『ハッチ解放!バルメア機はカタパルトデッキへ!』
Bi!Bi!Bi!
宇宙服を着ていない者たちが慌ててエアロックへと殺到する。
慌てふためく人間たちを意に介さず、空気の必要ない鉄とテクノロジーの塊である整備用ハロ十数機が丸々としたボディをパワーローダーにスッポリと収めたまま、邪魔にならないように巨人の通り道から遠ざかっていく。
宇宙と艦内を隔てていたハッチが全開になり、格納庫内で延々と止むことがないように思われた喧騒が空気と共に宇宙に吸い出されていった。
ハッチの隙間から青々と広がる地球が顔を出し、バルメアの眼前にその壮大な身を横たえていた。
『カタパルト推力正常。進路クリア。──バルメア少尉、発進準備よろしくて?』
「こちらバルメア。機体のシステムオールグリーン。パイロットは気合十分。あとは美人の気の利いた言葉があればいつでも行けるぜ」
サブモニターに通信士を務めるセイラ・マスの美しい顔が現れた。
バルメアは原作でも有名なセイラの台詞「あなたならできるわ」を生で聞きたいという欲望がムクムクと湧き上がってくるのを自覚して、思わず口に出してしまった自分の軽口に驚きつつも笑ってしまった。
どうやら転生前、あるいは思い出した記憶の元の持ち主であった自分はセイラ・マスの熱心なファンであったようだ。
『──噂より軽薄な人なのね』
露骨に侮蔑を含んだ切れ長の瞳にバルメアは慌てて弁解した。
潔癖というか、物怖じしないというか、時に生真面目すぎるきらいのある彼女の鋭い視線は主にカイ・シデン攻撃用だと思っていた。
まさか自分に向けられるとは思わずバルメアは内心泣きかけた。でも刺さる視線が刺激的でそれはそれで好みかもしれないと思ったのは内緒である。
「緊張しているのさ。高度を気にしながらザクの大部隊を相手にするのは、人生初の経験なんだ」
苦し紛れに咄嗟に口をついて出た言い訳は、しかしバルメアの内心を的確に表していた。
戦闘前の高揚が過ぎ去れば、残ったのはモビルスーツを含む大艦隊との決戦という絶望的な状況に対する焦燥と不安だけだ。
自分が生きて帰れる保証はどこにもなく、また帰る家であるホワイトベースも突入角を誤って燃え尽きないという確証などはどこにもない。
そんな気持ちを推しはかれる聡い人だから、セイラ・マスはやはりいいオペレーターでいい女だった。
『そう、そうよね。死地に飛び込むようなものなのよね……。──バルメア少尉、それでもきっと、あなたならできるわ』
「──ありがとう!バルメア・エレクトリーガー!デュラハン出撃する!」
セイラの笑顔に背中を押されるようにして、灰色の装甲を持つガンキャノンがホワイトベースから宇宙へと飛び出した。
蒼い宇宙に、一筋の尾を引いて騎士が征く。
「テッキセッキン!テッキセッキン!」
デュラハンのコックピットに敵接近を知らせる電子音声が響き渡る。
バルメアの座るコックピットの右手側操縦桿付近に設けられた専用の収納スペースに、アムロから託された緑色のハロがその球体を押し込めていた。
彼あるいは彼女はインコムの遠隔操作を筆頭に、周囲の状況把握や機体のダメージコントロールなどパイロットであるバルメアの戦闘全般を補佐する万能サポートユニットである。
元々ルナツー入港前の時点でハロのサポートを得られるように調整が進められていたデュラハンであったが、肝心の搭載ハロが存在しなかった。
しかし此度の一大事を前にして、発案者であるアムロ・レイが執念めいた仕事ぶりで自らのハロをフィッティングしバルメアに託した。
元は市販の愛玩ロボットであったハロも、父の仕事の影響を受けた機械オタクの少女と数年時を過ごせば中身に原型など残ってはいなかった。
すなわち高性能、あるいは魔改造品である。
でなければ軍用品であるモビルスーツのサポートなどできようはずもなく。
父がモビルスーツ開発者であったことを差し引いても、アムロ・レイは稀代の天才である。ジーニアス!
