28.死の森
一次試験後に派手な登場をした試験官、みたらしアンコに連れられてサスケ達は第二試験の試験会場についた。
会場、とは言ってもアカデミーのような屋内ではない。
風と共にザワザワと揺れる木の枝。木の葉に阻まれて奥は薄暗く、先は見通せない。
そんな相変わらずの薄気味悪さを放つ第二の試験会場、第四十四演習場───別名『死の森』。
ここに来るのも六年ぶりだ。うちはを離れ、呪印を入れられた後連れてこられた場所。
あの時は確か大熊に襲われた。熊だけじゃない、蛇やら猪やら虫やら………この森で育つと何故ああも巨大になるのか、つくづく不思議な地である。
「それじゃ、第二の試験を始める前にアンタらにこれを配っておくわね!同意書よ、これにサインしてもらうわ」
「同意書?」
「そ。こっから先は死人も出るから、それについて同意をとっとかないとね!私の責任になっちゃうからさ〜〜〜」
さらりと死をほのめかし、試験官であるアンコはアハッと無邪気に笑う。
配られた紙には婉曲されてはいるものの、簡単に言えば「試験中に死んでも自分の責任」というような旨が書かれている。更には必要な人には遺書を用意するそうなのだから用意がいい。
(………遺書、か)
自ら死にに行くようなものだから、遺書という括りなのだろう。木の葉では任意であるが、いつでも里に無料で遺書を預けられる。中身は死後でなければ公開されることはない。
忍は死に近い、いつ死ぬかもわからないからこそのシステムだ。
ゆくゆくは遺言書という名に変わったこのシステムを、サスケも百を越えたあたりで利用したことがあった。
孫のこと、曾孫のこと、訪れた先で会った学校の子供たちのこと、研究協力をした開発局の奴らのこと、財産のこと、術の開発権利のこと。それから、俺の葬儀のこと。
そんな遺言通りになったのなら、死後、この身体は骨の一欠片も残すことなく燃やし尽くされた筈だ。
それが火を操るうちはの伝統的な葬儀法だった。血継限界の情報の詰まった身体を、髪一筋残さぬようにという意図もあったのだろう。念の為に、目だけは死とともに封じるよう細工をしておいたけれど。
しかし、今書くのだとすれば。逆に何を書けるだろう。書けるのはせいぜい七班くらいか。しかし、今や遺せるものなど何もない。
そう考えると、嘗ては随分と色々なものを築いたと思う。
「じゃ!第二の試験の説明を始めるわ」
過去に思いを馳せていれば、たっぷりとナルト達受験生を脅したアンコがようやく第二の試験の説明を始めた。
アンコ曰く。
第二試験はサバイバル戦である。
地形としては、塔を中心とした半径10kmの円状。ゲートは44個、森に囲まれており、塔のすぐ側を北から南へ川が一本走っている。
その中で行われるのは、“巻物争奪戦”だ。
一次試験合格者は78人、26チーム。13チームは「天の書」を、残った13チームは「地の書」を渡される。
その天地両方の書を持って三人で塔まで来いとのことだ。つまり、最低でも半数のチームが落とされることになる。
制限時間は120時間、つまりは五日間。
自給自足、敵だらけの中で生き抜くことになるのだ。敵に殺される以外にも疲労の蓄積での脱落者も出る。
失格条件は3つ。
1、制限時間内に塔まで辿り着けなかったチーム。
2、班員を失ったチーム、又は再起不能者を出したチーム。
3、巻物を開いたチーム。
途中のギブアップは一切無しだから、受験者は班員を失って失格となったとしても、五日間は森の中で生き抜かなくてはならない。
巻物がどちらか。三人の内誰が持っているか。わからないからこそ全員が敵。
────命懸けで巻物を奪い合い、殺し合う。
たかが試験。されど試験。まだ二十歳さえ迎えてもいない子供のうち、この中の一体何人が命を落とすのか。
それを考えると、平和を知る身としては遣る瀬ないところだ。
「説明は以上。同意書三枚と巻物を交換するから、その後ゲート入口を決めて一斉スタートよ」
そう言ったアンコは、ぐるりと俺たち受験生を見回す。いくつもの死を見届け、そして生き抜いてきた強い眼差しで。
「最後にアドバイスを一言─────死ぬな!」
ここから先は一歩間違えれば死が待ち受ける。
それでも、引くわけにはいかなかった。
───必ず、勝つ。
受験者達の思いは一つ。
そんな彼らの後ろで。一人の男が目を細め、ペロリと舌なめずりをした。
