SASUKE逆行伝   作:koko22

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9.別れ

 

 

『昨夜、契約が結ばれた。……三日後だ、準備をしておきなさい』

 

 

 最初から覚悟はできていた。だから泣き崩れる母と、悔しそうに俯く父に『はい』と頷く。

 ただ、たった一つだけ心残りがあった。

 

 

―――やはり、会えないのだろうか。

 

 

 兄はまだ、帰ってきていない。

 

 

 

 

「おい、どうかしたのか?お前らしくも無い」

「いえ……なんでもありません。急ぎましょう」

 

 

 木から木へと跳躍し、素早く闇を駆け抜ける3つの人影。気配も足音もなく、見るものが見れば彼らが実力者ぞろいであることが分かるだろう。

 紛れも無くそんな実力者の一人であるイタチは、らしくもなく距離感を見誤り、隣を駆ける男と肩がぶつかるという下忍並のミスを犯していた。

 もう一人の男からも、いぶかしむような視線が飛ぶ。それに適当な返事を返すイタチの胸は、得体の知れない焦燥感で満ちていた。

 

 今回の任務である潜入・情報収集は無事に完了した。

 丸一ヶ月に及ぶ任務ではあったが、林の国の暗号や人員配置などの有益な情報が手に入り、更に相手側には気付かれていない。

 任務は終了。完遂だというのに、何だろうか。この漠然とした不安は。

 

 

『なあ、兄さん…任務は早く終わるのか?』

 

 

 何故か見送る弟の姿がちらつく。いつもの見送り。いつもの言葉だというのに、何故だろう。これほど焦りを感じるのは。

 急かす何かに後押しされて、イタチは駆ける足を速めた。

 

 

 

 

 時刻は真夜中。あたりは明かりひとつなく、道端にわずかに残る雪が、月光を反射し煌いている。

 里へと続く門の前、うちは一族とヒルゼン、そして暗部はその冷たい光を受けて立っていた。

 

 

「サスケ、本当にいくのね?」

「うん。母さん元気で」

「お前が決めた道だ、俺は止めん。……さすが俺の子だ」

「父さん……」

 

 

 引き止めたいというかのように、強く抱きしめてくる母。ぎこちないながらも、頭上に手をのせる父。

 その後ろには一族が並ぶ。煎餅屋のおばちゃんは目が真っ赤に腫れていて、シスイさんは今にも零れそうな涙を必死で堪えている。

 今も、昔も。サスケは愛されていた。

 

 

「俺も、父さんと母さんの子で───『うちはサスケ』に生まれてよかった」

 

 

 呪われた血継限界、古からの因縁、里との確執、悪に憑かれた一族。そんな一面も確かにある。犯した罪は償ったといえど、消えることはない。

 それでも、全てを受け入れ、そう心から思った。

 

 途端にぎゅう、と母の腕に強く力が篭る。

 少し苦しい位だったが、その温もりを離し難くて、サスケもそっとその肩に手を回した。

 冷えた身体へ伝わる体温に、サスケはフッと頬を緩めた。

 

 

―――生きている。

 

 

 なら、それでいい。

 たとえ『うちはサスケ』が死ぬとしても。

 

 

「なぁ、シスイさん。……ごめんって、伝えてくれ」

 

 

 誰に、とは言わずともシスイならわかっただろう。

 手紙の一つも残せないから、そう言伝を頼むしかなく。伝えたかった言葉は他にもあるけれど、どうにも気恥ずかしくて言えなかった。

 

 小さく頷くシスイの眼から、遂に決壊した涙が流れ落ちる。それが伝染したかのように、一族から、肩に顔をうずめた母から、嗚咽が漏れ出した。

 父やシスイの握り締めた拳から滲むのは、悔しさ、怒り、悲しみだろうか。

 

 外見は子供でも、中身は大人。子供の立場と彼らの愛を利用しているのだと思うと、少々心が痛んだ。

 本当はもっといい策があったのかもしれない。それでもこれが、今のサスケにできる最善だった。

 

