「やっほ、ネモ!」
「おはよう、ルリカ。怪我の調子はどう?」
「順調! すごいね、パルデア地方の医療って! 一ヶ月後には、少しずつサッカーやっていいって!」
私はネモの病室に入ってすぐ、ネモのベッドに腰掛けた。
初めて出会ってから一週間。イワンコを連れてくるのも、慣れ始めてきていた。
すぐに私はボールからイワンコを出す。
「いわわん!」
「ふふ。今日もかわいいね、イワンコ」
「でしょでしょ! 最近は美人さんに撫でてもらってるから、イワンコも可愛さに磨きがかかってきたかも!」
「やめてよ、もう」
「なにさ! すっごい美人さんじゃん、ネモって」
「そんなことないよ。私なんて」
イワンコを撫でながら、ネモはポツリと呟いた。
「そうかな。真っ黒の髪とか、すごい綺麗だと思うけど」
「ううん。それなら、ルリカの緑の髪の方がずっと可愛いよ」
「そうかなぁ」
私は自分の髪の毛先を持ち上げる。
やたら濃い色の緑の髪の毛は、別におしゃれというわけでもないし、煌びやかなわけでもない。
だが、ネモは本当に自分よりも私の方が良いだなんて思っているのだ。
ネモはやたらと自己評価が低い。というより、話を聞く限り、求められているものの基準が高いのだ。
「今日も勉強してたの?」
「うん。学校にはいけてないけど、テストで点は取らないといけないから」
将来は父親が勤めるスマホロトム会社に就職することになっているらしい。
スマホロトムの会社といえば、世の中のエリートたちが集まる大企業だ。その門はかなり狭いらしい。
そのために、ネモは病室では常に勉強をしていた。
その息抜きのために、私はイワンコを連れて遊びに来ている。
そして。
「それじゃあ、今日も見るとしますか……!」
私は家から持ってきたDVDをビデオデッキに差し込む。
今はもうスマホロトムでテレビや映画を見る時代だが、ネモの心臓のこともあるので、これ以外の手がなかったのだ。
見る映像は、決まっていた。
『決まったァー! ガラル最強のチャンピオン、ダンデ! またしてもキバナ選手とのタイトル戦の防衛に成功しましたァ!』
「うぉぉおおおおお!!」
画面の中で高々と指を立てる最強のチャンピオン、ダンデの勝利を前にガッツポーズをしていた。
その隣では、大人しくネモがパチパチと手を叩いている。
「すごいね、ダンデさん。また勝っちゃったんだ」
「ね! すごいよ、ダンデ! あのリザードン、格好良かったなぁ」
「うん。とってもドキドキした」
「えっ、また心臓ネタ??」
「ふふ。冗談だよ」
笑いながら、ネモは答える。
出会ったときに比べて、ネモはよく笑うようになった。
やはりポケモンが大好きなようで、こうやって話してる間もイワンコの頭に手を乗せている。
イワンコもネモの膝の上が落ち着くのか、腹を出して寝転がってしまっていた。
「おーい。一応ネモは飼い主じゃないのにその体たらくはなんだー」
「おなかぷにぷに。かわいい」
ぽよんぽよんとイワンコのお腹の弾力を楽しむネモは、ポツリと呟く。
「私もやってみたいな。ポケモンバトル」
「え、いいじゃん! やろうやろう! ネモならすぐに強くなれるよ!」
「でも。私、自分のポケモンがいないし……」
「いるじゃん。戦ってくれる子」
私はひっくり返ってるイワンコを指さした。
え、私? って顔をしているイワンコと、この子を戦わせてもいいのかな、なんて心配そうな顔をするネモ。
私はピンとネモのおでこを突っついた。
「強いんだからね、私のイワンコ」
「いわんっ!」
ネモの膝の上でちょこんと座り直したイワンコが、真っ直ぐにネモを見つめていた。
私のポケモンではあるが、ネモの言うことなら絶対にこの子は聞いてくれる。
だから私は、ちゃんと約束をした。
「手術が無事に終わったら、絶対にポケモンバトルしようね、ネモ!」
「うん……っ!」
ネモの心臓の手術は、数日後にまで迫っていた。
別に難易度が高い手術ではない。というより、パルデアの技術があれば問題のない手術なのだ。
私ももうすぐ松葉杖なしで歩けるようになるはずだし、ネモが外に出るまでには私も新しいポケモンとともにネモと戦う準備をしなければならない。
不安はない。
胸にあるのは、明日への期待だけだった。