あの一戦以来シャアからの追撃もなく、ホワイトベースは無事にルナツーへと入港した。
──宇宙要塞ルナツー。地球の周回軌道上にある小惑星を基地にした連邦宇宙軍の一大拠点である。
分厚い岩盤の内側に数百数十の戦艦を収容するドッグがいくつも点在し、ミノフスキー粒子下で戦艦に対し圧倒的な優位性のあるザクを持つジオンすら未だ攻略に踏み切れないほどの堅牢性を誇る。
「お久しぶりです、パオロ教官」
「君にそう呼ばれるのは随分と久しぶりだな。すっかり立派になったな、ワッケイン少将」
「そう年数は経っておりません。部下も外しております、この部屋で少将はなしですよ教官」
パオロとワッケインはかつて士官学校の教官と生徒の関係であった。人払いをした一室に、しばし2人の雑談と笑い声が響く。
ひとしきり語り合った頃合いを見計らい、ワッケインが本題を切り出した。
「教官、こちらを」
「ジャブローからかね?」
「はい。ミノフスキー粒子が濃く、地球の自転周期に左右されるので短時間通信となりましたが」
ワッケインは指令書をパオロに手渡した。
連邦軍本部ジャブローから、宇宙要塞ルナツーに下った指令は以下である。
・ホワイトベースは引き続きガンキャノン及びGベースをジャブローまで輸送せよ
・ルナツーは可能な限りそれを援護せよ
「テム・レイ技術大尉の件についてはお咎めなしか」
「赤い彗星撃退という実績が評価されたようですな。ジャブローでは改良型ガンキャノンの量産が始まるようです」
「流れが変わりつつある、か」
まだまだ大艦巨砲主義者が根強い連邦軍ではあるが、もはやモビルスーツなくして勝利なし、というのは宇宙で大敗を経験した連邦軍人たちにとっての共通認識となりつつあった。
このような流れを作り出すきっかけを作ったのは、ルウム戦役でモビルスーツに敗北し一時捕虜の身となったレビル将軍その人である。
モビルスーツの兵器としての有用性をその身で体感したレビルはV作戦を始動。サイド7でのモビルスーツ開発が始まった。
そして完成したモビルスーツ回収の任務を受けたホワイトベースを護衛するべく、レビル直々の要請を受けたルナツーはサラミス2隻をサイド7に派遣した。
ルナツーにも少数ながらガンキャノン(初期型)が配備されているし、フィードバックなり新型の生産ラインなりは、たとえデータだけであっても喉から手が出るほど欲しい。
宇宙で何の対策もなくこれ以上孤立し続けるのは、ルナツーの軍人たちにとっても耐え難い状況であった。
このような意図があって、おこぼれを狙ってルナツーはなけなしの戦力をホワイトベースの護衛に回したともいえるし、それを見越してルナツーへ護衛の要請をしたレビル将軍もなかなかの策士である。
現在、ホワイトベースが回収したデータを使ってルナツー配備のモビルスーツアップデートが急ピッチで進められていた。
「ルナツーからはマゼラン1隻サラミス3隻からなる艦隊を衛星軌道上まで派遣し、ホワイトベースの地球降下を援護させる予定です」
「ありがたい。出発は明朝か。シャアの動きも気になる。あまりルナツーに長居するのも得策ではなかろうな」
「赤い彗星ですか。流石にムサイ単艦でこのルナツーに仕掛けてくるということは……」
「いや」
パオロの予感めいたその言葉に、ワッケインは言いかけた言葉を引っ込めた。パオロはモニターに映る宇宙空間を見据えながら、確信にも似た直感を感じていた。
「シャアは来る」
@デデデン デデデデン シャーゥ!@
「ルナツー所属のガンキャノンですが、OSのアップデートは進捗7割ほどでしょうか。反応速度と追従性は従来より40%向上する試算です。二機編成ならザクだって落とせるようになりますよ」
「了解した。そちらは引き続き任せる。本日中に作業を完了させてくれ」
ホワイトベースの整備士にそう声をかけてから、ルナツー内にあるモビルスーツ格納庫にズラリと並ぶ10機の『初期型ガンキャノン』を見回す。
「……3本指なんだもんな」
「初期型だったら僕ら、この前の戦闘で死んでますね」
俺の漏らした呟きにジョンが相槌を打つ。
俺たちパイロット組はルナツーからの要請で初期型のアップデート内容や性能解説やらを現地のパイロットにレクチャーする為、ルナツーのモビルスーツ格納庫へ訪れていた。
「総合的な性能はザクに及ぶべくもないからな。隊列組んでキャノンぶっ放すなら自走タレット作った方がマシまであるし、初期型の評価が低いのもさもありなんって感じだ」
愛着のある機体ではあるが、初期タイプのガンキャノンはほんとに連邦製モビルスーツって点しか褒めるとこないからなぁ。
そもそもの仮想敵がモビルスーツとして完成されたザクⅡな時点で無理があるというものだ。
なんたってコイツらはザクⅠとかブグとか今は現役を退いた旧世代機と同年代なのだから。
「それは随分な言い草でありますなァ、少尉殿」
「おっと、これは失礼。君は?」
俺の背後から声をかけてきたのは、どことなく野獣めいた雰囲気を纏う金髪の男だった。
目つきは鋭く、身のこなしは軽い。鍛え抜かれた筋肉は全身の動きを邪魔しないスマートさも兼ね備えているように見えた。
(パイロットの体をしている……。それに、どこか見覚えがあるような?)
