SASUKE逆行伝   作:koko22

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0.最後の忍

 

「ひいじいちゃん、水持ってきたってばよ!」

「ああ、ありがとう」

「他になんか欲しいもんねえの?食べたいのとかは?」

「そうだな……じゃあ、トマトが食べたい」

「またそれ?じいちゃん、ほんとトマト好きだよなぁ。わかった、もって来るってば!」

 

 

 台所へ駆けていく曾孫を見やりつつ、コップになみなみ入った冷たい水を口に含む。 

 乾いたのどがジワリと潤うのを舌で感じながら、サスケはふと耳に届いたテレビの音に意識を傾けた。

 

 

『第四次忍界大戦終戦から今日で百年です。戦没者追悼式典が、戦地となった湯隠れの里で開かれました』

 

 

 テレビの画面に映る、一面の献花。数日前に風邪を拗らせさえしなければ、サスケもまたそこに一輪花を添えていただろう。

 すぐに画面は切り替わって、まっすぐ前を向く各国の里長達が一人ひとり映し出される。そのうちの何人かには見覚えがあり、そこに残る嘗ての面影に目を細めた。

 

 師を初めとし、親友が、妻が、娘が、同期達が。多くの忍がこの世を去り、あの大戦を知る者はもはやサスケを残すのみとなった。

 もうこの木の葉の里さえ、昔の面影は顔岩くらいのもの。外には高層ビルが立ち並び、電車や新幹線がその間をぬうように走っている。

 たとえそれが互いに牽制しあうような表面的なものだとしても、食い物が寝床が、着るものがある。子供が笑えて安心して遊べる。理不尽に殺されることも無い。直接的に戦闘をするのは傀儡兵で、人が命をかけることを当然としない、そんな世界だ。

 少なくともこの火の国は、木の葉の里は、確かに平和といえた。

 

 だが、科学忍術によってもたらされたそれらに、俺は未だに慣れずにいる。

 それはきっと『忍』だからだろう。

 

 

 

平和な世界では、命のやり取りはもうする必要が無い。

平和な世界に、『忍』は、『俺』は、もう必要無い。

 

 

 

「じいちゃん、ごめん!今トマト切らしてるみたいでさ。母ちゃんが今買い物に……っっ!?おい、じいちゃん!どうしたんだってば!?」

 

 

 バタンと開いたドアから覗いた、アイツそっくりな曾孫の焦ったような声。

 どうしたのか聞こうとして、声が出ない事に気がついた。手元も濡れている。きっとコップを落としてしまったのだろう。

 曾孫の手が腰に回され、そのまま横たえられてようやく死期が来たのだと悟った。

 

 

「じいちゃん……母ちゃん、そうだ、母ちゃんにっっ!」

 

 

 オロオロする曾孫の腕を、震えるしわくちゃな手でそっと引き止める。孫嫁を呼ぶ時間はもうない。きっとこいつも別れの時が来たことをわかってるだろう。

 泣きじゃくる曾孫に笑いをこぼし、その金色の髪を隻腕の手でくしゃりと撫ぜた。

 

 

 走馬灯というやつなのか、あたたかな記憶が鮮やかに蘇ってくる。

 

家族との食事───気づかなかっただけで、たくさんの愛情が注がれていた。

第七班での任務───冷えた心に、あのぬくもりが染み渡った。

死んだ兄との邂逅───兄には全てが赦されていた。

親友との和解───前世から続く宿命が終わり、全てから開放された。

 

妻と結婚した日、妊娠を聞いた日。

娘の生まれた日、結婚した日。

孫の生まれた日、結婚した日。

そして、コイツの生まれた日。

 

 

───幸せだった。泣きたいくらいに。

 

 

「な、もう一つ、欲しいものがある」

「っ!何?すぐ持ってくるってば!」

「お前の……笑顔が、見たい」

 

 

 曾孫は一瞬ぐしゃりと歪んだ顔をして。

 そして、アイツそっくりな太陽のような笑顔を見せた。

 

 

「じゃあ、な……ウスラトンカチ」

「………おやすみ、じいちゃん」

 

 

 最後に額を軽く突いて、ゆっくりと瞼を閉じる。

 白い光に包まれて、サスケの意識は途絶えた。

 

 

 

 翌日、大戦の英雄にして最後の忍が息を引き取ったというニュースが世間を大きく賑わせた。

 

 うちはサスケ 享年118歳。

 眠るように亡くなった彼の葬儀には多くの人々が参列した。

 その亡骸には、安らかな、優しい微笑みが浮かんでいたという。

 

 

 こうして一人の男の人生が、終わりを告げた

 

────筈だった。

 

 

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