ファルメル艦橋。中央モニターいっぱいにドズル中将が映し出されている。
木馬を追跡しつつ地球に近づきつつあるファルメルの現在地は、サイド7のあるラグランジュ3よりもソロモンに近い。よってその強面はより一層鮮明であった。
それを見上げるシャアと、後ろに控えるドレンはルナツー強襲で手に入れた戦利品の報告を行っていた。
『ううむ。これがビームライフルというものか。敵のキャノンが使っている戦闘データも見せてもらったが……。我が軍がガンダムを奪取できたのは誠に僥倖だったと言わざるを得んな』
「データのみならず実物を得られたのは幸いでありました」
シャアの相槌にドズルが大きく破顔した。
笑顔というより獰猛な野獣の威嚇と言った方が正しそうな迫力満点のその顔にドレンがやや怯む。
彼はドズルを苦手にしているわけではないが、かといって見ていて嬉しい顔でもないのは確かだった。
どうせなら美人の顔を拝みたい。戦場ではしばらくご無沙汰であるから、どこかに寄港した際に思いっきり羽目を外そうと考えているドレンである。
『まったくだ!貴様がもたらしたデータはジオンの技術を半年は進めたぞ!ギレン兄もキシリアも大層評価していた!上司の俺も誇らしく思う!よくやった!』
「光栄であります閣下。しかし木馬が健在であることは私にとって大きな懸念であります。木馬は常に新兵器を投入してくるのです。よもや艦内に工場があるのではないかと勘繰るほどに」
実際、先のルナツー強襲においても敵のキャノンは妙なドローン攻撃を行ってきた。
連邦軍のモビルスーツ開発の速度には目を見張るものがある。シャアがV作戦を察知し運良くガンダムを強奪していなければ、ジオンが一方的に叩かれていた可能性は極めて高い。
新兵器の開発速度はもちろんだが、戦闘のたび新兵器を投入してくるのは妙な動きだった。
ルナツー強襲はそれを探る目的もあったのだが、あの男の戻ってくる方が早かった。
あわよくば駐機状態の機体を破壊すればよい。しかしそれでは味気ないとも考えていた矢先、格納庫を見ればまさかの不在である。
いよいよもって運の良い男だ。あるいは視えているのか。
知れず口角が上がっているのを自覚しないまま、思わず思索に没頭しつつあるシャアをドズルの声が引き戻した。
『また例の亡霊とやらのことを考えていただろう。思えばモビルスーツ黎明期から、貴様が何度もしくじるやつだ。俺としてもそろそろ本腰を入れて叩き潰しておきたいと思っている』
ドズルはシャアの襲撃を幾度も退けている例のパイロットが、連邦のエースとして取り沙汰されるのも時間の問題だと考えていた。
それだけ赤い彗星の看板はジオンにとって大きなものであったし、これ以上シャア1人の才覚に甘えているのも悪いと思っている。
サイド7からの連戦。モビルスーツたった3機での宇宙要塞ルナツーへの強襲。いくらエースといえども1人の男に負わせていい負担を超えている。
ドズルとしてはなんとしてもシャアの働きに報いてやりたい。あとさっさと一連の戦果を祝い労ってやりたいのである。なんだかんだ士官学校から面倒を見ている教え子の1人であるからして。
それに、これ以上連邦にわざわざプロパガンダのネタをくれてやる義理は全くないのだから、ソロモンの戦力を動かしてでも木馬を確実に沈める為に動くべき頃合いだと考えていた。
だからドズルの口から出た言葉は、もしホワイトベース隊が聞けば死刑宣告にも似た無慈悲なものだった。
『コンスコンの艦隊をソロモンから派遣した。木馬を衛星軌道上で迎撃させるから、貴様はそれらと連携してヤツらを沈めろ。万に一つも地球には逃すな。
「ハッ!了解いたしました!」
シャアの敬礼に返礼したドズルが画面から消えたのを見届けて、ドレンはずっと閉じていた口を開いた。
「本気のようですな」
「私とて常に本気だぞ、ドレン」
「存じていますよ」
シャアの言葉にギクリとしつつ横顔を伺うも、怒っているわけではないようだと判断したドレンは見えないように顔を逸らしつつ、口をしょぼしょぼと窄めた。
沈黙は金なのだ。ドレンの発言にシャアが機嫌を損ねることはそうないが、それは彼が常に言葉に気を遣っているからである。
思わず出た軽口に、シャアに対する気安さを出してしまったことを反省した。最初は得体の知れない男(なにせ謎のマスクをつけている)と警戒していたドレンであったが、知らず絆されていたようだ。
上司であり今や歴戦のエースである彼は非常に他人を使うのが上手いのだ。
「あてにしているぞ、ドレン
だからシャアの軽口にちょっと嬉しくなってしまうのも仕方のないことだった。
「ハッ!粉骨砕身頑張らせていただきます!」
ファルメルのレーダーが、木馬が地球に近づきつつあることを示した。
「総員ッ!第一種戦闘配置ィ!」
ドレンの気合いの入った号令が艦橋にこだました。
戦端は開かれつつあった。
@デデデン デデデデン シャーゥ!@
「嘘だと言ってよバーニィ」
「誰だバーニィとは」
思わず出たセリフに突っ込むヤザンへ構う余裕は今の俺にはなかった。
ホワイトベースより優れたレーダーを積むマゼランが敵艦隊の動きを察知したのが半時間前の事である。
チベ級1ムサイ級2からなる艦隊が前方から接近しつつあるという。背後からはシャアのファルメルが追ってきている。挟み撃ちの形になるな……。
「フハハ、やはりアンタは戦いを引っ張ってくる」
「どういう意味だ」
「この規模の艦隊戦は久々だという事だ!」
ヤザンが右の拳を左手にパンと叩きつけ意気込んだ。その中国武術の包拳礼の激しいバージョンみたいなやつ、ガンダムキャラよくやるよね。
しかし、嬉しそうだねぇ〜……。
わかってる?チベ級のモビルスーツ搭載数は最大8機、ムサイ2隻分の8〜12機合わせたら20機くらいのザクが出てくるかもしれないのよ?
