十話を始めたいと思います。
奈落を攻略し始め、何事もなく50階層まで来た卓弥とルチア。
50階層には謎の扉があり、その扉の側に居た門番らしき双子(?)のサイクロプスを倒し、遂に扉を開ける。
そこには、1人の少女が封印されていて……?
とうとう原作ヒロインが登場します。
ここでも少しオリジナル展開を加える予定なので、楽しんでもらえると幸いです。
それでは、第十話をどうぞ。
「誰か……居るの?」
掠れた、弱々しい少女の声。
年の頃は12、13歳頃だろう。
僅かに差し込む光を受けて、金色に輝く髪は真っ暗な空間と合わさり、何処か月明かりを思わせる。
その金髪の間から見える紅い瞳に、卓弥は
今はやつれているが、それでも美しい容姿をしていることはよくわかった。
何かあるとは思っていたが、まさかに自分達以外に人が居るとは思わず、卓弥とルチアは互いを見合わせ、そして再び少女に視線を向けた。
少女も、どこか呆然とした面持ちで2人を見つめていた。
いつまで見ていても始まらない。
卓弥とルチアは互いを見る。
そして、奈落を攻略していく中で深まった絆が為せる技なのか、何も言わずとも、何をするのかをわかっているかのように揃った行動を……
「お主、何者じゃ?なぜ此処に」
「すいません、間違えました」
「「……ん?」」
……とれなかった。
卓弥は、少女の事を聞き出そうと部屋に入ろうとし、ルチアは少女から厄介ごとの気配を感じて扉を閉めようとした。
お互い、自分と同じ事を考えていたのだろうとばかり思っていたから、2人は全く違う対応をした相方を見てフリーズし、それを見ていた少女も目が点になってそうな感じで呆然としていた。
「………あ、ま、待って! ……お願い! ……助けて……」
しかし、少女はすぐに再起動して、慌ててさっきよりも大きな声で呼び止めようとする。
それはそうだろう。
こんな地底に頻繁に来るような人はそうはいない。
こんな、いつまた来るかもわからない、自分が助かるチャンスを逃したくはないのだろう。
何年も出していなかったのかとても掠れた声だったが、それでも必死であることは理解できた。
「少し待て」
「ちょっと待って」
そう言って2人は少女を待たせ、扉を開けた状態で相談を始める。
「いやご主人様。何で助けようとするんです?どう見たって厄ネタでしょ。『助けてもらって悪いが…』って感じの地雷イベントでしょ」
「だが、やっと此処のことを知れそうな情報源を見つけたのだぞ?ここは危険を承知で飛び込むべきだろう?」
「ですけど、見たところ封印以外何もないみたいですし……こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような感じですから、絶対ヤバイですって。脱出にも役立ちそうもないですし、リスクを避けるためにも、ここはスルーするのが1番ですよ」
そこまで言われると、一度黙り込んでしまう卓弥。
それを見て、見捨てられると思った少女は、
「ちがう!ケホッ……私、悪くない!……待って!私……」
掠れた声で咳き込みながら、更に必死な懇願を続ける。
そして、
「裏切られただけ!」
「………」
そう言い切ると、少女は荒い息を吐きながら俯く。
それを聞いて、卓弥は再び話し出す。
「……確かに危険じゃ。後で裏切って、我らを殺しにかかってくるかもしれん。じゃが……」
「……?」
「そうならそうで、返り討ちにすれば良かろう」
そう言って、卓弥はルチアの静止も待たずに部屋の中に入ってしまう。
ルチアは、そんな卓弥に「ああ、もぉ!」と言った感じで髪をわしゃわしゃするが、覚悟を決めて部屋に入る。
少女は、近づいてきた2人の気配を感じ、俯いていた頭を上げる。
「お主、裏切られたと言っておったが、それは封印された理由にはならんじゃろ。本当に裏切られたとして、その裏切り者はなぜお主をここに封印したのじゃ?」
卓弥がそう問いかけると、少女は嗄れた喉で必死に封印された理由を語り始めた。
「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」
それを聞いて、2人は『なんとまぁ波瀾万丈な境遇か』と呻いた。
しかし、卓弥は、少女からところどころに気になる言葉を聞いたので、その疑問を解消するため質問する。
「お主、どこかの国の王族だったのかえ?」
「……(コクコク)」
「殺せないというのはどういうことじゃ?」
「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」
「ふーん、なるほど……『すごい力』というのはそれかいな?」
