ありふれない捕食者は世界最強   作:ギアス

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ギアスです。
第六話を始めたいと思います。
【オルクス大迷宮】での実戦訓練の前日の夜、香織と話し合った卓弥。
香織が夢で見た不吉な予感、卓弥も気付けなかった悪意が迫る中、とうとう実戦訓練が始まる……!
それでは、第六話をどうぞ。


戦闘訓練

翌朝、まだ日が昇って間もない頃、卓弥達は【オルクス大迷宮】の正面入り口がある広場に集まっていた。

誰もが少しばかりの緊張と未知への好奇心を表情に浮かべる中、卓弥は視線の先のオルクス大迷宮の入り口を見て少し興が削がれる。

というのも、大迷宮の入口と言えば奥がどうなっているかわからない不気味な洞窟のイメージがあったのだが、実際の迷宮の入り口は、博物館の入場ゲートのようなしっかりした入り口であり、どこぞの役所のような受付窓口まであったのである。

制服を着た受付嬢が迷宮への出入りをチェックしている。

入り口付近の広場には露店が所狭しと並んでおり、まるでお祭り騒ぎだ。

まあ、地球でも標高数千メートルの山を登ったりするし、どちらも大して変わらない。

卓弥が迷宮の入り口一点を見つめながら、メルド団長の後をついていく。

迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。

縦横5メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやりと発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。

緑鉱石と言う特殊な鉱物が多数埋まっているらしい。

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。

しばらく何事もなく進んでいると、高さ7,8メートルぐらいのドーム状の広間に出る。

と、その時、物珍し気に辺りを見渡している一行の前に壁の隙間と言う隙間から灰色の毛玉が湧き出てくる。

 

「よし、光輝たちが前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうから、準備しておけ!あれはラットマンと言う魔物だ。すばしっこいが、大した敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物たちが結構な速度で飛び掛かってきた。

灰色の体毛に赤黒い目。

名の通りねずみのような見た目をしているが、二足歩行で上半身がムキムキ。

見せびらかす為かのように、8つに割れた腹筋と膨れ上がった胸筋には毛が生えていない。

正面に立つ光輝達、特に雫の頬がひきつっている。

よほどラットマンが気持ち悪いようだ。

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。

その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の『中村恵里(なかむら えり)』とロリ元気っ子の『谷口鈴(たにぐち すず)』が詠唱を開始し、魔法を発動する準備に入る。

卓弥は知らないが、訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

光輝は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい(卓弥は普通に見えている)速度で振るって数体をまとめて葬る。

彼の持つ剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、名称は『聖剣』である。

光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという才能を誇る。

龍太郎は、空手部らしく天職が"拳士"であることから籠手と脛当てを付けている。

これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。

龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。

無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

雫は、サムライガールらしく"剣士"の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。

その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

だが、魔物を切り裂いた瞬間の雫の姿を見て卓弥は小さく目を細める。

そうしていると後衛3人の詠唱が響き渡る。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ、"螺炎"」」」

 

同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。

「キィィッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

気がつけば、広場のラットマンは全滅していた。

どうやら一階層の魔物では召喚組相手には弱すぎるらしい。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ!次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。

しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。

頬が緩む生徒達に卓弥は頭に手を当て溜息を吐き、ルチアも苦笑いする。

そして、「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

メルド団長の言葉に香織達後衛組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめてしまう。

その後、ある程度進んでいると、今度は卓弥とルチアの番になったようで、前衛組と交代するように2人前に出るのだが、

 

「……おい、八重樫」

「?なに、天喰君」

 

卓弥はすれ違いざまに雫に声をかける。

 

「お主、大丈夫なのか?」

「……え?なんの事?問題ないけど………」

 

ふいに紡がれた言葉に一瞬言葉に詰まるが雫は何でもないように問い返す。

その雫に卓弥はちらりと視線を向け、

 

「………いざと言うときは誰かを頼れ。お主だけしかここにおらんわけではないのだからな」

 

それだけを言って卓弥は前に出る。

そこにラットマンが飛び掛かってくるが、卓弥はなんてことないように剣でラットマンを真っ二つに斬り裂く。

その光景に生徒達が目を見開く中、卓弥の背後からラットマンが飛び掛かるが、卓弥はその頭を掴み上げ、そのまま加減もせず地面に叩きつける。

ラットマンの頭部は卓弥の力に耐えられず粉砕され、『中身』が周囲に飛び散る。

その凄惨な光景に生徒たちがひっ、と声を漏らすが、卓弥は呆れた様子で残った死体を放る。

 