ハロがインコムをランダムパターンで機動させヤザンに一撃お見舞いした辺りで、バルメアは全面的にハロを信頼することにした。
もはやAIの反乱が怖い。バルメアの素直な感想である。ハロへの態度は対等かつ慎重を意識せねばなるまい。呼び名はハロさんを検討している。あるいは様つけも辞さない覚悟であった。
「バルメア、シンパクスウアガッテル。ダイジョウブカ」
パイロットへの気遣いさえ見せるこの丸い相棒は、孤独な戦いを強いられるパイロットにとって今後手放せなくなりそうだった。好きになりそう。帰ったらシミュレーターにも収納スペースを取り付けようそうしよう。
「ありがとうハロ。状況を教えてくれ」
「ザク18キカクニン!ショウメントッパデ、テキカンタイマデ120ビョウ!」
後方からルナツー艦隊が艦砲とミサイル斉射を開始した。
彼らは敵の注意を引きつつザクの射程外である距離を保って、全速で敵艦隊の左側面を素通りするように直進する手筈となっていた。
敵から見れば、大艦隊に驚いて早々にホワイトベースを艦隊から切り離し離脱する動きに見えるだろう。
一瞬でも陽動となれば幸いである。
実際モタつけば背後のシャアに沈められるのだから、ルナツー艦隊に直進以外の選択肢はないので、真に迫った陽動となることだろう。
作戦が上手くいった場合、バルメアに帰る場所を破壊されたザクはシャアのファルメルへと帰投する他にない。
その隙を好機としてルナツー艦隊は反転。
シャアのファルメルを叩きつつルナツー帰投への進路を取る。
これを機にシャアを落とせれば万々歳である。ザクがうじゃうじゃ残っていれば藪蛇なので、状況次第ではあるのだが……。取らぬ狸の皮算用とも言う。
「フェイズシフトキドウ!フェイズシフトキドウ!レベル3!」
いよいよ目前に迫ったザクを前に、ハロがデュラハンの
灰色から白へ。白から赤へと段階を経て機体が色付いていく。
デュラハンが、目の醒めるような赤色へとその身を転じさせた。
ホワイトベース隊所属機体番号110を表すエンブレムが赤い装甲の上でキラリと光った。
フェイズシフトレベル3。
ありったけの電力を流し込み最も防御力を高めた形態である。
耐熱性も大きく上昇し、実弾はおろかビームライフルにすら一撃は耐えるほどの防御力を発揮する。
「18機のザクで、このデュラハンが止められるか!?」
機体の色が変わるという摩訶不思議な現象に怯んだ正面のザクに照準を合わせて引き金を引いた。
高度ゆえにまだ弱いが確かに存在する地球の重力を計算に入れて、ハロが細かく照準を微調整した。
「まずはひとつ!」
デュラハンの肩から伸びる240mmキャノンが火を吹き、コックピットに吸い込まれるようにして叩き込まれた砲弾がザクを木っ端微塵に吹き飛ばした。
無惨に散らばった四肢が地球にゆっくりと引かれて落ちていく。やがて赤く燃え尽きて流星になることだろう。
「ふたぁつ!」
バルメアの決死の突撃が始まった。
@デデデン デデデデン シャーゥ!@
「敵艦隊が木馬を残して離脱していきます。木馬は降下準備に入る模様!」
「ルナツーの弱腰どもなど無視しろ!木馬へモビルスーツ隊を急行させろ。ヤツと連邦のモビルスーツは確実に撃破しろとの厳命だ。抜かるなよ!」
コンスコン機動艦隊の司令であるコンスコン少将はドズル派閥でも武闘派として知られる男である。
堅実に戦果を挙げる男としてドズルからの信頼も厚い。
今回の任務も確実性を求めたドズルきっての指名であることから、コンスコンへの評価が目に見えるというものだ。
それ以外に特筆すべきこととして、彼は意外なことに孤児院に多額の出資をしている所謂「足長おじさん」でもあった。
彼にそうさせた動機は不明だが、見た目にそぐわない人情を併せ持つ男なのである。
