** 悲しみと決意 **
またまた、ある日…。
執務室にて…。
腕の力が抜けるが、
『ガクン!』
手にしてタブレット端末をギリギリを右手が離さなかった。
続き、全身が後を追い自動車椅子へと体重を預けた…。
直ぐ様、
「大丈夫かい?ナナリー。」
駆け寄るシュナイゼル。
力無く項垂れた状態から、
「大丈夫です。シュナイゼル兄様。」
何とか、力を取り戻すナナリー。
その姿に、
「すまない…。ナナリー。」
口が、
「僕の力が至らないばかりに…。」
言い訳をした。
無理に、
「いえ。シュナイゼル兄様はよくやっていただいています。」
笑顔で返す。
曇る笑顔で、
「まさか、小規模な紛争に大軍で攻めるわけにもいかず…。」
状況の説明を加える。
そう…。
シュナイゼルの戦況報告に、ナナリーはショックを受けたのであった。
皆の前では強くあろうとする心が、シュナイゼルと二人きりでは弱い心が露見したのであった。
確かに、シュナイゼルはよくやっていた。
小規模な紛争と呼ぶよりも、小競り合いと言った方が良いような戦いに、的確に対応していた。
それも、世界的規模で…。
だが、相手は国家でも、組織でもなく、人の欲望であった…。
一旦治めたはずの紛争が、見えないところで燻(くす)ぶっていて、再度燃え上がる。
そんな事の繰り返しであった。
それは、人の生まれ持った業なのかもしれない。
そこに、悲劇が生まれる。
それが、ナナリーの心を揺さぶり折ったのであった。
今だ力無いナナリーに、
「本当に大丈夫かい?」
もう一度声をかける。
精一杯の、
「大丈夫です。シュナイゼル兄様。」
作り笑顔で、
「すみませんが、しばらく一人にさせて下さい。」
返した。
次の声の形を止め、
「分かったよ。」
ゆっくりと目を瞑り、
「ナナリー…。」
今は言葉は不要とする。
心配する目を、瞬きで遮ると、
『くるり。』
向きを変え扉へと向かう。
そのまま無言で部屋を後にした…。
声をかけないのは、今できる精一杯の事だと解っているシュナイゼルであった。
背中で自動ドアの、
『ウィーン。』
閉まる音を、切り替えのスイッチとした。
彼…。
シュナイゼルは、ゼロに尽くす為に生きているのだ。
自動ドアの閉まる音を、
『ウィーン。』
背中で聞き、
「うっ…。」
心の堰(せき)が悲しみで決壊した。
そして…。
止め処もなく流れ落ちる涙が、頬から膝の上で握った拳の上で弾け続ける。
悲しみを和らげるように、
「……………。」
口の中で、
「……………。」
知らず知らに、
「……………。」
同じ言葉を、
「……………。」
繰り返していた。
その言葉が、
「…………ま。」
次第に音を、
「………さま。」
奏ではじめ、
「…いさま。」
声となった。
ついに…。
すすり泣きに、
「お兄様。」
声が乗る。
繰り返される言葉は、
「お兄様…。」
平和の願い(ギアス)を残した実兄。
そう…。
この名で呼ぶのは、
「お兄様…。」
最愛の兄ルルーシュのみ。
記憶に、
「私…。」
蘇る顔に、
「負けません…。」
誓う。
が…。
それは逆に、
「どんなに苦難の道のりでも…。」
苦しさを紛らわせる言葉でもあった。
己の中のものを出し切った事で…。
この…。
一人の時間が…。
一人の場所が…。
ナナリーを、暫し自由にした…。
握りを解き、ゆっくりと上げた両の手のひらを見詰めた…。
そこに残る粘る生暖かく鉄臭い、あの日のルルーシュの鮮血の感触…。
それが、今だに残っている。
ルルーシュがその血で、優しく覆い隠す血塗られた手。
簡単に奪った命…。
発射のスイッチを押した手にこびり付く、その重み…。
自らの意思で、背負うと決めた人々の悪意たる象徴…。
自分の手を、
「私の…。」
染み染みと、
「血塗られている手…。」
見つめると、
「綺麗事を並べてみても…。」
ゆっくりと何かを握り込む。
流れる静寂の刻(とき)は決意の時間であった。
もう一度、
『ギリギリ…。』
音がする程に、
「それなら…。」
握り込む両の手のひら。
伸ばした右手が、テーブルの上の受話器を取り、相手先のボタンを押す。
左手を添えた受話器からのコール音の回数は、電話先が出るまでの時間。
前置きを、
「私です。」
省略し、
「例の件…。」
声に決意を乗せ、
「進めてください。」
強い言葉とした。
相手の反応に、
「ええ…。」
否定と肯定を、
「構いません。」
同時に返す。
そのまま、
「よろしくお願いします。」
強く優しくしめた。
そして…。
暫く、受話器を見詰め続けた。