『さっきまで己がやっとった事と変わらんと言うのに、何を怯えることがあるのか………』

 

そう考えながら卓弥は残ったラットマン達に視線を向ける。

残ったラットマンは9体。

ラットマン達はそのまま卓弥に襲い掛かるが、その前にルチアが立ちはだかり、両手に持つ()()を正面から襲い掛かる5体のラットマン達に向け、

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

連続で引き金を引き、ラットマン達の頭部に風穴を開ける。

そして、左右から2匹ずつ囲うように襲ってきたラットマン4体を、()()に付いた刃で切り裂く。

その光景を見て生徒達は呆然とする。

正確に言うと、"錬成師"の天職持ちであるルチアが魔物を瞬殺したことではなく、ルチアがその両手に持つ……

 

「ふぃ〜結構()()の扱いにも慣れてきましたよ。にしてもこれすごいですね。魔法の適性がなくても遠距離攻撃できるなんて。おまけに魔法よりもずっと早く攻撃できますし」

「そうじゃろ?"錬成師"なら作れると思ったが、やはり作らせて正解じゃったな

 

 

 

 

 

その銃を」

 

黒い武骨なデザインをしており、銃身の下の部分に刃物をつけた拳銃にである。

 

"錬成師"という戦闘向けではない天職を持つルチアのために、卓弥が知識を貸し、ルチアが造った(造らされた)もの。

それこそが、現段階でトータスにおいて1つだけの、2丁1組の銃型アーティファクト『双黒銃』である。

従来の銃としての使い方だけでなく、銃身に刃物をつけることである程度の近接戦闘も可能となっている。

しかし、双黒銃を完成させたのは、ルチアの特訓が始まってから5日後。

つまり、完成してから、双黒銃の扱いを訓練するための時間は9日間しかなかった。

9日で、トータスの人間どころか、地球の人間でも触る機会の少ない銃をここまで上手く扱えるのは、本人がいつも口にしているように、ルチアが天才だからであろう。

雑談をしながら、双黒銃のマガジン(双黒銃はオートマチックタイプの銃)を交換するルチアや、倒したラットマン達の魔石を回収する卓弥を見て、騎士団達も、魔物を瞬殺した2人を感心したように見ていた。

 

 

 

そこからも特に問題もなく交代をしながら戦闘を繰り返し、一行は目的地の20階層にたどり着いた。

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。

だが、それを抜きにしても普通なら迷宮内のトラップなどに注意を払う必要があり、ここまでスムーズに降りることはできない。

卓弥達がそれをできているのは、騎士団員たちが罠を見破るフェアスコープと言う魔道具と己の経験を駆使して罠を見破っているからだ。

そうしてたどり着いた二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。

この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

そこに行けば今日の訓練は終わりだ。

神代の時代には転移魔法なんて便利なものがあったようだが今は存在しない為、地道に帰らなければならないのだが。

一行が少し弛緩した空気の中歩いていくと、先頭を歩いていた光輝達やメルド団長が立ち止まる。

瞬間、卓弥は握り拳を作り、ルチアも双黒銃を取り出す。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛んだ直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。

壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。

そして胸を叩きドラミングを始めた。

どうやら擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。

光輝と雫が取り囲もうとするが、無数の鍾乳石のせいで足場が悪く思うように囲むことができていない。

龍太郎を抜けないと感じたロックマウントが後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸い込むと、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体を振動させるような強烈な咆哮が発せられる。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

その咆哮を喰らった光輝、龍太郎、雫の体が硬直してしまう。

ロックマウントの固有魔法"威圧の咆哮"。

魔力を載せた咆哮で相手を麻痺させるものだ。

3人が硬直した瞬間、ロックマウントは突撃はせずにそのまま横に跳び、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。

それはそのまま前衛の頭上を越えて岩が後衛の香織たちに迫る。

香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けるが、次の瞬間、衝撃的な光景に思わず硬直する。

投げられた岩もロックマウントだったのだ。

空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。

さながらル○ンダイブだ。

「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。

しかも、妙に目が血走って鼻息が荒い。

香織に恵理に鈴が一斉にヒィ!と声を上げて魔法を中断させてしまう。

 

