ありふれない捕食者は世界最強   作:ギアス

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ギアスです。
第八話を始めたいと思います。
とうとう『捕食者』の力を解放した卓弥。
しかし、クラスメイトである檜山の悪意により、ルチアと共に奈落へ落ちてしまう。
それを見て香織は、そして奈落に落ちた2人はどうなるのか。
今作の香織はオリジナル展開で、天職の変化並びに強化を施されます。
香織にふさわしい天職にする予定なので楽しみにしてください。(もっとも、天職の名前はネタバレしてるんですけど)
それでは、第八話をどうぞ。


守護騎士の覚醒 奈落の2人

響き渡り消えゆくベヒモスの断末魔の絶叫。

騒音を立てながら崩れ落ちてゆく石橋。

そして……瓦礫と共に奈落へと吸い込まれるように消えてゆく卓弥とルチア。

スローモーションのように緩やかに流れていく時間の中で、香織は、自分でも驚くぐらい()()だった。

当然、卓弥を助けられない自分の無力に絶望した。

助けたいが故に、自分からこの奈落に身を投げ出そうと思った。

今も香織が2人の後を追わないよう、雫と光輝が羽交締めにしている。

 

けれど、落ちていく卓弥の不敵な笑みと、卓弥の声は届かないメッセージ………

 

『必ず戻る』

 

……そう伝えたと思った時、香織は昨夜の光景を思い出した。

月明かりの射す部屋の中で、卓弥の入れた格別に美味しい紅茶モドキを飲みながら2人きりで話をした。

久しぶりに見た予知夢で不安になったが、卓弥と話すうちにその不安は消え失せた。

……正直、卓弥に襲って欲しくて大胆な格好をしたのに、ノーリアクションだったのには、自分には魅力がないのかとがっかりしたが………

それを見ていた同室の雫が呆れた表情をしていた。

そして、今彼女がここまで冷静なのは、あの晩卓弥が話していたことのおかげだろう。

 

『信じて待て』

『え?』

『我がいなくなるのが怖いならば、我はいなくならんと考えれば良かろう。たとえ一時期いなくなっても、必ず無事に戻ってくる。それならば問題なかろう?』

 

あの時の、香織がよく知る、悲しげに見える笑顔と共に話した、自信に満ちた卓弥の言葉。

あの時ああ言われなければ、きっと香織は、雫達を振り払ってでも2人の後を追おうとしただろう。

でも、香織は、待つことにした。

必ず卓弥は、ルチアと共に帰ってくると。

帰ってきた時には、『おお、白崎。待たせたの』と、呆れるぐらい軽い口調で声をかけてくれるだろう。

 

『……待ってるよ。天喰くん。だから、どうか、ルチアちゃんと一緒に、いつか必ず帰ってきてね………』

 

そう思いながら、2人に抗うことを止める。

雫と光輝は、先程まで細い体のどこにあるのかわからない強い力で2人を追おうとしていた香織が、いきなりそれを辞めたことに困惑した。

しかし、香織はもう、自分から命を投げ出そうとしないことはわかったので安堵していた。

卓弥とルチアのことは残念だが、早く逃げないといけない。

そう考えて、メルド団長が指示を出そうとすると、

 

「……して」

 

ふいに響いた声に全員が顔を向ける。

そこにいたのは、卓弥がトラウムソルジャーから守った女子生徒……『園部優香(そのべ ゆうか)』だった。

優香は、茫然とした様子でヒヒヒと笑みを浮かべている檜山を見つめながら口を開く。

その様子に全員が檜山に視線を向け、それに気づいた檜山から笑みが消え、分かりやすくうろたえる。

 

「な、なんだよ……な、何を……」

「なんで……二人に魔法を放ったのよ……」

 

その言葉にその場の全員が息をのみ、騒然となる。

檜山は一瞬で顔を青を通り越して白くさせると優香に食って掛かる。

 

「な、何変な言ってんだ!俺が魔法を?ちげぇよ!でたらめなこと言うな!」

「でたらめじゃないわよ!私見たのよ!最後のあんたの魔法が、二人に目掛けて軌道を曲げるのを!」

 

