原作のキャラ設定を大切にしました(*ノェノ)
「全員、来たみたいだね」
「カカシ先生!」
リーとの決闘を終え、ようやく辿り着いた301教室の前。いつもの18禁本さえ読まずにカカシはサスケ達を待っていた。
ナルト、サクラ、サスケ。
ひとりひとりを確認するようにジッと見つめ、カカシはやがて満足そうにニッコリと笑った。
「お前らはオレの自慢のチームだよ。……さあ、行ってこい!」
カカシの激励に背を押され、重厚な扉に手をかける。
───そして。どこか不吉な音を立てながら、扉が開いた。
もう、戻ることはできない。
◆
「す、すげーってばよ……」
「まさか……これ全員、受験生?」
「フン……」
一斉に集まった百を優に超える視線に、ナルトとサクラがたじろぐ。
興味、苛立ち、殺意。そんな生ぬるい威圧は黙殺し、サスケは意識を研ぎ澄ませた。
その中に、奴はいた。
雑多な人混みに一つ紛れる、異様とすら思える不気味なチャクラ。そちらを振り返るような馬鹿な真似はしない。けれど、その姿はありありと脳裏に浮かぶ。
────元三忍の一人、大蛇丸。
認めるのは癪だが、仮にもサスケの師だった奴だ。前は狙われ、殺されかけ、呪印を付けられ、里抜けを唆され、転生体にと育てられ、そして返り討ちにした。
そんな因縁深い奴だったのだが。
(俺じゃねぇな……ナルトか)
こちらを見たのは一瞬。その粘つくような視線が向かったのはナルトだった。
写輪眼どころか、“うちは”の名すら持たないサスケには興味がないのだろう。そして、尾獣にも大して執着がないのは相変わらずなようで、ナルトに向けられていた目も直ぐに逸らされた。
それに、サスケはそっと安堵の息を吐いた。弱っているならともかく、チャクラもまだ少なく輪廻眼も万華鏡写輪眼もない、写輪眼すらも公に使えない現在、戦ったとしても勝ち目はほぼない。
それに、もし仮に倒せたとしてもだ。奴は後々心変わりして有益な研究や情報を提供するようになる。
そして何より…………あんな奴だが子持ちとなるのだ。それも、一人娘や一番弟子と一緒の班に。
殺しても死にそうには到底思えないが、それでも今後を考えると何とも対応に困る奴だったりする。
そういった訳で、こちらに意識が向いていないのならばそれに越したことはない。ひたすら避ける、今はそれしかないだろう。
しかし、大蛇丸がいるということは、再び木の葉崩しも起こるということだ。そして、恐らく今回狙われるだろうイタチにもどうにかして警告したい。………いや、必要ないか?
試験にばかり集中する訳にはいかないな、と様々な思いを巡らせつつ、サスケは突進してきたいのをスッと躱した。
「サッスケ君、おっそー……いっ!ってサクラじゃない!」
「さっさと離れなさいよ、いのぶた!重いんだから!」
「あら、アンタこそ太ったんじゃない?おでこが余計目立ってるわよ」
「何ですって!?アンタなんか………!」
勢いを殺せなかったいのはサクラに飛びつく形となり、二人ぎゃあぎゃあと言い争いを始めた。相変わらず仲がいい二人だ。
その喧騒を聞きつけた同期のメンバー達が、続々と集まってくる。
「よぉ。こんなめんどくせー試験、お前らも受けんのかよ」
「なんだぁ、オバカトリオじゃんか!」
「その言い方やめろって」
「これはこれは、皆さんお揃いでェ!く〜〜、今年の新人下忍9名、全員受験ってワケか!」
「お前らもかよ……ったく、めんどくせー」
いのと同じ十班のシカマル、チョウジ。八班のキバ、ヒナタ、シノ。こうして同期が揃うのも班分けの日以来で、半年も経つと随分久しく感じる。
それぞれ任務を重ね、成長した自負があるのか自信たっぷりに各々近況報告をし合っていれば、ふいに音もなく背後から気配が近寄ってきた。
「君たち、もう少し静かにしたらどうかな」
「っ……!?」
そんな言葉と共に現れたのは、薬師カブト───ではなかった。
「別に君たちが殺されても全く構わないんだけど、僕まで同類と思われるのは迷惑なんだ」
里の恥さらしだよね。
そう穏やかとも言える聞き覚えのある声音で、滑らかに毒を吐いたその男。振り返った瞬間、時が止まったような気がした。
(……サイ!?)
