ありふれない捕食者は世界最強   作:ギアス

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ギアスです。
第十三話を始めたいと思います。
卓弥の過去を知ったルチアとアレーティア。
2人は卓弥に恋する者同士、協力して卓弥を守る事を誓う。
今回はクラスメイトサイドに戻ります。
"守護騎士"となった香織の初陣をどうか楽しんで見てください。
それでは、第十三話をどうぞ。


悪夢との訣別

卓弥とルチアがアレーティアと出会い、アレーティア封印の真実を知った日。

光輝達勇者一行は、再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。

しかし、卓弥とルチアの死を目の当たりにし、多くの生徒がその心に深く思い影を落としてしまったが故に、ほとんどの生徒がまともに戦闘できなくなってしまった。

なので、今現在【オルクス大迷宮】を訪れているのは、光輝達勇者パーティーと、檜山達小悪党組、そして大柄な柔道部の男子生徒『永山重吾(ながやま じゅうご)』が率いる男女5人のパーティーだけだった。

当然、聖教協会関係者はそんな状況にいい顔をしなかった。

実践を繰り返し、時が経てばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる、

しかし、それに猛然と抗議した者がいた。

愛子先生だ。

当時、特殊かつ激レアな天職である"作農師"だったため、農地開拓に力を入れさせるために遠征に参加できなかった愛子は、大事な生徒の1人である卓弥と、そのお付きのメイドであるルチアの死亡を知り、ショックのあまり寝込んでしまった。

『自分が安全圏でのんびりしている間に生徒が死んでしまった』『全員を日本に連れて帰ることができなくなった』と、責任感の強い愛子は、強いショックを受けたのだ。

だからこそ、戦えない生徒をこれ以上戦場に送り出すことを断じて許さなかった愛子は、己の天職の有用性を利用し、不退転の意志で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議した。

愛子との関係の悪化を避けたい教会側は、そんな愛子の抗議を受け入れた。

よって、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーと小悪党組、永山重吾のパーティーのみが訓練を継続することになった。

そんな彼等は、再び訓練を兼ねて【オルクス大迷宮】に挑むことになったのだ。

今回もメルド団長と数人の騎士団員が付き添っている。

今日で迷宮攻略6日目。

現在の階層は60階層だ。

確認されている最高到達階数まで後5階層である。

しかし、光輝達は現在、立ち往生していた。

正確には先へ行けないのではなく、何時かの悪夢を思い出して思わず立ち止まってしまったのだ。

そう、彼等の目の前には何時かのものとは異なるが同じような断崖絶壁が広がっていたのである。

次の階層へ行くには崖にかかった岩の橋を進まなければならない。

それ自体は問題ないが、やはり思い出してしまうのだろう。

特に、香織は、奈落へと続いているかのような崖下の闇をジッと見つめたまま動かなかった。

 

「香織……」

 

雫の心配そうな呼び掛けに、強い眼差しで眼下を眺めていた香織はゆっくりと頭を振ると、静かに微笑んだ。

 

「大丈夫だよ、雫ちゃん」

「そう……無理しないでね?私に遠慮することなんてないんだから」

「えへへ、ありがと、雫ちゃん」

 

そう言う香織の姿は、以前のものと様変わりしていた。

以前は神官のような青と白を基調とした、布の多い服を着ていたが、今の香織は青いドレスを思わせる布地と白銀の甲冑を合わせた、いわゆるバトルドレスのような姿をしている。

そんな彼女の腰には両刃のロングソード、左腕には小さめのラウンド・シールドが装備されている。

天職が"守護騎士"に変化した香織はその日から雫やメルド団長から剣の振り方や盾の扱い方を学び、他のクラスメイト……勇者である光輝よりもひたすらに訓練をこなしていた。

今の彼女には、高校の頃のおっとりとしたような優しげな雰囲気に変わり、凛々しく、そして頼もしさを感じる女騎士のような雰囲気があった。

そんな香織(親友)を見て、雫もまた微笑んだ。

今の香織には現実逃避や絶望はなく、一本の強い芯が通っていた。

卓弥とルチアの生存は絶望的と言うのも生温い状況だが、それでも逃避も否定もせず前に進もうとしている香織の姿に、雫は誇らしさを感じていた。

しかし、ここで空気を読まない余計な行動をとるのが勇者クオリティー。

光輝の目には、眼下を見つめる香織の姿が、二人の死を思い出し嘆いているように映った。

クラスメイトの死に、優しい香織は今も苦しんでいるのだと結論づけた光輝は香織に対してズレた慰めの言葉をかける。

 

「香織……君の優しいところ俺は好きだ。でも、仲間の、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない!前へ進むんだ。きっと、二人もそれを望んでる」

「ちょっと、光輝……」

「雫は黙っていてくれ! 例え厳しくても、幼馴染である俺が言わないといけないんだ。……香織、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」

「あはは、うん、光輝くんの言いたいことは分かったから大丈夫だよ」

「そうか、わかってくれたか!」

 

