パルデア仲良しカルテット!   作:はっぽーしゅ

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フィッシュ&チップス食いてぇなって思いながら書いたお話です。ビール!ビール!(空手部)


ペパーとハルトの美味しい金曜日!

 

 

 とある金曜日の夜。グレープアカデミー学生寮、ペパーの部屋にて。

 

「おまちどうさん!」

「待ってました!」

「バウ!」

 

 ポケモントレーナーの少年ハルトは、ペパーの相棒マフィティフと共に折り畳みテーブルの前にちょこんと座り、ペパーが運んでくる手作り料理にぐう〜っとお腹を鳴らした。

 プロの料理人を目指して、日々研鑽を積んでいるペパー。彼のまごころ篭った温かな料理が、ハルトとマフィティフは大好きだった。

 

「わ、こんなにおっきいの?」

「なんだ、ミガフライ食うのは初めてか?」

 

 今日のメインは、パルデア地方の郷土料理ミガフライ。半島西側の海や湖でよく獲れる、きりはなしポケモンミガルーサの身を豪快に揚げた料理である。

 

「うん。へぇ〜こんな肉厚なんだぁ。大丈夫?高かったんじゃない?」

「いや、全然だ。ミガルーサの肉はそこら中で獲れるんだよ、アイツらすぐ自分の身を切り離すから」

「あ、なるほど」

 

 桁外れな自己再生能力を持つミガルーサは、頭や骨格、ヒレ以外の身を瞬時に切り離して身軽になり、移動速度と集中力を高めるという風変わりな習性がある。ミガルーサが切り離した身は、古くからパルデアの人々とポケモンたちを育んできた地方有数の海の幸なのだ。

 

「エスパータイプだし、なんか食べたら頭良くなりそう」

「お、鋭いな。実際頭に効く栄養がたっぷりちゃんなんだぜ、ミガルーサ」

「そっか、ならうーんといっぱい食べなきゃね!ねーマフィティフ?」

「ワフ」

 

 ハルトに背中を撫でられ、ニィッと凄みのある笑みを浮かべるマフィティフ。名前の通りまるでどこかのマフィアの様だが、性格はとても優しく穏やかなのだ。

 

「あ、写真写真!冷めないうちに早く撮らなきゃ!」

「おう、バシッと頼むぜ!」

「ヘイ、ロトくん!」

『ケテテ!』

 

 ハルトの声に応えて、彼のスマホロトムがぴょんっと飛び出す。ロトムはハルトたち二人とマフィティフ、そして肝心の料理がバランスよく写るアングルを瞬時に見定め、機敏な動きで宙を舞いポジションに着いた。

 ハルトは写真撮影、特にセルフィーが大好きな少年で、そんなハルトと旅路を共にしたロトムもまた、すっかりカメラ役が大好きになっていた。

 

『ケテ!ケテケテ!』

 

 もっと寄って寄って!と小さな身体を揺らすスマホロトムに、くすりと笑うハルト。マスカーニャやミライドンたち7匹と同じく、ロトムもまたハルトの大切な宝物である。

 

「「はい、ガケガニぃ〜!」」

「ワフ!」

 

 料理を囲んでニぃ〜っと笑う二人と一匹。ガケガニに因んで、ハルトとペパーはダブルピース。

 

『ケテ!』

 

 カシャ!と小気味いいシャッター音が響き、撮り終えたロトムが満足げな様子でハルトの手元に収まる。保存された写真の出来栄えに、ハルトはにっこりと笑みを深めた。

 

「ありがとロトくん」

『ケテ♪』

「後でみんなに送ろうな」

「うん。あ、あとハイダイさんとオモダカさんにも」

「なんでだ?」

「二人ともミガルーサ手持ちだから。喜ぶかな?」

「おう、絶対やめろ。それよりさあほら、早く食え食え!」

「うん!いただきまーす!」

「バウ!」

 

 パッと手を合わせて、ナイフとフォークを手に取るハルト。

 

「わあ…!」

 

