「君があのガンキャノンのパイロットかね」
「ハッ、肯定であります。艦長殿」
俺は今ホワイトベースの艦橋にいる。艦長のパオロ・カシアス中佐に呼び出されたのである。シャア相手に2度の敗北、おまけにガンダムを強奪され精神的に大分参っていた俺は、どんな叱責も受け入れるつもりでいた。パオロ艦長から見ても、相当ドヨーンとした顔をしているはずである。
「そうかしこまらなくていい。エレクトリーガー少尉、よく敵を撃退してくれたな。貴官の働き、誠に見事だった」
「ハッ!ありがとうございます艦長。しかし自分は……」
まさかの褒められパターンである。俺コロニーに穴まで開けちゃってるんですけど?俺またなんかやっちゃいました?ではすまない失態だと思うんだが。
思わず反論しそうになった俺を、艦長が手で制した。わかってるよ、みたいな悟り顔が俺のメンタルに効くゥ⤴︎。やめ、やめろォ!その出来の悪い教え子優しく身守る目は俺に効く。
「無論、ガンダムを奪われたのは残念だ。しかしそれを気に病んでいる暇は、今の我々にはない」
ガンダムは未来における我ら連邦軍の要だ。ジオンの手に渡れば、せっかく追いつきかけたモビルスーツの性能差を更に開かれることになりかねん。そう続けたパオロ艦長は、重苦しい顔でこう続けた。
「ホワイトベースは本来の任務の通り、残されたガンダムのパーツとデータをジャブローへ送り届ける。敵にガンダムを奪われた以上、あまり時間をかけられん。しかし最大の懸念事項は……」
「赤い彗星からの追撃、ですね?」
赤い彗星のシャア、アイツなら絶対追撃してくる。ガンダムを本国に送るとかはワンチャンあるかもしれないが、俺の勘だとそれもないかな。おそらくガンダムを使ってホワイトベースを沈めに来るだろう。俺にはわかる。そういうやつだよアイツは。(特に根拠のない逆恨み)
今回のサイド7防衛戦には、前世の知識をフル動員してルナツーからなけなしの宇宙戦力であるサラミス級二隻を派遣してもらっていた。詳しい襲撃のタイミングこそ不明だったが、なんの防備もなかった原作と比べて、圧倒的なアドバンテージがあった。それにも関わらずヤツの前に俺たちは無力だった。強すぎる。原作では割とアムロに押されっぱなしでライバルの割に情けない印象のあったシャアだが、あれは正真正銘の化け物だ。おまけにガンダムまで戦力にされたら、もはや手のつけようがない。そんなヤツから、ホワイトベースが逃げ切れるのか?
「君の言う通り、相手はあの赤い彗星。しかし我々にはヤツに匹敵する味方がついている」
「え」
今の連邦軍にシャアwithガンダムに勝てるエースパイロットがいるんですか!?アムロ、は違うな……。ガンダム取られたし……、なにより民間人だし。というかホワイトベース側にガンダムに太刀打ちできる機体が残ってないんだが?今の艦載機って回収できた分も含めてガンキャノンとかガンキャノンとかガンキャノンくらいしかなくない?詰んでない?
