ありふれない捕食者は世界最強   作:ギアス

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第2章、スタート!!
というわけで、ギアスです。
第2章の始まりとなる第十九話を始めたいと思います。
人型兵器として生まれた最強の捕食者『天喰卓弥』。
『解放者』の意思を継ぐ希代の錬成師『ルチア・オルクス』。
神に狙われ、300年も封印されていた吸血姫『アレーティア』。
3人は神殺しと日本に帰ること、そして神の捕食(卓弥の我儘)を目的に、旅に出る。
というわけで、今回は原作での第2ヒロインであるあのウサギさんの登場です。
それでは、第十九話を、どうぞ。


第2章 ウサギと樹海と峡谷と
大峡谷のウサギさん


僅かな光もない暗闇に包まれた洞窟の中。

小さな虫の這いずる音すらも感じられないひっそりとしたその空間は、人の手が入っている様には見えない、凸凹とした極めて自然的、だが、自然的でありながら出入り口が存在しない閉ざされた空間であると言う極めて不自然な空間だった。

自然的であろうが偶発的であろうが、地中にエアポケットが出来るのはあり得ない話ではないが、今回のこれが不自然であるというのは、洞窟の中央の地面に刻まれた、複雑にして精緻な、円陣に囲われた幾何学模様……魔法陣が知らしめていた。

現代の魔法に携わる者が、この直径3メートルほどの魔法陣を見たのなら、驚愕に目を剝くか、場合によっては卒倒するだろう。

国宝としても扱われそうなほど壮麗だが、埃に塗れて薄汚れ、なんとも物悲しげな雰囲気を漂わせている魔法陣だが、突然変化が現れる。

魔法陣が刻まれた溝に沿って、僅かに虹色の光が走り始める。

初めは蛍火のように儚く仄かに、そして次第に強く輝きを増していく。

そして、光が爆ぜる。

鮮やかな虹色の魔法陣を燦然と輝かせ、洞窟の闇を薙ぎ払っていく。

神秘的というべき壮麗な光景。

この場に立ち会う者がいたなら、きっと超常的存在の顕現をイメージし、その身を震わせ瞠目するだろう。

やがて光が宙に溶け込むように霧散していき、魔法陣に人影が3つ見え始めた時、木霊したのは……

 

「ここは、隠し通路かいな?」

 

老人を思わせる口調をした男の声だった。

完全に光が収まり暗闇に戻った洞窟内で、キョロキョロと周囲を見渡しているのは、異世界【地球】からの来訪者にして、全世界で最強の"捕食者"であろう男『天喰卓弥』だった。

全100階層からなるとされている【オルクス大迷宮】の更に100階層も下にある最深部、大迷宮の創始者にして、この世界【トータス】で信仰されている神に反逆する者"解放者"オスカー・オルクスの隠れ家から、地上に出られるはずの魔法陣で転移してきたのだ。

 

「まあ、ですよね。隠れ家なのに隠してないなんて、そんなことあるわけないですよね」

「……ん……隠すのが普通」

 

そう話す2人の少女。

片方は、"解放者"オスカー・オルクスがとった最初で最後の弟子とされる『ルース・オルクス』の子孫であり、天才美少女錬成師である『ルチア・オルクス』。

もう片方は、少し前まで奈落で封印されていたところを2人に助けられ、自分が封印される直接的な原因になった神に復讐を誓っている吸血鬼のお姫様『アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティオ・アヴァタール』だ。

 

周囲には緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、3人は暗闇を問題としないので、道なりに進むことにした。

途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。

一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。

外の、陽の光だ。

卓弥とルチアはこの数ヶ月、アレーティアに至っては300年間、求めてやまなかった光。

3人は、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。

それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。

 

近づくにつれ徐々に大きくなる光。

外から風も吹き込んでくる。

奈落のような澱んだ空気ではない。

ずっと清涼で新鮮な風だ。

卓弥は、ヴァルマキアでも何度か"空気が旨い"という感覚を感じてきたが、今回のものは、なぜか初めて感じた時と同じぐらい"空気が旨い"と感じた。

 

