鉄騎中隊の亡霊   作:呼び水の主

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ガンダム強奪

 炎に包まれるサイド7の中を、ガンキャノン・デュラハンが駆ける。右肩にはスプレーミサイルポッド、左肩にはキャノン砲、腰にはかつて因縁の相手から奪ったヒートホークをマウントし、両手で狙撃用のロングバレルライフルを抱えながら走る巨人の灰色の装甲を、なめるような炎の光が真っ赤に彩っていた。

 

 V作戦。連邦軍の本格的なモビルスーツ開発が、テム・レイ博士主導の元ここサイド7で行われていた。開発された機体名はRX78ガンダム。1から3号機まで試作された内の一機、白い2号機が正規のパイロットを失ったまま無防備にコロニーの大地に横たわっていた。

 

 ──遡る事10分前、突如コロニーへの攻撃が始まった。ホワイトベースを地球の外縁からつけ回していたジオンの戦艦ムサイ級の攻撃であることは、警報を聞いた連邦軍人全員が理解していた。

 

 いつ仕掛けてくるのかわからない極度の緊張状態の中で、ホワイトベースの乗組員は常に第1種戦闘配置を維持したまま警戒を続けてきたのである。とはいえホワイトベースには戦闘機一機たりとて搭載機がなく、またどちらかといえばモビルスーツ輸送艦の色が強い本艦では、純粋な戦闘艦かつモビルスーツを搭載しているであろうムサイを正面から迎えうつ作戦は取れないでいた。

 

 敵を誘導してしまっていると知りつつもサイド7に逃げ込んだのは、ルナツーと連携して敵艦を迎撃する為だ。いま、このサイド7にはサラミス級が2隻停泊している。これに加えて開発したガンダム及び回収したガンキャノンを積み込めれば、仮にジオンの攻撃を受けたとしても勝てる。

 

 全ての発案はモビルスーツ開発の重要性を上層部に説き、サイド7の警備を厚くしたテム博士のものであった。その背景には、彼と志を同じくするテストパイロットの存在があった。

 

 こうして万全の態勢を整えて入港したホワイトベースだったが、敵はそれよりも一枚も二枚も上手だったのである……。いつの間にか宇宙港の中に仕掛けられていたらしい爆弾が起爆。サラミスは出撃する事もできず座礁。完全にホワイトベースの脱出口を塞いだ。

 

 それと同時にミノフスキー粒子に紛れ接近していたザク2機がコロニー内部へ侵入した。コロニー防衛隊のロケットランチャーや有線式誘導ミサイルでは縦横無尽に動き回るザクの動きを捉えられず、防衛隊は瞬く間に全滅。

 

 ホワイトベースに搬入された機体はガンキャノン3機のみ。しかも正規パイロット達はザクの攻撃に巻き込まれ生死不明で、ザク相手に戦える戦力は一機と一人しか残っていなかった。

 

「これだけの備えをしたのに、こうも翻弄されるのか!くそっ、シャアめ!」

 

 慌ただしく整備兵が動き回るホワイトベースの格納庫の中を俺は自分の愛機の元へ向けて走る。その横を並走するようにして、機付長のシモンズじいさんが駆け寄ってきた。

 

「バルメアよ!デュラハンは初期セットアップがまだ終わってねぇぞ!出撃は無理だ!」

 

「シモンズじいさん!そうは言ってられん状況でしょ!とりあえず動けばいいんだ!」

 

 コックピットハッチに手をかけて、横たわり駐機状態になっている愛機に乗り込む。機体のメインエンジンには火が入っていた。

 

「ヤバい状況なのはそりゃわかるがよ!ただでさえお前の機体は複雑なんだ!整備するこっちの身にもなれぃ!」

 

 じいさんの怒鳴り声を聞き流しつつ、身体は染み付いた動作を澱みなく実行する。

 

メインエンジン、グリーン

オートバランサー、グリーン

各部駆動系、一部グリーン

全兵装オンライン

システム・オールグリーン

 

『離れろ!デュラハンを立たせるぞ!』

 

 ビー!ビー!とデュラハンの爪先に備えられた警告灯がやかましく騒ぎ立て、周囲の整備兵たちに巨人が立ち上がることを知らせた。首無しの巨人が、格納庫で再誕の産声を上げた。身体に埋もれるようにして備え付けられた頭部メインカメラがヒュイン!という音を立てて明滅した。

 

『聞こえるか!デュラハンは緊急モードで再起動してある!サブ・アームは使えんからそのつもりでいけ!』

 

 シモンズじいさんの声にサムズアップで答えつつ、俺はデュラハンを戦闘が続くコロニー内部へと向けた。

 

『ガンキャノン・デュラハンはこれより迎撃戦に向かう!』

 

 灰色の巨人が人造の大地を駆ける。

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

「あれか!」

 

 デュラハンのセンサーがコロニーで暴れ回るザク2機を捕捉した。2機の周りには無惨な光景が広がっていた。火に包まれ倒壊していく家屋、倒れた人の中には軍服でない姿も大勢あった。民間人をも巻き込んだ無差別攻撃。ブリティッシュ作戦でコロニーに核と毒を使ったジオンなら、これくらいは平気ですることか!そして、目的はガンダムだったのだろう。大地に静かに横たわる白い巨人へと歩を進めている。

 

「お前達だってスペースノイドだろうが!」

 

 怒りはあるが、引き金は冷静に。ザクがこちらを察知し振り返るがもう遅い。デュラハンがロングバレルライフルの引き金を引いた。ちょうど身体をこちらへ向けていた手前のザクのコックピットが弾ける。手足を投げ出して後ろへ吹き飛んだザクは動かなくなった。まずは一機。

