ホワイトベースの格納庫内部は、控えめに言って地獄の有様だった。
シャアのガンダムによる強襲。ビームライフルやシールド、ビームサーベルなどのガンダムの武装を強奪され、迎撃に出たリュウとジョンのガンキャノンは大破。
ビームサーベルの一刀の元に切り伏せられた両名の機体は、かろうじてコックピットへの直撃を免れていたものの、パイロットであるリュウは頭部への軽い裂傷、ジョンは意識不明の重体と大きな損害を受けた。
人的損害はパイロットだけではなかった。当時ルナツーの格納庫へ出向していた人員を除いて、全員がホワイトベースの格納庫で作業を行っており、ガンダム襲撃により元々少なかった人員から多くの死傷者を出し、完全に機能不全へと陥っていた。
生き残った整備兵の数、僅か13名。
モビルスーツ複数機の整備などとても務まるはずもなく、一機の面倒を見るだけで徹夜も覚悟の上、というデスマーチ上等の惨状が広がっていた。
また艦長であるパオロをはじめ、多くのブリッジ要員も負傷。こちらはルナツー内部に滞在していたところを戦闘の余波に巻き込まれる形で大小怪我を負ってしまったらしい。
これによりパオロは艦長職を続行できなくなり、代理として艦長補佐を勤めていたブライト中尉が艦長代理に抜擢された。なんと彼、弱冠20歳の新米士官である。異例の人事に驚く者が多かったが、パオロの鶴の一声がそれを収めた。
今回の赤い彗星によるルナツー襲撃は大きな爪痕を残した。赤い彗星は逃亡時に撹乱としてビームライフルによる攻撃をルナツー外壁に向けて敢行。
的確な射撃が各部の宇宙港出入り口を射抜き、多くの将兵が被害を受けた。
よってホワイトベースに回す余裕も人員も無い、というのがルナツー側の出した結論であり、当初の予定のまま明朝の出港へ向けて急ピッチで修理と補給を受けているのが、現在のホワイトベースの状況であった。
出港まであと3時間。ルナツーで執り行われた宇宙葬でシモンズじいさんや顔見知りの整備兵を見送った俺は、人の減った格納庫へと戻ってきていた。
「あっ、バルメアさん。おかえりなさい」
「アムロちゃんか。その、怪我はなかったかい?」
目の前のアムロ少女も、凄惨な現場にいた1人だ。おそらくショッキングな光景を目の当たりにしてしまっているだろう彼女にかけるセリフは、彼女の身を案じる無難なものに落ち着いた。
「ありがとうございます。私は大丈夫です。シモンズさんたちみんなが守ってくれましたから」
落ち込むでも悲しむでもない、気丈な瞳が俺を射抜く。いや悲しんではいるのだろう。ただそれを理由に塞ぎ込んではいられない、そんな前向きな心がなんとなく伝わってくる。
「バルメアさん。モビルスーツの整備は心配しないでください。シモンズさんたち居なくなって大変ですけど、私もできる範囲でできるだけのことをします。だから困ったら私たちを頼ること、忘れないでくださいね?」
「強いな、君は」
なんでそんなに強く在れる?
俺はそう在れない。後悔ばかりだ。
俺がもし、演習に行かずにホワイトベースに残っていたら。
俺がもし、もっと早く現場に駆けつけていたら。
自分の行動のifばかり考えてしまう。
部下は怪我をした。昔馴染みの仲間はこの世を去った。あんまりにもアッサリだった。死の間際に立ち会うことは愚か、死に顔を拝めないくらいぐちゃぐちゃになってしまったヤツもいた。
なのに。こんなにも俺は哀しいのに。
涙が出てこない。
涙は弱さだから?違う。
俺は泣きたいんだ。仲間の死を悲しんで泣きたいのに、俺の心は冷えて固まってしまったまま。
「俺は、弱い……っ!」
シャアに勝てない。
何度も何度も戦って戦って、ジワリジワリと大切なものを失っていく。
あの男が憎い。倒したい。
ヤツを殺すまでは、俺は……!
