1.再会
瞼へ差し込む光に網膜を焼かれ、サスケの意識はゆっくりと浮上した。
古ぼけた木目のはしる天井。色とりどりなオモチャ箱。質素だが重量感のあるタンスに机。カーテンの隙間から眩いばかりの光が部屋を照らし、腕の中には怪獣のぬいぐるみが抱かれている。
それら全てにどこか見覚えがあった。
(俺の、部屋……?)
遠くなった記憶を探り、ようやくその答えに思い至る。それこそ百年以上も昔の話だった。
里抜けする前がその部屋を見た最後。サスケの生家は、和解と共に里に戻った時には、既にペイン六道によって瓦礫の山と化していたからだ。
悲しみと苦しみの象徴にして、憎しみを募らせた場所ではあったが、それ以上に思い出が眠った家だ。
事前に聞いてはいたものの、実際に見た時の衝撃は大きく心にはポッカリと穴が開いたような心地がしたし、その後旅に出ようと決意した一因でもあった。
このぬいぐるみもその思い出の中の一つだ。フワフワした手触りが懐かしく、強く抱きしめてみれば陽だまりの匂いがした。
うちは一族は数を減らし、俺と同年代の子供はいなかった為、いつも一人で遊んだり、修行をしたりしていた。苦ではなかったが、それが寂しくなかったといえば嘘になる。だから一緒に遊んでくれる兄がアカデミーや任務でいなくなると、大泣きをして困らせていたものだ。
そんな俺を見かねて、兄が三歳の誕生日に買ってくれたのがこのぬいぐるみだった。思えば、俺の最初の友はこいつなのかもしれない。
あの夜を経て、大好きだったこのぬいぐるみは大嫌いなものに変わったが、それでもどうしても捨てられずに目の届かない所にしまい込んだのを覚えている。
───それが、何故ここにある?
不意にその思考にたどり着き、サスケのぼんやりしていた頭が急激に冴えた。飛び起きたサスケはもう一度部屋を見回したが、目に映る光景は何一つ変わらない。
(どういうことだ?幻術には掛かっていないようだが……)
チャクラの流れに乱れは感じない。だが、そんな感覚があること、そのものがおかしかった。
『おやすみ、じいちゃん』
記憶を辿り、あの笑顔を思い出す。自分の心音が徐々に小さく緩やかになる瞬間を覚えている。
あの日、俺は死んだ。それは間違いないだろう。
ここがあの世という線もあったが、今やドクドクと規則正しいリズムを刻む心臓がそれを否定していた。
「一体何が………!?」
耳に入ってきた、鈴を転がすような子供の高い声。
ハッと口を噤み部屋を見回せど、自身以外には誰もいない。
───まさか。
よぎった考えに、ありえない、と打ち消しながらも、足はゆっくりと前へ進み出ていた。
どこか期待する心が、そしてそれに裏切られた時の落胆が恐ろしかった。それでも、確かめねばならなかった。
白いカーテンの裾を掴み、ゴクリと唾を飲み込む。覚悟を決めたサスケは、一気にそれを引き、溢れ出す光に一瞬目を眇め……すぐさまその瞳は驚きに見張られた。
通りを歩く、懐かしい顔。
家々を区切る塀には、傷一つないうちはの家紋が描かれている。連なる屋敷はどこまでも続き、二階の窓からはそれらがよく見えた。
そして、サスケの動きを止めたのはもう一つ。
「どうして……」
困惑を隠せずにいる、幼き日の”うちはサスケ”が窓ガラスの中にいた。
非現実的とすら言える目の前の光景に、言葉もなく立ち尽くしていたサスケだったが、その時ちょうど目覚まし時計のアラームが鳴り響いて我にかえった。
まだ半信半疑ながらアラームを止める。チリン、と響いた音が掌から感じられて、そのリアルさにすぐに手を引っ込めた。
失った筈の家が、景色がある。ならば、もしかすると───。
数人の気配を認識すると同時、サスケは寝巻き姿もそのままに部屋を飛び出していた。
縮んだ背、短い手足、その割に重い頭。慣れない身体のバランスに、若干覚束ない足取りでサスケは駆ける。
やけに長く感じた廊下の先から、トン、トン、と規則正しい音が響いてくる。
───期待しては、だめだ。
そう思いながらも体が震えるのを止められなかった。 ギュ、と強くこぶしを握りしめて、一歩踏み出し台所へと入った。
そこにいた髪の長い女性。料理をする後ろ姿が右に左にと動いている。
やがて立ち呆けるサスケの気配に気が付いたのか、彼女は料理の手をふと止め振り返る。
サスケの姿を認めると同時に、にっこりと微笑んだ、その人は。
「おはようサスケ。あら、今日は随分早いのね。いっつも兄さんに起こしてもらうまで起きてこないのに」
「かあさん……?」
「サスケ?まあ、震えているじゃない!寒い?頭は、痛くない?」
心配そうに覗き込んでいるのは、紛れもなくサスケの母、うちはミコトだった。
額に当てられた掌から、じんわりとしたぬくもりを感じる。とうの昔に失われたはずの温度に、胸がジワジワと温かいもので満たされていく。
「よかった、熱はないようね……あらあら。どうしたの、サスケ。怖い夢でも見たの?」
あやすように軽く背が叩かれ、懐かしい母の腕にますます涙が溢れてくる。
どのくらいそうしていたのだろうか。やがてグスグス鼻を啜るも、サスケが泣き止みかけた頃。焦ったような声が台所に入ってきた。
「母さん!起きたらサスケがどこにも……!……よかった、サスケ、ここにいたのか」
懐かしい、優しい声に心が震えた。
記憶よりもやや高いが、間違える筈がない。
「にい、さ……」
「サスケ?一体どうしたんです、母さん」
「分からないわ、来た時からずっと泣き続けているのよ。きっと悪い夢を見たのね」
堪えきれず、再び泣き出したサスケの頭にポン、と大きな手がのせられた。
顔を上げれば、困ったような、心配そうな兄───うちはイタチが立っていた。
失った筈だ。この手で殺めた筈だった。
「サスケ。大丈夫、大丈夫だ。俺が、絶対に守るから……」
その優しい言葉も、今は全て涙に変わっていく。
この後、茶をすする父フガクを見て、再び泣き出したことは言うまでもない。
サスケさんが涙もろくなっているのは理由があります
①身体年齢に引きずられている
②6歳のサスケと魂が融合 心の一部は子供でもある為
どちらでもお好きな方でお考えください。
両方かもしれないですが(笑)
そういえばサスケって惨劇の夜後も、実家で生活してたんですよね。それ知った時の衝撃たるや……。両親殺された実家に住み、廃墟群となったうちは地区で一人とか……サスケが離れたがらなかったんだろうなぁ……。