光輝の見当違い前回の言葉に、香織は苦笑いを浮かべる。

光輝の中では2人のことは既に死んだことになっている。

だから、卓弥達は生きていると話しても無駄なことは分かっているため、香織は余計な口出しはしなかった。

そんな光輝の甘いマスクと雰囲気で大体の女子生徒は1発で落ちているだろうが、香織は以前から卓弥一筋であるが故に幼馴染として大事には思っているがそれ以上の感情は抱かなかった。

 

「香織ちゃん、私、応援しているから、出来ることがあったら言ってね」

「そうだよ~、鈴は何時でもカオリンの味方だからね!」

 

光輝との会話を傍で聞いていて、会話に参加したのは中村恵里と谷口鈴だ。

二人共、高校に入ってからではあるが香織達の親友と言っていい程仲の良い関係で、光輝率いる勇者パーティーにも加わっている実力者だ。

中村恵里はメガネを掛け、ナチュラルボブにした黒髪の美人である。

性格は温和で大人しく基本的に一歩引いて全体を見ているような子だ。

谷口鈴は、身長142センチのちみっ子である。

もっとも、その小さな体の何処に隠しているのかと思うほど無尽蔵の元気で溢れており、常に楽しげでチョロリンと垂れたおさげと共にぴょんぴょんと跳ねている。

その姿は微笑ましく、クラスのマスコット的な存在だ。

 

「うん、恵里ちゃん、鈴ちゃん、ありがとう」

 

高校で出来た親友2人に、嬉しげに微笑む香織。

 

「うぅ~、カオリンは健気だねぇ~、天喰君め!鈴のカオリンをこんなに悲しませて!生きてなかったら鈴が殺っちゃうんだからね!」

「す、鈴?生きてなかったら、その、こ、殺せないと思うよ?」

「細かいことはいいの!そうだ、死んでたらエリリンの降霊術でルチアさんごとカオリンに侍せちゃえばいいんだよ!」

「す、鈴、デリカシーないよ!香織ちゃんは、二人は生きてるって信じてるんだから!それに、私、降霊術は……」

 

いつも通りの姦しい2人の光景に、香織と雫は楽しげな表情を見せる。

そんな香織に対して、誰かが後方から暗い瞳で見つめていたが、香織はそれに()()()()()無視をした。

そのあと、特に何の問題もなく歴代最高到達階層である65階層にたどり着いた。

 

「気を引き締めろ!ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

 

付き添いのメルド団長の声が響く。

光輝達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。

しばらく進んでいると、大きな広間に出たが、それと同時に何となく嫌な予感が一同を襲う。

その予感は的中した。

広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。

赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。

それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。

他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。

それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ!退路の確保を忘れるな!」

 

いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。

それに部下が即座に従う。

だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ!もう負けはしない!必ず勝ってみせます!」

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

 

龍太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。

メルド団長はやれやれと肩を竦める。

確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

そんな光輝達の影に隠れ、香織は1人淡々と魔力を練り上げる。

そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、ベヒモスが、かつての悪夢が出現する。

 

「グゥガァアアア!!!」

 

咆哮を上げ、地を踏み鳴らしながらベヒモスは光輝達を殺意を籠めながら睨みつける。

全員に緊張が走ると同時に、香織は詠唱する。

 

「白亜の城壁、その威容は難攻不落、全ての疵を、全ての痛みを、全ての怨恨を癒す理想郷となれ、"城光"」

 

その詠唱の後、香織を中心に、まるで城壁のようにも、一つの都のようにも見える、数多の光の壁が聳え立つ。

その光景に光輝達全員が驚く。

 

"守護騎士"を持つ者のみ扱うことができると言われる結界魔法"城光"。

その効果は、『使用者が守りたいと思った対象全てにあらゆる恩恵を与える』と言うもの。

今の光輝達には攻撃力上昇や防御力上昇、速度上昇、体力の少量の自動回復など、様々な恩恵が与えられている。

その状況に困惑するクラスメイト達を放って、香織は前に出て、腰につけたロングソードを鞘から引き抜き、それを真っ直ぐ、まだ遠くにいるベヒモスに突きつける。

 

「もう誰も奪わせない。貴方を踏み越えて、私は彼等を助けに行く」

 

その表情は、まさに"守護騎士"と呼ぶにふさわしい、とても覚悟がこもったものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ベヒモスを徐々に追い詰め、途中でダメージを食らっても香織が的確に回復魔法を使ったため戦闘不能者は出ず、そんな香織も、ロングソードとラウンド・シールドを上手く扱い接近戦に参加して、ベヒモスにダメージを与えるのに一躍買った。

最後は後衛の術者5人による炎系上級攻撃魔法"炎天"によってベヒモスを焼き尽くし倒した。

 

「か、勝ったのか?」

「勝ったんだろ……」

「勝っちまったよ……」

「マジか?」

「マジで?」

 

皆が皆、呆然とベヒモスがいた場所を眺め、ポツリポツリと勝利を確認するように呟く。

同じく、呆然としていた光輝が、我を取り戻したのかスっと背筋を伸ばし聖剣を頭上へ真っ直ぐに掲げた。

 

「そうだ!俺達の勝ちだ!」

 