黒髪黒目、病的なほどに白い肌。器用にもにこやかに、冷たく微笑むその姿は忘れるはずもない。
嘗てよりも幼いが、それでもそんな貼り付けたような笑い方をする奴を他に知らない。
そして何より。
「おい、お前。誰だよ」
「僕は“サイ”。君たちの先輩に当たるんだけど……それより、臭いから近づかないでもらえないかな?犬臭さとか馬鹿っぽさとかうつったら大変だから」
「ってッめぇ………ッ!」
「キ、キバ君落ち着いて!仕方ないよ、犬が苦手な人だっていると思うし……」
「別に犬は苦手じゃないけど。君みたいな根暗よりマシかな」
「根暗………犬より下……」
「ちょっと、あんた!いきなり出てきて何なのよ、ヒナタ泣かせるとか最低!」
「何で泣いたのかわからないけど……不快にさせたなら謝るよ、ブス」
「しゃーんなろーーー、そこに直れーーー!」
「お、おいお前命知らずだってばよ!女の子に根暗とかブスとか言っちゃ駄目なんだって!美人とかかわいいとかさぁ……」
「へぇ、知らなかったよ。君みたいな玉無し野郎じゃないからね」
「お前……!人がせっかくなぁ……っ!」
「まぁまぁ、落ち着きなよナルト。……仕方ないな、僕のポテチあげるからさ」
「遠慮するよ。君みたいなデブにはなりたくないんだ」
「肉弾戦車!!!」
「お、おい!落ち着けってチョウジ!」
「チョウジ、止めなさいよ!全く……みんな挑発に乗るなんて馬鹿ね」
「(えっと、女の子には根暗やブスとかは駄目で………)挑発してるつもりはないんだけどね、美人さん」
「っ!」
「ちょっと!いのには何で美人さんなのよぉぉぉ!!!」
「この人はただ正直なだけよ!ブスなデ・コ・リ・ン・ちゃん!」
「………無視は嫌いだ」
この毒舌………間違いなくサイだ。
噛み付こうとするキバと赤丸、部屋の隅に蹲るヒナタ、拳を握るサクラ、臍を曲げるナルト、攻撃しようとするチョウジとそれを押しとどめるシカマル、頬を染めるいの、何も言われず寂しげなシノ。
サイが現れた事で、むしろかなり騒がしくなり周囲の殺気がどんどん色濃くなってきている。
たった数分でここまで混沌とさせるとは、ある意味凄い才能だ。
(………それより、何でこいつがここにいるんだ?)
その騒動を静観していたサスケは、まじまじとサイを見つめた。
こいつと初めて会ったのは、確か16の時だ。その当時は大蛇丸の元にいて、木の葉からだと紹介されたのが最初。
興味なんてなかった。ただ、人形のように空っぽな笑い方をする奴だと思っただけで、それ以上でもそれ以下でもなかった。
そして二度目は終戦後。実際はその前にも会っていたのかもしれないが、“サイ”として認識したのは木の葉の牢の中、奴が面会に来た時だった。
君が羨ましい、そう言って少し歪めた顔は人形なんか程遠くて、あまりにも人間臭くて。変わったなと答えれば、奴は“普通”に笑った。
お互い、いい関係ではなかったように思う。けれど、悪い関係でもなかった………筈だ。苦手ではあったが。
そんな奴が何故、ここにいる?