「バルメアさん。大丈夫ですよ。大丈夫」
気付けば俺はアムロちゃんにそっと抱きしめられていた。
パイロットスーツ越しに彼女の柔らかな体の感触が伝わってくる。
機械油と女の子特有の甘い匂いが鼻をくすぐった。
「バルメアさんは弱くなんてないです。何度も助けてもらった私が保証します。それでも不安なら、私がもっともっとあなたを強くしますから。だからそんな顔、しないでください。ね?」
私、メカニックですから。
まだ見習いですけどね、そう微笑む彼女に吸い込まれるように目が釘付けになって、それから。
それから先は、覚えてねぇ……。
イマドキの15歳って熟れた身体してんな、とか女の子って体温高いんだな〜とかそんな考えは断じてしていない。
10歳も年下の女の子に母親を感じるとかそんなことは全然ないから、そこんとこ勘違いしないように。
特にテム博士には内緒だからな。バレたら死ぬ。あの人娘のこととなると怖いんだから……。
@デデデン デデデデン シャーゥ!@
格納庫の中で、新たに配属された新兵達の自己紹介が行なわれていた。
「俺はカイ・シデン。整備くらいなら手伝えると思うぜ」
「セイラ・マスです。機械の整備より人間の方が得意分野ですけれど、できるだけお手伝いします」
その他フラウ・ボゥやハヤト・コバヤシなど、原作の主要キャラクター達が続々と志願兵として名乗り出てきた。
どうも生き残るためには自分達も民間人として守られるだけではダメだと奮起したらしい。背景には、既に民間人から整備兵に志願したアムロちゃんの存在もあったようだ。
有難いと同時に、軍人としては情けない話だ。
連邦軍の拠点にいながら人手不足として民間人を軍務に関わらせる。
ワッケイン司令の言葉を借りれば、寒い時代ってヤツだ。
重要な任務を受けているホワイトベースに回す人員がないとは、一体どういう了見だとブライト中尉がワッケイン司令に直談判しに行ったわけだが、結果は芳しくなかったらしい。
確かに、ホワイトベースのジャブロー到達は連邦軍に理するだろうが、戦況を大きく左右する程でもない。それを支援する為に連邦軍唯一の宇宙要塞ルナツーを存続の危険に晒すわけにはいかないのだろう。
特にシャアの襲撃を受けた後で、人員装備共に大きく被害を受けた彼らにとっては。
そんなこんなで、ホワイトベースクルーは原作と同じメンバーになりつつあった。
ここにはいないが、操舵手も原作通りミライさんである。
全員が整備兵になるわけじゃないから、セイラさん辺りは通信士になる気もするな。
美人の彼女に送り出されるなら、パイロット冥利に尽きるってものだ。
改めてセイラさんを遠目から眺めてみる。
綺麗な金髪に品のある顔立ち。切れ長の眼がキツい印象を与えるけど、それも含めてとんでもなく美形だ。
彼女には裏の顔がある。なんとジオン・ズム・ダイクンの遺児。赤い彗星(キャスバル)の妹で、原作では何度か兄と戦場で邂逅している。
このルナツーでもシャアと顔を合わせるはずだったけど、おそらくそんな機会はなかっただろう。そもそもその時は民間人でシャアの迎撃に出てないし。
この世界の君のお兄様、めちゃくちゃウザいからなんとかしてくれない?
説得コマンドとかあったら是非試してほしいんだけどなぁ。
まあその隙をついて後ろから撃つくらいには、俺はヤツを憎んでるけどね。
俺がいつかシャアを倒したら、彼女にとって俺は兄の仇になるのかな。
憎しみの連鎖が俺と彼女を縛るなら、俺はその時どうするのだろう。
そんな事を考えながらセイラさんを見つめてたら、スススッと近づいてきたアムロちゃんに脇腹をつねられた。
「え、なに?痛い痛い」
「お父さんにさっきのことバラしますよ」
「え"!?」
なんで急に機嫌悪くなってるのぉ?女の子、全然わからん……。
そんなこんなで出港である。
地球降下まではマゼラン1隻とサラミス2隻が護衛してくれるらしい。
なんとも豪勢な護衛だ。モビルスーツさえ出なければ非常に頼もしいことこの上ない。モビルスーツさえ出なければね。
ちなみにヤザンのルナツーMS防衛部隊も護衛に同行してくれている。というか。
「ヤザン・ゲーブル曹長!着任の挨拶に参りました!よろしくお願いします!」
「よろしく頼む、ヤザン曹長。君がいてくれるのは頼もしいな。しかし良かったのか?君自ら志願したというが」
ホワイトベースの地球降下の成否次第だが、割とこの先は地獄だぞ?
「アンタは強敵を惹きつける。この艦に乗っていればまた赤い彗星と戦えるだろうと思ってな。まあ、精々楽しませてもらうさ」
俺の問いに獰猛な笑みを浮かべてヤザンが笑う。ニコシッ!
わぁ、戦闘狂だな〜。
ジョンが一時離脱してるホワイトベースMS隊にははちゃめちゃにありがたい人員だ。マジでヤザン強いからな。インコム初見で捌くし……。
よくルナツーが手放すのを許可したもんだ。素直にそう伝えたら、隊では煙たがられていたとの事。あの弱腰ルナツー(めちゃくちゃ悪口)の中でそれだけ闘争本能つよつよだと然もありなんって感じだね……。
あっ、インコムで思い出したけどテム博士に呼び出されてるんだった。先の戦闘の反省会がどうとか息巻いていた気がする。
新装備がろくに活躍しなくて大分興奮気味だったからな。今回は長くなりそうだ。
「さっそく任務だぞ、ヤザン曹長」
楽しい楽しい装備検討会だ。
アムロ、ヒロイン参戦
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