優香も激しく反論する。

卓弥は、死にかけた優香を助けてくれて、自分たちのために命をかけて戦ってくれた。

そんな彼を放るほど優香は彼を嫌っていない。

だから、いざと言う時に手を伸ばせるように前にいた優香は見たのだ。

"火球"が突如として軌道を曲げて二人に襲い掛かった時、慌ててそれを辿ればその先にいたのは檜山だった。

 

「それとアンタ、何で火の魔法を使ったのよ!あんたの適正は風の魔法でしょ!?それに何より、アイツがルチアさんを抱えて、あと少しで戻って来れるって時に、両手が塞がったアイツに目掛けて魔法を放ったでしょ!?なんでそんな事を……!」

「な、なんなんだよ!いい加減にしろよてめぇ!言いがかりはやめろよ!!」

 

更に言えば、どうしてこのタイミングでこいつは"火球"を使ったのか。

なぜ適性のある風を使わなかったのか。

なぜ何もしなくても戻ってこられたはずの卓弥に向かって魔法を放ったのか。

どう考えても不自然極まりない。

 

一方生徒や騎士団の者たちはいまだ騒然となっている。

それはそうだろう。

クラスメイトの1人が仲間を2人、それも、メイドであったルチアはともかく、クラスメイトの卓弥を殺したのだ。

生徒たちは混乱の極みのようでめちゃくちゃに言葉が飛び交う。

その様子に、そして優香の言葉に光輝と雫も呆然としたようだ。

 

だからこそ気付かなかった。

香織が微動だにしなくなった事に。

香織は、なぜ卓弥達が落ちたのかを考えていた。

卓弥とルチアは生きている。

誰がなんと言おうと生きている。

でも、2人が死ぬかもしれない状況を作ったのは誰だ?

誰が、2人を落とした?

誰が?

そこまで考えて、香織の首はゆっくりとした動作で首を動かす。

そうして視界に納めたのは、いまだ優香に激しく反論している檜山。

それに気づいた時、香織は、一つの行動を決意した。

そして、それに呼応するかのように、香織が持つステータスプレートが、誰にも、香織本人にも気づかれずに、彼女の魔力の色である白菫に輝いた。

香織が実行に移そうとした時、復帰した光輝が2人の口論に割って入る。

 

「ま、待ってくれ園部さん。檜山が彼らを攻撃したなんてありえない。だって俺たちは仲間だ。仲間を殺すなんてあり得ないじゃないか。天喰たちが死んだのがショックなのはわかるがあれは不幸な事故だ。仕方がなかったんだ」

 

その言葉に優香はなっ、と息を詰まらせる。

 

「で、でも私確かに見たのよ!?あれは絶対に誤爆じゃない!明らかに意図的に……」

「動転しているのは分かるが今はそんな事よりも脱出を優先しないと……」

「そんな事……?…仲間が、クラスメイトが死んだことをそんな事って……」

 

優香が信じられないと言うように目を見開いた時、スッ…と香織が動く。

しっかりとした足取りで、檜山の前に、両手にしっかりと杖を持った状態で立つ。

それに気づいた光輝と雫が訝し気に首を傾げていると、

 

「…………」

「え?な、なんだよ、白崎……」

 

檜山が聞いた瞬間、香織がバッと顔を上げる。

見ようによってはとても明るい笑顔を浮かべているように見え、しかし、彼女が笑っていないことは、彼女の周りに漂う怒気が証明している。

そして、杖を振り上げ、

 

ブォンッ!

 

バギィ!!

 

「ぼが!?」

 

杖のフルスイングが、檜山の右頬に直撃した。

そのまま檜山は、杖を使ったとはいえ、天職"治癒師"であるはずの香織に殴られたとは思えない速度で吹っ飛び、地面に当たって転がり、奈落に落ちる直前の崖でギリギリ止まった。

騎士団と生徒一同……何より光輝は、誰に対しても優しく接するはずの香織が誰かを殴るなんて、そんな()()()()()()()に硬直していた。

雫も香織のそんな行動に驚き動きを止めていたが、すぐに再起動する。

 

「か、香織……?」

「あ、ごめんね雫ちゃん。コイツ(檜山くん)が起きてたら、また余計なことしかしないだろうから手荒にしちゃった。それよりさっさと戻ろ!メルドさんもそうしたいみたいだし。ね?メルドさん」

