ダンジョンに赤いゲノセクトがいるのは間違っているだろうか? 作:競馬好き
ロキ・ファミリアとともに、世話になった住処に別れを告げ、地上に向かうゲノセクト。
(最初は警戒されるであろうが、少しずつ、慣れていってもらおう)
これから、モンスターでありながら、人間社会で生活していくことになる。自分を受け入れてもらうには、人間とどう関わっていくのかが鍵となる。
(人間と対等になるには時間がかかるであろう。現在の私は、人間からすれば、恐怖と興味の対象である。それを払拭するには、何をすればいいのやら)
特に、彼が警戒しているのは他の冒険者達である。倫理観のない冒険者は、スキを狙って彼を襲撃してくる可能性が非常に高い。モンスターである彼にも、魔石が体内にあるのだろう。それを狙ってくる奴らは多いと見たほうが良さそうである。
「後もう少しだ。地上に出たら、まずはギルドと神々を説得しなければな」
(神がいるのか。奇妙な世界だな、ここは)
神が存在していることに驚きながら、オレンの実を一つ取り出してかじる。
(ということは、彼らが言っている、ロキ・ファミリアというのは、北欧神話の神、ロキの眷属であることを表しているのか。ロキか・・・。心配だ)
ロキはいたずらの神とも呼ばれる悪神に分類される神だ。この世界のロキが、元の世界と同じような性格のものとは限らないが、一癖二癖ありそうだ。
「あの」
ゲノセクトは声をかけられて振り向くと、アイズ・ヴァレンシュタインがいた。
「あなたはどうしてそこまで強いの?」
(どうして強いの?そう言われても、私がこの世界でどの強さに入るのかわからないからなんとも言えないな)
ゲノセクトは、さぁ?という感じで腕を振った。
「君は、我々の憶測ではあるが、レベル7ほどの力があると思われる。7は現状のオラリオで最強だ。到達している者は一人しかいない。僕はレベル6だ。君は僕よりも強いだろう」
(そこまで強いのか、私は)
驚いた表情をするゲノセクト。それを見たティオナはクスクスと笑った。
「めちゃくちゃ強いモンスターなのに、本人がこんな調子だとなんか拍子抜けだなぁ〜」
「知性を持っていても、常識には疎いか」
「それじゃぁさ、地上に出たらオラリオを見て回ったらどう?私案内するよ!!」
「無事、ギルドと神々を説得できたらの話だがな」
(その通りだ。だが、オラリオというところを見て回りたいのは事実だ。ぜひともして案内してもらいたい)
ゲノセクトは頷くと、ティオナははしゃいで姉であるティオネに叱られた。
前に向き直ると、上の方から光が漏れ出してきていた。どうやら、出入り口に到着したようだ。設置されてある階段を登り、到着した。
「も、モンスターだ!?」
「なんでここに!?」
ゲノセクトが顔を出すと、その場にいたギルド職員や下級冒険者が悲鳴を上げた。
「皆落ち着いてくれ!!このモンスターが、先日から噂されている赤い虫型モンスターだ!!我々が捕獲し、連れてきた!このモンスターのには、知性があり、現状を理解している。君たちに危害を加えることはないだろう!安心してくれ」
フィンの言葉により、パニックにならずに済んだが、怯えているのは事実だ。すると、一人のギルド職員が現れた。
「フィン・ディムナ氏。そのモンスターが件のモンスターである証拠はありますでしょうか?」
ハーフエルフのギルド職員、エイナ・チュールが怯えながらも気丈に振る舞い、フィンに質問する。
「ああ、証人となる人物が、契約しているはずだ。白髪に赤い目の青年」
「ベル・クラネルさんのことですか?」
「ああ、それに、我々ロキ・ファミリアも証人となるだろう」
「わかりました。ベル・クラネル氏と招集可能な限りの神々を呼できます。そちらは、証人となる団員を連れてきてください。そのモンスターは」
「私達が見張ってるよ!」
ティオナとアイズがその場に残り、ゲノセクトを監視することにした。ゲノセクトは、待っている間に魔石を換金してもらおうと受付に向かった。
「ひっ!あ、えと、な、なにかごようでしょうか!」
ピンク色の髪の女性職員、ミィシャ・フロットは怖がりながらもゲノセクトの要望を聞く。ゲノセクトは、魔石が大量に入った袋と壺を受付の机においた。
「わぁ・・・すごい量・・・」
「多分換金したいんだと思います」
「換金、ですか?」
「うん、この子を見つけたあとに行った未開拓領域の巣で魔石のこと聞いてきたから」