キラリと輝く聖剣を掲げながら勝鬨を上げる光輝。

その声にようやく勝利を実感したのか、一斉に歓声が沸きあがった。

男子連中は肩を叩き合い、女子達はお互いに抱き合って喜びを表にしている。

メルド団長達も感慨深そうだ。

 

そんな中、未だにボーとベヒモスのいた場所を眺めている香織に雫が声を掛けた。

 

「香織?どうしたの?」

「えっ、ああ、雫ちゃん。……ううん、何でもないの。ただ、ここまで来たんだなってちょっと思っただけ」

 

苦笑いしながら雫に答える香織。

かつての悪夢を倒すことができるくらい強くなったことに対し感慨に浸っていたらしい。

 

「そうね。私達は確実に強くなってるわ」

「うん……雫ちゃん、もっと強くなれば、私も2人と……」

「そうね。そのためにも、これからも頑張りましょ」

「えへへ、そうだね」

 

先へ進める。

それは2人の安否を確かめる具体的な可能性があることを示している。

香織は2人の死を信じてはいないが、もしかしたら本当に……というIFの可能性の恐怖に、つい弱気が顔を覗かせたのだろう。

それを察して、雫がグッと力を込めて香織の手を握った。

その力強さに香織も弱気を払ったのか、笑みを見せる。

そんな二人の所へ光輝達も集まってきた。

 

「二人共、無事か?香織、最高の治癒魔法だったよ。それに最初のバフの魔法もすごかったし、香織がいれば何も怖くないな!」

 

爽やかな笑みを浮かべながら香織と雫を労う光輝。

 

「ええ、大丈夫よ。光輝は……まぁ、大丈夫よね」

「うん、平気だよ、光輝くん。皆の役に立ててよかったよ」

 

同じく微笑をもって返す二人。

しかし、次ぐ光輝の言葉に少し心に影が差した。

 

「これで、天喰達も浮かばれるな。自分を突き落とした魔物を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」

「「……」」

 

光輝は感慨に耽った表情で遠くを見ており、雫と香織の表情には気がついていない。

どうやら、光輝の中で卓弥を奈落に落としたのはベヒモス()()ということになっているらしい。

確かに間違いではない。

直接の原因はベヒモスの固有魔法による衝撃で橋が崩落したことだ。

しかし、より正確には、撤退中の卓弥に魔法が撃ち込まれてしまったことだ。

今では、暗黙の了解としてその時の話はしないようになっているが、事実は変わらない。

だが、光輝はその事実を忘れてしまったのか意識していないのかベヒモスさえ倒せば卓弥達は浮かばれると思っているようだ。

基本、人の善意を無条件で信じる光輝にとって、過失というものはいつまでも責めるものではないのだろう。

まして、故意に為されたなどとは夢にも思わないだろう。

しかし、香織は気にしないようにしていても忘れることはできない。

檜山のせいで卓弥達は撤退できず奈落に落ちた。

卓弥達が生きていると信じているが、檜山のことはどうしても許せそうにない、

だからこそ、檜山を無条件で許し、なかったことにしている光輝の言葉に少しショックを受けてしまった。

雫が溜息を吐く。

思わず文句を言いたくなったが、光輝に悪気がないのはいつものことだ。

むしろ精一杯、卓弥達のことも香織のことも思っての発言である。

ある意味、だからこそタチが悪いのだが。

それに、周りには喜びに沸くクラスメイトがいる。

このタイミングで、あの時の話をするほど雫は空気が読めない女ではなかった。

若干、微妙な空気が漂う中、クラス一の元気っ子が飛び込んできた。

 

「カッオリ~ン!」

 

そんな奇怪な呼び声とともに鈴が香織にヒシッと抱きつく。

 

「ふわっ!?」

「えへへ、カオリン超愛してるよ~!カオリンが援護してくれなかったらペッシャンコになってるところだよ~」

「も、もう、鈴ちゃんったら。ってどこ触ってるの!」

「げへへ、ここがええのんか?ここがええんやっへぶぅ!?」

 

鈴の言葉に照れていると、鈴が調子に乗り変態オヤジの如く香織の体をまさぐる。

それに雫が手刀で対応。

些か激しいツッコミが鈴の脳天に炸裂した。

 

「いい加減にしなさい。誰が鈴のものなのよ……香織は私のよ?」

「雫ちゃん!?」

「ふっ、そうはさせないよ~、カオリンとピーでピーなことするのは鈴なんだよ!」

「鈴ちゃん!?一体何する気なの!?」

 

雫と鈴の香織を挟んでのジャレ合いに、香織が忙しそうにツッコミを入れる。

いつしか微妙な空気は払拭されていた。

 

これより先は完全に未知の領域。

光輝達は過去の悪夢を振り払い先へと進むのだった。




第十三話、完!
いかがだったでしょうか?
今回は香織の"守護騎士"としての初戦闘を描きました。
………まあ、ほとんど原作と同じ展開なので最初以外は丸々カットなんですけど………
ちなみに、今回香織が使った"城光"の元ネタは、某マシュマロな後輩の盾の宝具です。
衣装も某腹ペコ王さんがモデルです。
次回は卓弥達のサイドに戻ります。
エセアルラウネの運命やいかに………
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