** 笑顔と怒り **
また、ある日…。
いつもと変わらぬはずの、
『ウィーン。』
自動ドアの開く音。
三人は同時に、
『ビクッ!』
身を縮めた。
音は聞き手の心持ちで変わるものである。
その音は、恐怖の感情を強く刺激した。
入って来るのは、自動車椅子に乗る少女。
微かに響くモーター音が、三人の心を強く揺さぶる。
小さく上げる悲鳴の主は、
「ひっ。」
ロイド博士。
手にした煙管を落としそうになったのは、
「おっと。」
ラクシャータ。
固唾を飲み込むのは、
「ゴクリ…。」
セシル。
自動車椅子は部屋の中へ、笑顔のナナリーを乗せ進む。
その背後に立ち昇る、
『ゴゴゴゴゴゴッ。』
何かと共に。
ゆっくりと三人の前に止まる自動車椅子。
それは、話の切り出しの、
『コホン。』
合図である。
その表情は、
「お三人に、聞きたい事があります。」
目一杯の作り微笑みであった。
それが、さらに三人の恐怖を煽る。
そして…。
膝の上に乗せていた紙束…。
いや…。
紙の山を、
『どすん!』
目の前のテーブルの上に落とした。
電子データよりも、物理データが破壊的な迫力となって突きつけられた。
意図的に作られた間は、三人を確実に追い詰めていた。
ゆっくりと向けた視線の先に、ハンガーデッキに立て掛けられるナイトメアフレーム。
そこから戻した視線も、
「これは、どう言う事ですか?」
三人を問い詰める。
矢継ぎ早に、
「ナイトメアフレーム関連の研究は、人道支援と作業機械に限り許可されているはずですが?」
捲し立てる笑顔は、
「これは、どう見ても戦闘用ですよね…。」
可愛さも相まって恐ろしい迫力となっていた。
そう…。
紙の山はナイトメアフレームの詳細な資料…。
証拠であった。
それを叩き付けたのであった。
恐る恐る…。
「ほら、ロイドが新しいアイデア思い付いたからって言ってさ…。」
言い訳を始めるラクシャータ。
即座に、
「何、言ってるんですか。貴女だって新機構を試したいって…。」
反論するロイド。
睨み合いになり、
『バチバチ!』
火花を散らす視線。
次にぶつかるのは、
「何だってぇ!」
互いの、
「何ですか!」
言葉と言葉。
止めに入るのは、
「まあまあ、お二人共。喧嘩は止めてください。」
いつものセシル。
そんなコントに、
「こほん…。」
割り込むナナリー。
少女の咳払いが、
『キンッ!』
部屋の空気を凍り付かせる。
いや、それだけでなく凍り付いたのは、揉めていた三人もピタリと動きを止めたのであった。
ぎこちなく…。
恐る恐る…。
首から擬音を出しながら、
『ギシギシ。』
ナナリーに視線を送る三人…。
そこには…。
満面の笑みの後ろにドス黒い怒りのオーラを、
「お三人共…。。」
立ち昇らせている鬼神の如き少女が待っていた。
その口から吐き出される優しい声が、
「同罪ですよ。」
恐ろしさを増幅されていた。
反射的に、
「はい…。」
ロイドが…。
同時に、
「はい…。」
セシルが…。
遅れずに、
「はい…。」
ラクシャータが…。
その返事は、同時にズレもなく発せられた。
三人のやり取りに呆れながら、
「輻射波動まで付けて…。」
ナイトメアフレームへ視線を送る。
その言葉に引っ掛かり、
「それは、新しい機構だから…。」
つい口が、
「正確には、輻射波動じゃないさね…。」
訂正した。
筋肉の動きが、
『ピクリ…。』
額の辺りから怒りの音を出し、
「へぇー。そうなんですね。」
口元がさらに、
「でも、輻射波動ですよね。」
怒りの笑顔を増す。
当然、語尾の上には【・】強調の印が付く。
その笑顔の、
「そ…。」
圧に押され、
「そうだけど…。」
認め、
「ね…。」
縮こまる。
いつもやり込められているラクシャータの反応に、
「プププッ。」
抑えきれない笑い声が、
「やーい。怒られーた。」
声と共に漏れるロイド。
思わず反応したコメカミが、
『イラッ!』
擬音を出し、
「あ"ん"っ"!」
睨み付ける。
またも、小競り合いが勃発…。
ため息混じりに、
「ロイドさんも…。」
割って入る声は、
「新しい動力システムの開発に成功されたようで…。」
見事に小競り合いを止めた。
照れながら、
「いやーぁ。」
後頭部を、
「二つのユグドラシルドライブの共鳴による従来の四倍出力…。」
右手が掻く。
ナイトメアフレームに、
「ゲフィオンディスターバーの流用による小型化にも成功!」
向き直ると、
「まさに芸術品。」
両手を広げる。
間髪入れず、
「そのエネルギーを余すこと無く伝える機体…。」
セシルが、
「それが、このナイトメアフレーム!」
乗った。
静かに、
「褒めてませんよ…。」
会話を終わらせた。
続け、
「だいたい、誰が乗るんですか?」
ナイトメアフレームへ視線を送る。
指摘され、
「あっ!」
同時に、
「あっ!」
気が付くのは、
「あっ!」
最早お約束であろう。
頭を抑え、
「はぁーっ…。」
履くため息には、
「紅蓮の時は、たまたまカレンさんが乗れたって報告がありましたが…。」
目一杯の呆れが籠もっていた。
頭から、
『!』
出す三人。
声が上擦り、
「カレンくん。良いね。」
喜ぶロイド。
その時の様子を、
「カレンさんなら。」
思い出すセシル。
煙管を、
「確かに、あの娘なら…。」
一吸いすらラクシャータ。
その三人の姿が、
「カレンさんは…。」
ついに、ナナリーの、
「今は、学生でしょう!」
怒りの炎に、
「もう、巻き込まなで下さい!」
点火した。
この後、三人は正座させられ…。
小一時間、ナナリーのお説教を受けた…。
が…。
反省したかは、不明である…。