「ヤザン・ゲーブル曹長であります!ルナツーMS防衛部隊所属!」
「ヤザン!?」
「……?」
思わぬところで思わぬ名前を聞き、つい大声が出てしまった。ヤザンは一年戦争にも従軍していたはずだから連邦にいるのはおかしくないが、まさかルナツー、それもモビルスーツ部隊にいるとは……。
「すまない、バルメア・エレクトリーガー少尉だ。ホワイトベース隊所属で、君たちのガンキャノンについてレクチャーにきた。よろしく頼む」
「やっぱりアンタがバルメアか。ルナツーじゃアンタの噂で持ちきりだぜ。あの赤い彗星相手に3度も生き残ったエースだってな」
ヤザンがグイと顔を寄せて覗き込んでくる。い、威圧感つぇぇぇ。未来のグリプス戦役で27歳の筈だから、今は20歳くらいか。年齢だけなら随分若いな。しかし、この時点でこの貫禄、見た目だけなら俺の知るヤザンそっくりだ。
「ちょっと!バルメアさんは少尉さんなんだから曹長は敬語でしょ!」
「なんだと?」
ジョンの真っ当な意見に、ヤザンが獰猛な笑みを浮かべながら食い下がる。
年上かつ階級が上のヤザン相手に意見できるジョンは度胸がある。実戦を経験して一皮剥けたかな。部下の成長を喜びつつ、じゃれているヤザンに水を向けた。
「ところでヤザン曹長。時間までまだ余裕がある。何か用があったのでは?」
俺の問いを受けて、ヤザンが嬉々として振り返る。
「くくっ、少尉殿は話が早くて助かるな。このヤザン・ゲーブル、アンタに模擬戦を挑ませてもらいたい」
……マジかよ。
というわけでルナツー上で演習である。
俺はガンキャノン・デュラハン。ヤザンはアップデートほやほやのルナツーの初期型ガンキャノンだ。
デュラハンの試運転もしないといけなかったし、模擬戦はありがたい申し出だったな。
『胸を借りるつもりで本気で活かせてもらう』
「お手柔らかに頼むよ」
『ハッ!ご冗談を』
ヤザンの放ったキャノン砲が足元に着弾し、宇宙空間を土煙が舞う。こちらの視界を奪って初動を見せない腹つもりか。
コックピットに接近警報。こちらは手堅く守りを固めてヤザンの接近に備える。
ヤザンがマシンガンを連射し肉薄してくる。
サブアームのシールドを掲げてマシンガンを弾く。ちなみに実弾ではなく当たり判定だけを飛ばしている。
マシンガンは牽制だろ?ガンキャノンの装甲を抜くにはそう、キャノン砲を使ってくる。
(なおデュラハンはPS装甲なので正面からのキャノン砲程度なら耐える。反則ゥ!)
『もらったァ!』
「見えてるよ」
スラスターを点火させその場で左足を軸にしてターンする。最小の動きでキャノン砲の射線上から逃れた俺は、背後に駆け抜けていくヤザンを追うように飛び出した。
『そうこなくてはなぁ!』
戦闘大好きマンの嬉しそうな声が聞こえる。
先程のヤザンの取った戦法は、マシンガンで敵を拘束しつつ機体を加速させ、すれ違いざまに本命のキャノン砲を叩き込むというモビルスーツが機動兵器である利点を最大限に活かした鮮やかなものだった。
高い戦闘センスに、熟練した操縦センス。やはりヤザンは伊達じゃない。
「今度はこちらから仕掛けさせてもらう」
新武装、試してみるか。
背部の拡張バックパックから伸びるサブアームが起動する。
これはシールドを保持しているサブアームとは別の、新たな一対の隠し腕である。
普段はビームサーベルをマウントしており、ガンダムMk-IIのサーベルラックに見た目は酷似している。
「行け、インコム!」
俺は掛け声と共に有線式攻撃端末『インコム』を射出した。
ミノフスキー粒子によって長距離の無線制御が封じられた戦場において、有線での通信によりオールレンジ攻撃を可能にした技術がこのインコムである。
開発されたのは今から7〜8年後のはずの兵器だが、俺のノートとテム博士の暴走によりこの時代に爆誕してしまった未来の超兵器である。
インコムが小刻みに軌道を変えながらヤザンのガンキャノンを追い立てる。
『なんだコイツらは!?』
未知の兵器に囲まれつつあることに焦ったヤザンが、マシンガンをばら撒きつつジグザグに回避軌道を取る。
先端に装備された小型のビームガンが十字砲火を開始した。
『うおっ!?』
四方八方から飛ぶ火線を、ヤザンは抜群の操縦センスで捌いていく。
しかしそれも長くは続か……、いや全然当たらねーんだが?
『そこかぁ!』
ヤザンの裂帛の気合いと共に、インコムが二機とも撃破判定をくらった。
「いや避け切るんかい!」
この最強オールドタイプがよぉ〜!!
ルナツーで模擬戦で(訓練時間)3000時間なんだよぉ!