SASUKE逆行伝   作:koko22

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14.二度目の始まり

 

 よく晴れたある昼下がり。暖かな陽光を浴びながら、同僚と共に食堂から出てきた忍達。

 そんな穏やかな時間をぶち壊すように、火影邸の屋上から天にまで届くような怒声が上がる。何事かと顔を上げた里民は、ある者は戸惑い、ある者は怒り、またある者は呆れたように『またか』と呟いた。

 

 

「火影様!!!」

「なんじゃ、またナルトの奴が何かしでかしでもしたか?」

「はい!ナルトの奴歴代火影様たちの顔岩に落書きを!!しかも今度はペンキです!」

 

 

 

 

「コラーーー!またイタズラばっかりしやがって!」

「毎日毎日いい加減にしろ!」

「なんちゅー罰当たりな……」

 

 

 騒ぎを聞きつけてやってきた忍達が口々に非難を浴びせるが、ペンキを片手にロープで顔岩にぶら下がっている当人は知らぬ顔───どころか、自慢げにギャハハと笑う。

 

 

「バーーーカ!!うっせんだってばよ!お前らさ、お前らさ!こんなことできねーだろ!でも、オレはできる!!オレはスゴイ!!」

 

 

 太陽の光を反射する金髪、空のように澄んだ蒼眼。そして特徴的な三本ヒゲ。

 彼の名はうずまきナルト。

 日々イタズラを繰り返し、周囲へ迷惑をかける問題児………であるのだが、ナルトがこれより先の未来で至上最強の火影となることなど誰も想定し得ない。

 

 

「おーおー、やってくれとるのォ。あの馬鹿!」

 

 

 テクテクと呼ばれてきたのは、もうじき70歳となる老人。この火影邸の主にして、木の葉の里長猿飛ヒルゼンである。

 どう収拾をつけようかと笠を押し上げて、ぷらんとロープの先で揺れるナルトを見上げていると、こちらへ向かってくる気配に目を細めた。

 

 

 

「三代目、申し訳ありません!」

「お!イルカか」

 

 

 あちこち探したのだろう、少し息を切らしながらやってきたのはアカデミーの教師イルカ。青筋を浮かべるイルカはヒルゼンの隣へ立ち、スゥ、と大きく息を吸った。

 

 

「バカものーーーーー!!何やってんだ、授業中だぞ!早く降りてこい!」

「やべ!イルカ先生だ」

 

 

 イルカの顔を見た途端、慌ててナルトは逃げようと手足を動かした。しかし如何せん、ナルトがいるのは空中。クルクルと回るだけである。

 それでも説教をくらいたくないのか、じたばたと藻掻いていると。

 

 

───プツン。

 

 

「「「あ」」」

 

 

 ロープが切れたと認識すると同時、引力に従いナルトの体は落下していった。

 

 

「ぅ、わあぁぁぁぁ!!」

「ナルトっっ!」

 

 

 普段ののほほんとした雰囲気から一転、鬼気迫るような表情でイルカは屋上から飛び出した。

 

 

(空中で受け止める……駄目だ、この角度とスピードでは岩に……!それなら!!)

 

 

 地面へ降り立ったイルカは、上から来るだろう衝撃を堪えるべく、歯を食いしばった。

 

 しかし、いつまで経っても衝撃はなかった。

 それはナルトも同じで、二人共固く閉じていた瞼を恐る恐る開く。ナルトの服が三代目の顔岩にクナイで縫い留められており、その身体は落下をやめていた。

 

 

「……ったく。何やってんだ、ウスラトンカチ」

「サスケェ!」

 

 

 ヒルゼンの後ろからヒョイと顔を出したのは、黒髪黒目の端正な顔立ちをした少年。

 少年の姿を見つけ、ナルトの目がキラキラ輝く。だがそれも一瞬のことで、すぐさま不貞腐れたような仏頂面で少年を睨みつけた。

 

 

「何で来たんだってばよ」

「何でって……どっかのドベが地面に激突しそうな所を助けてやったんだろうが」

「余計なお世話だってば!俺一人でも降りれたっ!」

「………」

「お前に助けられなくたって、俺だって……俺だって!」

 

 

 黒髪の少年の名はサスケ。

 落下するナルトの衣服をクナイで射抜いたことからもわかる通り、優秀な忍の卵である……が、ナルト同様に授業をサボることも多く、優秀だからこそ叱れないという教師にとっては扱いづらい子供としても名高い。

 一見正反対に見えるこの二人は一緒に暮らしており、傍から見ても仲の良い兄弟だった。

 そう、『だった』のである。

 

 はぁぁぁぁ。

 

 安堵からか、新たな悩みからか。イルカは深々と息を吐き出した。

 

 

 

 その日の放課後。

 ナルトは顔岩の落書きを消していた。その監視を務めるのはイルカである。

 

 

「……何でお前までいるんだってばよ」

「ふん」

 

 