 サクサクの衣にナイフを入れると、白い湯気とジューシーな香りがふわっと広がる。身を崩さないように慎重に切り分け、最初の一切れをゆっくりと口に運び、ぱくり。

 

「!」

 

 瞬間、口の中に満ち満ちる、淡白ながらも味わい深い白身魚の旨み。しっかりと下味がつけられた身の絶妙な塩辛さと香ばしさが食欲を刺激し、衣のサクサクと身のホクホク、二つの食感が口内を踊り、弾ける。

 あまりの美味しさに、声にならない歓喜の声が、ハルトの喉から溢れ出した。

 

「んーーっ!んーひー!(おいしー!)」

「気に入ったか?」

「うん!うん!」

「へへっ、そうか!」

 

 満面の笑みでフライを頬張るハルトに、ペパーはくすぐったそうに笑った。ハルトが彼の料理が大好きな様に、彼もまたハルトに手料理を振る舞う事が大好きだった。

 こんだけ美味そうに食ってくれりゃ、俺も作り甲斐があるってもんだ。あぁもう全く、見てるこっちまで腹ペコになる笑顔だぜ、ってな具合である。

 

「バウッ、バウッ」

「お前も美味いか?」

「バフッ!」

「おう!いっぱい食えよ!」

 

 ペパーの相棒マフィティフも、小皿に切り分けられたフライを大喜びでパクついている。

 

「美味しいねーマフィティフ!」

「ワッフ!」

 

 隣に座る小さなハルトと幸せそうに笑い合う大きなマフィティフ。そして、そんな二人を温かな気持ちで眺めている自分。

 ……家族って、こんな感じだよな、きっと。

 付け合わせのフライドポテトをつまみながら、ペパーは優しい多幸感にじんわりと浸った。

 幼い頃に家を去った母と、エリアゼロの研究で家を空けがちだった父。ペパーにとって真に家族と呼べるのは、小さなオラチフの頃からずっと一緒だった大切な相棒、マフィティフだけだった。

 そのマフィティフが酷い大ケガをした時、ペパーは本当に目の前が真っ暗になった。どんな高級なキズぐすりを使っても効果がなく、ポケモンセンターに預けても快復が見込めない。日に日に弱っていく相棒の姿に、キリキリと心を擦り減らす日々が続いた。

 大好きなマフィティフが死んでしまう喪失への恐怖と、心の拠り所を失いひとりぼっちになってしまう孤独への恐怖。二つの恐怖に押しつぶされそうになりながら、ペパーは気丈に一人で頑張り続けた。

 そうして死に物狂いで治療法を探し、ついに見つけた最後の希望、秘伝スパイス。胡散臭いオカルト本に記された眉唾物の代物だったが、少しでも可能性があるならばと、縋る様な想いで手を伸ばした。

 

「んー!ポテトもおいしー!」

 

 …思えば、最初は半分ヤケクソだったかもな、こいつを誘った時も。

 ホクホク顔でポテトに舌鼓をうつハルトの、妙に幼くあどけない仕草に、ペパーはなんとも可笑しな気分になった。

 こんなにちっちゃくてカワイイちゃんなヤツがポケモン勝負激ツヨなんて、まるでゲームかマンガだな、と。

 ポケモン勝負が苦手な自分に寄り添い、共に強大なヌシポケモンと戦ってくれたハルト。類稀なバトルセンスを持つ彼と彼のポケモンたちがいなければ、きっと自分はスパイスを手に出来なかっただろう。マフィティフの命を、救えなかっただろう。

 

「全く、ハルトはお子ちゃまヒーローちゃんだな」

 

 だから、ペパーにとってハルトという少年は、親友であり、ヒーローなのだ。

 

「んー?」

「ん、なんでもねぇ。ほら、ちゃんとサラダも食えよ?」

「うん!」

「バウ」

 

 色鮮やかなサラダをシャキシャキと味わうハルトを、隣に座るマフィティフが穏やかな目で見守る。その絵面がなんだか歳の離れた兄弟か父子の様で、ますますペパーは可笑しくなってしまう。

 

「ワフ」

 

