鉄騎中隊の亡霊【完結】   作:呼び水の主

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君は生き延びることができるか?

 

 薄暗いコックピットの中で、計器類やモニターが淡い光を明滅させている。ヘルメットのバイザー越しにその光を感じながら、俺はゆっくりと深呼吸した。

 

 バルメラ・エレクリーガー少尉。25歳。元戦闘機パイロットで、22歳で士官学校を卒業してからは、特に実戦に遭遇することもなく軍人人生を歩んできた。そんなコネも実績もない俺がこの年齢で尉官を拝命できたのは、ひとえに連邦軍の新型兵器『モビルスーツ』のパイロットに抜擢されたからだ。

 

 モビルスーツ。一言で言えば機械の巨人だ。乗り込み型ロボットとでも言えばわかりやすいか。俺の乗る機体の名前はガンキャノンと呼ばれている。全高およそ18メートル。人のように手に武器を持ち、頭部にはバルカン砲、肩にはキャノン砲。

 

 俺はこいつがいたく気に入っていた。一目見た時から妙な高揚感を覚えていた。なんだか初めて見た気がしないというか、長年の相棒と何十年か越しに再会したかのような、そんな妙な感覚だった。

 

 そんなわけだから、俺はひたすらシミュレーターにこもってガンキャノンの習熟訓練に打ち込んだ。今じゃ手足のようにこいつを動かせる。もう一つの俺の身体だ。

 

『目標降下地点まで60秒!各機、機体の最終チェック願います!その間、本作戦の概要を再度説明します』

 

 女性オペレーターの声で、これまで何度も反復してきた動作を流れるように実施していく。

 

メインエンジン、グリーン

オートバランサー、グリーン

各部駆動系、グリーン

全兵装オンライン

システム・オールグリーン

 

『本作戦の目標は月面にて待機している要人保護となります。なお、本作戦には目標の奪還、ないし暗殺として不明勢力の参戦が予測されます。各員は目標収容まで本艦を護衛、不明勢力を撃滅してください。──降下地点に到着。みなさん、ご武運を!』

 

 特殊輸送艦ディーテウスの側面に5つずつ並ぶ計10のハッチが重低音を唸らせながら開いていく。ガンキャノンの背部アタッチメントがハンガーから切り離されて、機体が月面の微弱な重力に囚われて自由落下を始めた。灰色に塗装された10体の金属製の巨人が月に影を作った。

 

 メインモニターが現場の状況をスキャンする。目標と思われる要人の乗る月面カーが、500メートル先で擱座しているのが見えた。なんと宇宙戦闘機に狙われているようだ。機銃の放った弾丸が月面カーの周りを跳ねた。不明勢力、もう参戦してるじゃん!

 

『オイオイオイ!やばいんじゃねーのか!?』

 アイアン2が焦った声で怒鳴った。

 

 ズン!

 

 ガンキャノンの両脚が月面を踏み締めた瞬間、膝立ちさせて手に持ったライフルの照準を戦闘機に合わせる。

 

『クソ!目標が近すぎる!』

 

 無線から仲間たちの悪態が聞こえてくる中、俺は静かに照準を合わせたままだ。この距離じゃ保護対象まで巻き込んでしまうだろう。普通のやつならな。

 

『アイアン3。やってくれ!』

 

「こちらアイアン3。了解です、アイアン1(隊長)

 

 ドフ!

 

 ライフルが火を吹いた。単発モードで敵戦闘機を狙撃。ロングバレルを装着し弾道を安定させ、俺の習熟訓練1000時間を合わせれば造作もないことよ……。(マジキチスマイル)

 

『ピュウ!流石1000時間(ワンサウザンド)

『まさに桁違いの神技だな……』

『戦闘機を狙撃とかイッちまってるよ』

『頭おかしいんじゃないのか』

『こえーよ俺』

 

  ハハハ褒めるな褒めるな。モビルスーツのテストパイロットになってから半年。軍人としての仕事を除くプライベートを全てシミュレーターの中で過ごしていた(というか住んでいた)俺は、そのひたむきなストイックさを評価され仲間たちからは『バカ』『コワイ』と呼ばれ敬われていた。

 

 『新たな反応を感知!6時の方向!これは戦闘機じゃないぞ!』

 

 センサーが強化された隊長機がいち早く敵機を察知した。ちなみに輸送艦ディーテウスは月面に降下し要人を収容中だ。離陸し離脱するまであと3分はかかるだろう。

 

『先制する!アイアン3は狙撃。各機はキャノン砲で弾幕を張る。敵をディーテウスに近づけさせるな!』

 

『『『了解!』』』

 

 狙撃地点を探してガンキャノンを移動させる。傾斜のついた丘のようなポイントを確保。左手には守るべきディーテウスが、右手に敵機がくるような戦場を一望できる場所だ。

 

 ガンキャノンのセンサーがライフルのスコープと連動して望遠モードで敵を捉えた。

 

「無敵の鉄機中隊に喧嘩を売ってきたのはどこのマヌケだ、……ぁ?」

 

 スコープを覗いた先にいまのは、一つ目のモビルスーツ達だった。赤、青、黒の五機。敵にもモビルスーツ!それはいい。数は5だ。10機の俺たちに勝てるはずがない。数は力だ。

 

【戦いは数だよ兄貴!】

 

 無意識にトリガーを引いた。百発百中のはずの弾丸は、しかし赤い巨人にゆうゆうと回避された。ドッ!青と黒の4機がキャノン砲で飽和攻撃を仕掛けようとしていたガンキャノン達にマシンガンやバズーカを斉射しつつ突貫した。出鼻を挫かれたキャノン隊がすり潰されていく様を、しかし俺には目にする隙も、援護の余裕も存在しなかった。

 

 ドフ!ドフ!ドフ!

 

 いつもと同じ、訓練通りの正確な射撃だ。百発百中だぞ。お前はもう4回も死んでいるはすだ。

 

「ゎ、ぁ……なんで」

 

 だというのに、目の前の赤いヤツには擦りもしない。赤いのが手にしたマシンガンを連射した。ガンキャノンの分厚い正面装甲が何発かを受け止めるが、頭部カメラやライフルがグシャグシャにされて火を吹いた。コックピットが大きく揺れてモニターがひび割れ、計器がけたたましいアラートでがなりたてる。

 

【シャアだ。赤い彗星だ……!逃げろぉ!】

 

 辛うじて切り替わったサブモニターが写したのは、トマホークのような武器を振りかぶって跳躍してくる赤いやつの姿だった。

 

「ワァーーーー!!!」

 

その日、俺は思い出した

前世の記憶を……

機動戦士ガンダムの世界を……

 

 




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