ヨークシンの近く、ゴルドー砂漠。
ヨークシン中のマフィアに流された、「不審な飛行船を見つけて追え」と言う指令によってマフィアが無数に集まったそこは、今まさに血と硝煙の臭いが渦巻く修羅場と化していた。……最も、その血はマフィア達自身のものだったが。
「……一方的ですね」
「だね。あれが、幻影旅団か」
数百人を超えるマフィア達が一人の大男に一方的に蹂躙されていた。それはもはや、闘争ではなく一方的な虐殺だった。
指令を受け取ってとりあえずやってきた一輪と椛は、それを少し離れた位置から見ていた。
「マフィアもどんどん集まってきてるけど……意味はないかな」
マフィアの戦い方は、蜂のそれと同じだ。
だが、毒針の通らない皮膚を持つ
「うわ、あの男、ライフル弾を纏で喰らって無傷ですよ」
狙撃銃は非念能力者が念能力者を相手取るにあたって、かなり有用な手段だ。
銃火器相手に真っ向勝負できる念能力者は実のところそれほど多くない。口径次第では凝で受けても無傷で済まないことが多い。
故に、相手に気付かれず大口径の銃弾を叩きこむために凝で受けることも許さないライフルは、念能力者相手でも大ダメージが見込める武器だ。当たり所によっては、そのまま行動不能や死もありえる。
しかし……
「相手が悪い。マフィア子飼いの狙撃手なら念能力者を相手した経験もあるだろうけど、流石にあのレベルはそうそうお目にかかれない」
件の男は、ライフル弾を頭に受けてダメージを負うどころか、逆に投石で狙撃手をカウンタースナイプしてしまう有様だ。
その肉体強度は念能力者としても、世界全体で見てもトップクラスの存在であることは間違いなかった。
「椛、相手できる?」
「無理ですね。善戦すらできるかどうか」
「だよねえ……、あ」
そして、バズーカ砲を片手で受け止めてなお無傷なその男に対してようやく勝ち目がないことを悟ったのか、集まったマフィア達が悲鳴を上げて散り散りに逃げ始めた。
「……しょーがない、私が行くかあ。椛、すぐ
「了解しました」
そう言い残して、雲山に乗り大男に向かっていく一輪を見送る椛は、言われた通りにすぐ車を出せるよう向きを整え始めた。
「……ご武運を」
「お、思ったより早かったな」
盗もうと思ってた競売品を別の場所に移した運び屋である陰獣を誘き寄せるために、逃げ回るマフィアを殺していたウボォーギンに雲のような物に乗って向かってくる一人の女が目に入った。
「陰獣だな。競売品をどこにやった?」
自分の目の前に降り立った、スーツ姿の女に問いかける、が。
「生憎だけど、私は陰獣じゃないよ。ヨークシンに集まっている、数ある組織の一員にすぎない」
返ってきた返答は、予想と違う言葉。
「そうか。なら用はねえな」
特に落胆もせず、他のマフィアと同じように殺そうと足を踏み出す。
「お?おお!?」
すると、突如先ほど女が乗っていた雲が拳の形を取り殴りかかってきた。ガードしたためダメージは無いが、
即座に体勢を立て直し、相手の方を見る。雲は両拳と厳めしい顔を備えた念獣になっており、女の方は一度拳を打ち合わせるとまっすぐこちらを見据えていた。
「やる気十分てとこか、良いねえ!さっきまでの連中じゃ準備運動にもならなくて退屈してたんだ!楽しませてくれよ!」
思わぬ
そんな砂漠の様子を見下ろす崖の上。
地下競売の襲撃に参加していた旅団メンバーは、ウボォーギンが暴れまわるのを眺めたりそれも見ずにトランプに興じていたりと、思い思いの方法で時間をつぶしていた。
「おいおい、ウボーの奴手古摺ってるぜ」
「え、マジで?」
そんな中、下の様子を眺めていたメンバーからウボォーギンが苦戦していると聞いて、見ていなかったメンバーもトランプを放り出し様子を見に来た。
「おー、ほんとだ。やるね、あの子」
と言っても、それはウボォーギンを心配してのことではなく、あくまで観戦目的の緊張感のないものだったが。
「あの念獣、ウボォーギンと殴り合うパワーと
「私もちょっと難しいかな。デメちゃんは念で出来たものは吸えないから」
「俺もきついかな。本体に近づけないんじゃアンテナ刺すこともできないし」
「この中だと相性良いのはフランじゃない?『
「だな。おい、ウボー!!変わるか?」
