第十一話を始めますギアスです。
封印部屋で吸血鬼族の元王族の少女を助けた卓弥とルチア。
少女の封印の真実を知った時、卓弥はこの世界の歪んだ歴史の一部を知ることになる………
それでは、第十一話をどうぞ。
封印部屋を出て拠点(とは言っても、自分達の荷物を置いて軽く整地をしてあるだけで大したものではない)に戻ってきた卓弥。
そこで、封印部屋で封印されていた少女と、そんな少女にメイド服を着せているルチアを見つけた。
「……いや何しとるんじゃ?」
「いやぁ〜、この子素っ裸だったんですからいつまでもそのまんまってのは可哀想だと思って、予備で持ってきていたメイド服を着せてあげてたんですよ。大きさは合わなかったですから裁縫でチャチャッと改良しましてね」
「……いい感じ」
少女本人もご満悦のようである。
それ故卓弥はそれ以上追求せず、今の今まで忘れていたことを少女に聞いた。
「……そういえばお主、名は何じゃ?我は天喰卓弥じゃ」
「ああ、そう言えば名乗ってませんでしたね。私はルチアです。チルチルちゃんでも可ですよ!」
それを聞いて、少女は「タクヤ……ルチア……」と2人の名前を交互に、まるで大事なものを心に刻みつけるように繰り返し呟いた。
その後、問われた名前を答えようとして、思い直したように卓弥にお願いした。
「……名前、付けて」
「ほえ?」
「………」
2人は少女の言葉の意味を考えた。
吸血鬼族は300年前に滅んだ一族。
つまりこの少女も300年より前に封印されていたはずである。
そんな長い間幽閉されていたなら名前を忘れてしまうのも不自然ではないが………
「もう、前の名前はいらない。……2人が付けた名前がいい」
どうやら、前の自分を捨て、新しい自分になりたい、と言うことだろう。
それを聞いて、ルチアはうーんと少女の名前を考え始めるが、それより前に卓弥が少女に問いただす。
「本当か?」
「……え?」
「本当に捨てて良い名なのか?
ルチアはその話の中の『名を捨てた』と言ったところに疑問を抱いたが、それを問う暇もなく話は続く。
「……良い。私の過去は辛いことしかなかった。だったら、そんな過去なんていらない」
「本当か?少なくとも、お前にとって良い思い出だってあるはずじゃ。お前のことを想ってくれた者もいたはずじゃ。そうでもなきゃ、こんなものはないじゃろ」
そう言いながら、卓弥は懐から、封印部屋で入手した記憶媒体を出す。
「ご主人様。何ですかそれ?」
「あの部屋から見つけた。本来は鍵になる何かをはめる必要があったようじゃが、魔力を流して強引に取り出した。これに何があるかはよくわからんが、これはお主のためになると今確信した。」
「………私の、ため?」
卓弥は、その記憶媒体に魔力を流し始める。
すると記憶媒体は起動し、周囲を淡い光で照らし出す。
そして、映像が再生されたのか、人のようなものが映し出された。
すると、少女が驚いたように目を見開き、茫然としていた。
「…おじ、さま?」
「叔父様って……!」
「……」
映し出されたのは、初老位の金髪紅眼の美丈夫だった。
すると、映像の人物はゆっくりと話し始めた。
『…アレーティア。久しい、というのは少し違うかな。君は、きっと私を恨んでいるだろうから。いや、恨むなんて言葉では足りないだろう。私のしたことは…あぁ、違う。こんなことを言いたかったわけじゃない。色々考えてきたというのに、いざ遺言を残すとなると上手く話せない。』
美丈夫は自嘲の笑みを浮かべながら、大きく深呼吸した。
心をもう一度整理するように瞑目し、一拍。
穏やかさと感謝の念を虚飾なく込めた眼差しを、こちらに向ける。
『……そうだ。まずは礼を言おう。アレーティア。きっと今、君の傍には君が心から信頼する誰かがいるはずだ。少なくとも変成魔法を会得し、真のオルクス大迷宮に挑める強者であって、私の用意したガーディアンから君を見捨てず救い出した者が。』
『変成魔法』や『真のオルクス大迷宮』等、現段階ではよくわからない言葉が聞こえたが、それでも話は続く。
『…君。私の愛しい姪に寄り添う君よ。君は男性かな?それとも女性だろうか?アレーティアにとって、どんな存在なのだろう?』
恋人だろうか?
