** ナナリーと三人の博士 **
その日…。
自動ドアの
『ウィーン。』
開く音。
今日は、この音が待ち遠しいと思えていたラクシャータ、ロイド、セシルである。
心の持ちようで同じ音の聞こえ方が、これほどに違うのかと思えていた。
ここは…。
先日、あの三人がナナリーにキツいお叱りを食らったラボである。
続き、
『スィーッ。』
静かに自動車椅子が入室する。
飛び切りの笑顔を、
「こんにちは。」
乗せて。
煙管を、
「いらっしゃ?い。」
咥えながらのラクシャータ。
両手を広げ、
「ようこそ。」
オーバーアクションのロイド。
笑顔と丁寧な言葉で、
「お待ちしてました。」
迎えるセシル。
反応は違えど、共通するのは喜んでいると言う事だろう。
三人の前で自動車椅子を止め、
「今日は、よろしくお願いしますね。」
軽く一礼するナナリー。
単刀直入に、
「早速、始めようかねぇ。」
本題に入るラクシャータ。
軽く頷き、
「はい。」
答えるナナリー。
右手で、
「では、こちらで支度を。」
別室を促すセシル。
待っていましたと、
「こっちも準備開始だね。」
コントロールパネルへ向かうロイド。
ラクシャータは、
「先に、行ってるよ。」
セシルが促した別室へ向う。
一瞬驚き、
「ラクシャータさん。早…。」
追うセシル。
当の主役は、
「待ってください。」
置いてけ堀。
暫しの後…。
今度は本当に主役だと、
「お待たせしました。」
準備を済ませたナナリーが自動車椅子で出てきた。
その姿は、全身を白のパイロットスーツに包まれていた。
一般のモノと少し違っているのは、主に背中側に短い円筒形の突起物が数個付いてることだった。
三人と共にリフターに乗り上昇した。
そこに待っていたのは、ナイトメアフレームのコックピット。
そう、三人が怒られる原因となったあのナイトメアフレームである。
三人の手を借り、ナナリーがコックピットに納まる…。
正しくは、コックピットで跨がる。
紅蓮の同じバイクの様に跨がるタイプのコックピットである。
身体を伏せ伸ばしす手が、操縦桿を握り体制を確かめる。
その様子に、
「どうだい?」
ラクシャータが、
「具合は?」
問い掛ける。
首を巡らせ、
「良い感じです。」
正直に答えた。
回答に、
「ナナリー君の身体に合わせた特注品だからね。」
満足気なロイド。
身体を屈め、
「では…。」
パイロットスーツの突起物へ、
「ケーブル接続しますね。」
コックピットのケーブルを差し込み始めるセシル。
差し込み、接合部を右に捻り完了とした。
その合図として、ケーブルの接続部辺りに、赤い光が点る。
続き、他の二人も体を屈め、コックピットの中へと身を乗り出し、同じ作業を始める。
作業は続く…。
最初に声を上げたのは、
「ふうっ…。」
自分は頭脳労働派だと、
「終わったね…。」
言いたげなロイド。
作業終了に、
「はい。」
賛同するセシル。
体を起こしながら、
「本番はこれからさね。」
腰を擦るラクシャータ。
作業終えたナナリーの姿は、糸に吊られた【操り人形】…。
それも儚げな妖精の様だった。
不満気に、
「何とも…。」
その姿を、
「美しくないねぇ…。」
愚痴るラクシャータ。
直様、
「テストですから…。」
フォローに、
「今回は…。」
入るセシル。
この反応の良さが、ラクシャータとロイドの掛け合い漫才…。
小競り合いを今回も防いだ。
まあ、防げない事の方が多いのだが…。
その横で、ちょっかいを出すタイミングを外されたロイドが嫌な顔をしたのは言うまでもない。
気を取り直したラクシャータが、
「んじゃ…。」
タブレット端末の実行ボタンを、
「行くよ。」
大袈裟な予備動作で押した。
画面のタスクバーが進むのに合わせ、接続したケーブルに点っていた赤い光が、次々と緑に変わっていった。
タスクバーの終了と同時に『ONLINE』が表示され、赤だったケーブルに点る光が緑となった。
視線を、
「どうだい?」
ナナリーに移し、
「動き難くないかい?」
状態を聞くラクシャータ。
両腕を動かした後に、
「えっと…。」
体を捻りケーブルの干渉を確かめ、
「大丈夫です。」
答えたナナリー。
さも当然と、
「じゃあ、動かしてみようか…。」
タブレット端末を操作する。
振動が、
『ガコッ!』
音と共に、
『ウィィ…。』
ハンガーデッキが、
『ィィィン。』
ナイトメアフレームから離れる。
同時に、コックピットのハッチが上から降り閉じる。
一瞬の暗闇をパネルの明りが彩った。
ハンガーデッキの動き出しに、三人が近くの手摺りに、慌てて捕まったのはお約束である。
離れるハンガーデッキが止まったのを、
「行きます。」
確認したと同時に、
『クイッ…。』
ゆっくりと操縦桿を押し込んだ。
それに同調し、ゆっくりと右脚を前に出すナイトメアフレーム。
次は、当然と左脚。
それが、歩みになり…。
一歩、
『ガシャン。』
一歩、
『ガシャン。』
一歩、
『ガシャン。』
停止した。
軽い深呼吸は、
「スーッ。」
緊張の現れであった。
意を決し、
「始めます。」
操縦桿に力を入れた。
輻射波動の右腕が、ゆっくりと動き出す。
まるで、その感触を確かめるかの様に…。
続き、左腕もゆっくりと動き出し、両腕の共演が始まった。
さらに、両脚も加わり全身による一人舞台の開幕となった。
観客となった三人は、その優雅な動きに満足し、見惚れていた。
当然、自分の仕事に対してだが…。
各部の動きを一通り行い、
「良い感じです。」
チェックを終えるナナリー。
いつの間にか、ラクシャータを中央にして…。
右からロイドが…。
左からセシルが…。
押し合いながら、タブレット端末を覗き込んでいた。
額にアレが浮かぶが早いか、
『イラッ!』
手にした煙管が、
『パコン!』
素早く、
『ポコン!』
二度振り下ろされる。
煙管を、
「ええい!」
加え、
「鬱陶しい。」
直す。
頭を押さえ、
「いたぁ!」
殴られたとセシル。
押さえた頭を、
「酷いなぁ。」
苦情に変えるロイド。
視線…。
いや…。
睨みで、
「うっさい!」
二人を、
「モニターに行くよ。」
口を塞いだラクシャータ。
言うが早いか、二人を置いて大型モニター前に歩き出した。
今だ頭を押える二人は無言で、向き合い視線を合わせた。
そして、ラクシャータを追い歩き出す。