「言葉を理解しているんですか?」
「うん、そうだよ!」
ゲノセクトの賢さに驚きながら、魔石を鑑定していく。量も量なので、かなりの時間がかかる。待っている間に、フィンが団員を連れて現れた。オラリオ中の神々も集まっていた。
「取り込み中のところ悪いのだが、モンスター君、行かないと」
「魔石は私たちが見張っとくから行っておいで」
アイズの言葉を聞いて、ゲノセクトはフィンの後についていく。大きな会議場のような場所に連れてこられ、その中心にゲノセクトは立たされる。まるで裁判のようだ。
「さて、これはどういうことかしらロキ?」
露出の高い服を着た銀髪の美の女神、フレイヤがゲノセクトを指さしながらロキに聞いた。
「こいつが今オラリオで噂されとるモンスターや。うちのファミリアが捕まえて連れてきたんや」
「なぜ討伐しなかったの?」
「うちのかわいいかわいいリヴェリアがな、このモンスターを討伐するんじゃなくて捕獲したいって珍しくわがまま言ってきてな、だから承諾したんや。問題あったか?」
「問題大アリよ、あまりにも危険すぎるわ。モンスターを檻にも入れずに連れてくるなんて」
「そうだそうだ!!」
「モンスターを地上に連れてくるなんて!!」
「ロキ、何を考えているの?まさか、モンスターを使って、オラリオの頂点にでも君臨しようとしたのかしら?」
「いやぁ、噂では人間の冒険者を助けとる言うとるし、うちの冒険者も助けられとるねん。それで安全かなぁおもてな」
「噂はあくまでも噂、それに、あなたならいくらでも嘘をつける。信じられないわ」
神々は口を揃えてロキを批判する。その時、会議場のドアが開かれ、白兎が中に入ってきた。
「べ、ベル君!?」
彼の主神、ヘスティアがそれの驚愕する。ベル・クラネルはキョロキョロとあたりを見回した後、ゲノセクトを見つけると、驚愕の声を上げた。
「モンスターさん!?」
走ってゲノセクトのところまで来ると、歓喜の声を上げる。
「わぁ!!久しぶりですねモンスターさん!!」
「べ、ベル君、知り合いなのかい?」
「はい!!ミノタウロスに追われていたときに助けてくれたのは、このモンスターさんなんです!!」
「ええ!?」
ヘスティアは、彼の憧憬がこのモンスターであることに衝撃を受ける。
「嘘は言ってないわね」
ヘスティアと仲が良い鍛冶の女神、ヘファイストスが神の権能である人の嘘を見破る力でベルが嘘をついていないことを確認する。
「けど、安全とは限らないわ」
「そうね、そのモンスターが安全であるという証拠が無いわ」
そう、神々はそれを求めているのだ。人間を助けるモンスターなんて面白いものを消したくはない。むしろ自分の手にほしいまであるのだ。ロキに独り占めさせるわけにはいかないのだ。
すると、ゲノセクトが手を挙げる。
「あなた、言葉がわかるの?」
フレイヤの問に、首を縦に振るゲノセクト。それを見た神々は、先程以上に面白い存在となったゲノセクトに注目した。
注目されている中、ゲノセクトはジェスチャーで人間に危害を加えるつもりはないとアピールする。横にいるベルに爪を立てるふりをした後に腕でバッテンを作ったり、ベルを食べるふりをした後にバッテンを作る。その行動に不思議に思う神々。中にはクスクスと笑ってしまう神も。
(我ながら情けない)
言葉が喋れないことに苦労しながらなんとか伝えようと頑張るゲノセクト。
「えっと、人間に危害を加えるつもりはないと言いたいのかしら?」
ヘファイストスがその行動の意図を読み解き、ゲノセクトに聞くと、ゲノセクトは激しくうなずいた。
「人間臭いモンスターだな!!俺はガネーシャだ!!」
「あなたがそう言っても、あなたはモンスター。証拠にはならないわよ」
(そうなのだが、なるべく早めに意思を伝えておきたくてな)
「いやぁ、遅刻遅刻」
すると、またドアを開けて誰かが入ってきた。今度は神であった。
「ヘルメス。こういう場に来るとは珍しいんじゃないのかい?」
「面白い話だからね、参加するさ。というか、なんでアレスの生物兵器がここにいるのやら」
「アレスの生物兵器ですって?」
その言葉に一同は驚愕した。
「ど、どういうことなんだいヘルメス?」
ヘスティアの問いに、飄々とした態度で答えていく。
