第七話を始めたいと思います。
【オルクス大迷宮】での実戦訓練。
銃型アーティファクト『双黒銃』を駆使するルチアや、いとも容易く魔物を仕留める卓弥に騎士達が注目する中、檜山の不注意によって発動したトラップにより魔物達に囲まれる。
今まで戦ってきた魔物を遥かに超える力を持つ存在『ベヒモス』を前に、卓弥はとうとう隠された力を解放する……!
それでは、第七話をどうぞ。
発動したトラップにより転移させられた先の橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。
通路側の魔法陣は数は1つだが、その大きさが10m近くあり、階段側の魔法陣は1m位の大きさだが、その分魔法陣が夥しくある。
小さな無数の魔法陣からは、人型の骨の体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。
空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き、目玉のように辺りをギョロギョロ見回している。
その数は、ほんの数秒で既に百体近くに上っており、尚増え続けている。
しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方がヤバイと卓弥、そしてルチアは感じていた。
10メートル級の魔法陣から出現したのは体長10メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物。
卓弥の知る、もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろう。
しかし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っている。
異世界転移なんてファンタジーな事態に巻き込まれていない一般人にそのイメージを話したら、『そんなトリケラトプスがいるか!』とツッコまれそうだ。
いつも余裕があり、生徒達に大樹の如き信頼を与えていたメルド団長が焦燥を顕にしながら、べヒモスと名前を呟いた魔物は大きく息を吸い、
「グルァァァァァアアアアアッ!!
「っ!?」
凄まじい咆哮を上げるが、その咆哮でメルド団長は正気に戻り、矢継ぎ早に指示を出す。
「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!俺達も……」
「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!ヤツは六十五階層の魔物。かつて、最強と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!俺はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
メルド団長の鬼気迫る表情に光輝は一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる。
メルド団長が再び声を出そうとするが、それをいつまでも見逃すほどベヒモスは甘くはない。
咆哮を上げながらベヒモスは自分達の方へ突進してきた。
このままでは、自分達はもちろん、撤退中の生徒達諸共、その巨体と突進力で圧殺されてしまう。
そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力である騎士団たちは動く。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、"聖絶"!!」」」
四方2m、最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。
たった一回、一分間しか発動しないが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。
燦然と輝く半球状の障壁が展開され、突進してきたベヒモスを防いだ。
衝突の瞬間に凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕され、石造りの橋が激しく揺れる。
その揺れと衝撃波で、撤退中の生徒たちから悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。
そんな中、卓弥は舌打ちをしながら周囲を見渡し、状況を確認する。
『ベヒモス……
そう決めると卓弥はルチアの方を向き、
「ルチア、退路を確保するぞ。骨どもを蹴散らす。援護を頼む」
「え?あ、りょ、了解です!」
「……行くぞ!」
そう言うと卓弥はそのまま階段側に向かって走っていく。
ルチアもすぐさま双黒銃を取り出し、覚悟を決めその後を追いかける。
一方階段側は完全に混戦を極めていた。
トラウムソルジャーは38階層に出現する魔物で、今までの魔物とは一線を画す力を持つ。
前方に立ちはだかる不気味なガイコツの魔物と、背後から迫ろうとするベヒモスの気配に生徒たちはパニックになり、隊列など無視して我先にと階段目指してがむしゃらに向かっている。
騎士団員のアランが何とかパニックを抑えようとするが、自分達に迫る恐怖によりそれに耳を傾ける者はいない。
その内、1人の女子生徒が後ろから突き飛ばされて転倒する。