そして、3人は同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。

 

地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場。

断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。

深さの平均は1・2km。

幅は900mから8km。

西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

【ライセン大峡谷】と。

 

卓弥達は、その【ライセン大峡谷】の谷底にある洞窟の入口にいた。

地の底とはいえ頭上の太陽は燦々さんさんと暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。

たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。

呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていたルチアとアレーティアの表情が次第に笑みを作る。

無表情がデフォルトのアレーティアでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいて、卓弥も薄く笑みを浮かべている。

 

「……戻って…来たんです……よね?」

「……んっ」

 

ルチアとアレーティアは、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

「いよっっっしゃあぁぁぁぁぁ!!戻ってきたぁぁぁ!世界よ!!私は帰ってきたぞぉぉぉぉぉ!!」

「んっーー!!」

「……ここは【ライセン大峡谷】か?なんとも厄介な場所に出たのぉ……まあ、脱出できたことに変わりはないか……」

 

小柄なアレーティアを抱きしめたまま、ルチアはくるくると廻る。

しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。

途中、地面の出っ張りに躓つまずき転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、2人してケラケラ、クスクスと笑い合う。

卓弥はそんな2人を微笑ましそうに見つめながら周囲を見渡す。

 

ようやく二人の笑いが収まった頃には、すっかり……

魔物に囲まれていた。

魔物達の唸り声が四方八方から響く中、卓弥は周囲を警戒しながら2人に話しかける。

 

「……さてと、確かここは、魔法が使えない場所だと記憶しているが?」

 

日本に帰る方法を探して、本を読み漁ったり座学に励んでいた卓弥は、【ライセン大峡谷】最大の特徴をしっかり記憶していた。

 

「……分解される。でも力づくでいく」

 

【ライセン大峡谷】で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。

もちろん、アレーティアの魔法も例外ではない。

しかし、アレーティアはかつて世界最強の一角として周知されていた吸血姫であり、内包魔力は最高位である上、奈落での拷問(特訓)で魔法効率を昔以上に効率化しているので今まで以上に強力かつ沢山の魔法を放てる。

おまけに、今は外付け魔力タンクである"魔晶石シリーズ"を所持している。

つまり、大峡谷の特性を以てしても瞬時に分解されないほどの大威力を以て魔法を放ち、殲滅してしまえばいいというわけだ。

ふんすっと鼻息も荒く、いかにも脳筋な発想を口にするアレーティアに、卓弥はジト目を向けながら尋ねる。

 

「力ずく……効率はどうなんじゃ?」

「……ん……十倍くらい」

 

どうやら、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。

射程も相当短くなるようだ。

 

「……アレーティア、後方待機。身を守ることだけを考えよ。ルチア、我と一緒に殲滅。10発までなら発砲して良い」

「ラジャです!」

「うっ……でも」

「適材適所じゃ。ここは魔法使いにとっては鬼門じゃろ?任せよ」

「ん……わかった」

 

アレーティアが渋々といった感じで引き下がる。

せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。

少し矜持が傷ついたようだ。唇を尖らせて拗ねている。

そんなアレーティアの様子に苦笑いしながらルチアはおもむろに双黒銃を発砲した。

相手の方を見もせずに、ごくごく自然な動作でスっと銃口を魔物の1体に向けると、これまた自然に引き金を引いたのだ。

 

あまりに自然すぎて攻撃をされると気がつけなかったようで、取り囲んでいた魔物の1体が何の抵抗もできずに、その頭部を爆散させ死に至った。

辺りに銃声の余韻だけが残り、魔物達は何が起こったのかわからないというように凍り付いている。

 

「……ん〜なるほど。確かに十倍近い魔力を使えば、ここでも"纏雷"は使えますね。」

「じゃな。最も、無限の魔力を持つ我なら、魔法を撃つとき『ちょっと面倒』程度でしかないのじゃがな」

 

