起きる気がするんだよ。ただの、勘だけどね」

 

 

 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 

 

 

 ヨークシン近くの廃ビルの一室。

 一輪の予感した通りに……彼らはいた。

 

「全部だ」

 

 それも……彼女の危惧していた理由で。

 

地下競売(アンダーグラウンドオークション)のお宝、丸ごとかっさらう」

 

 まともな神経の持ち主なら、そんな事するはずがない。

 そして、()()()()()()()()()()()()A()()()()()()()()()()()()

 

「本気かよ団長」

 

 男……幻影旅団団長クロロ・ルシルフルの発言に反応したのは毛皮のような服を身に纏う大男、ウボォーギン。

 

「地下の競売は世界中のヤクザが協定を組んで仕切ってる。手ェ出したら世の中の筋モン全部敵にまわすことになるんだぜ!!団長!!

 

 その言葉は普段から豪快な彼らしからぬ、冷や汗を浮かべわなわなと震える声だった。

 流石に幻影旅団の一員であっても、世界中を敵に回すことを恐れているのか?

 

「怖いのか?」

 

 ───否。

 

「うれしいんだよ…!!命じてくれ団長。今すぐ!!

 

 不敵に問いかけるクロロに対して返された感情は、歓喜。

 世界中を敵にまわすことを喜べる連中の集まりが幻影旅団(彼ら)だった。

 

「オレが許す、殺せ。邪魔する奴は残らずな」

 

 その言葉と共に、十二本脚の蜘蛛が獲物を求めて動き出す。

 

 

 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 

 

 

 ──翌日、ヨークシン・朝市

 

「うわ──、早朝なのにすっごい人だよ!」

 立ち並ぶ露天、そしてそこに立ち並ぶ黒山の人だかりに、ゴンが歓声を上げた。

 

 二人が求めているのは、ゴンの父親の手がかりであるハンター専用ゲーム・グリードアイランド。1987年発売、58億ジェニーという史上最高価格での販売に関わらず、限定100本の商品に対して2万件以上の注文が殺到。

 そして今回のヨークシンのオークションにて、このゲームが競売に出される。現在の予想最低落札価格は、89億ジェニーである。

 ゴンとキルアの二人は、ネット上での様々な情報をかき集めての資金調達を試みた。しかし、慣れない世界での取引に赴くには、彼らはあまりに知識不足であり、海千山千の専門家たちにとっては格好の獲物(カモ)でしかなく。最終的に手持ちの8億ジェニーを1084万ジェニーまで減らしていた。

 オークションまで、あと二週間。もう猶予もさほどない、という状態で二人はなぜかどちらがより資金を稼げるかと言う勝負を始める。残金を542万ずつ持って、8月31日の夜9時の時点で所持金の多いほうが勝ち。負けたら買った方の言うことをひとつ何でもやる、というごくシンプルなルールである。

 

 ──結果。

 

「あ~あ、4コーナーでムームーダンスがこけなきゃ、12倍で入ってたんだよな~」

 

「バクチで一発当てようとするのがまず間違い」

 

「っせーな!お前こそ二週間で1万5千!?路上で空き缶置いただけでもそれよりは稼げるぞ!!」

 

「勝ちは勝ちだもんね──」

 

 キルアは賭博に手を出し、一旦は2億86万ジェニーまで稼ぐも、最終的には大負けして結局0ジェニーのすっからかんになった。一方でゴンは手堅い、いや手堅すぎるやり方で1万5千ジェニー稼いだため、勝負はゴンの勝ちとなった。

 ちなみに、差し引きで言えばさらに500万以上のジェニーが消えたわけだが、二人は全く気にしていなかった。危機感が足りない。

 

「そのかわり、オークションの裏話やコツとか駆け引きなんか、かなり詳しくなったよ!」

 

「そーゆー自称中級者が一番痛い目あうんだよ」

 

 

「とにかく、勝負はオレの勝ち! 一つオレの言うこと聞いてもらうからね」

 

「ヘーイヘイ。……ところで、レオリオとクラピカとイチリンはどうだって?」

 

 露店を見ながら、キルアが言う。

 