背後からはシャアのガンダムとザク2機も来るのよ?死ぬわ。死ぬわよ。間違いなく全滅するわよ。勝てるビジョンが全く見えないわよ。
「死ぬわよ〜!みんな死ぬ!」
「うおっ、どうしたんですバルメア少尉」
「リュウか。隊長殿は武者震いをしておられるのだ。戦場が待ち遠しくて堪らんらしい」
ヤザンの適当な答えにリュウは苦笑いをこぼした。あれだけ取り乱すバルメアを見るのは初めての事だった。それだけヤバイ状況なのだろうと改めて認識する。
「そういう貴様はどうなのだ。死にかけたんだろう?」
怖くないのか、言外にそう問うヤザンにリュウはまっすぐな瞳で答えた。
「死ぬほど怖いですよ。けどウチには不死身の隊長がいますからね。着いていけば自分は死なんと信じています」
「不死身、不死身ね。ククク、あれだけしぶとければ違いあるまい。あるいは既に死んでいるからこれ以上死なんだけかもしれないが」
ヤザンはパイロット待機室のベンチでウンウン唸るバルメアを見て笑った。
最初に会った時より良くも悪くも砕けてきている男の姿に、何かやらかしてくれるだろうという根拠のない確信が芽生えていた。
なにやら2人に好き放題言われている俺だったが今はそれどころじゃない。
なんとかこの状況を打開する策を考えないとマジで死ぬ。降下中の無防備なホワイトベースを守りながらザク20機とガンダムの相手は不可能だ。
「母艦さえ沈めればモビルスーツは無力化できるか……?」
そうすれば帰る場所を失ったザクはファルメルに殺到するしかない。
出撃してくるザクの大群を突っ切り、敵母艦をビームライフルで撃沈する。フェイズシフト装甲を持つデュラハンならあるいは可能かもしれないが……。
いやだめだ。こちらが母艦にたどり着く前にザクやガンダムがホワイトベースに取りついてしまう。なんにせよホワイトベース防衛がネックになる。
よもやデュラハンの突撃にホワイトベースを同行させることもできない。これができれば何もかも上手くいきそうなものだが。
いっそ最速で地球へ降下してしまうか?いやダメだな。それだと突入角を確保できず地球の大気に弾かれる……ん?
「そうだ弾かれればいいんだよ!」
地球の大気の層に弾かれる事で、降りると見せかけてザクの手の届かない大気圏ギリギリを航行して敵艦隊の背後を取る。水面に投げた石が水に弾かれて遠くへ飛んでいくように、ホワイトベースを弾けばいいんだ。
そして敵母艦を叩いたデュラハンを回収。
大気圏間近を全速で駆けて自分たちの足元をくぐり抜けていくホワイトベースと、正面から母艦を攻めてくる攻撃の効かない「あたおか」モビルスーツを同時に相手にすれば敵の混乱は必須。
シャアのガンダムから距離をとりつつ敵艦隊を撃破するにはこの手しかない。
死中に活を求めるのだ。
瑞雲を放って突撃、これだ……。
そうと決まればさっそくブライト艦長に相談である。俺は意気揚々と艦橋へと走った。
「行ったな」
「行っちゃいましたね。俺たちはどうします?」
「待機命令だが、人手が足らん。メカニック殿の手伝いくらいはしてみせるのがパイロットってもんだろう?」
格納庫を飛び出していくバルメアを見送りながら、2人は自分の愛機の元へ向かった。
今自分たちにできる事をしようという心の表れだった。
その数分後、ブライトから作戦変更の旨が各員に通達された。その声には大分疲労が滲んでいたようだが……。
割と敵の戦力が洒落になりませんがこちらのガンキャノンだって洒落じゃないんだよ!(あたおかスマイル)
艦載機を放って更に戦艦も突撃すれば攻撃力は2倍にも3倍にもなります。日向師匠もお喜びです。
ルナツー艦隊「なんて?」
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