21.兄弟
「おっそーい!!カカシ先生、何やってんのよ!?」
快晴の空のもとサクラの怒りの声が響き渡り、近くの枝にとまっていた鳥が飛び立っていく。
二股に分かれた尾や、黒と白の小さな姿はツバメのものだ。北から長旅をして木の葉に帰って来たのだろう。
軽々と空を飛ぶ姿を眺めながら、サスケも鳥に倣ってこのまま帰ろうかと本気で考え始めていた。
「もう六時間か。今までの最高記録を更新したな……」
「サスケェ、オレ腹減ったってばよぉ……」
いつもの集合場所である橋の上、欄干に腰掛けていたサスケが呆れたため息をつく隣、ナルトの腹がグルギューと同意を示す。
今日のDランク任務は、木の葉に訪れていたとある大名が失くした指輪の捜索だった。
犬塚家に任せた方が早いんじゃないか?という疑問はさておき、任務は任務だ。集合時間は六時。しかしカカシも遅れるだろうと一時間ほど遅めに出た。
基本的に朝は得意じゃないサスケはぎりぎりまで寝て、昼食はナルトの好物である一楽のラーメンにしようと思って作ってこなかったのだ。
そして、現在の時刻は十三時───かれこれ六時間、サクラやナルトに至っては七時間の待ちぼうけをくらっていた。これではサクラが怒るのも無理はない。
「何なのよ、もうお昼過ぎてるじゃない!これでゆっくりご飯でも食べてたりしたら許さないんだから………!」
怒りに任せ"しゃーんなろー"と拳を掲げるサクラを宥め、未だ鳴り続ける腹を抱えてしゃがみ込むナルトをちらりと見やって、ついにサスケは膝に広げていた巻物をしまった。
持ってきていた巻物は全て読み終えてしまったし、待ちくたびれた。サクラもナルトも、こんな腹が減った状態で任務に当っても集中が出来ないだろう。
それにこれほど遅いとなると、何かがあったと思うのが普通だ。といっても、一度は火影にまでなった男が殺されるなどはあまり考えにくい、大方碌でもない理由だろうが。
「サスケ?何処行くんだってばよ?」
「カカシ先生の家に行くの?それとも……」
もう一度ため息をつきながら欄干から飛び降りて、キラキラと期待に目を輝かせる二人へ、ああ、と頷く。
それだけでナルトとサクラには通じたのか、手を取り合って喜ぶ息ピッタリな姿にサスケは苦笑した。
「なぁなぁ、二人は何食べるんだってばよ?オレはさ、オレはさ、やっぱ味噌ラーメン!」
「アンタいっつもそれじゃない。たまには別のも食べないの?醤油とか豚骨とか色々あるのに……ね、サスケ君は?」
「そうだな……俺は醤油にするか」
「私も醤油にしようと思ってたの!お揃いね、サスケ君!」
「えぇ、二人共ズリィってばよぉ……ならオレも醤油!!」
そんな和やかな会話を交わしながら通りを歩いていれば、やがて一楽の暖簾が小さく見えてきた。
ゆくゆくはナルトの御用達ということもあって、木の葉どころか火の国一のチェーン店となる一楽だが、今はまだ数席しかないこぢんまりとした個人店だ。
確かに手軽ではあるが、あまりラーメン自体食べないサスケとしてもやはりここの店が一番だし、チェーン店となるのを後押ししたナルトも同じ事を言っていた。
だが店主であるテウチ、その娘のアヤメも寄る年波には勝てない。いつしかその味も失われていき、チェーン店とは言いつつも、全く別の味を未来に生まれた子供は"一楽"と呼ぶようになった。
食事が和食からファストフードに変わっていったように、嗜好の変化は仕方のないことだ。これも時代の流れなのだろうが、少し寂しく感じたものだ。
ぼんやりとそんな事を思いながら歩いていれば、一楽はもうすぐそこにあった。
だが、一楽のある通りの向かい側。前方にある木の影に見覚えのありすぎる銀髪が誰かと話しているのを見つけ、サスケはピタリと立ち止まった。
「………ナルト。サクラ。今日はやっぱりラーメンは止めだ」
「えええ、何で!?ラーメン、ラーメンがいいってばよ、ずっと食べてねぇもん!一楽のラーメン!!」
「サスケ君、どうしたの?一楽はすぐそこに……って、カカシ先生じゃない!!」