親友だろうか?
あるいは家族だったり、何かの仲間だったりするのだろうか?
そんなふうに楽しげに弾む声音やその姿には、少女…アレーティアが語った、野心から女王を裏切った愚か者の姿は影も形もなく、ただただ姪の未来を夢想する叔父の姿だけが映っていた。
『直接会って礼を言えないことは申し訳ないが、どうか言わせて欲しい。……ありがとう。その子を救ってくれて、寄り添ってくれて、ありがとう。私の生涯で最大の感謝を、君に捧げよう』
そんな言葉を聞いたアレーティアとルチアの頭の中には疑問が溢れていた。
それなら、なぜアレーティアを封印した?
なぜ、300年間アレーティアをひとりぼっちにした?
そんな疑問が頭の中を駆け巡る中、卓弥は何も言わず、ただじっと映像の人物が語り始めるのを待った。
そして、2人の疑問の答えを、映像の人物は語り始めた。
『アレーティア。君の胸中は疑問であふれているのだろう。それとも、もう真実を知っているのだろうか。私が何故、君を傷つけ、暗闇の底へ沈めたのか。君がどういう存在で、真の敵が誰なのか』
そこから語られたのは、卓弥も予想できなかった、衝撃的な真実だった。
なんと、アレーティアは神の器として完璧な適正を有する"神子"と呼ばれる存在として生まれ、あの"エヒト"に狙われていたのだと言う。
それに気が付いたユエの叔父が、権力欲に目が眩んだ己のクーデターによってアレーティアを殺したと見せかけて奈落の底に封印し、あの部屋自体を神をも欺く隠蔽空間としたとのことだった。
そして、アレーティアの封印も、僅かにも気配を摑ませないための苦渋の選択であったのだ。
証拠になるものなんて何もなかった。
しかし、この映像の男性の眼を見て、卓弥は確信した。
この人の言っていることは真実だと。
『君に真実を話すべきか否か……とても迷ったよ。だが、神を確実に欺くためにも話すべきではないと判断した。ただの裏切り者として私を憎めば、それが生きる活力にもなるのではとも思ったんだ』
封印の部屋にも長居するわけにはいかなかったのだろう。
だから、王城でアレーティアを弑逆したと見せかけた後、話す時間もなかったに違いない。
その選択が、どれほど苦渋に満ちたものだったのか、映像の向こうで握り締められる拳の強さが示していた。
『……許してくれなどとは言わないよ。ただ……ただ、どうかこれだけは信じてほしい。たとえ君にとって無価値な真実だったとしても、知っておいてほしいんだ』
彼の表情が苦しげなものから、泣き笑いのようなものになった。
それは、ひどく優しげで、慈愛に満ちていて、同時に、どうしようもないほど悲しみに満ちた表情だった。
『愛している。アレーティア。君を心から愛している。ただの一度とて、煩わしく思ったことなどない。 娘のように思っていたんだ』
「…おじ、さま。ディン叔父様っ。私はっ、私も…」
アレーティアの感情のダムが決壊する。
私も、貴方を父のように思っていた。
その気持ちは言葉にならなかったが、ほろほろと頬を伝う涙の雫となって現れていた。
それに釣られて、ルチアも涙をこぼし、卓弥は、己の中で荒れ狂う激情を抑え込むように歯を食いしばっていた。
『守ってやれなくて、未来の誰かに託すことしかできなくて……済まなかった。情けない父親役だった……』
「そんなことっ」
目の前にあるのは過去の映像。
アレーティアの叔父の遺言に過ぎない。
でも、そんな事は関係なかった。
心から叫ばずにはいられなかったのだろう。
『傍にいて、いつか君が自分の幸せを摑む姿を見たかったよ。君の隣に立つ男を一発殴ってやるのが密かな夢だったんだ。そして、その後、酒でも飲み交わして頼むんだ。"どうか娘をお願いします"と。アレーティアが選んだ相手だ。きっと、真剣な顔をして確約してくれるに違いない』
夢見るように映像の向こう側では彼は遠くに眼差しを向ける。
