病弱で大人しかったネモという親友について話そう   作:さとね

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であい

 彼女と出会ったのは、私が怪我をしてパルデア地方の病院で手術をすることになったときだった。

 松葉杖を使って廊下を歩いているときに、ふと私は立ち止った。

 目が止まった理由は別になんでもなくて、ベッドが一つしかない大きな病室で、どうやらその部屋を貸し切っているお嬢様がいるのだと気づいたからだった。

 

 このパルデアは、テラスタルというポケモンを強化する技術が発展しており、その研究の中で全体的な科学力も向上を遂げ、世界の中でも有数の医療技術を持つ地方だった。

 だから、ちらほら難病をかかえた人がこの地方には治療のためにやってくると聞く。

 彼女もその一人なのだろうと思った。

 

 普通ならば、ほんの少し様子を見ておしまい。彼女も難病を抱えたうちの一人。

 その程度の認識のはずだったのだが。

 

「ポケモン、好きなの?」

 

 思わず、声をかけてしまった。

 病室の窓から彼女がずっと見ているのは、テーブルシティの中央広場。

 ポケモンを学ぶための地方唯一であり最大の学校がそびえるこの街には、楽しそうにポケモンと暮らす生徒たちが常に歩いている。

 それを、ずっと見つめていたのだ。

 

「…………誰ですか?」

 

 穏やかで、丁寧な口調だった。

 真っ黒な髪が美しく垂れ、振り返った拍子に揺れる長髪はハープを奏でたかのように踊っていた。

 色黒の肌を土台に、神様が時間をかけてパーツを並べたと思うほどに整った顔立ちへ、かわいらしいそばかすがトッピングされ、その中心ではトパーズのようなオレンジの瞳が花を添えており、テレビでしか見ない高級料理を前にした気分だった。

 

 全てが上品なその空気感に、私は思わずうっと言葉に詰まる。

 何を言っても失礼になると思った。

 というより、もうすでに失礼な言葉をかけてしまっていた。

 諦めた私は、開き直って話を続ける。

 

「ずっと広場を眺めてたから。ポケモン、見てたんじゃないの?」

「……はい。お父様とお母様から、ポケモンを持つことは禁止されていますので」

「え。なんで? スマホロトムとかもいないわけ?」

「ええ。ロトムが近くにいると、ペースメーカーに異常が出る可能性があるからと」

「ペース…………?」

 

 馴染みのない単語が出てきて首を傾げた私の疑問に答えるように、彼女は自分の胸に手を当てた。

 

「生まれつき、心臓が弱いんです。胸に機械が入っていて、それで動きを補助しているんです」

「ああ、だから危ないってこと?」

「はい。スマホロトムのせいで娘の命が危険にさらされたとなると、お父様の立場的にも危ういので」

「まあ、確かに親も心配だよね」

「…………そうですね」

 

 それだけ言って、彼女はまた外を眺め始めた。

 

「ポケモン、触ったこととかは?」

「昔に何度か。でも、持病が悪化してからは一度も。近づいたことすらありません」

「……触ってみたいとか、ある?」

「できることなら、また近くで見てみたいですね」

 

 その言葉を聞いて、私はニヤリと笑った。

 この病院は、ポケモンを連れてくることは禁止されてはいないのだ。

 患者の精神的なサポートをしてくれる大切な家族であるし、最初の審査さえ通ってしまえば、ボールに入れて持ち運ぶことも当然に許可されている。

 だから私はポッケに手を突っ込んで、取り出したボールを彼女のベッドの上に投げてやった。

 

「いわわん!」

「きゃ……!?」

 

 私の家で飼っているポケモンのイワンコだった。

 岩タイプならば、ペースメーカーとかやらに異常が出ることだってない……はず。

 

「びっくりした?」

「……はい。心臓が止まるかと思いました」

「凄まじく笑えない冗談言うんだね……あなた」

 

 心臓に持病があるのにそこまでのブラックジョークは投げないでほしい。

 私が苦笑いをしていると、彼女はクスッと笑った。

 

「……変なの」

「あ、敬語じゃない」

「…………忘れてください」

「いいってば。私たち、年近いでしょ? たぶん」

 

 私は十六歳で、彼女も多分同じくらいの歳のはずだ。

 そんなことを考えていると、彼女は怯えながらもイワンコに手を伸ばしていた。

 

「撫でてあげてよ。人懐っこくて良い子なんだよ」

「……大丈夫、でしょうか?」

「なにを心配してんの! ほら、イワンコなんて撫で待ちしてるじゃん!」

「いわん!」

「…………では、参ります」

 

 むむっと肩に力を入れて、彼女は恐る恐るイワンコの頭を撫でる。

 慣れていない撫で方だからか、イワンコはくすぐったそうにぷるぷると首を振った。

 

「いわん!」

「きゃ……! だ、だめでしたか……?」

「そんなことないよ。もっと撫でてだって」

「は、はい……」

 

 なでなで。

 そのうちイワンコもこの撫で方がクセになってきたのか、気持ちよさそうに顔をとろけさせて、彼女の上でベッタリと寝転がってしまった。

 

「…………寝てしまいました」

「あなたが撫でるの、上手だからじゃない? 才能あるんだよ、きっと」

「そう、でしょうか……?」

 

 戸惑いながら、彼女はこくりと首を傾げた。

 だから、私は思い切って彼女にグイッと顔を近づけた。

 

「あのさ、またイワンコ、こっそり連れてきてあげようか?」

「……でも」

「大丈夫だって! そういうコソコソしたの、得意だからさ!」

 

 ぐっと親指を立てると、彼女は少し迷いながらも、コクリと頷いた。

 

「……お願い、します」

「それじゃあ、よろしくね! ……えっと」

「ネモです」

「ネモ! 可愛い名前だね! 私、ルリカって言うの! よろしくね、ネモ!」

 

 ニッコリと笑って、自己紹介をした。

 これが、私とネモの出会いだった。

 

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