そういう背景もあったからだろうか。彼の軍人としての目標は出世でも名誉でもなく、子供たちが平穏に過ごす為に少しでも早期にこの戦争を終結させることであった。
無論人並みに出世も名誉も興味はあるし、軍人としてのプライドもあるのだが、それより大切なものを男は知っていたのだ。
つまるところ、諸々省いて大雑把に言ってしまえば、その見た目に反してコンスコンは人に慕われる素養を持った人物なのだった。
部下からの信頼厚く指示も的確な司令の下で、確実に戦果を上げていくコンスコン機動艦隊。
しかし、順風満帆に見えたその航路上に全てを狂わせる存在が躍り出てきたのは不幸なことであった。
「し、司令!敵モビルスーツの侵攻、止められません!」
「なに?モビルスーツ隊は何をしている!」
「それが敵モビルスーツに次々と撃墜されています!あぁ、また!」
チベ級の艦橋にいるコンスコンの肉眼からでも、その爆発は確認できた。
記憶が正しければあの位置は木馬攻撃部隊ではなく、艦隊警護を務める5機のザクの内1機だった。
つまり艦隊の懐に敵の侵入を許したということである。
「何機の敵がいるんだ!?」
「敵は一機!一機です!」
悲鳴のような部下の声に苛立つコンスコンだったが、持ち前の冷静さで的確に立て直しの指示を下した。
「攻撃部隊を艦隊防備に戻せ!敵は一機だ!直掩は連携して敵を囲いこめ!各銃座、帰りの弾丸はいらん!敵を近づけるな!」
コンスコンの指示に浮き足だっていた艦橋が落ち着きを取り戻す。
人は目の前にやる事ができるとある程度冷静になるらしいというのは、司令務めが長いコンスコンの経験からの見立てであった。
ひとまず敵モビルスーツはザク4機に阻まれて大人しくなったらしかった。
攻撃部隊が戻ればそう待たずに敵は排除できるだろう。
それにしても、シャアの見ている前で艦隊を危機に晒したのは面白くない。
おまけに木馬撃破の報を聞かぬうちに攻撃部隊を戻したのだから、手柄はシャアが掻っ攫っていくのは目に見えていた。
緊急対応で一時戦況を把握しそこねたと判断したコンスコンは、どうせシャアに手柄を取られると考えつつも木馬の現状を確認する為、ミノフスキー粒子でほとんど役に立たないレーダーと目視で戦況を確認していた通信長へ声をかけようとした。
通信長が再び悲鳴を上げたのはその矢先だった。
「司令!木馬が!木馬が艦隊の真下に出現!」
「な、にィ!?」
木馬がワープでもしたというのか!報告は正確にしろ!
しかしその言葉は、一条の光の粒子に貫かれて爆散する僚艦の姿を目の当たりにした事で唾とともに飲み込まれた。
艦隊真下に突如出現した木馬がメガ粒子砲を船底に叩き込み、2隻目のムサイが耐えきれずエンジンから火を吹きながらその全身を誘爆させた。
敵モビルスーツに気を取られた僅か数十秒の間に、歴戦のコンスコン艦隊はたった一隻の敵戦艦にいいように蹂躙されていた。
ハッとした時には何もかもが手遅れだった。
敵モビルスーツに張り付いていたザクが、ムサイ轟沈の混乱をついて3機が瞬く間に撃墜された。
そして残る1機がたった今、目の前で真紅のモビルスーツにビームの剣で溶断されていく様をコンスコンは見てしまった。
「馬鹿な……、たった1機のモビルスーツと戦艦相手に、我が艦隊が全滅だと……?バ、バケモノか……!?」
返り血に染まったかのように全身を紅く染め上げた機体が銃口を向けたのを最後に、コンスコンの意識は宇宙に溶けて消えた。
ここにきてホワイトベース隊大戦果。
もちろんザク18機全てをバルメアが倒しているわけではありません。
裏ではホワイトベース直掩のヤザンとリュウが奮闘しています。
そしてミライさんの胃は死にました。南無……。
1番の功労者はミライさんですね。
連邦から見たデュラハン→赤
ジオンから見たデュラハン→紅
恐怖が色を深く見せていると考えてもらえたら。
年明け前にもう1話更新したい。
評価感想よろしくお願いします!