未だ凍りつく魔物達に、2人は背中合わせになり魔物達に視線を向ける。

 

「さて、地上の魔物がどれぐらいか……試させてもらおうか?」

「さあ皆さん。あと9発分の的と私のサンドバッグの代わりになってくださいな♪」

 

卓弥は獣を思わせる前傾姿勢をとり、ルチアは左腕を前に伸ばし、右手が顔の横に来るような構え……ガン=カタの構えをとる。

そして、戦闘態勢を整えた2人から、猛烈な殺気が溢れ出る。

そんな2人の眼には……『全てを殺し、喰らい尽くす』……そんな捕食者の目をしていた。

敵としてではなく、餌としてみる眼。

そんな眼で見られていると気づいた周囲の魔物達は、気がつけば一歩後退っていた。

本能で感じたのだろう。

自分達が敵対してはいけない"化け物"を相手にしてしまったことを。

常人なら其処にいるだけで意識を失いそうな凄絶なプレッシャーが辺り一帯を覆う中、遂に魔物の1体が緊張感に耐え切れず咆哮を上げながら飛び出した。

 

「ガァアアアア!!」

 

ザシュッ!

 

しかし、ほぼ同時に卓弥が前に飛び出し、刃物のような爪を魔物の首に振り下ろし、死んだことすら認識させずに首を切断する。

飛び出した勢いのまま魔物の骸はズザザザと力なく地面を滑る。

そんな仲間の末路を見た魔物達は全員卓弥に恐怖の感情を抱くが、それでも前列にいた3体の魔物がその恐怖を押し殺し、背中を見せた卓弥に跳びかかる。

 

ドパンッ!

 

……もっとも、響き渡った1()()()の銃声と共に走った()()()()()が、避けるどころか反応すら許さずに3体の魔物の頭部を吹き飛ばしたが。

ルチアは、新たに体得した技術"神速撃ち(クイックドロウ)"により、ルチアは1発分の銃声が響く間に片手で6発、合計で12発の弾丸を瞬時に撃ち出すことができる。

よほど反応速度が速い存在でなければ、ルチアの弾丸を回避するなど不可能だ。

そこから先は、もはや戦いではなく蹂躙。

魔物達は、ただの1体すら逃げることも叶わず、卓弥に引き裂かれ、ルチアの弾丸に貫かれ、双黒銃で切り刻まれる。

魔物達は、まるでそうあることが当然の如く骸を晒していく。

戦い始める前はうるさいほど響いていた魔物の雄叫びも、今となっては殆ど無くなっていた。

辺り一面が魔物達の屍で埋め尽くされるのに3分もかからなかった。

戦闘態勢を解いた卓弥は、それでも周りに敵はいないかと視線をキョロキョロと見渡す。

それを尻目に双黒銃をしまうルチア。

しかし、彼女は首を僅かに傾げながら周囲の死体の山を見ていた。

その傍に、トコトコとアレーティアが寄って来る。

 

「……ルチア。どうしたの?」

「いや、え〜と……ライセン大峡谷の魔物と言えば相当凶悪って話でしたから、あまりに拍子抜けで………」

「あのなぁ、奈落の魔物と地上の魔物を比較しても、比較対象が悪すぎるわ。第一、地上の魔物が奈落の魔物と同等の力なら、我らみたいな実力者はともかく、他の人間は瞬く間に蹂躙されておるわ」

「あぁ、そうですね。……まあ、取り敢えず私達も強くなったってことでいいですよね!」

 

そう言ってルチアは肩を竦める。

そして卓弥は、魔物の素材が何かに使えないかと殺した魔物達の剥ぎ取りをはじめ、2人はそれのサポートをした。

やがて、全ての魔物の骸が骨だけになり、ルチアが持っていた"宝物庫"に素材をぶち込んだ頃、3人は話し合いをしていた。

 

「さてと、この絶壁、登ろうと思えば登れるじゃろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所じゃ。せっかくじゃし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