「簡単だよ、アレスのラキア王国は目下戦争中。しかし、彼のファミリアはステイタスが低い烏合の衆だ。オラリオや他都市や他国に戦争を仕掛けても負けてしまう。そのため、即戦力となるモノを作り出そうとなった。その結果がこのモンスターだ。君たちは古代モンスターのことを知っているかい?まだ、ダンジョンがなく、人間もいなかった時代にいたモンスター達だ。体内に魔石も存在していない。近年、ラキア王国で発掘された古代モンスター。その化石を解析し、クローンとして産み出し、そして、神のロマンとラキアに存在する魔導学の専門家を集め、改造されたモンスター。彼は人造のモンスターなんだよ」
「マジかよ。それはうちも知らんかった」
「彼は、その最初で最後の一体。彼を作り出す計画、Genocide、insect。略してG.E.N.O.S.E.C.T計画から名前をつけられた。彼の名前はゲノセクト。僕の情報が正しければ、彼は眷属することができる超特別なモンスターだ!」
最後の一文を聞いた神々は、驚きと歓喜の声をあげた。こんなにも面白い出自を持ち、ロキ・ファミリアの冒険者と同等の力を持つモンスターを眷属にできる。そんな面白いことはない。
「そこでだゲノセクト、君をどこかの神の眷属になれば、このオラリオにいることを許すというのがどうだね?」
ヘルメスの発言を聞いた神々は一斉にヘルメスを睨みつける。
(眷属になってなにかいいことでもあるのだろうか?特に無いのであれば、どこでもいいのだが)
この世界の常識に疎いゲノセクトは、眷属になることの優位性を知らない。そのため、安易な回答をする可能性がある。
「ゲノセクト、だったか。眷属になるということは、神からの恩恵を受けるというものだ。安易に決めてしまえば、後々後悔することになるぞ」
リヴェリアからの忠告を聞いて、眷属になるというものは一人の神に隷属することと同義であることを理解したゲノセクトは、ヘルメスの権能が、盗人と嘘であることを思い出し、ヘルメスの誘いを断るために首を横に振る。
「そうか・・・それは残念」
「ならうちのところに来るか?」
ロキからの問にすぐに首を横に振るゲノセクト。
「なんでうちは速攻で決めるんや!!」
(いたずらの神だから信用できん)
「なら、私のところはどうかしら?」
神々は驚愕した。滅多に動かないフレイヤが動いたからだ。彼女の目から見ても、彼は有望であり、彼女が欲するほどの魂を有しているということになる。
(フレイヤは確か、北欧神話でもその美貌で混乱を招いている女神のはずだ。)
「あなたが私のところに来てくれれば、あなたに寵愛をあげるだけれど?」
フレイヤは、なんとしてもゲノセクトを我が物にするために、魅了すらも使用した。しかし、ゲノセクトはというと。
(急に香水臭くなった)
その程度にしか思っておらず、最後にはくしゃみをした。
「あら・・・」
「ゲノセクトさん、どうぞ」
ベル・クラネルがハンカチを貸し、鼻水を拭き取る。それを見たフレイヤはますますゲノセクトが欲しくなった。鼻水を拭いたゲノセクトはフレイヤに向き直ると、首を横に振った。
「そう、残念だわ」
本当に残念そうな顔をするフレイヤ。ゲノセクトはキョロキョロと神々を見回し、どの神のところに行こうかと悩んでいる。
「決められへんのかいな?」
ロキがそう聞いてくるので、首を縦に振った。
「まぁ、そやろなぁ〜。急に地上に出てきてどこかのファミリアに急に入れて言われてもそら決めれへんわな。オラリオのこともろくに知らへんしな。それでいて下手に強いんや。全く、厄介なやつやなお前は」
「なら、二週間の猶予を決めるのはどうだ?」
一人の神がそう言うと、大半の神々はその意見に賛成した。しかし、中にはそれを良しとしない神がいた。その中のひとりがヘファイストスだ。
「でも、その間のゲノセクトの処遇はどうするの?」
「うちかフレイヤのところが見るのはどうや?」
「確かに、それなら安全は確保できる。だけど、そのスキに彼をファミリアにしてしまうということがあり得るわ。特にフレイヤは」
「あら?私がそんなことをするとでも思っているのヘファイストス」
「この中で一番可能性が高いわ」
「ならこうするのはどうだ?彼の監視対象はそれぞれのファミリアから一人ずつ冒険者を派遣するってのは。そこに神は近づいてはいけない」
「それならいいかもしれないわね」
その神の提案が採用され、今日は、ロキ・ファミリアから一人、フレイヤ・ファミリアから一人選出された。
「ほな、アイズたん頼むわ」
「わかった」
「オッタル、仲良くしなさいね?」
「仰せのままに」
なんとも言えんメンバーではあるが・・・。