「ったく、大口叩いてこの程度かよ!これなら、さっきの女の方がよっぽど歯ごたえあったぜ!」
現れた陰獣三人と地下に潜んでいたもう一人をあっさり殺害したウボォーギンが不満げに吠える。
実際にはウボォーギンも麻痺毒で首から下が動かないし、体内に危険なヒルを入れられているため言葉ほどに楽勝と言うわけではないのだが、麻痺毒は旅団メンバーのシズクがどうにかできるし、体内に入れられたヒルは同じくメンバーのシャルナークが対処法を知っていた。それに牙や硬化した体毛の針で裂かれた傷も高レベルの強化系能力者である彼にとってはすぐ治る程度のものでしかなく、既に血も止まっている。そのため、ウボォーギンがマフィアの精鋭、陰獣相手に負ったダメージはゼロに近いと言えた。
一応言っておくと、彼らは決して弱くない。なんなら、やり方や相手次第で幻影旅団のメンバーを仕留めることができたかもしれない実力はあった。しかし、相手が旅団の中でも戦闘に特化したウボォーギンだったことと、首から下を麻痺させたことでの油断がこの結果につながったのだ。
「くくく、いいじゃねーか。あいつらが来たおかげで助かったんだからよ」
「あいつらが来なくてもなんとかなったんだよ!」
からかい交じりのノブナガの言葉に、怒鳴り返す。ウボォーギンの不満の原因は、陰獣の実力よりも自分が不利だった状況で彼らに乱入されたため、結果として陰獣たちに助けられた形になったのが気に入らないのだ。
「ちっ、シズク早いとこ毒を吸い出してくれ!!」
「今いく」
「誰か、車でビールたくさん盗ってきてよ」
シャルナークがそう言った瞬間、ハッと気付く。
ジャラリと金属の触れ合う音、音の出所はウボォーギン。正確には、いつの間にか彼の身体に幾重にも巻き付いていた、鎖。
「──うぉお!?」
あっと言う間に引っ張られていく、ウボォーギンの巨体。猛スピードで飛んでいく彼に、すかさずマチが念糸のついた針を投げる。
「見えたか?」
「うん、一瞬にして鎖が体中に巻きついて……」
シャルナークの確認に、ウボォーギンの毒を吸い出すため下りてきていたシズクが答える。
「新手の陰獣…ウボーは毒で体が動かねーし、ヒルも体内に入ったままだ」
「しかたない、助けに行くか」
仲間がさらわれた割には緊張感のない様子で、ウボォーギンが飛んで行った方向をみやるノブナガとシャルナーク。流石にもう見える範囲には居ないし、なんなら音も聞こえないが……
「今なら、まだ行き先がわかる。糸の気配は絶で消してあるから、"凝"で見破られるか、針に気づかれて捨てられない限り──、糸はどこまでも追跡する」
やはり、慌てることなくそう言うマチの指先からは念の糸が伸びている。それをたどればウボォーギンの元へたどり着くだろう。
「よし!悟られる前に追いつこう」
「残りの陰獣も一網打尽に出来るかもな」
「あ、オレはビール盗りに行ってくるわ」
ウボォーギンを取り戻して、残りの陰獣も一網打尽にできれば競売品のありかもわかる。方針が決まった彼らはマフィアの乗ってきた車のうち損傷してないものを選んで乗り込んでいった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
──9月2日、朝
ホテルに戻って入浴を済ませた後、ぐっすりと熟睡した一輪はカーテン越しの朝日を浴びて目を覚ました。
「んー…」
寝ぼけ眼をこすりながら起き上がると、洗面所で顔を洗い歯磨きを済ませたことで頭も覚醒してきた。
さて、昨日私が帰ってから何があったか……。そんなことを考えながら寝室から出ると椛が朝食の準備を整えていた。
「おはよう、椛。相変わらず気が利くね、愛してるよ」
「おはようございます。冷める前にどうぞ」
相変わらずクールな子だ。ともあれ、言う通り冷める前にいただくとしよう。
白米、アジの開き、大根のみそ汁、ほうれん草の胡麻和え、ゴボウとレンコンのきんぴら。うむ、完璧なジャポン風朝食。よくまあ、ヨークシンで揃えたものだ。
味付けも私好みなそれらをもぐもぐと咀嚼し、飲み込んでいく。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
そう言いながら差し出されたほうじ茶を一口。ほふぅ。
さて、お腹も満たされ一息ついたところで仕事の話をしようか。
「それで、彼らがあの後どうなったのか、情報は入ってきてるかい?」
「はい、端的に言いますと陰獣は全滅したそうです」
その言葉に「あちゃー」と額に手を当てる。流石にそう簡単にいく相手じゃないのは分かってたけど、一晩で全滅かー。仮にも裏社会トップクラスの武闘派念能力者だ。世界全体で見ても割と強い方なんだけど、幻影旅団はそれ以上にやばいってことだね。
「それで、十老頭はプロの殺し屋を何人か雇い旅団を始末させることにしたそうです」
「まあ…そうなるか」
陰獣で無理だったなら、マフィアン・コミュニティの中から戦力を集めても同じ結果だろう。なら、外部から雇うのが手っ取り早い。
「それで、十老頭から一輪さんにも殺し屋のチームに参加するようにと通達がありました。……イヤそうですね」
そりゃそうだよ!なんで私が幻影旅団を相手する殺し屋チームに参加すんのさ!