「……なぜ、樹海側?」

「峡谷抜けて、準備もなしに砂漠横断はキツいものがあるじゃろ?樹海側なら街も近そうじゃし、なくても野宿しやすい」

「……確かに」

「それじゃあ、それでいきましょうか」

 

卓弥の提案に、2人も頷いた。

魔物の弱さから考えても、この峡谷自体が迷宮というわけではなさそうだ。

ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。

今の自分たちならば絶壁を超えることは可能だろうが、どちらにしろ【ライセン大峡谷】は探索の必要があったので、特に反対する理由もない。

ルチアは、右手の中指にはまっている"宝物庫"に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪を取り出す。

メイド服を着ているにも関わらず颯爽と乗り込み、その後ろにアレーティアが横乗りしてルチアの腰にしがみついた。

そして魔力を流し込み、魔力駆動二輪を発進させた。

……卓弥?

普通に魔力駆動二輪と並走してますが何か?

 

 

【ライセン大峡谷】は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。

そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。

迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動二輪を走らせていく。

車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので、普通ならオフロード仕様でもないと辛い谷底の道も実に軽快な道のりになっている。

 

「ふぁ〜!風が気持ち良いですね〜」

「……ん。すごく」

 

バイクに乗る2人はそんなふうに魔力駆動二輪で風を切る感覚や、太陽の光や土の匂い混じりの空気を満喫していた。

そしてそんな2人を見ながら、卓弥はフッと笑みを浮かべていた。

……しかし、そんな風に気配を隠す気もなく進んでいく3人を襲おうとする魔物は1体もいなかった。

それもそのはず。

先程の蹂躙でこの辺りの魔物の実力を見極めた卓弥が周囲に殺気を放ち、魔物達を追い払っていたのだ。

 

しばらく魔力駆動二輪を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。

中々の威圧感である。

少なくとも先程相対した谷底の魔物や、卓弥が感じ取っていた魔物達とは一線を画す存在のようだ。

もう30秒もしない内に会敵するだろう。

魔力駆動二輪を走らせて、大きくカーブした崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。

かつて奈落で見たティラノモドキに似ているが、それとは異なり頭が2つある。

双頭のティラノサウルスモドキだ。

だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。

思わぬ人物の登場に、ルチアは魔力駆動二輪を止め、卓弥も立ち止まる。

 

「……あれは何じゃ?」

「……兎人族?」

「なんでこんなところに?兎人族が谷底を住処にしてるなんて聞いたことありませんよ?」

「……犯罪者として落とされた?悪ウサギ?」

「いやいや、そんな古臭いこと今時やりますかねぇ……?」

『……悪ウサギ、か……』

 

卓弥は今なおこちら向かって逃走してきている兎人族の少女を観察する。

 

『仮にそうだとすると、同族との縁は既に切れてると見て良い……つまりあの兎人族に"あのお願い"をしても、他の亜人や同族が絡んでくる可能性も低い見て良いか………?』

 

そんなふうに考え込んでいると、どうやらウサミミ少女が3人を発見したらしい。

双頭ティラノに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のまま卓弥達を凝視している。

そして、再び双頭ティラノが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出した。……卓弥達の方へ。

それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊し卓弥達に届く。

 

「みづけだぁ!!やっとみづけましだよぉ〜!だずげでぐだざ~い!ひぃいいい、死んじゃう!死んじゃうよぉ!だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

滂沱の涙を流し、顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。

そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。

このままでは、卓弥達の下にたどり着く前にウサミミ少女は喰われてしまうだろう。

 

「……"やっとみつけた"?どういうことでしょうか?私たちあの兎人族とは初対面な筈ですよね?」

「……ん。その筈」

「まあ、直接聞き出せばよかろう。お主らはひとまずここに居れ」

 

そう言いながら、卓弥は両足に力を込めながら曲げ、そのまま跳躍し、一瞬でウサミミ少女の近くに行く。

双頭ティラノが逃げるウサミミ少女の向かう先に、跳んできた卓弥を見つけ、殺意と共に咆哮を上げた。

 