「君だよ、少尉。君が本艦防衛の要だ」
「ハイ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。俺がシャアをぶっ倒せる連邦一のイケメンスーパーパイロット?(言ってない)。いや〜ナイナイ!だって2度も負けてるんですよ!機体の性能差で押し切られた感も無いってことはないけど、素の実力からして勝てる気がしねぇ。そりゃ、鉄騎中隊のみんなの仇討ちは心に誓ったことだ。その為にやってた訓練時間3000時間(退院してからまたシュミレーターに住んでた)で少し自信が付いてたところにあの有様よ。何を根拠にそうおっしゃるんですかねぇ。こんな内容のことをオブラートに包んでパオロ艦長に説明した。
「逆だ、少尉。君はあの赤い彗星相手に2度も生き残り生還した。君が異常なまでに訓練を欠かさない事も、レイ博士から伺っている。その君の生存能力に、私は賭けたい」
よろしく頼む。そう頭を下げる艦長に俺は無言で敬礼を返すことしかできなかった。復讐ではなく、守るための戦いか……。これまで仲間も、ガンダムすらも守れなかった俺に、そんなことできるのかね。
※
艦橋から退室した少尉を見送った後、パオロ・カシアスは先程の青年の顔を思い出していた。まだ若く青いが、纏う雰囲気は歴戦の兵士のそれだった。
「人類史上初のモビルスーツ戦経験者。そして最後の生き残り、か」
受領したての改良型ガンキャノンで、ザク2機を撃破。ガンダムを強奪されはしたものの、あの赤い彗星を単騎で撃退。まさにエースの働きだ。口には出さなかったが、このサイド7に彼がいなければホワイトベース含め、我々は全滅していただろうことは想像に難くない。戦闘直後にも関わらず、気の引き締まった先程の表情といい、その姿はまるで歴戦の兵士のそれだ。あの若さで、どれほどの経験をしたのだろうか。連邦軍でも一部で噂になっている月面決戦が、彼に壮絶な覚悟を抱かせたのは間違いなさそうだった。
パオロはため息をついた。これ以上あのような若者に無理は強いたくないが……。状況はそれを許してはくれなさそうだ。
「ブライトくん、サラミスの除去作業はあとどれくらいだ」
「ハッ、あと2時間で完了とのことです」
「よし、総員第1種戦闘配置につけ!12時間後に本艦はサイド7を離脱し、ルナツーへと進路をとる!」
パオロの号令を副官のブライトが復唱した。まだ年若いその声に、また一つため息が出そうになるのを、パオロはグッとこらえた。ルウムでシャアに落とされた教え子たちの顔が脳裏をよぎった。これ以上若い彼らを犠牲にしないように、老骨に鞭打ってでもジャブローに辿りつかねばならないと、パオロは固く決意したのだった。
@デデデン デデデデン シャーゥ!@
『シャア!連邦の新型を奪取したそうだな!流石は俺の見込んだ男だ!早く戻ってこい、祝宴を準備してある。貴様の昇進祝いもしてやらんといけないからな!』
ジオンの戦艦ムサイ級ファルメルの艦橋モニターに、如何にも武官といった強面の巨漢の姿が映し出されている。シャアはそのモニター上の男を見上げながら、先程の戦闘の報告を行なっていた。大まかな内容は既に副官であるドレン中尉が行なっていた為、伝える内容はもっぱらサイド7内の詳しい戦闘報告である。
「しかし申し訳ありませんドズル閣下。敵の新型モビルスーツ・ガンダムを奪取する際に、ザク2機を失いました」
『なに!?貴様ほどの男がか?あんな辺境にザクをヤれる戦力がいたとは思えんが……。敵の新型か?』
「いえ、例のヤツです閣下。月で取り逃したキャノン付きのパイロットがおりました」
『おぉ!いつぞやお前に傷をつけたモビルスーツもどきだな!あんな旧型で、よくやる!連邦軍にしては骨のあるヤツだな。よくよく貴様とは縁のあるやつだ』
そう、あのゴーストとはよくよく縁があるらしい。シャアは再び巡り合った宿敵の登場に密かに口角を上げた。他の有象無象との闘いからは得られない、己の中に燻っていた闘争本能の高まりを感じる。
「つきましては閣下。例の木馬の追撃を許可願います。新型のデータは既に本国に送信済みです。あとは連中がジャブローに実機を持ち込むことを阻止すれば、連邦のモビルスーツ開発に大きな遅れをもたらす事ができるでしょう」
シャアのもっともらしい意見を、しかしドズルは一笑に付した。
『取り繕うな、シャア!戦いたいんだろう?あの男と!新型のデータは確かに確認した!あとはお前の好きに使え!追撃となるとこちらからの増援は間に合わんだろうが、貴様ならやれるな?吉報を持って帰れよ!』
詳しい話は祝宴でな。そう一方的に伝えたドズルは、最後にニヤリと笑ってモニターから消えた。
「いやぁ、相変わらずですな」
横で何処となく呆れた様子のドレンがぼやいた。
「フッ、閣下は話が早くて助かる」
好戦的な笑みを浮かべているシャアを横目で盗み見つつ、この人も相変わらずなんだよなぁ、とドレンは内心ため息をついた。噂のエリートパイロットも、すっかりドズル派閥の一員らしくなってしまっていた。それもこれも、連邦軍のモビルスーツもどきのパイロットが原因である。さっさと墜とされてくれれば、ドレンも仕事と心労が減って助かるのだが。
「では、追撃に移行しますか?」
「行こう」
シャアが見据える先はサイド7。敵は未だ、あの中にいる。
「バルメア・エレクトリーガー。
すっかりドズル派閥に染まったシャア。
ドレンの胃痛が加速する!止まらない!(止まるんじゃねぇぞ……)
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