 

「そろそろ……行こうかの」

 

 

 親子の姿を隠すように傘を目深に被ったヒルゼンは、おいで、と優しい声で告げた。

 途端に一族の殺気がヒルゼンを襲う。反応しかけた暗部を片手で制し、その怒りをただ受け止める老人をサスケは見つめた。

 

 火影の証である『三代目』の文字が染められた、白い羽織が風に乗ってはためく。

 この幼い姿が孫を思い出させたのだろうか、傘の下翳ったヒルゼンの瞳に憐憫の情を見つけた。

 そんな三代目に、サスケは遠い昔の記憶を思い出す。

 『誰よりも甘い火影だったのかもしれん』と彼は言っていたが、確かにその通りなのかもしれない。

 しかし、それゆえに今まで一族の命はつながっていた。その甘さに、優しさに、助けられる奴もいるということだ。

 こっそりと謝辞を送りながら、三代目に頷いた。

 

 

「はい」

「サスケ……!」

 

 

 母の腕を離し、そのしわくちゃな手をとった。

 そんな時だった。

 

 

「サスケ?三代目も……一体何を?」

 

 

 辺りが水を打ったように静まり返る。

 幻聴かと、そう思った。もう聞くことのできないものだと、諦めていたからだ。

 だが背後の気配は確かに慣れ親しんだ、今一番会いたかった兄のものだ。

 声をかけられるまで気がつかないとは、案外余裕がなかったのかもしれない。

 

 

「三代目、あの……」

「……すまぬ。もう、時間なのじゃ」

 

 

 手を引かれて歩き出す。その方向に見えたのは戸惑う兄の姿だった。

 少しばかり息を切らし疲労が伺えるが、怪我はしていないようで、ほっと胸を撫で下ろす。

 硬直している兄の隣を二人が通り過ぎようとした刹那、すれ違いざまに手がつかまれた。

 

 

「サスケ!三代目、サスケをどこに……!?」

 

 

 冷たい手だった。サスケの手よりも、ずっと。

 その冷たさに、先ほどのむずがゆさが指先から消え、代わりに鼻の奥がつんと痛む。

 

 

―――生きてさえいればいいなど、嘘だ。

 

 

 もっと、話がしたかった。

 もっと、家族を、一族を知りたかった。

 もっと、一緒にいたかった。

 

 折角また会えた。手に入れた。手放したくなんて、なかった。

 百年の時が過ぎた。憎しみは消え、愛は妻や娘へ、その喪失の痛みすらとうに過去のものだったのに、こうして触れ合ってしまえば色鮮やかに蘇る。

 

 じわりとこみ上げる、どうしようもない熱。我慢しようと目に力をこめたのがまずかったのか、頬を熱いものが流れる。

 握る手の力が、更に強くなった。

 

 

「三代目。サスケを、返してください」

「イタチ……許せ」

 

 

 三代目が手を軽く上げる。それを合図に暗部が動いた。

 いくらイタチが強いとはいえ今は中忍であり、彼らとは経験値が違う。その動きをいち早く察知し、サスケは兄の手を引く。体勢を崩したイタチの頭上を、暗部の手刀が通り過ぎていった。

 

 

「な……!?」

「待ってください!……あと、一分だけ」

 

 

 サスケの反応に瞠目した三代目だったが、その懇願にややあって頷き、手が離される。

 握られたもう片手の先に向き直り、何が起きたのかと状況を見極めようとしている目を覗き込む。

 

 一分。それはとても短い時間だ。詳しい事情は省くしかないだろう。

 

 

―――それでも、伝えたいことを少しだけでも、この口から。

 

 

「兄さん、今までありがとう……俺は幸せだった。だからさ、今度は、兄さん達が幸せになってくれ」

 

 