「「グゥルァアアアア!!」」

「ちと黙れ」

 

双頭ティラノの咆哮に顔を顰めながら、卓弥は右腕をバリスタのような形に変形させる。

それとほぼ同じタイミングで、双頭ティラノがウサミミ少女に追いつき、片方の頭がガパッと顎門を開く。

ウサミミ少女はその気配にチラリと後ろを見て目前に鋭い無数の牙が迫っているのを認識し、『ああ、ここで終わりなのかな……』とその瞳に絶望を写した。

 

が、次の瞬間、

 

「"爪弾"」

 

ビュガッ!!

 

弓矢にも似た風を切る音が峡谷に響き渡り、恐怖にピンと立った二本のウサミミの間を1本の"(爪弾)"が通り抜けた。

そして、目前に迫っていた双頭ティラノの口内を突き破り後頭部を粉砕しながら貫通した。

力を失った片方の頭が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。

双頭ティラノはバランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った。

その衝撃で、ウサミミ少女は再び吹き飛ぶ。

狙いすましたように卓弥の下へ。

 

「きゃぁああああー!た、助けてくださ~い!」

 

卓弥に向かって手を伸ばすウサミミ少女。

その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。

卓弥はそんなウサミミ少女の状態も気にせず受け止め、その勢いのまま双頭ティラノに、バリスタのような形から長い爪を生やした状態にした右腕を振り下ろす。

その攻撃を受けた双頭ティラノは、3本の線が走り、正面から縦に4等分され、肉のスライスになりながら絶命した。

そして卓弥はウサミミ少女を脇に抱えながら着地し、ルチアとアレーティアが魔力駆動二輪に乗って近くに来た。

 

「ご主人様〜?その子は大丈夫でしたか?」

「ああ、問題ないはずじゃ。大丈夫か?意識はあるか?」

「う、うぅ〜。た、助かりましたぁ〜。あのまま私モシャモシャ食べられるのかと…ってあぁああ!!は、早く!早く逃げないとダイヘドアに食べられちゃいますぅ〜!!」

 

3人はそんなふうに騒ぐウサミミ少女を観察する。

白髪碧眼のかなり整った容姿をした美少女である。

今現在は涙や鼻水、土埃で汚れているものの、並みの男なら、例え汚れていても堕ちたかもしれない。

 

「……ダイヘドアがあの2つ首のことなら、今あそこで死に晒しとるぞ?」

 

ウサミミ少女は、卓弥のその言葉に思わず「へっ?」と間抜けな声を出し、おそるおそるの脇の下から顔を出してティラノ…"ダイヘドア"の末路を確認する。

 

「し、死んでます…ダイヘドアをこんなあっさり…」

 

ウサミミ少女は驚愕も顕に目を見開いている。

呆然としたままダイヘドアの死骸を見つめ硬直しているウサミミ少女。

そして卓弥は少女を下ろしながら思考する。

 

『とりあえず、これで恩は売れた筈。早速交渉に  

 

そう思いながら少女に話しかけようとした卓弥。

しかし、開きかけたその口は……

 

「助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの1人、シアといいます!取り敢えず、私の仲間も助けてください!ものすっごくお願いしますっ」

 

直後に続いた中々に図々しい言葉を聞いてすぐに閉じた。

罪人ならば仲間は居ない筈。

つまり仲間、と言う単語が出た時点で卓弥の目論見は外れ、面倒な事になりそうな流れが出来ていた。




第十九話、完!
いかがでしたでしょうか?
ようやく原作での第二のヒロイン、シアを出すことができました。
今回の彼女は、とある漫画の特殊な体技をモチーフにした体技を使えるよう強化を施します。
何がモチーフかは、みなさん想像してみてください。
それと、今回も遅れて申し訳ありません。
正直、これからの投稿頻度もこんな感じかもしれません。
それでも良いという人は、これからも根気良くこの作品に付き合ってくださると嬉しいです。

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