「花見会の料理を頼みたい」
「そろそろ満開ですものね」
メイドヒーロー:ハスキー・シュトラールの事務所にて、黄金卿エルドリッチは事務所の主とお茶会を楽しんでいた。
肉体そのものが黄金で出来ているエルドリッチだが、飲食も出来るしそういう相手はいないが子供を作ることも可能だ。ただ、老化も止まり食事も必要ない身体となっているために三大欲求も娯楽にしかならない。
アンデッドなんてネット掲示板で呼ばれることもあったりするくらいに生きるための欲求が薄い。
「そうだ。参加者は150人を超える予定だ。ファットさんやリューキュウなどが初参加だな」
「あら?リューキュウも参加するのね」
「ああ、そういえば貴殿の縁戚だったな?余裕ができたそうでな」
「ええ。確か大叔父様の奥さんの弟の娘よ」
「それにしては個性が似通っているようだが……」
メイドヒーローたちは全員メイドの格好をしているドラゴンに変身する個性を持つヒーローだ。メイドとしても一流かつ、見目麗しいヒーローとなれば若い男性(一部女性)から評判になる。
「にしても、我の事務所とはまた違った豪華さだな」
「貴方の事務所は金ピカですもの。こちらとしてはお客様をもてなし、いい気分にさせるような品のいい事務所を目指しているわ」
「金ピカなのはいざというときの切り札だからな。ここは、事務所というよりはお屋敷か。センスの良さは学生時代から変わらぬな」
「そういう貴方も学生時代から変わらないでしょう?」
「我は不老難死の黄金卿だからな」
セメントス、13号、光天ヒーロー:オネスト、時械ヒーロー:Z-ONEなどと共に雄英・士傑黄金世代などと称えられたうちの2人。互いに個性の特徴も趣味も把握はしている。特にハスキーは雄英入学前からメイドとして研鑽を重ね、クラスメイトの趣味嗜好を把握することで様々なもてなしを想定し実行することでヒーローとしてもメイドとしても成長を遂げていた。
「オールマイト、エンデヴァー、ホークスは招待状は送ったがすぐに不参加の連絡が来た。全員任されている地域は広大。故に離れることはヴィランの活性化に繋がるのは理解しているがな。いや、エンデヴァーに関しては内心下らないと思っているだろうが……」
「ヒーローが協力しやすいようにこういう席を作ろうというのは小規模ながら昔からあったものね。とはいえ平和の象徴、それを超えようとするヒーロー、超新星。忙しいのは当然よ」
「その超新星は、まあときどき連絡は取り合うのだがな…。掴みどころがないように演じているのだろう」
エルドリッチとしては有望かつそれなりに歳の近い後輩。別に自分を追い越したことには隔意はないが、歯に衣着せぬ言動には内心ハラハラしている。もちろん、正論を言うことが多いのはわかっているがそれで納得しない人間も存在することをこの短いヒーロー活動の中で理解してしまっている。
実はホークス側からすると『要注意人物が心配してきている…?なんか調子狂うなぁ…』などと思われているのだが、エルドリッチには知ることができないだろう。
「ああ、花見会の依頼だけれども受けるわ。食材とか、料理の代金はきちんと請求するけれど、ね」
「それはもちろん。正当な労働には正当な対価を。これもまた錬金術」
「錬金ヒーローに拘るのね…」
エルドリッチは錬金ヒーローを名乗るが、等価交換は起きていない。むしろ、死を取り上げられたに近い状態は物質を黄金に変換する対価になるのかもしれないが。
「今は亡き母が錬金術の個性を持っていたからな。まあ寿命すらも対価に捧げた結果の死ではあるが…」
「母親の何かを遺したい、だったわね」
「生まれついた時には父親はいなかった我にとっては唯一の肉親。そういう感情があるのは当然だろう?」
錬金術の個性を持つ母親と金属化の個性を持つ父親の間に産まれたエルドリッチは、通常の人間としては生きることはできなかった。10歳の頃に個性によって身体は肉や血液、骨などを失い黄金に変わった。それ以来は少しずつ黄金を取り込むことで自らの身体を成長させる。
人間らしい欲求は10歳までの記憶が焼き付いているからだ。それがなければ人の心を理解できないヴィランとなっていたかもしれない。
「ふむ。冷めてしまったな」
「そうね。パルラ?」
「は~い!紅茶のおかわりですね。少々お待ちを~!」
緑と金の間の色の、肩にかからない程度に切られた緩くウェーブを描いた髪。元気そうな美少女と言える顔立ちにこれまた緑の鱗を持った尻尾。メイドヒーロー:パルラ・ルフトが冷めた紅茶を片付け、既に温めてあった新しい紅茶を淹れる。
「にしても、紅茶の味も熱さも感じるというのに沸騰してても反射行動は起きないのがこの身体の不思議だ」
「便利ですよね」
「人間らしさが失われていっているとも言えるがな」
「でも高温すぎると身体が熔けるのでしょう?」
「熔けるが、その時はスライムみたいな移動方法をすれば退避できる」
「やっぱり便利ですよね?」
「便利だがこれを生きていると言えるのかと常々疑問だ」
異形系個性とはまた違った異常性。依存する肉体はなくひたすらに守るべきは胸にかけたエルドリクシルのみ。それも破壊するにはオールマイトレベルの一撃を繭のように重ねられた黄金の防壁を超えて届かせなければならない。
弱点とは言えない弱点である。