「うっ」と呻きながら顔を上げるが、その眼前で1体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。
「あ」
そんな一言と同時に剣が彼女の頭部に振り下ろされる。
『死ぬ。』
女子生徒がそう思った瞬間、後ろから頭上を跳んできた誰かがトラウムソルジャーを拳で貫き粉砕、その後ろのトラウムソルジャー数体も放った拳の風圧でまとめて粉々になる。
さらに地面が隆起して数体のトラウムソルジャーの足を巻き込んで固定してはドパンッ!と言う音とともにトラウムソルジャーに風穴が空き粉々になったり、針状の地面が数体のトラウムソルジャーを貫いて粉砕したり、波打つ地面で数体のトラウムソルジャーを橋の端へと追いやられ、奈落へと落ちていく。
女子生徒が振り返ると、拳を握る卓弥、そしてそのそばで双黒銃を構えたまま、器用に靴に刻まれた魔法陣を使って地面を錬成するルチアの姿を捉える。
錬成は触れた範囲から一定の範囲しか効果が発揮されないので、それなりに近い位置まで近づかないと発動できないはずだが、ルチアはそんな常識知ったことか!っと数メートル範囲で連続かつ別々の錬成でトラウムソルジャー達を倒したり妨害したりする。
さすがは天才錬成師を自称するだけの技量はあると言ったところか。
それでも連続の錬成は流石にキツイのか、汗を滲ませながら、時折双黒銃の片割れをしまいながら魔力回復薬を取り出し飲んでいる。
それを横目に卓弥は女子生徒に視線を向けると、女子生徒の手を掴み強引に引っ張って立ち上がらせる。
呆然としてされるがままの彼女に、卓弥はジト目を向けて、
「……いつまで呆けとるんじゃ。生きとるんならさっさと動け。冷静ならあんな骨人形どうってことないわ」
それだけ言うと卓弥は1度言葉を切り、突っ込んできた別のトラウムソルジャーを蹴り飛ばし、もう1体のトラウムソルジャーを剣でフルスイングし、複数体のトラウムソルジャーに連鎖的にぶつけ粉砕する。
「……力はあるんじゃろ?ならさっさと戦え。戦わん奴がこの世界を生き残れるわけないじゃろが」
「う、うん!ありがとう!」
そう言いながら女子生徒は駆け出す。
その様子を見届けた後、卓弥は周囲に視線を向ける。
誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器を振り回し、魔法を乱れ撃っている。
このままでは、いずれ死者が出る可能性が高い。
アランが必死に纏めようとしているが上手くいかず、その間も魔法陣から続々と増援が送られてきている。
「………まったく」
「え、ご主人様!?」
卓弥は、光輝達のいるベヒモスの方へ向かって走り出す。
ルチアはそんな卓弥を追う。
ベヒモスは依然、障壁を破ろうと何度も突進を繰り返していた。
障壁に衝突する度に衝撃波が放たれ、石造りの橋が悲鳴を上げる。
障壁も既に全体に亀裂が入っているおり、メルド団長も障壁の展開に加わっているが、破られるのは時間の問題だ。
「ええい、くそ!もう保たんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」
「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時にわがままを……」
メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。
この限定的な空間内ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。
逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのが現実的だ。
だが、その微妙な匙加減は騎士団たちのような戦闘のベテランだからこそできる事だ。
故に、戦闘において素人である光輝達には難しい注文だ。
その辺をメルド団長は言い聞かせているのだが、光輝は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。
明らかに自分の力を過信している。
戦闘初心者の光輝達に自信を持たせようと、褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。
「光輝!団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴むが、
「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ?付き合うぜ、光輝!」
「龍太郎……ありがとな」
しかし、龍太郎の方は賛成のようで、その結果光輝は更にやる気を見せる。
それに雫は舌打ちする。
「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」
「雫ちゃん……」
苛立つ雫を見て香織が心配そうな視線を向ける。
そこに卓弥が勢い良く飛び込んでくる。
「天之河!」
「な、あ、天喰!?」
「天喰君!?」
驚く一同を無視し、卓弥はキッ!と鋭い視線を向け、体から溢れる怒気を光輝にぶつける。
「早く撤退せい馬鹿タレ!ここにお主のやれることはない!!」
「いきなりなんだ?それより、なんでこんな所にいるんだ!ここは君がいていい場所じゃない!ここは俺達に任せて天喰
ガッ!