「カカシ先生!」
「おい、待ッ……!」
駄々を捏ねるナルトを引きずり、来た道を引き返そうとするも、サクラが退路を塞ぐ。サクラに続いてナルトまで騒ぎ始め、ついにはカカシも気づきやがった。
諦め悪く止めようとしたサスケの手をすり抜けて、ナルトとサクラがカカシともう一人の男の方へ駆け寄って行く。
「カカシ先生、何でこんな所にいるんですか!?私達、七時間も待ってたんですよ!?」
「あれ?言ってなかったっけ、ごめんごめん。大名様の指輪、宿の中で見つかったから任務はキャンセルされたんだよねぇ。だから今日は休みなワケ」
「何もきーてねぇよ!オレ達、腹減って死にそうだってばよ!?」
「いやぁ、実は賊がオレの家を取り囲んでてね。相手していたらすっかり忘れちゃって……」
「「ハイ!嘘ッ!!」」
ビシッと二つの指に指され、ヘラリといつもの胡散臭い笑顔を作ったカカシは、再び先程の会話相手へとその顔を向けた。
「ごめんねー、任務の取り消しを伝え忘れてたみたいでさ。あ、こいつらはオレの担当してる下忍だよ」
「ええ、わかっています。聞いてましたから。それにしても貴方は……随分と変わられましたね」
カカシは少しだけ目を丸くしたが、すぐにへらっとした笑顔を浮かべた。胡散臭いが、どこか楽しげに。
「………かもね」
「なぁなぁ!兄ちゃん、誰なんだってばよ?カカシ先生の友達?」
そんな二人を興味津々といった様子で見上げるのは、下忍達である。
ゆったりと優雅に木の影から出てきた男は、整った顔立ちに二人がわ、と暫し見惚れるとほんの少し口角をあげた。
まだ成長しきらない若々しさと反する落ち着いた雰囲気は、優しげな顔立ちと相まって見る者へ安心感を与える。
だが、サスケは二人とはまた違った意味で動揺しゴクリと唾を飲んだ。
出来れば、会いたくなかった。出来れば、会いたかった。
そんなサスケの相反する想いは露知らず、彼らの会話は続いていく。
「はじめまして。俺の名は、うちはイタチだ。それとカカシさんとは昔の同僚だよ」
言外に友達ではないと否定するイタチに、『お前ね……』とカカシの頬が引きつった。
しかし、そんなやり取りには気づかずに、ナルトはニカッと満面の笑みで手を差し出す。
「オレの名前はうずまきナルト、いつか火影になる男だ!よろしくな、イタチ兄ちゃん!」
ナルトの自己紹介の何が琴線に触れたのか、ほんの少し眉を上げたイタチは更に笑みを深めてその手を握った。
「うちはって……あのうちは一族の!?ヤダ、こんな所で会えるなんて……!」
「“あの”……?失礼だが、どんな噂が流れているのか聞いてもいいかい?」
サクラの言葉に興味を持ったらしいイタチの心が、サスケにはわかった。一般の里の民から見た、一族の掛け値なしの印象を聞いておきたかったという所だろう。
イタチは優しく微笑み、目線を合わせるように膝をつく。顔が近づいたサクラが頬を染めるのを、サスケは複雑な心境で見守った。
「え、っと。うちはの方って、定時の巡回以外ではほとんど見かけないから、その……カッコイイし、見かけたら一日幸せになれるって……」
もじもじと恥ずかしそうにサクラは告げる。だが、内容がよくわからない。
見かけたら幸せになれる?飲んだら幸せになれると謳う、どこぞの危険な薬のような文句だ。
何だかイケメンは正義よ、目の潤いよと熱く語っていた妻をふと思い出す。
まぁ、そんなものなのかもしれない。里とうちはの確執は一般人には知られていない。知っていたとしても、大っぴらにはせずに、心の中にしまっておく者の方が多いのだろう。
俺と同じ事を考えたのか、サクラの言葉にキョトンと目を瞬かせていたイタチは、“ありがとう”と苦笑して互いに握手していた。
今、俺の視界では、木の葉の里の青空の下でナルトとサクラ、カカシ、そしてイタチが笑い合っている。
その光景はずっと見ていたくはあったが、早くここを去らなければと名残惜しくも踵を返そうとした刹那。
───俺と同じ、黒い瞳が交わった。
