ルナツー近傍では、この戦争が始まってからデブリが増え続けていた。
小規模な戦闘からなる破壊された戦艦や戦闘機の破片であったり、ルウムの海戦で発生した残骸の数々が遠くルナツーの存在するラグランジュポイントまで流れて来ていたりと様々だ。
だから半ば日常となったその光景に、ルナツーの監視員が特段違和感を覚えなかったことを誰が責められるだろう。
「方位a-06より接近する物体あり。数3。望遠カメラが捉えました。デブリと思われます」
「衝突した場合のルナツーへの被害は?」
「進路上に建造物なし。問題なし」
「なら放っておけ。引き続き警戒を厳とせよ」
ルナツーの警戒網を抜け、デブリが3つ通り抜けていく。
ルナツーへ接触する直前に、デブリの影からモビルスーツが3機飛び出した。
音もなく地表へと降り立ち、互いの腕を接触させた。接触回線。別名お肌のふれあい通信である。
『木馬ともども、予定通り仕掛けるぞ』
『了解。亡霊はどうしますか』
『発見次第破壊しろ。もっとも──』
──そう簡単には行かないだろうがな。
あの男がそう簡単に封じられるはずがない。
心底楽しそうに赤い彗星は嗤った。
血の湧き立つ闘争を求めて、赤い彗星はルナツーへと牙を剥いた。
@デデデン デデデデン シャーゥ!@
腹の底を叩くような轟音と衝撃が足元を突き抜けた。
「なんだ!?爆発!?」
『本部より各員へ通達!ポイントαよりモビルスーツ侵入!繰り返す!ポイントαよりモビルスーツ侵入!動けるものは直ちに迎撃せよ』
原作じゃレーダーに引っかからない生身での侵入だったってのに、モビルスーツだと?
ルナツーの監視員の目は節穴かよ!
「聞こえたなヤザン曹長。演習は中止だ。セーフティ解除。敵モビルスーツを迎撃する」
『了解した。赤い彗星、噂以上に愉快な男らしいな!』
土煙の尾を引きながらデュラハンとガンキャノンが加速する。
目指すのはホワイトベースが格納されている宇宙港である。 今まさにシャアの襲撃を受けている場所だ。
目を凝らせば港の出入り口付近で小規模な爆発光が瞬いているのが見える。
ルナツー所属の初期型ガンキャノン3機がザク2機と交戦している。アップデート済みの機体でおっとり刀で飛び出したらしい。お世辞にも連携が取れているとは言い難いが、数の有利を推して上手く防衛しているようだ。
『敵の圧力が弱い。時間稼ぎか?』
ヤザンの鋭い洞察力に、俺の脳裏に走る感覚があった。
「ガンダムがいない。ルナツーの中、ホワイトベースか!」
よくよく観察すれば、ガンキャノンはしきりに背後を気にしている。彼らは防衛しているのではなく、この場に張り付けられているのだ。
本命は既に侵入済みか。
「間に合ってくれよ……!」
ザクを無視して俺とヤザンは宇宙港へと突っ込んだ。
すぐに見えてくるホワイトベースの白い船体。近づくにつれ状況が見えてきた。
そこにはビームライフルとシールドを背中に背負い、改良型ガンキャノンの頭部を鷲掴みにしたガンダムが仁王立ちで待ち受けていた。
応戦したのであろうリュウとジョンのガンキャノンが四肢を投げ出しガンダムの足元に倒れ伏している。さながらその姿は白い悪魔。
「インコムッ!」
射線上にホワイトベースがあり迂闊に発砲できないと判断し、即座にインコムを射出。
ビームガンの銃口からサーベルを発振させる。このインコムはビームサーベルにもなる。
「援護しろヤザン!」
『おうとも!』
赤い彗星だって初めて見る兵器には対応が遅れるよなッ!?
背部からサーベルを引き抜き、4刀になったサーベルでガンダムへ急接近を仕掛ける。
ガンダムがバックパックからビームサーベルを抜き放った。デュラハンの振るった二刀とガンダムの二刀がぶつかり合い、周囲に飛び散る粒子の輝きが激しく互いの装甲を叩く。
こいつ、こないだ破壊したビームサーベルも回収しやがったな!?
「貴様は俺の部下になにをしてくれている!」
『いい機体だな
足止めを狙った鍔迫り合いを、ガンダムは巧みなステップでするりと抜け出した。インコムが空を切り、有線ケーブルがガンダムの腕の一振りで切断される。
『隙だらけだぞ赤い彗星!』
ガンダムに回収されかけたインコム目掛けてヤザンのマシンガンが叩き込まれた。インコムが無惨に爆発する。
テム博士の絶叫が聞こえてくる気がするが、運用実績の少ない新型兵器ではこの戦闘に耐えるのは無理だ。改良の余地あり。
「引き剥がした!追い立てるぞ!」
ガンダムをホワイトベースから引き剥がすことに成功。とはいえ友軍の宇宙基地の中、ビームライフルを撃つわけにもいかない。
このまま宇宙港の外へ押し出してやる。
『ビームライフルとやら。試させてもらおう』
「しまっ、俺の背後に回れヤザン!」
そんな俺の思惑に乗ってくれるはずもなく。
ガンダムがビームライフルを正眼に構えた。
銃口がピカッと光る瞬間、サブアームのシールドを重ね合わせて防御姿勢を取る。
凄まじい衝撃と閃光。
モニターが一時的にホワイトアウト。
損傷を知らせる警告音がコックピット内で反響する。
「くそ……!」
視界が戻るが、そこには遠くスラスターを瞬かせるガンダムの姿が。
そちらでは初期型3機がまだ戦っている。
ガンダムが再びビームライフルを放った。
ズム!という凄まじい爆音を最後に、港内部は静かになった。
『完敗、というやつだな』
ヤザンの呟きが俺に現実を突きつける。
俺の機体はサブアームが2本とも根本から脱落しかけ、保持していたシールドは真っ黒にひしゃげて原型を留めていなかった。
ヤザンのガンキャノンは頭部のバイザーにヒビが入っている程度で、損傷は軽微。
しかしこの身で味わってしまった。敵に使われるビームライフルという武装の恐ろしさを。
「面倒なことになったな……」
宇宙港入り口から漂ってきている初期型ガンキャノンの残骸を見て、俺は更にため息をついた。
本当に面倒なことになった。
鬼に金棒
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