はあ”!?」
「黙れこの身の程知らずの軟弱者が!!!」
卓弥は乱暴に光輝の首をつかみ、宙吊りにしながら、唯ならぬ殺気を光輝1人にぶつけて怒鳴る。
いつも面倒臭そうにのらりくらりと話題を逸らすはずの卓弥の、とてつもない怒気と殺気に思わず硬直する光輝。
他の、後から合流したルチアも、そんな卓弥を見て呆然としている。
「殺し合いを理解しておらんクソガキに何ができる!!お前がここで何かをしたところで全員死ぬだけじゃ!そんなこともわからんのなら、さっさとくたばれ!!」
「な」
「今お前にできるのは、後ろで碌に連携も取れんくなっとる阿呆どもをまとめてさっさと全員逃すことぐらいじゃ!まともに回そうとせん頭をこんな時ぐらいは回せ!!」
そこまで言い切ると、卓弥は光輝を乱暴に解放する。
解放された光輝は、卓弥の言葉を聞いて退路の方を見ると、トラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。
訓練のことが頭から抜け落ちているようで、効率的な戦いもできずに、敵の増援を突破できていない。
スペックの高さ故まだ死人はいないが、死人が出るのも時間の問題だ。
「お主の取り柄は、その無駄にあるスペックだけじゃ!!その力で守れるものぐらいしっかり守れやボケナス!!」
呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振ると卓弥に頷いた。
「あ、ああ、わかった。直ぐに行く!メルド団長!すいませ――」
「下がれぇーー!」
卓弥の物言いに納得しきれていないようだが、それでも光輝が撤退することを伝えるためにメルド団長の方を振り返った瞬間、その団長の悲鳴じみた警告と同時に、遂に障壁が砕け散った。
暴風のように荒れ狂う衝撃波が卓弥達を襲う。
咄嗟に、ルチアが前に出て錬成により石壁を作り出すが、あまりにも余裕が無かった為、石壁はあっさり砕かれ、自分達は吹き飛ばされる。
多少は威力を殺せたようだが……ベヒモスが咆哮で舞い上がる埃を吹き飛ばす。
そこには、倒れ伏して呻き声を上げる団長と騎士三人。
衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。
光輝達も倒れていたがすぐに起き上がる。
メルド団長達の背後にいたことと、ルチアの石壁が功を奏したようだ。
「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」
光輝が問いかけると、苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。
「やるしかねぇだろ!」
「……なんとかしてみるわ!」
そして二人がベヒモスに突貫しようとした瞬間、その前に卓弥が飛び込み、ベヒモスの眼前に着地、ベヒモスの左角を右手で掴む。
そして
「……ふんっ!」
ベヒモスの頭部を残った左腕で殴る。
瞬間、
バキリ!
「グウゥオアアアアアァァァァ!?」
何かがへし折れる音と、空気が炸裂するような轟音と共にベヒモスの巨体が吹き飛ばされる。
その光景に光輝たちは一斉に目を見開く。
石橋に叩きつけられたベヒモスを後目に卓弥は油断なくベヒモスを睨みつける。
よく見れば、ベヒモスの左角が無くなっており、鎧にも罅が入っている。
そして、卓弥の右手には、ベヒモス折れた左角が残っていた。
その光景からいち早く復帰したのは衝撃から立ち直ったメルド団長だった。
「ぼ、坊主……お前……その力はいったい……」
「ご、ご主人様!?今のなんですか!?」
「す、すごい……天喰くん……そんなに強かったの!?」
復帰したルチアと香織が慌てて卓弥の元に向かって走っていくが、卓弥は2人に意識を向けることなく、ベヒモスの角の一部を
「天喰くん!?」
「ご主人様!?何やってるんですか!?吐き出してください!!」
ルチアの慌てようは当然のことだ。
香織はこの時知らなかったが、魔物の肉は人にとって猛毒で、魔物の肉を喰った者は例外なく体がボロボロに砕けて死亡すると言われていたのだから。