「生きているの定義など曖昧ですよ」
「そうだろうな。だが当事者ゆえに気になるところではある」
「外野から見れば貴方は生きています。本人が悩んでいるというのも面白い話ですが」
外野から見た場合と当事者から見た場合では感じかたには差が生じるのは当たり前だろう。
「それにヴィランのようと言われるし…」
「あら……?」
「はぁ~~…一番意識せずにヒト型にするとこれだし普通のヒト型にすると金色のペプ○マンとか呼ばれるし…」
エルドリッチは基本演技をしている。内面は普通の人間である。まあ、親しい人間の前でもたまにしか演技は崩れない徹底ぶりだ。ヒーローはイメージ業でもあるためそういった演技をする者は数多くいるがエルドリッチほど堂に入った演技はなかなかいない。どこかでボロが出ていて周囲は見てみぬフリをしているだけだったりする。
「ネガティブになるといつもこれですわね」
「そもそもそういうキャラ付けをした結果がこれなんだがな…見た目に反してこんなネガティブだと、助けられる側も不安だろう?悪役ムーヴが似合う見た目にしてしまったのがなあ。オルカさんには同類みたいな扱いされるし」
「オルカさんは子供好きですし社員に優しいですものね。どこかの誰かさんみたいに」
「なんだ?文句でも?」
「さて?私は誰かさんの話をしただけですので…」
同級生、一部の絡みが多いヒーロー、前話の餅屋のお爺さん、事務所の所員には素を見せることが多い。むしろそれ以外では黄金卿ムーヴをやれているが、ヒーローとしての自覚故のこと。ヒーローをやめると『ヤクザみたいな見た目の世話焼きなおっちゃん』みたいな評価になりそうとはラドリーの談である。
「ラドリーがこの前もお菓子を貰ったとLI○Eで送ってきましたわ」
「そうか」
「文面からテンションが高いのが読み取れるくらいには。ところであのお菓子、銀座の高級店のクッキーですよね?」
「知り合いがオーナーでな」
「また変な交流関係!?」
エルドリッチの交流関係は広い。明らかに関わらないであろう林業からヤの付く自営業、IT企業の重役に動画プラットホームの経営者まで。むしろ飲食店のオーナー程度なら近しい側の人間と言える。
「六本木でのビル倒壊事件のときに知り合ってな…」
「ああ、あのときの。ヴィランによって風化させられたビルを貴方が黄金に変換して立て直させた」
「そのビルのオーナーでもあったらしく」
「なるほど…まだ納得できますね」
「黄金に変えることはできても黄金から戻すことはできないのでそれを懇切丁寧に説明して謝罪して、気付いたら金箔を乗せた商品をコラボとして売ることになってな」
「なんでそうなるんですか」
「商魂たくましいと言うべきか。一応ビルに関しては政府が助成金を出して建て直しになったのだが新しい名前にエルドビルなどと付けられ」
「頭が痛いですね…」
エルドリッチが出会う事件被害者にはだいたい逞しい何かを持っている人間が居たりする。このビルオーナーは実は餅屋のお爺さんの再従兄弟だったりするためエルドリッチについて話も聞いていたりするために、あまり断らない性格というのもバレていた、という裏があるのだが本人は知らない。
「まあ、そんなわけで無料で貰ったのだ。所員全員に配れるくらいには」
「まあ貴方のことですから『よい、許可する』って言ってたんでしょうけど」
「何故わかった」
「付き合い長いですもの」
12年間もの付き合いと考えれば癖などは把握されているだろう。特にハスキーはメイドとして人間の癖の把握を得意としているためにほとんどの癖はバレている。
「むう…。付き合いの長さだけではない気がするのだが…。いや、まあいい。そろそろ時間だ」
「お帰りですか」
「ティルルか。まあそうなるな」
「あら?もう2時間も経っていましたか」
エルドリッチは忙しくはあるがサイドキックたちも優秀かつヒーロー免許を返納していない餅屋のお爺さんがいるためその実、作ろうと思えば友人に会う時間は作れたりする。トップヒーローではあるが見た目によって撮影なども少なく他のトップヒーローよりもスケジュールも詰まらない。
ハスキーもトップ200には入るがときどきリューキュウなどとタイアップしたりする程度でメディア露出は少ない。
「ではまた。次は花見会で」
「ええ。次は花見会で」
──────────
「はぁ~。やっぱ時々見せるエルの素、好き~」
「ハスキー様、まーたエルド様の写真貼ってる」
エルドリッチの癖をほぼ把握している理由に単純に好意を10年以上持ち続けているというのもあるが…。まあこれはハスキー事務所内でしか共有されてない真実だ。ハスキーは常にエルドリッチの前では完璧なメイドを演じていたいので他のメイドには口外しないように厳命しているし、ラドリーを出向させているのも普段の日常のエルドリッチの姿を報告させたいがためなのも秘密だ。
ティルル、パルラ、チェイム、ラドリー、ナサリーたちは全員『さっさと告白しろ』とか思ってたりするが言わない。10年もできてないあたり拗らせてるのは明白だからだ
セメントス・13号「「えっ!?まだ告白してなかったの!?」」
あと餅屋のお爺さんはヒーロー黎明期に活躍してたヒーローという設定です。当時のは修羅の世界になってたと思うのでかなり強いですがそれはおいおい