「んー?あれ、アイツはどうしたの?」
「え?さっきまで一緒に……」
もう逃げることは不可能だろう。
疑われないためにも、早々に腹をくくってサスケはノロノロと四人へと歩み寄った。
「……サスケだ」
不審に思われないよう、いつも通りの口調を心がけた。イタチの顔は変わらない。微笑を浮かべるだけだが、その眼の奥が一瞬ユラリと揺らいだのをサスケは捉えていた。
だから、会いたくなかったんだとサスケは心の中で舌打ちする。会ったって、相手はうちはの次期頭領、俺はただの孤児。無関係な者同士だ。否、無関係であらねばならない。
記憶がなければ楽だったのだろうが、どちらにもあるからこんなに苦しい。過ごした日々は、強くどこまでも優しかったあの背は、最初から“無かった”ものでなければいけないからだ。
それが俺の選んだ道だ。戻ってもきっと、何回だってこの道を選ぶだろう。あの時の最善の道だと信じているし、後悔はしていなかった。
なのに、煩く喚くのだ。
未来のために捨てたはずの、弱く幼く、全てを信じていた頃の愚かな子供が。
「……はじめまして。うちはイタチだ」
しっかり握り合った手は、少しだけ汗ばんでいた気がする。
それがどちらのものかはわからないが、生きた人間の温かさに知らず入っていた力が緩むのを感じた。
「さてと。まー、今回はオレが待たせちゃったようだし、昼食は奢るよ」
「“今回は”じゃなくて、“今回も”でしょ!」
「オレ!オレ達、醤油ラーメン!チャーシュー大盛りだってばよ!」
二人の間に流れていた緊張感をキレイさっぱりぶち壊す、ナルト達のいつも通りの会話に肩の力ががっくり抜ける。
腕を引っ張るナルトを振りほどこうとナルトと小さな小競り合いをしていれば、そんな俺達をじぃっと見つめて何やら思案していた風のイタチがじゃあねと手を上げて一楽へ入ろうとしていたカカシを呼び止めた。
「良ければ、俺もご一緒させてもらっても?」
「「え」」
思いもよらない言葉に、カカシとサスケの声がハモった。
「へぇ、お前から誘うなんて珍しいじゃない。どういう風の吹き回し?」
「失礼ですね、俺だって空腹なだけです。それに友人を食事に誘うことも普通にありますよ」
「……お前、さっき茶屋で団子を五皿くらい食べてた気がしたけどね。見間違えかな」
「ええ、見間違えたんでしょうね。十皿ですよ」
「ああハイハイ。団子は別腹ね……」
団子に嫌な思い出でもあるのか、どこか胸焼けしたようにカカシは胸を押さえながら、お前らは?と三人へ視線で問いかけてくる。
「オレもイタチ兄ちゃんと食べてぇ!」
「私も!」
元気よく答えたナルトとサクラが、期待にキラキラした目でこちらを伺う。
この蒼と翠の目に俺は弱い。だが、深く関わり合ってはボロが出かねない。
特にイタチを前にすると全て見透かされてしまいそうで、それを心の底では願いながらも恐れているのだ。
そう思って暫し躊躇っていたのだが、やがて悲しそうな顔をしたイタチにその思いも打ち砕かれ、気づけばサスケは頷いていた。
俺はチョロいのかもしれない、とサスケは今更ながらにそう思うのだった。
◆
「もうお腹ペコペコ!それにしても、カカシ先生一体午前中何してたんですか?」
「ん〜、そうだねぇ。ま、大人の用事ってやつだよ」
「カカシさんはある人に勝負を持ちかけられてね。負けてしまったんだ」
「……お前、見てたのね……」
「ええ。鬼ごっこでしょう?身体が大分鈍っていましたよ」
ラーメンが来るのを待ちながら、他愛もない会話をする。
勝負、ということはあの眉とキャラそのものが濃いあの上忍か。頭の中でサムズアップする暑苦しい男が浮かび、出くわさなくてよかったと思った。
きっとどこまでも、それこそ里中を追いかけ回されたに違いない。サスケはほんの少しだけ、疲れたように黄昏るカカシに同情した。
「えっ……カカシ先生、負けたのかってばよ!?」
ナルトはどうやら負けた、という言葉に反応したらしい。