 マフィティフというポケモンは、外敵に対してはあくタイプらしく苛烈に襲いかかる猛犬と化すが、自分のファミリーに対しては非常に優しく、愛情深く接するポケモンだ。きっとマフィティフもペパーと同じく、ハルトを命の恩人として敬い、愉快で可愛らしい小さな友人として慕い、新たなファミリーの一員として愛してるいるに違いない。

 

「へへ…」

 

 …なんか、あったけぇな。マフィティフがいて、ハルトがいて。俺の料理美味そうに食って、俺の前で楽しそうに笑って。

 …ずっと、続けばいいな、この感じ。

 

「んー…」

「バウ…」

「…あん?どうした、二人とも」

 

 食事を進めながらぼんやり考えていると、ハルトとマフィティフがじーっとペパーを見つめていた。

 怪訝に思い声をかけるペパー。するとハルトの口から、思いもよらぬ発言が飛び出た。

 

「なんかペパー、おかあさんみたい」

「…はっ、はあ!?」

 

 思わずギョッとするペパーに、ハルトはくすりと悪戯っぽく笑った。

 

「ペパー気付いてる?ペパーってさ、僕たちがご飯食べてる時、すっごい嬉しそうな目してるんだよ?」

「え"」

「ふふ、やっぱり自覚ないんだ…それでね、その時の目がね、なんかそっくりなんだぁ、僕のママに」

「マ、ママぁ…?」

「ふふ、ふふふっ!あれ、照れてる?」

「なっ、て、照れてなんかねぇっ!ってか照れる要素ねぇだろ!?なんだママって、なあマフィティフ!?」

「バウッ」

「あっ、笑った!?笑いやがったこいつ!」

「あはは!マフィティフ、ペパーママはかわいいね〜?」

「バウッ!」

「や、やめろ!俺はママじゃねぇ!おかあさんじゃねぇーっ!」

 

 真っ赤な顔でぶんぶん手を振るペパーと、そんなペパーをニヤニヤ眺めるマフィティフ。そしてそのマフィティフにモフっと抱きつきながら、くすくすと悪戯に笑うハルト。

 

『…ケテ!』

 

 …カシャッ!

 

「なっ、おまっ、何撮ってんだ!?」

「ロトくんナーイス!そのままネモとボタンに送って!」

『ケテテッ!』

「おいやめろぉ!一番送っちゃならねぇヤツらだろ!」

「あ、もう返事きた!"ペパー真っ赤!どうしたの!?"だって!」

「おい消せ!今すぐ消せ!」

「もう送っちゃったもーん♪あ、ボタンからもきた、"誰得の赤面?もっとフライ写してどうぞ"、だって。興味なしかー、よかったね?」

「いやそれはそれで腹立つなオイ!?」

「ワフッ」

 

 敏腕カメラマンに照れ顔を激写されあたふたするペパーと、悪戯心満載でおちょくりまくるハルト。

 そんな二人を微笑ましく見つめながら、マフィティフは小皿のフライをまた一口、パクッと食べるのだった。

 

 

 

 

 ちなみに。結局ハルトはミガフライの写真をハイダイとオモダカには送らず、大衆グルメを愛するサラリーマン、アオキに送った。

 しばらく既読がつかなかったが、夜中ハルトが就寝する直前、ポンと通知が入った。

 ハルトが寝ぼけ眼をこすりながら画面を見ると、アオキからカビゴンのスタンプと共に、"腹減ったので今日は締めます"とコンビニ弁当の写真が送られてきていた。

 

「アオキさん…」

 

 今度、焼きおにぎりでも差し入れしよう……

 垣間見えた大人の世界の厳しさに小さく身震いしつつ、子どものハルトはすやすやと床につくのだった。

 

 

 おしまい。

 

 




カルテットといいつつ二人しか出てこないタイトル詐欺。
尚ミガフライなんて料理は公式設定には全くありません。完全に今作の捏造です。人に話したら恥かくので気をつけよう!
…切り離した後の身って鮮度大丈夫なんかな、と書いた後にふと思いました。コジオの塩で塩づけにして保存すればワンチャン…?

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