 アンタに貰った命で十分に幸せな人生を送った。子供、孫、曾孫まで持てて、家族に看取られて死ねた。生きていてよかったと、そう思った。

 俺の人生は終わっているからもういい。我侭でも、今度はアンタ達の幸せな人生を見たい。

 

 

―――だから。どうか、生きてくれ。

 

 

「自由に生きろよ、兄さん」

 

 

 アンタばっか、我慢する必要なんてない。背負い込む必要はないだろ。その抱えていたものは俺も背負う。

 もしも。もしも、一族がそれでもクーデターを起こすというなら───その時は、俺の手で。

 

 何を言われているのか、と混乱している様子の兄に苦笑した。

 それもそうだ。支離滅裂な言葉だし、兄はまだ何も知らない。それでも少しだけでも伝わればいいと、言葉を紡ぐ。

 兄と呼べるのも、これで最後だ。

 

 

「兄さんが、これからどんな道を歩んだとしても……俺も、兄さんを愛している」

 

 

 あの日告げられなかった、返事をした。

 あぁ、もう一分が経つ。そろそろ暗部が動き出す頃だ。

 

 

―――その前に。

 

 

「……いってきます」

 

 

 その背を見送るのが常だった。けれど、今は違う。

 眼にありったけのチャクラを込める。イタチの体がかしらいだ。

 力の抜けた小さな体を抱きしめて、サスケはごめん、と小さくささやいた。

 

 

「シスイさん。兄さんを、頼む」

 

 

 ハッと我に返ったシスイが、躊躇しながらも兄を預かる。

 かなり強い幻術をかけた。きっとしばらくは、少なくとも明け方までは目覚めない筈だ。

 気を失っても、強く繋がれたままだった手を、一度だけ握り返す。

 

 

―――そして、放した。

 

 

「……行こう」

 

 

 三代目の手は取らず、ズボンのポケットへ仕舞った。

 風が遮られて、少しだけ、あたたかく感じた。

 里へと歩き出すサスケを、誰かが再び呼び止める声があった。それでも今度は、足を止めなかった。

 

 

「いってらっしゃい」

 

 

 微笑んだサスケの頬を、また一筋涙がつたう。

 その家紋を持たぬ小さな背が、振り返ることはもうなかった。

 




【契約によるうちはの利】
1.集落の監視をなくす。
2.うちはの居住に関する自由。
3.中枢への参画(中枢機関の捜査権)
※これにより数年後木ノ葉内部監査部隊、通称”芽”が新設される。火影直轄独立組織。木ノ葉の内部調査を行い、汚職や他国との密通者の摘発を担う。
※何故通称が”芽”かと言うと、「写輪眼」の眼と「犯罪の芽を摘む」の芽、「監視の目」の目とのかけ合せ、あとはダンゾウの所の『根』に対応して。今後日向一族も加わるらしい。
(4.クーデター計画の不問)

【契約による里の利】
1.人質を手にすることでの一族の牽制。
2.1に伴うイタチの暗部入り決定、イタチ(+シスイ)の裏切りを防ぐ切り札。
3.人材不足の解消。そもそも他里からの脅威に対抗したいため、即戦力であるうちはを失うことは里としてもデメリットが大きい。
4.里内部の腐敗撲滅。(里との繋がりが余りないため、第三者組織として監視が可能)
5.うちはに関係なく使える写輪眼(移植じゃない)を手に入れる。ゆくゆくは暗部入隊を予定、その場合人権は無い。

※人質一人でここまで変わる?と、お考えの方もいるかと思います。
・上層部はシスイから『一族は皆反対していた』という事実を聞き、サスケの人質としての価値を高く見ている。
・サスケは一族内で最年少で、子供を大戦で亡くしている親達にとっては庇護対象。
・ヒルゼンは自分も孫がいるので、対応が更に甘くなる。せめてうちはにいい条件をつけようと、上層部に掛け合った。
 こんな諸々から、影響が大きくなっているという、ご都合設定。

 サスケの今後の処遇に関しては追々説明が入ります。
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