そう考えた時に真っ先に思い浮かぶのは、杖を付き顔半分を隠したこいつの上司───ダンゾウだった。
前も参加していて俺達と接点がなかった、ということも考えられる。
しかし。先ほどから気になっていたのだが………カブトがいないのだ。一向に姿を見せる気配がなかった。
カブトの代わりにサイが現れた、それを無関係とはどうしても思えない。
もしかするとダンゾウも木の葉崩しに絡んでくる可能性がある。止めようとしているのか、それとも───協力しようとしているのか。もしも後者であれば、警備の穴なども突かれ被害は前とは比べ物にならなくなるだろう。
前と同じ立ち位置に別人がいる。今までも“前”と違うことは色々あったが、こんなのはなかった。
あくまでも多少状況が変わっているだとか、なかったものが新しくあったり、あった筈のものがなくなっていたり。そういう類のものだった筈なのに。
ここまで予測の出来ない事態になるのは初めてで、背に嫌な汗が滲むのを感じた。
どうしたものかと頭を悩ませていれば、こちらを振り返ったサイがにっこりと微笑んできた。
「そんなに見ないでくれるかな。あ、もしかしてホ○なんですか?」
「…………」
思わず頬が引き攣る。言い返しては負けだ。
「アンタね……!サスケ君になんて事言うのよ!!」
「お前なんか好きになる訳ねーってばよ、バーカ!!」
「仲間に庇われるなんて、お姫様みたいだね。もしかして○○○ついてないの?」
「…………」
思わず蟀谷が引き攣る。言い返しては………。
「サスケは男だってばよ!一緒に風呂入った時、ちゃんと見たかんな!」
「やっぱりホ……」
「二人共黙れ。燃やすぞ」
自信満々に胸を張るナルトと、嬉々として口を挟むサイに、サスケは若干本気で殺意を抱いた。
しかし、後ろには大蛇丸。すぐに隠さねばならないのがやや悔しい所だったが、その一瞬でも力量差は分かったのか、サイから微笑みが消えたことに溜飲を下げる。
「……それで?一体何の用だ。わざわざ注意する為だけに周囲から目をつけられそうな真似した訳じゃねぇだろ」
「……まぁそうだね。同じ木の葉の忍だし、ルーキーにちょっとだけアドバイスしてあげようかなって思って」
「ケッ、てめーのアドバイスなんかいるかよ!」
キバの声を無視して、サイは懐から巻物を取り出し広げた。何も書かれていない白紙のそこへ、サラサラと筆を走らせていく。
「今回の中忍試験の総参加者数。それからそれぞれの里の受験者数は……こんな感じかな」
書き上げられた五大国の地図は、流石というべきかかなり精巧な造りだ。細かな島まで正確に書き記されている。
それに感嘆すると共に、やはり取って代わられているカブトのポジションに先ほどの疑念が濃くなった。
前はカブトがカードで色々と教えていた筈なのに。今やサイが同じ行動をとっている。
───これは、偶然だろうか。同じ流れをこの世界が追わせているのか。それとも。
「木ノ葉隠れの里以外にも、砂隠れ、雨隠れ、草隠れ、滝隠れ……今年もそれぞれの隠れ里の下忍がたくさん受験に来ているんだ。受験者150人中、合格できるのは毎回多くても5人程度。倍率は毎回30倍以上だね」
「お前はどうなんだってばよ?もう参加したことあんの?」
「受験するのは4回目だよ。この試験は年に2回しか行われないから2年目になるね。僕だけじゃない、この中の半数は最低2回は試験を受けているはずだよ」
「待って!それじゃおかしいじゃない。この中の半数より、もっと落ちてる人がいるはずよ!」
「そうだけど、落第者が再び受験出来るとは限らないんだ。忍として再起不能になった人とか……死者も毎年出ているから。中には忍を辞める奴もいる。それに今年は豊作で新人も多いけど、彼らは各国から選び抜かれた下忍のトップエリート達ばかりだ。君たちも甘くみないほうがいい………じゃないと、殺されるよ」
そっと受験者達へ目を向けたサイは、表情のない分何を考えているのか読み取れない。
それに不気味さを感じたのか、サクラ達が黙り込んだ。先ほどの喧騒もすっかり沈静化しており、若干重苦しい空気が漂う。
しかし。
「んなの、知るかよ!オレの名はうずまきナルトだ!てめーらなんかにぜってェ負けねーってばよ!!」
そんな空気をきれいに吹き飛ばすような大声で、ナルトは軒居る受験者達へ啖呵を切った。
これでこそ、うずまきナルト。意外性ナンバーワンはどこまでいっても健在だった。
「ナルト、アンタ何吹いてんのよ!!」
「ぐえ……だ、だって本当のこと言ったまでだってばよぉ!」
そんなサクラに締め上げられるナルトを、サイは目を丸くしてまじまじと見つめていた。そして、思わずといったように呟く。
「凄いな……一瞬で全員敵に回したね。頭おかしいのかな?」
ナルトもお前にだけは言われたくないだろうな、と心の中で突っ込んだ。自覚がない方が重症なのは間違いない。
だが、流石は意外性ナンバーワン。何かがサイの琴線に触れたのだろうか。
「………兄さんにそっくりだ」
サイが笑った。作り物ではない、懐かしい人間臭い顔で。
サイがどんな立場にいるのか、何を考えているのか。
まだ何一つわからない、けれど。
(……やっぱり、お前はそっちの方が似合ってるな)
口はアレだが、それでも悪い奴ではない。今回は、もう少し歩み寄れるかもしれない。
そんなことを思って、サスケはほんの少し眼差しを緩めた。