「え?あ……ああ、そうだな。お前ら!辛いことはわかるが、早く迷宮から離脱するぞ!」

 

香織は、殴り飛ばした檜山の足を持って、頭を地面に引き摺りながら引っ張る。

その光景を見て、生徒達は『これが白崎さんなのか?』と、あまりにも容赦のない檜山の扱いをする香織に戦慄していた。

 

「それと、お前。後で詳しく話を聞かせてくれ」

「っ!は、はい!」

 

メルドのその言葉に優香は小さく、だがはっきりと頷く。

そして雫は憮然とした表情の光輝に告げる。

 

「ほら、あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出するまで。……天喰君も言っていたでしょう?」

 

雫の言葉に、光輝は頷いた。

 

「そうだな、早く出よう」

 

目の前でクラスメイトが死に、更にそれをやったのがクラスメイトの一人であるという証言が出て、クラスメイト達は混乱の極みにあった。

めちゃくちゃに言葉が交わされ、戦闘どころではない。

トラウムソルジャーの魔法陣は未だ動いており、再び襲撃されれば今度こそ全滅してしまう。

そのクラスメイト達に光輝が声を張り上げる。

 

「皆!今は、生き残ることだけ考えるんだ!撤退するぞ!」

 

その言葉に、クラスメイト達はようやく動き出すが、その動きは緩慢だ。

光輝は必死に声を張り上げ、メルド団長や騎士団員達も生徒達を鼓舞する。

その甲斐あってから全員が階段への脱出を果たし、そのまま迷宮からの脱出を果たした。

 

それから5日後。

ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室で、香織と雫は、暗く沈んだ表情をしていた。

あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。

とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、勇者の同胞が死に、さらにそれを実行したのが同胞であるという証言まで出たのだ。

国王にも教会にも報告は必要だし、詳しく調べる必要がった。

それに、厳しくはあるが、これから先の困難を思えば、致命的な障害が発生する前に、こんなところで折れてしまっては困るのだ。

故に勇者一行のケアが必要だという判断もあった。

帰還を果たし、卓弥とルチアの死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが力量が不明の卓弥とそのお付きのメイドであるルチアだと知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。

国王やイシュタルですら同じだった。

強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。

迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るのだ。

神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならないのだから。

卓弥のあの力のことは、ルチアと香織しか見ておらず、結局は『無能が無茶をして、勝手に死んだ』と判断していた。

だが、国王やイシュタルはまだ分別のある方だっただろう。

中には悪し様に卓弥を罵る者おり、死人に鞭打つ行為に雫は憤激に駆られたが、その前に正義感の強い光輝が怒り、勇者に王国や教会に悪印象を持たれるのはまずいと言う判断で2人を罵った者達は処分を受けたが。

だが、それが原因で光輝は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、光輝の株が上がっただけで、二人が勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった。

しかし、2人が沈んだ表情をしていたのは、それだけではなかった。

メルド団長があの時の経緯を明らかにしようと優香から詳しく話を聞き、やはり檜山が犯人である可能性が高い。

その線でメルド団長が調べようとしたところで、檜山が光輝やほかの生徒の前で土下座したのだ。

彼曰くあの状況を招いて悪かった。

2人への魔法の件は少しでも威力を求めた。

もしかしたら慌てていて、使い慣れない魔法だったから制御を誤ったのかもしれないと。

だが、香織に雫、そして優香はそうは思わなかった。

ああもピンポイントに2人の前に移動するとは思えない。

そう言おうとした瞬間に、光輝が檜山を許すと言ったのだ。

やってしまった罪は消えないが償う事はできる。

死んでしまった2人のためにも一緒に戦おうと。

そうすれば2人も許してくれると。

その言葉に3人は信じられないという表情をするが、更に周りの生徒たちもその意見に反対はしなかった。

檜山は言った。

制御を誤ったかもしれないと。

そして優香が見たのは最後の一撃のみだ。

つまり、最初の誤射は自分達ではと言う懸念が生まれ、口を挟めなかったのだ。

そして王国、協会側も勇者である光輝がそう言うならと檜山に特に何の処分も下さなかった。

勇者の仲間に仲間を殺した奴がいることを公にしないという思惑もあるだろう。

その一連を見て、3人は愕然としていた。

そして、現在。

 