鈴取り演習の時にその動きを見ていたからだろう、ナルトもサクラも信じられないと目を見開く。
「言っとくけど49勝49敗、引き分けだからね?」
「まぁ……相手は体術のスペシャリストですしね。俺もあの人相手じゃ、分が悪い」
「へ〜、すっげえ奴なんだな!………うし、決めた!オレってば、そいつに弟子入りする!」
「「「…………」」」
サスケ含め、彼を知る三人共に沈黙した。
脳内ではあのダサい真緑色のタイツを着るナルトが………。無い。コレは、無い。
「な、サスケも一緒に弟子入りしようぜ!」
「嫌だ。ぜってェに、御免だ」
「ハハハ……辞めといたほうがいーよ……」
「もうあの人には弟子がいるからね。多分、二人は難しいんじゃないかな?」
イタチの説得に渋々ながら納得したのか、唇をナルトは尖らせる。
どうやら諦めてくれたようでホッと一息ついていれば、ちょうどラーメンが“お待ち!”とドンと目の前に置かれた。
熱々の湯気をたてたラーメンを啜れば、コシのある麺がプツリと切れる。汁も濃すぎず薄すぎず、鶏のダシがよく出ている。店主のこだわりがあるのか、この味はずっと変わらなかった。
和気あいあいと喋り食べ進めつつ、チラリとカカシと話す横顔をこっそり眺めた。サスケが居た時よりずっと血色がよく、病を患っているような様子は欠片もない。一族と里の軋轢も、多少なりとも緩和されたのだろうか。
今は、暗部の部隊長か?それとも、更に出世しているのだろうか?イタチの実力からしてきっと後者なのだろうな、とサスケは思う。
イタチが里の敵を演じる必要もなく、木の葉で生活している。木の葉で、七班と一緒に美味そうにラーメンを食べている。
たったそれだけのことだが、それはとても尊いことのように思えて、コチラに気が付いたイタチにぎこちなく笑いかけた。
そうすれば、やっぱり返ってくるのは穏やかで嬉しそうな笑顔で、変わらないその笑顔に全てが報われた気持ちになるのだから、やはり俺はチョロいのだろう。
「何で二人共そんな仲いいんだよ、ズリィってばよ!」
「ナルト、行儀悪いわよ!」
反対隣に座っていたナルトが身体を乗り出してくる。そんな金髪をぐりぐりと撫でれば、満足したのかニシシと笑った。
注意するサクラも少し羨ましそうにしていたのに気づいたイタチが、その幾分下にある髪を優しく撫でれば、サクラも恥ずかしげにはにかんだ。
呆れたように苦笑するカカシは、相変わらずマスクをつけたままいつの間にか完食していて、そんなカカシにみんなでマスクの下について議論して。また笑いあって。
きっと平和とか幸せを形にしたなら、こんな平凡なものなのだろう。
そして俺は今、確かに幸せだった。
◆
「そういえば……ナルト君は、火影を目指していると言ってたね」
ラーメンを食べ終えて、サクラちゃんの提案で甘栗甘へ行くことになった。
サクラちゃんは餡蜜を、イタチ兄ちゃんは三色団子を頼んで、俺も兄ちゃんの勧めで団子にした。
カカシ先生とサスケは甘いものが嫌いだから、ピリッとした辛味の花林糖を選んだ。何だか、この二人ってこういう所似てるよな。
そうして一番上に刺さったピンクの団子をパクリと頬張っていると、ふいにそんな話が向けられた。自己紹介の時の事を言ってるんだろう。
普通、オレがそれを言うと大抵の奴らは無理だろって呆れたり、馬鹿にしたりするから少し警戒して整った顔を見上げる。
だけど、兄ちゃんはちっともそんな感じじゃなくて、優しい眼差しでオレを見ていたから安心した。団子を飲み込んでおう、と胸を張る。
「オレは火影を超す!んでもって、里の奴ら全員にオレの存在を認めさせてやるんだ」
「そうか。でも、一つ覚えておくといい。“火影になった者”が皆から認められるんじゃない。“皆から認められた者”が火影になるんだ。………仲間を忘れるな」
そう言って、イタチ兄ちゃんはサスケやサクラちゃん、カカシ先生へ目を移した。
兄ちゃんの言ってる意味は分かる。だけど、オレは里で認められてない。だったら、遠回しに無理だと言っているのか?