「何やっとるのじゃ未熟者。戦闘中に油断するな」

「まあ、気持ちはわからなくないですけどね」

 

卓弥が香織達とダイブ中のロックマウントの間に割り込んでロックマウントを叩き落とし、ルチアが3人の様子を苦笑いと共に共感しながら銃撃で蜂の巣にする。

 

「あ、ありがとう2人とも」

 

香織はそう謝り、他の2人も感謝していたが、相当ロックマウントが気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。

そんな様子を見てキレる若者が一人。

正義感と思い込みの塊、我らが勇者、天之河光輝である。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。

彼女達を怯えさせるなんて!と、何とも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。

それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ、"天翔閃"!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。

曲線を描く極太の斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁に直撃、破壊し尽くしてようやく霧散する。

ふぅ~、と息を吐いてイケメンスマイルで香織たちのほうに向きなおるのだが、メルド団長の拳骨が炸裂した。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が!気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうすんだ!」

 

光輝は叱られ、香織達は苦笑をしながら光輝を慰めていると、不意に香織が破壊された壁のほうに視線を向ける。

 

「あれ、何かな?キラキラしてる……」

 

香織の視線を追って全員が視線を向ければ、そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。

香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、ルチア曰く宝石の原石で、特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気で、加工してアクセサリーにして贈ると大変喜ばれるらしい。

また求婚の際に選ばれる鉱石のトップ3に入るとか。

 

「素敵……」

「あんな石ころがのぉ………」

「まあ、ご主人様はそう言うの興味なさそうですしね」

 

香織はメルド団長の簡単な説明を聞き頬を染めながら更にうっとりとして、誰にも気づかれないようちらりと卓弥を見る。

しかし、卓弥は凄くどうでもよさそうにグランツ鉱石を眺め、ルチアはそんな卓弥苦笑を浮かべていた。

 

「だったら俺たちで回収しようぜ!」

 

すると唐突に檜山がグランツ鉱石の元に向かっていき、壁を登っていく。

 

「待て!勝手な事をするな!まだ安全確認も済んでいないんだぞ!」

 

メルド団長が慌てて檜山を止めようとするが、彼はそれを聞こえないふりをして鉱石に手を伸ばす。

メルド団長が止めようと檜山を追いかけるが同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認して一気に青褪めた。

 

「団長!トラップです!」

「ッ!?」

 

しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

檜山が鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がり、瞬く間に部屋全体に広がり輝きを増す。

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長が叫び、全員が部屋の外に向かって走ろうとするが、一足遅かった。

部屋に光が満ち、その場の全員を飲み込んだ後、一瞬の浮遊感が襲った次の瞬間、床に叩きつけられる。

卓弥はそのまま着地していたが。

彼らが転移した場所は巨大な石造りの橋の上だった。

長さはざっと100メートルはありそうだ。

天井までの高さは20メートルはあるだろう。

橋の下は川などなく、全く見えない深淵の如き闇が広がっていた。

橋の横幅は10メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく奈落に真っ逆さまだ。

卓弥達はその巨大な橋の中程にいた。

橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

「お前たち、すぐに立ち上がってあの階段の場所まで行け!急げ!」

 

メルドの号令に生徒達は慌てふためきながら動き出す。

だが、そうはさせないと言わんばかりに階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量のガイコツの魔物…トラウムソルジャーが溢れるように出現した。

更に、通路側にも一つの魔法陣が現れ、そちらからは一体の巨大な魔物が現れる。

体長10メートルの四足で、頭には兜のような物を取り付けている。

その魔物を見た瞬間、メルド団長は茫然と言った様子で口を開いた。

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

目の前の巨大な魔物…ベヒモスを見て、卓弥は小さく舌打ちをした。




第六話、完!
いかがだったでしょうか?
ようやくルチアの新武器『双黒銃』を紹介できました。
わかりやすく説明すると、現段階の双黒銃は、原作の『ドンナー&シュラーク』からレールガンを撃つ能力を無くし、代わりに刃を取り付けたようなものです。
現時点では、オルクスの奈落の魔物どころか、表オルクスの60層以降の魔物にも歯が立ちませんが、後々双黒銃はしっかり強化されるので問題はないです。
ちなみに、双黒銃の名付け親はルチアです。
次回は、原作でのターニングポイント『奈落の化け物』が誕生した要因にもなったお話を書きます。
今作ではどうなるのか、楽しみにしていてください。
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