「余計なお世話だ!黙って見てろ!!」
「だとよ」
「まあ、そうだろーな。負けたら笑ってやるか」
と、そんな感じで仲間の苦戦も良い暇つぶしとばかりに、世界のすべてを敵に回した集団とは思えないのんきな空気のまま、観戦を続けるのだった。
(うーん、まいったな…)
思惑としては、暴れていた大男と少し殴り合い、他のマフィアが逃げる時間を稼いだうえで、旅団の他のメンバーが参加しそうなら状況不利として撤退する。そんな感じで、指令に背かず自分の株も下げない形で帰るつもりだったんだけど。
どうやら崖上の奴らは参加するつもりはないらしい。そうなると、私は目の前のウボーと言うらしい大男と殴り合いを続ける必要があるんだけど……。
「どんだけタフなのよ、あんた…」
雲山により相手は私自身に近づけていないため、こちらが一方的に殴り続けている状況なのにまるで堪えた様子がない。もはや、感嘆を通り越して呆れるほどの頑健さだ。
(それに、このまま黙って殴られ続けてくれるはずもないし)
他のメンバーが参加しないということは、この大男が戦闘と言う面において他のメンバーに全幅の信頼を置かれている、ということだ。そんな奴がただの脳筋なはずがない。必ず、なんらかの対処を打ってくるはずだ。そして、その対処に対する対応を間違えた場合に支払うことになるのは私の命だろう。
そうなる前に逃げたいのが本音だけど、戦闘自体は現時点で私が有利と言うのが問題だ。
メンツを重視するマフィアにとって、ただの喧嘩ならまだしも地下競売の襲撃犯なんて相手を目の前にしながら軽々しく逃げるわけにもいかない。不利で撤退するならまだしも、有利な状況で逃げたら今後に差し障る。さて、どうするか……
「うおらァ!!」
と、そんなことを考えていたら相手が突然、右手にオーラを込めて地面を殴りつけた。目的は……目くらましか!
ミサイルにも匹敵するような拳を叩きこまれた大地は盛大に砂埃を巻き上げた。同時に相手の気配も消えた。隠か!
ならば、こちらは円で周囲をサーチ!相手を捕捉する、が……速い!
「判断力も円を発動する速さも大したもんだが、一瞬遅かったな!ここまで近づきゃこっちのもんだ!」
相手は既に、私自身に拳が届く間合い。間に雲山を割り込ませるがこれまでの戦闘での情報から考えて、もろともぶち抜けると言う判断だろう。躊躇せず拳を振りぬいてくる。
確かに雲山の耐久力は破壊しても無意味と言う点であり、強度自体は低い。この男の拳なら、ほぼ抵抗もなく振りぬけるだろう。
そう、雲山を割り込ませた目的が防御だったならここで終わっていた。
「がっ!?」
突然の衝撃に体を痙攣させる
雲の性質を持つ雲山は雷を生む要領で発電することができる。とっさに出せる雷の電圧自体はそれほど大したものではない。が、どれほど鍛えていようとも人間の身体構造上、電撃を喰らえば一瞬は硬直する。
「そりゃぁ!!」
そして、その一瞬の硬直の隙に雲山の拳で崖まで押し込む!
「どりゃりゃりゃりゃぁ!!」
そのまま、硬で雲山の両拳にオーラを集め
流石の相手も纏で受けきれないと判断したようで堅で防御している。だけど、このままなら押し切れる!
ぞわり
と。背後から気配を感じてその場から飛びのく。
背後から近づいて来ていたのは……三人の男。
ボサボサの髪で痩せぎすの男。
ジャージ姿の小柄な男。
ジーンズにTシャツの太った男。
三人ともかなりの実力者だ。
「どこの組のモンか知らねえが……よくやったじゃねえか。お前のおかげで逃げれた奴は多いぜ」
その言葉からすると、旅団メンバーではない。陰獣か。
「だが、餅は餅屋だ。後は
こちらとしては願ってもない話だ。正直、撤退するタイミングを見失ってたとこだし。陰獣が引き継いでくれるならこのまま帰れる。
「分かった。後はよろしく」
そう言い残して、雲山に乗ってさっさと撤退。
椛が乗ってる車まで戻る。
「ふう……車出して」
「はい」
その返事と共に、車は町に向かって走り出す。
流石に疲れた……ヨークシンに戻ったらお風呂入ってとりあえず寝よ。
と言うわけで、ウボォーギンと戦うも今のところは原作通りになります。多分、ヨークシン編では話の大筋自体は変わらないと思います。