角だとしても魔物の一部であることには変わらないので、このままでは卓弥が死んでしまう。
しかし、いつまで経っても卓弥の体は崩壊を始めず、それどころかなんと、卓弥の右肩から
その光景に2人がギョッとすると、卓弥から生えてきた2本目の右腕が赤く染まっていく。
熱を感じるので、どうやら卓弥の2本目の右腕が赤熱化してきているようだ。
「……ショボいな。やはりこのレベルの魔物じゃあ、この程度の力しか身につけれんか」
そうボソッと愚痴りながら、2本目の右腕を元に戻して、生えた右腕が収納されるように消えた。
そして卓弥は後ろの2人を見て話し出す。
「……お主ら。動けるなら今すぐ全員連れて逃げろ。奴は我が足止めする。」
「で、でもご主人様………」
「天喰くん…今の腕って………」
「………まあ、そうじゃな。これが『捕食者』の力……
これこそが天職"捕食者"の力。
動植物無機物、そして魔物すら喰らい、己の力に変える力だ。
正確には
「とにかくさっさと逃げい。我ならあの獣を止められる。今は引く時じゃ」
「で、でもっ、それじゃ天喰くんが……!」
香織は、卓弥が残ることを反対し、食い下がろうとするが、ベヒモスが起き上がろうとするのを見た雫が香織の腕をつかむ。
「香織、行きましょう!このままじゃ彼の邪魔になるわ!」
「で、でも!」
「でももないわ!このままじゃ全滅よ!それじゃあ彼が残ろうとする意味がないわ!」
「っ……!」
「白崎様、早く戻ってください」
いまだ迷っている香織にルチアが声をかける。
「ルチアちゃん!?」
「ご主人様は私が連れて戻ります。担ぎ上げてでも絶対に!だから行ってください!」
ルチアの言葉に卓弥はぎょっとしたように振り返る。
「お主何馬鹿なこと……!?」
「ベヒモス相手に1人で立ち向かおうとしているご主人様に言われたくありません。それに、もしご主人様に何かあったら、誰がご主人様を連れて逃げるんですか!」
その言葉に卓弥は顔を顰める。
しかしルチアは不敵な笑みを浮かべ、
「だいじょーぶです。だって私、天才ですから☆」
こんな時にもふざけた態度を見せ卓弥は呆れる。
そんな中、ベヒモスが起き上がり、こちらを睨みつけるのを確認する。
もう時間がない。
「間違っても我の前に出るなよ……!白崎達は行け!」
卓弥の言葉に雫はぎりっ、と歯を食いしばると静かに頷く。
「待ってて、二人とも。必ず戻ってくるわ!」
「ま、待って雫ちゃん!」
「坊主ども、絶対に無茶はするなよ!必ず助けてやる!行くぞ、光輝!」
「え、あ、ああ……」
雫は香織を無理やりに引っ張っていき、復帰したメルド団長は騎士団員達と茫然とした様子の光輝を連れて撤退する。
残った卓弥はルチアと共にベヒモスを睨みつける。
ベヒモスはその頭部の兜を赤熱化させると、それを掲げると猛然と突撃を開始する。
卓弥はそれを迎撃するために、両腕を下に向け、指先が地面につくぐらいに上半身を低くし、ルチアは双黒銃を取り出す。
「奴のあの赤熱は石を溶かすぐらいは熱がある。止めることは考えず避けることだけを考えろ。見たところやつには突進以外の攻撃法はなさそうじゃ。突進だけを意識すれば食らうことはない」
「りょーかいです。ていうか素人考えですけど、トラウムソルジャーにはこの銃の攻撃通じましたけど、絶対
そして卓弥が迎撃しようと地を蹴ろうとした瞬間、ベヒモスが勢いよく跳躍する。
予想外の行動に卓弥とルチアは驚いて顔を上げると、跳躍したベヒモスが赤熱した頭部を下に重力に従って隕石のように落下してくる。
「退け!」
「くっ!」
ふたりは慌てて後ろに下がる。
そのままベヒモスは誰もいないところに着弾。
周囲に衝撃波が放たれるが、二人はどうにかその範囲外に逃げられた。
しかし、ベヒモスは再び兜を赤熱化させると、そのまま猛進、再び跳躍する。
しかし、二度も同じ手は食わない。
ルチアは双黒銃を乱射し、ベヒモスを蜂の巣にしようとする。
が、やはりルチアの予想通り弾丸はベヒモスの肉を貫通せず、そのまま弾かれてしまう。
しかし、問題はなかった。
何故なら、ルチアの狙いはベヒモスを仕留めることでなく……
ビシッ!