「レオリオは午後に着くって。イチリンはオークション期間中は時間取れないから、終わった後でって言ってた。クラピカも昨日からもう来てるらしいけど、仕事中だから時間とれないかもってさ。もし空いたら連絡くれるって」

 

「オッケ、んじゃ俺も電源オンにしとくわ」

 

そのまま朝市を見て回っていた二人は、実はすでにヨークシンに着いていたレオリオとも合流。

 共同で宿を取り、グリードアイランドというゲームを求めていることや、そのためにお金が必要なことなどを彼に話した。そして、「確実にもうかる方法を思いついた」と豪語するレオリオについて、夜に突入したヨークシンの街に繰り出していったのだった。

 

 ……そして、彼らの知らぬことだが、地下競売(アンダーグラウンドオークション)の開催時間も刻一刻とせまっていた。

 

 

 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 

 

 

『オレだ。様子はどうだ?』

 

 ダルツォルネからの電話連絡に、異常なし、外からは変化なし、と告げる。何かあったら連絡を入れる、と言い、クラピカは通信を切った。

 

 今夜行われる地下競売で、クラピカの護衛対象であるネオンのお目当てであるコルコ王女の全身ミイラが競りに出される。会場は、ここホテル屋上からも見えるセメタリービルだ。

 地下世界の重役たちが集まる競売は、セキュリティが尋常でなく厳しい。売人側は3人一組でしか入れず、武器や記録装置、通信機器の携帯も許されない。また、警備に関してはコミュニティーが全責任を負うと同時に、コミュニティー専属の警備員以外は会場の半径500メートル以内にも入れないという徹底ぶりである。

 

「そうしないと、あの周り中が強面だらけになってしまうからだろう。ここで悪事が行われてますよと宣伝するようなものだからな」

 

「まぁね」

 

 その悪事の一端を担っていることにうんざりしながら、クラピカとその同僚のセンリツは言葉を交わす。

 彼女は見た目が美しいとは言えない。むしろ、奇形に近いその容姿はもはや女性にすら見えず、実際にクラピカは初見で性別を間違えた。しかし彼女は、魅力的な声の持ち主であり、その声に安心感を抱いて会話をすれば、人柄も至極まともで理性的な人物であるとすぐに知ることが出来た。そうして、親交を重ねれば初見ではぎょっとするような容姿も愛嬌のある個性でしかない。

 会話の中で、自分にとっての急所にもなりうる一族の目のことまで話してしまったのは、他でもない自分が彼女に多少ならず気を許しているからだろう。

 

「キミは、なぜこの仕事に?」

 

「……聞いてどうするの? どうせデタラメ言うかもよ」

 

「目を見れば大体わかる」

 

 薄く笑みさえ浮かべ、クラピカは言った。真正面のセメタリービルに顔を向けたままのセンリツは、目線だけでクラピカを見ている。

 そして、彼女が語り始めたのは闇のソナタと言う楽譜について。

 曰く、魔王が作曲したとされる独奏曲。ピアノ・バイオリン・フルート・ハープのための4つがあり、人間が演奏したり聞いたりすると恐ろしい災いがふりかかるとされている。

 

「怪談の類ではないのか? そんなものが実存するとは考えにくいが」

 

 その言葉に対するセンリツの返答は、袖をまくって腕を見せること。そこにあったものにクラピカは絶句させられた。

 

「あたしが聞いたのは、フルートの曲だった。たった一章聞いただけで()()なったの。あたしの昔の写真見せようか?」

 

 その言葉によると、今の彼女の奇形めいた容姿もまた、このときの体験によるものだという。演奏した知人は、死んだ。全身が()()なって。

 

「あたしは身体を病んだ代償に、この能力を得た。でも元の体に戻りたい。何に代えても。そんな人達を、これ以上増やしたくないの。だから見つけ出して消す。この世から」

 

 彼女は、そう覚悟を持った表情で語る。

 

「この仕事を選んだのは、蛇の道は蛇に聞くのが一番早いと思ったから」

 

 それは、クラピカも同じだった。そうでなければ、反吐の出る屑どもにへつらうこんな仕事などしたくもない。

 

「時間よ。地下競売が始まるわ」




おまたせしました。
原作で言う、ヨークシン編、あるいは幻影旅団編に突入です。

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