「十老頭としても、殺し屋が始末してくれるならそれでいいけれど、
ぬあー、あの時逃げた奴らの証言か……これも因果応報と言うのだろうか。良いことして悪いことが帰ってくるなんて……いや、マフィアを助けるのは良いことなのか?悪いことしたから悪いことが帰ってきたのかもしれない。
「ちなみに、一輪さんが仕留められなくても特にペナルティはないとのことなので十老頭からしてもうまくいけば儲けもの程度の気持ちでしょうね。重くとらえる必要はないかと」
幻影旅団との戦いの場にいないとならないって時点で気が重いよ、私は。
「……はぁ。まあ、いつまでも愚痴ってても仕方ないか。集合はいつ?場所は?」
「明日、9月3日の夜、指定されたホテルの一室で。ちなみにオークション会場はセメタリービルです」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
(流石、良い部屋取ってるね)
指定された時刻、指定された部屋に入るとそこに居たのは六人。それと、依頼内容を伝達する役目であろう黒スーツが複数人。
(で、集まった六人はと言うと……うーん)
腕利きの殺し屋と言えるだけの実力はありそうだけど……正直、陰獣と比べてそれほど大きな差があるように感じないんだよね。もっとも、見ただけで実力の
そんな事を考えていると、背後でカチリと扉の開く音が。邪魔になってはいけないので、さっさと部屋の中へ歩を進める。そして、私たちの後から入ってきたのは長髪で大柄な男と特徴的な口髭を伸ばした小柄な老人。
(…この二人は強いね)
ぱっと見ただけでも、実力の高さが分かる。揉めたくない相手だね。くわばらくわばら。
「全員そろったようだな」
「いや、まだだ」
「何でだ?チームは9人のはずだろう?」
集まった人数を数えながら、スキンヘッドの男が話を始めようとするのを別の黒服が遮る。その黒服曰く、ノストラード組が新たに一人連れてくるらしく、それを聞いたスキンヘッドの男はインチキ野郎のおべっか攻撃かと悪態をつく。
そんな中、件のノストラード組のボスが入室してきた。そして、連れてきたのは見知った顔。
(クラピカ…)
相手もこちらに気付いたようで目が合うけど、のんきに挨拶するような状況でもない。ふいっと視線を切る。
「今度こそ全員そろったようだな」
そうして、スキンヘッドの男の説明は簡潔で、依頼内容は幻影旅団の抹殺。オークションが行われるセメタリービルの警備を兼ねて奴らが現れたら始末してくれ。要望さえ全うしてくれればやり方等は全部まかせる、必要なものは用意する、と。
その後は最低限の協力はした方が良いと言う四人と、自分のやり方でやると言う四人で意見が割れる。その際に私の後に入ってきた二人が名乗ったのだが、
「あんたたちはどう思う?」
そんなことを考えていると、自分のやり方でやる意見の一人がこっちに私とクラピカに水を向けてきた。
「拙い連携は混乱を招くだけだ。誰かの協力が必要な者はコミュニティーの人間を使えばいい。各々の裁量で動いた方がもめることもないだろう?私は1人で十分だ」
「私も同意見だね。組みたい人は組めばいいけど、私は1人の方がいい」
そも、私はこの仕事に積極的じゃないし。なんなら、私の出る幕なく終わってほしい。
「6対4だ。決まりだな」
「まあ…そっちの嬢ちゃんの言う通り、組みたい奴は組めばいいさ」
結果、それぞれがそれぞれのやり方で動くことに。9時のオークション開始に向けて、集められた殺し屋はそれぞれ動き出した。
去り際に、説明を担当したスキンヘッドとクラピカを連れてきたノストラード組のボスが揉めているのが聞こえたが……。
(なるほど、ライト=ノストラード…最近、伸びてきた組ってことで噂は聞いてたけど、典型的な小物だな)
たまたま、有用な能力者を抱えただけの小物。あれじゃあ、上には行けないだろう。気にする価値もないな。あれにへこへこしなきゃならないクラピカに同情するよ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
(殺し屋が暗殺されてちゃ、世話ないね…)
セメタリービルに来てから頭に入れた見取り図と相違ないか確認して回ってたら、早くも集められた殺し屋のうち一人の死体を見つけた。こりゃ、他にも何人かやられてるかも。おまけに、外からは派手にドンパチする音が聞こえてくるし、遠慮のない奴らだ。
(客には特に被害なし。殺し屋チームを殺して回ってるみたいだね。となると、私もまずいな…)
ひとまず、円を半径20m……不意打ちされても確実に反応できる範囲まで広げておく。円の維持は神経使うからしんどいけど、そんなこと言ってる場合じゃないし。とりあえず、見回る体でうろついておこう。その間に、ゾルディックさんあたりが仕留めてくれれば願ったりだけど。
……だったんだけど。
(…露骨に殺気飛ばしてきたね。奇襲が無理なら真正面から殺ろうってか)
流石にこれは無視も難しい。はぁ、とため息を吐いて近くの広間へ。無人の広間の中央へ進むと、相手も私に続いて入ってくる。
「初めまして、思ったより若いね。お名前は?」
「クロロ=ルシルフル。仲間にはダンチョーって呼ばれてるよ」
「幻影旅団の、団長さん、か。一応聞くけど、このお誘いは私とお喋りしたいってわけじゃないでしょう?」
「ああ、お前のことは仲間から聞いてる。つまらない
闘る気まんまん……むしろ、殺る気まんまんかな?きつそうだけど、何とか生き延びなきゃね。
と言うわけで、ウボォーギンの次は団長。一輪はこの先生きのこれるのか?
……ちなみに、期待してる方には申し訳ありませんが、団長戦の描写はほぼない予定です。