 

 続けて引き金を引く。外れた。弾丸はザクの肩部スパイクを弾き飛ばすに留まる。掠めた故の怯えか?しばし硬直するザクに不信感を抱くが、やつの動きは鈍い、落とせる。だがスコープの照準がズレている。緊急モードで立ち上げたツケが来たらしい。照準を狂わせてこれ以上コロニーを傷つけるわけにはいかない。

 

「だったら!」

 

 俺はライフルをその場に投げ捨てて腰にマウントしていたヒートホークを抜き放った。一気に距離を詰めたデュラハンが、ザクに肉薄する。

 

「チェストォォォォォ!!!」

 

 渾身の振り下ろしを、しかしザクは肩のシールドを押し出したタックルで弾き返した。防がれた!しかし!押し返されたデュラハンをそのままスラスターで前のめりに身体を倒し、続け様に横からの切り返し。

 

 ガキィィィィン!

 

 凄まじい衝撃音。ザクの抜き放ったヒートホークとデュラハンのヒートホークが鍔競り合っていた。

 

「コイツ、最初の動きと違う!?」

 

『ほぅ……?』

 

 その声を聞いた瞬間、全身が総毛立った。脳裏に焼きついて離れないのは、俺の部隊を全滅させたパイロットの一人。忘れるわけがねぇ!

 

「赤い彗星ェ!!」

 

『やはり生きていたか!バルメア・エレクトリーガー!』

 

 鍔迫り合っていたヒートホークを瞬時に引いたザクが、勢い余って前のめりになったデュラハンへと強烈な蹴りを叩き込んだ。舞い散る火花が、ザクの緑の装甲を瞬間赤く染めた。その姿に、因縁のザクの姿を幻視した。俺は奥歯をギリリと噛み締めて、蹴りの衝撃を耐えながらデュラハンを後退させ距離を取る。かなりの隙を晒したはずだ。なぜ奴は追撃してこない?

 

 態勢を大きく崩しながらも距離をとり立ち上がったデュラハンを前に、ザクは微動だにしていなかった。しばし睨み合うデュラハンとザク。

 

「チェストォォォォォ!!!」

 

 デュラハンの再度の突撃。トマホークを大上段から振り下ろす、全霊の一撃だ。ザクもその一撃を防ごうとトマホークで迎撃するが、先程まで見せた神技のような技量は失われていた。

 

 トマホークがザクの頭部から入り、コックピットまで両断した。あまりにも呆気ない手応えに、俺は残心も忘れて立ち尽くした。あの一瞬聞こえ、感じたヤツの存在は幻だったのか?呆然とする俺は、モビルスーツの起動音でハッと我に返った。なんだ?

 

 グゥングゥングゥン……。

 

 白いモビルスーツが、ガンダムが大地に立つ。

 

 まさかアムロ・レイか?しかしなぜ。ザクは撃破した。もう彼がガンダムに乗る必要はないはずだ……。戸惑う俺の脳裏に、鋭い稲妻のようなモノが駆け巡った。咄嗟にデュラハンの身を引かせる。モニターを埋め尽くす蛍光色の光が、一閃。

 

 ビー!ビー!ビー!コックピット内を警告音が埋め尽くす。身に染み付いた訓練が、瞬時に破損箇所を確認させる。デュラハンの左碗が肘下から溶け崩れていた。なぜ、と問う暇もなく俺は目の前に立つ、ビームサーベルを構えたガンダムへと視線を釘付けにされていた。

 

『凄まじいな、連邦軍のモビルスーツの性能とやらは!』

 

 連邦軍の専用回線からあの男の声が聞こえた。なぜ貴様がソレに乗っている?答えは既に得ていた。ザクだ。先程のザクに奴は確かに乗っていたのだ。ガンダム強奪のためにザクに相乗りし、コロニーへ侵入したに違いなかった。デュラハンと切り結んだあの一瞬だけ、パイロットから操縦を奪ったのだ。そう理解した瞬間に、俺とデュラハンは切り刻まれていた。左肩から先、膝下から全部。ビームサーベルは易々とデュラハンの重装甲を突き破り、地に沈めた。

 

「こなくそーーーーッ!!!」

 

 ガァン!ガァン!ガァン!ガァン!俺は残されたキャノン砲をガンダムの足元へ連射した。ところ構わず……。凄まじい爆炎を嫌ってか、シャアの操るガンダムが飛び退ろうとするが、残された右腕でガンダムの足を掴む。幾度か目の砲撃によって遂にコロニーに穴が空き、デュラハンとガンダムを空気と共に宇宙へと放り出そうと大きな口を開けた。

 

『フフフ、実に往生際が悪い男だな君は』

 

 ガンダムを宇宙へと放り出し、なんとか右腕でコロニーの鉄骨を掴み踏みとどまる俺を、シャアが嗤う。

 

『今回の目的は君ではなくこの機体だ。さらばだ。また会おう月の亡霊(ゴースト)

 

 白い尾を引きながら、赤い彗星が宇宙へと消えていった。

 

「なん、なんだよ、アイツ……!!」

 

 バルメア・エレクトリーガーはまたしても赤い彗星に敗北した。原作の主役機という致命的なピースを奪われた上で。




2号機は奪われるモノ。
守るべきコロニーにも穴をあけ、ガンダムまで奪われる。
オリ主のメンタルはボドボドだぁ!
ここから原作ブレイクがドンドン進んでいくんじゃよ

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