 そしてそのナルトの隣、黙々とタワシでペンキを落としているのはサスケだった。

 この光景は今も昔も変わらない。ナルトが何か仕出かして、サスケがそれをフォローし助ける。そう、サスケは昔とちっとも変わらない。分かりにくい所もだ。

 

 変わったのは、ナルト。

 少し前までは仲が良かったのに、いったい何があったのか、今やナルトはサスケを見ると敵愾心も顕に突っかかるようになった。

 最初は喧嘩でもしたのかと軽く考えていたのだが、それもどうやら違うようだ。

 何か切っ掛けがあったのか。それとも無かったのか。それさえもわからず、それ故に対応の仕方もわからない。

 

 ナルトもサスケも文句すら言わず、一言も話さない。重苦しく気まずい空気の中でも、手を動かしていればペンキはだんだんきれいになっていく。

 そんな雰囲気も何のその、あらかた作業が終わったところでイルカは手を叩いた。

 

 

「よーし、だいぶきれいになったな!二人共、今晩はラーメン奢ってやる!」

「いや、俺はやることがある。ナルト、今晩は夕食は作らねぇから行ってこい」

「なんでお前に指図されなきゃなんねーんだよ。お前の飯よりずーーーーっとラーメンの方が美味ぇし、言われなくてもそうするつもりだったってばよ!」

「……そうかよ。なら、もう作る必要はねぇな。毎日ラーメンでも何でも、好きなもん食ってろ!」

 

 

 余計なことを言うナルトへ鉄拳を食らわせつつ、呼び止める間もなく、傷付いたような顔で軽々と岩壁を伝い降りていくサスケをイルカは見送る。

 そして俯いたナルトの顔を覗き込んで驚いた。

 サスケよりも消沈した様子で、今にも泣きそうだった。それは嫌っているというよりも、むしろ。

 

 

「お前なぁ……そんな顔するくらいなら最初から言うなよ」

 

 

 グシャグシャと金髪をかき混ぜて苦笑する。

 難しい兄弟だ。イルカには兄弟がいないから、それが少し羨ましいと思った。

 

 

 

 

 

 

「ナルト、お前はサスケになんであんなこと言ったんだ?」

 

 一楽の屋台の下、熱々なラーメンの香りは食欲を刺激してくる。割り箸を取って、ラーメンを啜る。

 コクのある汁、程よい固さの麺。やはり一楽のラーメンは絶品だ。だがこの里一番のラーメンを食べているというのに、ナルトの顔はどこか浮かない。

 そんなナルトに焦れて、イルカは先程からずっと思っていたことを聞いてみた。

 

 

「……笑わねぇ?」

「笑うもんか。ほら、言ってみろ。お前、サスケが嫌いなわけじゃないだろ?」

「………嫌いだってばよ。だってあいつ、凄くつえーし、頭もいいし………あいつに追いつきたいのに、追いつけねぇ。何やっても、勝てねえんだ」

 

 

 ラーメンを食べる手を止め、悔しげにナルトは唇を噛む。その目には嫉妬と羨望が浮かんでいる。イルカは黙ったまま先を促した。

 

 

「あいつ、いっつもオレを助けるんだ。オレじゃ無理だって思ってるから……。……だから、だからさ!俺ってばいつか火影の名を受け継いで、んでもって先代のどの火影をも超えてやるんだってば!!!」

 

 

 ナルトの目がキラキラ輝く。夢を語る。

 それはとても眩しかった。未来の無限の可能性を感じさせる、その力に溢れた蒼眼が。

 

 

「でさ、でさ!サスケに……里に、オレの力を認めさせてやるんだ!!!助けられるんじゃなくて、俺も……だからさ、あいつに頼ってちゃ駄目だって思ったら、言いたくないことまで言っちまって」

 

 

 再びしょげ返るナルトを見て、ついつい笑みがこぼれてしまう。

 『笑わねぇって言ったじゃん』と口を尖らせる子供に、ごめんごめんと謝りながらも口元が緩むのは抑えきれない。

 

 

───なんだ。ナルト、お前も変わってなかったんだな。

 

 

 昔と同じ仲の良い兄弟だ。

 心配事が杞憂に終わり、微笑ましくて仕方ない。

 

 

 なあ、ナルト。お前は気付いているか?大人よりもずっと冷静で落ち着いたあのサスケが、喧嘩して子供らしい面を見せるのはお前くらいなんだぞ?

 いつでも真っ直ぐにお前を見ている。お前を誰よりもサスケは認めているよ。

 きっと俺から言っても、ナルトは信じないだろうけれど。こればかりはサスケ自身から伝えなくてはいけない。

 

 さてと。あのわかりにくいサスケの言葉を引き出すために、今度こそサスケも夕食に誘おうか。

 

 

 

 額当てをせがむナルトをあしらいながら、火影のマントを着るナルトを思い浮かべた。

 案外すんなり浮かんだそのシルエットの隣には、サスケが合わせ鏡のように立っていた。




これのおかんサスケVerも書きました。珍しくギャグ展開。
もし需要あるようでしたら掲載します。
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