「グゥオオオォォォォ!?」
「大当たり!」
……ベヒモスの目を潰すことなのだから。
片目を弾丸によって潰され、体勢が崩れる。
卓弥はその落下予測地点を見極めると、素早くその場から退避する。
空中で軌道を変えるなんてできるわけもなく、何より目が潰れて何も見えない為、ベヒモスはそのまま誰もいない空間に着弾、その頭部がめり込む。
それをルチアは見逃さない!
「練成!」
瞬間、ベヒモスの頭部がめり込むことでひび割れていた石橋が修復され、それに伴ってベヒモスの動きが止まる。
ベヒモスは脱出しようとさらに激しく頭部を動かし、石を破壊するが、ルチアが片っ端から直していく。
ベヒモスがさらに力を籠めようと踏ん張った瞬間、卓弥が飛び込み、
「寝ておれ!」
大きく肥大した、獣のような鋭い爪を持ち、鋼鉄のような頑強な見た目になった右腕を叩きつける。
衝撃によって石橋に無数の罅が走るが、ルチアの練成によって修復され、成すすべなくその一撃を喰らったベヒモスは鎧を破壊されて血を流し、脳震盪でも起こしたのかうめき声を上げながらふらついている。
それでもどうにか引き抜こうとしているから気は抜けないがだいぶマシになった。
卓弥がちらりと視線を後ろに向けると後ろの退路は開けており、すでに全員が撤退したようだ。
卓弥はそれを確認しながら目の前のベヒモスに視線を向ける。
まだふらついた様子を見せている。
今しかチャンスはない。
「逃げるぞ!」
「りょーかいです!逃げるんだよぉ〜!」
ルチアは練成でベヒモスを拘束すると、卓弥と同時に駆け出す。
しかし、10秒ほど経過したころ、ついにベヒモスが拘束を吹き飛ばして立ち上がる。
激しく頭を振って意識をはっきりとさせると己をに好き放題してくれた怨敵、卓弥とルチアを残った目で捉える。
怒りの咆哮を上げて二人を追いかけようと四肢に力を籠める。
だが、その瞬間、
「避けろ!」
メルド団長の大声が響くと同時に、ベヒモスに向かってあらゆる属性の魔法が殺到する。
流星群のように降り注ぐ魔法がベヒモスを打ち据える。
ダメージはないが足止めにはなっている。
いけるっ!と2人は確信し、そのまま全速力で駆け抜ける……
が、ここで、1つの悪意が動き出そうとしていた。
その悪意の持ち主は檜山大介だった。
迷宮に入る前、ホルアドの宿に宿泊していた時のこと。
緊張のせいで眠れなかった為、トイレついでに外の風を浴びに行き、その帰りに偶然ネグリジェ姿の香織を見かけたのだ。
気になった後を追うと、香織はある部屋の前で立ち止まりノックした。
そして、その部屋から出てきたのは……卓弥だった。
この瞬間、彼の頭は真っ白になった。
檜山は香織に好意を持っていた。
しかし、自分は彼女には釣り合わないと考えていた。
光輝のようなやつと結ばれるのならそれでよかった。
だが、卓弥と結ばれることだけは認められなかった。
学校ではチヤホヤされているが、学校外では暴力を振るっているような男(暴力を振るうことはあるが、それは家族などの誰かを守る為のもの)が香織のそばにいるのはおかしいと考えていた。
そうして、溜まっていた不満は、増悪と言ってもおかしくないレベルにまで膨れ上がっていた。
グランツ鉱石を手に入れようとしたのも、その気持ちが焦りとなって現れたからだ。
その時のことを思い出した檜山は、ベヒモスを押さえている卓弥と、それを手伝うメイドルチア、そして、今も祈るように卓弥達の身を案じる香織を見て………仄暗い笑みを浮かべた。
そんな悪意に気づかず、全力で逃げる2人。
しかし、空をかける数多の魔法の中の一つの火球がわずかに軌道を曲げて、そのまま卓弥……ではなく
明らかにルチアに向かって誘導されたものだった。
「!?ルチア!避けろ!」
「えっ?」
卓弥はとっさに声を上げるが、あまりにも消耗しすぎたルチアは気づかない。
ドカンッ!