そんな事を色々考えていたら、トンと額当てを小突かれた。
「お前が他人の存在を意識して、認められたいと願い一途に頑張るなら……いつか、里の皆もお前を認め、仲間だと思ってくれるようになるさ」
ポカンと額当てを押さえたオレに、兄ちゃんはそう言った。出来るのかな。ずっと、一途に頑張れるのかな。
不安にギュと額当てを掴んで、それでオレは思い出した。
これを手に入れた時、オレは一人じゃなかった。サスケも、イルカ先生もいた。
ああ、だから“仲間を忘れるな”って言ったのか。きっと一人じゃ耐えられない。だけど、側に誰かが居てくれるなら……きっと、頑張れるから。
「へへ……そうだよな」
「ああ。その為にも、小さな任務であっても手を抜かず、しっかりこなしていけ。一見つまらない任務であっても、それらから学べることも多いからな」
「おう、任せとけってばよ!」
「……おい。何話してんだよ」
イタチ兄ちゃんと笑いあっていたら、サスケに不機嫌そうに睨まれた。何かしたかなと思うけど、覚えがない。
兄ちゃんはニコニコとそんな不機嫌になってるサスケの、額のシワを俺にしたみたいにトンと触れる。オレにしたのより、何だか優しく。
「俺も火影を目指しているからな、ナルト君は俺のライバルだ、という話だよ」
「アンタが火影に……?」
「イタチさん、火影服似合いそう!」
「へぇ、そりゃ初耳だね。でも、ま……お前ならすぐになれそうだけど」
驚いた。兄ちゃんも火影目指してるのか。
だったら、オレと兄ちゃん、それに木の葉丸の三人が火影候補でライバルってことになる。……勝てるかな。
サスケが目線だけこっちに寄越す。鼻でふん、と笑った。『お前が勝てる訳ねーだろ、ウスラトンカチ』と声が聞こえた気がしてムカつく。
「見てろよ、サスケェ!オレってば、兄ちゃんにだって負けねーぞ!んでもって、オレが火影になったらお前が補佐だかんな!」
「はぁ?勝手に人の人生決めてんじゃねェよ」
「アンタ、何そんな羨まし……馬鹿なこと言ってんのよ!贅沢よ、贅沢!」
「俺も負けるつもりはないよ」
「意外とオレがなっちゃったりしてね〜」
ワイワイガヤガヤと笑い合って、時間はあっという間に過ぎていた。
昔から知ってたみたいに、兄ちゃんは七班に溶け込んでいた。不思議に思ったけどみんなと別れた帰り道、サスケと二人で兄ちゃんに誘われた“団子の節句”にあるうちはの祭りの話をしてて、不意に気づいたんだ。
イタチの兄ちゃんと、サスケ。
二人は良く似ているということに。
性格はすっげえ似てねーけど、でも顔とか、雰囲気とか、黒い目だとか。きっと、兄弟だって言われても納得してただろう。
それに兄ちゃんがサスケに向ける目が、オレとかへ向けるものよりずっと柔らかかった。
サスケだってそうだ。なんつーか、態度?が子供っぽいっていうか、素直っていうか。
でも、何だかそれは悔しかった。仲間はずれにされてるような、そんな気がして。
「ナルト、夕飯は何がいい?」
「んー、じゃあさ──」
何も知らないフリをして、サスケに夕飯のリクエストをする。
このやり取りだって何十回、何百回も繰り返されたものだ。サスケはオムライスもハンバーグも、シチューも味噌汁も、オレが名前しか知らなかった料理をいっぱい教えてくれた。
サスケとオレは、ずっと一緒に育った。生まれてから十二年、そのうちの半分一緒にいたんだ。
サスケとオレは兄弟だよな?