「………私は諦めない」

「香織?」

「2人は……天喰くんたちはまだ生きてる。まだあそこできっと戦ってる……私はそう信じてる。この目で確かめるまで絶対に諦めない」

「香織……それは……」

 

普通に考えればあり得ない。

あの奈落に落ちて、生きていられるとはとても思えない。

だが、香織の目はまるで確信があるかのような光をたたえている。

 

「だから助けに行く。今よりもずっとずっと強くなって、必ず二人を助けに行く……たとえ何があろうと何が立ちふさがろうと………もう一度、2人に会うんだ………!」

 

そう言いながら、ステータスプレートを取り出す。

大迷宮から帰ってくるまで気づかなかったが、香織のステータスプレートに異変が起こっていたのだ。

 

 

白崎香織 17歳 女 レベル:20

天職:守護騎士

筋力:180

体力:260

耐性:160

敏捷:180

魔力:2000

魔耐:2000

技能:聖剣術・聖盾術・回復魔法・全属性適性・複合魔法・高速魔力回復・言語理解

 

 

そのステータスを見て、雫は驚いた。

香織の天職は"治癒師"だったはずなのに、今、彼女の天職が"守護騎士"になっており、見覚えのない技能だけでなく、ステータスも上昇していたのだ。

 

「……きっと、天喰くんのおかげだと思う。もう、誰かを癒すことしかできない私はもういない。私は、誰かを守り、癒やし続けられるようになる。なってみせる……!」

 

そう言う香織の顔を見て、雫は息をのむ。

その目には、狂気や現実逃避の色はない。

あるのはただ一つの覚悟。

なりたい自分になる、なってもう一度卓弥に会うという、絶対の覚悟だけがそこにあった。

 

「……だからさ、雫ちゃんも手伝ってくれるかな?私、剣なんて振ったことないし、この技能なら、剣も使えた方がいいはずだからさ」

「……ええ。貴方がやると言うんなら、とことんまで付き合うわ」

「…ありがとう」

 

"治癒師"だった少女はもういない。

ここにいるのは、時に戦い、時に守り、そして誰かを癒す"守護騎士"である。

彼女の、白崎香織の新しい挑戦が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"守護騎士"の少女が生まれるより前の時間。

卓弥達が奈落に落ちてから数時間経った頃まで遡る。

 

「……ん……う、あ………」

 

パチパチと火が燃えるような音が聞こえ、ルチアは、今まで閉じていた目を開いた。

目の前には薪があり、その傍らには、腕から血を流し、その血を薪に落とす卓弥の姿があった。

 

「……ん?ああ、目を覚ましたか。」

「ご主人様……?……って!?ご主人様、血が!?早く手当を!」

「これは気にするな。自分でつけた傷じゃ。すぐに塞がる。前に『血が燃える鳥』を喰ったことがあっての。こうして使い道があるとは思わんかった」

 

いや、そんな鳥がいてたまるか。

ルチアの内心はこれ一色に染まっていた。

魔物がいない世界から来たんじゃなかったのか?

そんな鳥、まるで魔物ではないか。

そう思っていたが、卓弥は、いろんなモノを引っ張り出してきた。

 

「お主が目覚めるまで暇だったのでの。役立ちそうなものとか食糧になりそうなものをかき集めてきた。」

 

そう言ってまず出したのは、バスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石だった。

卓弥が「土竜の爪に変えて穴を掘ってたら見つけての。魔力を復活させる水が滴るから、何かと重宝すると思ってな」とかなんとか言ってたが、ルチアはその鉱石に釘付けになっていた。

なぜなら、その鉱石は【神結晶】と呼ばれる、歴史上でも最大級の秘宝で、すでに遺失物と認識されている伝説の鉱石だったからだ。

大地に流れる魔力が、とても長い時間をかけて偶然できた魔力溜まりににより、その魔力が結晶化したものが神結晶だ。

直径30〜40cmくらいの大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると【神水】と呼ばれる液体が溢れ出し、これを飲めば、欠損部位を再生することは出来ないが、どんな病も怪我も治り、飲み続ける限り寿命も尽きないと言われており、そのことから『不死の霊薬』とも呼ばれている。