「きゃあ!?」
火球はルチアに命中。
ルチアは来た道を引き返すように吹き飛ばされ、気絶する。
それに舌打ちをする卓弥だが、それと同時に赤熱化したベヒモスが跳躍し、襲い掛かる。
卓弥は気絶したルチアを抱き上げ、前方に身体を投げ出し、ベヒモスの一撃を回避するが、凄まじい衝撃が石橋を襲う。
その一撃で石橋全体に罅が走り、メキメキと悲鳴を上げ、崩壊を起こす。
「グゥアアア!?」
ベヒモスは悲鳴を上げながら崩壊し傾く石橋を引っ掻くが、その個所すら崩落し、そのまま奈落の底へと落ちていく。
ベヒモスの断末魔が響く中、卓弥はルチアを抱き上げたまま懸命に走る。
そして、ついに自分達がいるところまで崩壊を始めるが、あとは跳べばギリギリ戻れるところまで来ていた。
卓弥はジャンプし、みんなの所へ戻ろうとする。
……が、それを見計らっていたのか、再び"火球"が、今度は卓弥に向かって飛んでいく。
その事に卓弥が目を見開く。
しかし、ルチアを抱いた状態で両手が塞がっており、以前使った魔法を掻き消す技術『
火球はそのまま卓弥に炸裂、その衝撃によって二人は吹き飛ばされる。
卓弥が対岸のクラスメイト達の方へ視線を向けると、香織が飛び出そうとして雫や光輝に羽交い締めにされているのが見えた。
他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりしている。
メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情で二人を見ていた。
そしてついに二人の足場が崩壊し、二人はそのまま奈落の底に向かって落ちて行ってしまう。
それでも、卓弥は最後に香織に向けて、声は届かないが、口を動かしてメッセージを残し、不敵な笑みを浮かべながら、奈落の闇に消えた………
第七話、完!
いかがでしたでしょうか?
今回やっと卓弥の力を見せることができました。
卓弥の『捕食者』の力は、あらゆるモノを喰らうことで、その力を自分の力にすることができる力です。
原作のハジメと違うのは、ハジメの場合は、魔物の固有魔法を少し劣化したものぐらいしか新たな力として手に入れることはできず、自分より格下の魔物を喰らっても意味がなかったのですが、卓弥の場合は、魔物も含めたあらゆるモノを喰らうことで、その生物の身体的特徴や物質の特徴を再現できるだけでなく、固有魔法も100%扱うことができ、たとえ格下の魔物であろうとも喰ったならその力を扱えるようになるという点です。
言うなれば、どこぞの転生したスライムみたいな感じです。
そして、とうとう卓弥とルチアの2人が奈落に落ちてしまいました……
それにしても、ただ火球を撃っても卓弥は動じないから、ルチアに向かって火球を撃つなんて………檜山のやつ、やらかしちゃいましたね。
次回、檜山は死ぬわけではありませんが、少しだけ読者のイライラを発散するためのシーンを入れる予定です。
これで、少しはスカッとしてくれると嬉しいのですが………
そして、原作にはなかった香織の覚醒、奈落に落ちてすぐの2人の様子も書く予定です。