血は繋がってないけど、そう思ってもいいよな?
心の中でそう問いかけるけど、答えは当然返ってこない。
でも、オレが立ち止まったら、サスケはいつだって待っててくれる。それでさ、当たり前のことみたいに言うんだ。
「ナルト?早く来い、帰るぞ」
「……おう!」
振り返ったサスケに、ナルトは止めていた足を踏み出して駆け寄っていく。
並んで消えていく二つの背を、イタチは遠く別れた場所から寂しげに見送っていた。
5月5日、端午の節句では子供の無病息災を祈ってちまきや笹団子を作ることから、またの名を団子の節句と言うそうな。
おまけ
「カカシ!!我が永遠のライバルよ、いざ勝負だァ!」
「今日は止めよって……」
「48勝49敗、このまま勝ち逃げなんぞ許さんぞ!!」
「はあ……駄目だって言っても駄目みたいね」
「今回の勝負は俺が種目を決める番だな!種目は───走れ青春!!KONOHA鬼ごっこだァ!!」
「わかったわかった……、じゃあ目を閉じて百数えてちょうだい」
「100999897969594───」
「ちょっと、数えるの早すぎでしょ……!」
念仏の如く超速で唱えられていく数字に、慌ててカカシは駆け出した。
こうして始まった鬼ごっこ。イチャパラを捲る間もなく、カカシは里中を追いかけ回された。
「くっ……仕方ない。影分身の術!」
「む、これは影分身……フフフ、やっと本気になったようだな、友よ!ならば全て捕まえるのみだ!!!」
「何ッ、影分身が次々と……!?」
「カカシィィィ!!どこだァァァァ!!」
「あーもう!!」
風をきって屋根から屋根へと走る忍二名。里の民も慣れたもので、額に手をかざし観戦を始めている。
その中に、茶屋に入ろうとしていた非番の忍二名がいた。
「お。見ろよイタチ」
「ああ、カカシさんにガイさん……また勝負をしてるのか。流石、カカシさんは足運びが完璧だな。ガイさんも一段と脚力を上げたようだ」
「偉く鬼気迫った鬼ごっこだな~。怖い怖い」
「シスイ、どちらが勝つか。一つ賭けでもしないか?」
「おっ!面白そうだ!俺はそうだな〜、迷うとこだが……忍術アリならカカシで!」
「なら俺はガイさんだな」
「ん?……悪い、イタチ。またお上から呼び出しだ。結果は今度教えてくれ」
「わかったから、早く行け。……全く。暗部の業務改善はどうしたものか」
「是非ともよろしく頼む」
「今度意見書を出してみるが、期待するなよ」
「カカシィィィィ!逃げるな、漢らしく立ち向かわんか!」
「お前鬼ごっこのルール、分かってる……?」
タイムリミットを決めてなかったが為に、カカシはその後も数時間追い回され。イタチはそんな二人を赤い布のかかった縁台で団子を食べながら、こっそり口寄せで追っていた。
しかし、一向に決着のつかない様子に昼時も過ぎて遂に痺れを切らし、茶屋の前を何度目かに走り去ろうとしていたガイを呼び止める。
「ガイさん、こんにちは。そんなに急がれてどうしたんですか?」
「やあイタチ君!すまないが、今カカシと漢と漢の勝負中でな!」
「カカシさんと?ああ、だからさっき火影邸の方に逃げていったんですね」
「何ィ!?」
「顔岩の方から先回りしてみては?」
「おお!いい考えだ!待ってろよ、カカシィィ!」
こうして賭けはイタチの勝利となった。