そして、次に取り出した卓弥曰く『食糧』を見て、ルチアは愕然とした。

それは、ここにいたのであろう魔物達の死骸だったからだ。

異常に後ろ足が発達したウサギ数匹や、2本の尾を持つ狼数匹、そして、巨体に白い毛皮を持ち、足元まで伸びた太く長い腕に、30cmあるであろう鋭い爪が3本生えた熊が1匹いた。

それを見て、ルチアが驚いたのは、死してなお放つ魔物達の威圧感である。

それは、この中で1番弱い威圧感を放つ狼達ですら、あのベヒモスが可愛く思えるぐらいの威圧感を放っていたからだ。

そんなルチアの心境に卓弥は気づかず、その狼の死骸を1つ手に取り、肉と骨を別々に解体していく。

そして、薪で狼の肉を炙り、そのまま齧り付いた。

 

「な!?ちょっ、待って!魔物の肉には毒が、あるはず、なん、です、けど………」

 

ルチアは慌てて止めようとするが、一向に始まらない卓弥の肉体の崩壊。

そして、あの時と同じく肩から腕を1本生やすと、その腕がバチバチと放電を始めた。

 

「……ふむ。ベヒモスとやらよりは役に立ちそうじゃな。とても不味いのはベヒモスと変わらんが。さてと次は」

 

そう言い、今度はウサギを解体し始める。

そんな卓弥を見て、ルチアは1つ、とんでもない勘違いをしてしまった。

 

『魔物の肉は、本当は食べられる?』

 

そんな、とんでもない勘違いを。

今まで、魔物の肉を食べて死んだ人がいたと聞いたことはあるが、実はそれは嘘で、人体に無害なのかと考えてしまった。

そしてルチアは、狼の肉の一部を双黒銃の刃で剥ぎ取り、火を通して、食べてしまった。

碌に血抜きや処理をしていない肉はとても不味く、到底食べれそうになかったが、この空間で唯一の食糧なので、食べないわけにはいかなかった。

そして食べきった時、ルチアの体に異変が起こる。

 

「ん?………ウッ、ギッ!?ア、ガァァァァ!?」

 

突如全身に痛みが走る。

体の内側から何かに侵食されているような悍ましい感覚。

その痛みは時間が経てば経つほど激しくなり、体が粉々になりそうな感覚を味わった。

 

「む?おいどうした。何があった!?」

 

卓弥もその異変に気付いたのか、ルチアに声をかける。

しかしルチアは卓弥の声に答えず、神結晶から流れる神水をがぶ飲みする。

 

「ウ、ギ、ア、な、なおら、イギィィィィ!!」

 

神水のおかげで肉体は修復されるが、その後すぐに激痛が走り、修復、激痛、修復、激痛を繰り返した。

ルチアの体の痛みに合わせ、肉体は脈動を始め、至る所からミシッ、メキッという音が聞こえてきた。

そして、見た目にも変化が始まる。

黒色の髪から色が抜け、銀色に変化していく。

筋肉や骨格が徐々に太くなり、体の内側に薄らと赤黒い線が浮き始める。

そして、少しずつ、ルチアの控えめな見た目は、大人の女性でもあまり見ない、とてつもなく発育した肉体に変化していく。

そんなルチアを揺さぶり、「どうしたのだ!?なにがあったのだ!!」

とほざく卓弥を見て、『お前マジでどうなってんだよ』と心の中で毒づいてしまったルチアは何も悪くないだろう。

ちなみに、この時の卓弥は、なぜこのようになったのかを考え、『そういえば魔物の肉には毒があると聞いたような………あれ?これひょっとして我のせい?』と考えていたらしいが、それは別の話。

 

こうして、"守護騎士"の少女だけでなく、"奈落の怪物"となった少女も目覚めた。

彼女達は、後に『神喰の魔王』と呼ばれる少年が、最も信頼を寄せる少女達の一員として成長していくのだが、それはまだ先の、しかし、いつか必ず訪れる未来のお話である。




第八話、完!
いかがだったでしょうか?
少し駆け足気味になってしまった感じがしますが、2人の少女の覚醒イベントでした。
ルチアはハジメを超えるガンナーとして、香織は攻撃も防御も回復もできるとんでも剣士にしていきたいと思います。
次回は、ルチアが魔物肉を食べたすぐ後のお話を書きたいと思います。
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