「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」
卓弥は「なるほどな」と1人納得した。
卓弥は初めから、ルチアは魔物を食べてから"魔力操作"を使える。
ルチアの場合は魔法適性がないため『錬成』以外は碌に魔法を使えないが、卓弥は適性があるため、使わないだけで、やろうとすれば全ての魔法をバカスカ撃てる。
少女もそれができ、それに加えて、条件付きであろうが不死身。
はっきり言って、勇者である天之河すら凌ぐチートである。
すると、
「……たすけて……」
ポツリと少女が懇願する。
その言葉を聞いて卓弥はルチアを見る。
「それで?どうする?」
「嫌だ!って言ったところで、どうせ助けるんですよね?まあ、彼女は嘘を言っているようには見えないですし、後は任せますよ」
そう言いながら、ルチアは卓弥に全てを委ねる。
卓弥はそれに頷き、立方体に近づき、立方体に触れる。
「あっ」
「じっとしておれ」
そう言いながら、卓弥は目を閉じる。
そして、数分過ぎてから再び目を開き、立方体に魔力を注ぎ込む。
すると、少女を拘束していた立方体が融解していく。
そして、少女は立方体から解放され、ペタリと女の子座りをしてへたり込んだ。
少女には立ち上がる気力もないらしい。
「うむ、上手くいったか。何やら不自然な魔力の流れを感じた故、それを埋めるように魔力を流してみたが……」
卓弥はその結果に満足したように、グッパッグッパッと掌を握ったり開いたりを繰り返していた。
そんな卓弥と、近づいてきたルチアを見上げ、少女は、とても嬉しそうな雰囲気を纏い、震える、しかしはっきりと告げた。
「……ありがとう」
そんな少女を見て、卓弥とルチアは嬉しそうに笑みを浮かべる。
……が、その後すぐに感じた殺気に、2人は表情を引き締める。
「上から来る。めんどいから我が一撃で仕留める」
「了解です」
「え?」
ルチアは、2人の会話の意味がわかっていない少女を連れて即座に離脱。
卓弥は腕をバリスタのように変化させ、真上に向かって"爪弾"を放つ。
ビュッ………ズガン!
闇に向かって消えていった"爪弾"。
その数秒後に、何かが貫通した音が響く。
それを確認し、卓弥がバックステップでその場を離脱すると、卓弥が先ほどまでいた場所に、胸部に穴が空いた魔物の死骸が落ちてきた。
その魔物の見た目は、喩えるならサソリだろう。
もっとも、普通のサソリとは違い、その体長は5mほど。
4本のハサミを持った長い腕に、毒針を持っていそうな尾も2本ある。
そして、わかりにくいがこのサソリもどきの外殻は鉱石のようだ。
それも、魔力を込めるほど硬度が増していくというシンプルだが厄介な特性を持つものだった。
恐らく、少女を解放した侵入者を排除する最後のガーディアンのような存在だったのであろう。
しかし哀れ、卓弥によって実力を見せることなく、呆気なく死んでしまった。
「………ふむ、使えそうじゃな。ルチア。その少女を拠点に連れて行け。我は使えそうなものを回収してから向かう」
「はーい!それじゃ、行きましょうか」
「………(ポカーン)」
ルチアは、とても厄介そうな魔物をたったの一撃で仕留めた卓弥を見て口を開いた状態で呆然としていた少女を連れて先に封印部屋を出る。
その後、卓弥はサソリもどきを回収する前に、少女を封じていた立方体の元になった鉱石が何かに使えないかと近づくと、立方体があった場所の真下の床に、何かの紋様が刻まれているのを見つけた。
「これは一体……?」
紋様をよく見てみると、その中央には、水滴状の何かがはまりそうな小さな穴が空いていた。
卓弥はそれが少し気になり、その紋様に魔力を流す。
多少抵抗があったが、魔力を流し終えると紋様から光が放たれる。
その後、金属同士が擦れるような音が鳴り、紋様の縁に沿って床がせり出てきた。
直径30cm程の円柱形の石柱になり、それが卓弥の腰くらいの高さまで上がると動きを止め、側面の一部が開いた。
そこにはピンボールくらいの鉱石が収められていた。
「何じゃこれは?どうやら記憶媒体のようじゃが………」
何かはわからないが、もしかすると少女に聞けば何かわかるかも知れない。
そう思いながら、卓弥はサソリもどきの死骸と、立方体だった液体を固体に変えたものを回収してから2人の後を追った。
第十話、完!
いかがだったでしょうか。
今回はユエ(仮)を助けるシーンを書きました。
サソリもどきは………あれは、不幸な事故だったね。(オイ
そして、卓弥が回収した記憶媒体。
原作を見た人なら知ってますよね。
つまりまあ、そう言う事です。
次回、3人はこの世界の真実の一部を、そして、少女の封印の真実を知ります。