もしかすると、その方向に、過去のアレーティアがいるのかもしれない。
『そろそろ時間だ。まだ話したいことも伝えたいこともあるのだが……私の生成魔法では、これくらいのアーティファクトしか創れない』
「……やっ、嫌ですっ。叔父さ お父様!」
記録できる限界が迫っているようで苦笑いを浮かべる彼に、アレーティアが泣きながら手を伸ばす。
叔父の、否、父親の深い愛情と、その悲しい程に強靭な覚悟が激しく心を揺さぶる。
言葉にならない想いが溢れ出す。
ルチアは、そんなアレーティアを泣きながら抱きしめ、卓弥もアレーティアの頭の上に手を置いた。
『私は君の傍にいられない。いる資格も、もうない。けれど、たとえこの命が尽きようとも祈り続けよう。アレーティア、私の最愛の娘。君の頭上に、無限の幸福が降り注がんことを。陽の光よりも温かく、月の光よりも優しい、そんな道を歩めますように』
「…お父様っ」
彼の視線が少しだけ彷徨う。
それはきっと、この映像をアレーティアと共に見ているであろう誰かを、アレーティアに寄り添う者を想像しているからだろう。
『私の最愛に寄り添う君。どんな形でもいい。その子を、世界で一番幸せな女の子にしてやってくれ。どうか、お願いだ。』
「……うむ。確約しよう。こやつを、こやつに牙を剥こうとする
卓弥の言葉が届くはずもない。
だが、彼は確かに聞こえたみたいに満足そうに微笑んだ。
きっと、遠い未来で自分の言葉を聞いた者がどう答えるか確信していたのだろう。
いろんな意味でとんでもなく、そして、愛情深い人だ。
映像が薄れていく。
彼の姿が虚空に溶けていく。
それはまるで、彼の魂が天に召されていくかのようだった。
そして…最後の言葉が響き渡った。
『……さようなら、アレーティア。君を取り巻く世界の全てが、幸せでありますように。』
封印部屋に泣き声が木霊する。
悲しくはある。
けれど、決してそれだけではない、温かさの宿った感涙にむせぶ声だ。
そんなアレーティアに、卓弥は声をかける。
「……お主、アレーティア、で良いのかえ?」
「……んっ、アレーティア。アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティオ・アヴァタール。叔父様……いや、お父様の……ディンリード・ガルディア・ウェスペリティオ・アヴァタールの、娘……!」
泣きながら、しかし、はっきりとした笑みと共にアレーティアはそう言い切った。
それを見て、卓弥は満足げに微笑んだ。
「そうかい。それでアレーティア。お主はどうするのじゃ?我はお主の父親と、お主を幸せにすると約束した。故にお主が幸せになるまで面倒を見る責務があるわけじゃが……」
それを聞いて、アレーティアは考えるように下を向く。
しかし、すぐに顔を上げ、卓弥を上目遣いをする。
「……タクヤに永久就職する」
「は?いやちょ待て」
「待たない」
「……我そういうの興味ないのじゃが?」
「……必ず虜にする」
「……我、待たせておる少女がおるのじゃが?」
「……大丈夫。仲良くする」
「おいなぜ舌舐めずりする?何するつもりじゃ?」
「くふふ……内緒」
「ほぉほぉほぉ!なら、ご主人様のお嫁さんってわけですね!今から奥様とお呼びしましょうか?」
「やめろルチアぶちのめすぞ!?」
裏切られた過去により、その過去を全て捨てようとした少女。
しかし、少女は過去を知り、優しい過去と共に成長することを選んだのだった。
第十一話、完!
いかがだったでしょうか?
というわけで、『吸血姫』アレーティアが仲間になりました!
奈落完全攻略までは原作と変わりませんが、その後の、番外編として書くであろうタクヤーズブートキャンプin奈落で魔改造する予定なのでお楽しみに。
次回は、3人の語らいと、ルチアの想いを書きたいと思います。