◆
ナルトの引いたゲートは12。
試験官が鍵を回すと共に、カチリと乾いた音が落ちていく。天の書を片手に、サスケ、ナルト、サクラはざわめく森へと足を踏み入れた。
「これより中忍選抜第二の試験、開始!!」
スタートの合図と共に、飛び出そうとしたナルトをサスケは止めた。
サバイバルの基本、まず第一に行うべきこと。それは、“考える”ということだ。
状況、情報、目的、資源。それらを統合して行動を決めなくてはならない。
セオリーであるならば、腕に自信がある奴は一直線に塔へ向かっただろう。忍の足ならば走れば10kmくらい30分もあれば余裕だ。歩いてでも数時間程度。森という立地条件や戦闘時間を含めなければだが。
そして、長期戦を覚悟している奴らは、まず安全な潜伏場所と水の確保を優先した筈だ。
塔と川の周辺に人は集まる。つまりは“狩り場”だ。それくらいは誰だって考えるだろう。
そう───大蛇丸だって。
今、最優先すべきなのは潜伏場所でも水でもない。大蛇丸との接触を避けることだった。
だから、大切なのは大蛇丸ならばどちらを選ぶか。
(…………塔、だな)
奴は戦いを楽しむ傾向がある。それこそ自信をへし折り、捕食者と自身を称して甚振って殺す。そんな悪趣味な奴だ。
だが、弱い奴は歯牙もかけない。それに、ああ見えて結構短気な奴だ。長期戦を好むようなチームは好きじゃないだろう。
なら、俺たちが向かうべきは───。
「おい、サスケ!どこ行くんだってばよ!?」
「川だ」
「川目指すのは分かったけどよ……………じゃあ何でフェンス辿ってんだってばよ!」
喚くナルトに大声を出すな、と睨みつけた。
だが、ナルトの言う通り森の奥には入らず、フェンス沿いをひたすら歩いていた。
そう、川を探す為に。
「サスケ君、確かにこのまま歩けば川に出るとは思うけど……でも、ナルトの言う通り回り道じゃない?直線距離のほうが早いわ」
サクラも不安そうに俺を覗き見る。確かに、時間を考えれば森の中を突っ切って探す方が早い。
しかし、安全性はこちらの方が断然上だ。森の中心部に受験生が集中してる今、フェンス沿いなど誰も見向きもしないだろう。
まぁ、より正確に言えば、周囲を見回っている試験官達がギョッとしたようにガン見してくる位か。そんなものはこの際無視だ。
「それに、塔に集まった奴らはせっせと網を張っている頃だ。だが川はノーマークだろうからな。ナルト、サクラ。お前らの修行の成果を見せる時だ」
「成果って……まさか────水面歩行!?」
サクラの問いにコクリとうなずく。
サスケの立てた計画とは、水面歩行で塔まで一気に行くという単純なものだ。
単純ではあるが、川岸に塔はあるし上流は枝分かれもしていないから迷うことはない。川幅も10メートル程はあった筈だ。熊やら蛇やら虫やらに襲われる心配もないし、川岸からクナイを投げられても避けきれるだろう。
それに加えて、川下から進むつもりだから匂いやら気配やら声やら、せせらぎに消され川上の奴らには悟られまい。
いやむしろ、そうしたものが川下にいるこちらへ流れてくる。
「巻物は、水分補給でもして油断してるところを奪えばいいしな」
「確かに……」
納得したのか、ナルトもサクラも黙り込んだ。
欠点としては遮蔽物がなく見つかりやすいことだが、薄暗くなってる時にでも狙えば問題はないだろう。
それに、動物の雑多な気配のない川からなら、感知タイプではないサスケも敵を察知出来る。
そんな考えに基づいて、第七班はフェンス沿いに進み、半刻程で川に行き着いた。
「まずは腹ごしらえだ。少し日が落ち始めたら他の奴らも休みだす。そこを狙っていくぞ」
他の受験生との戦闘でヘトヘトになり、飯を食ってホッと一息ついている間を………というやつだ。
顔色一つ変えずにそんな非道な事を言うサスケは、傍から見ればあの変な試験官よりも恐ろしく見える。
(サクラちゃん。サスケってさ、意外とえげつねえよな)
(まぁ……で、でも!そんなシビアなとこが素敵なのよっ)
腹ごしらえの後、クナイやら起爆札やらの手入れを始めたサスケを見て、ナルトとサクラはなんとも言えぬ顔をしていたらしい。
※現在の位置関係の把握にお役立てください。よく分からない方はスルーでOK。
・演習場は円形である。
・北〜南東へ川が流れている。
・ゲートは44である。
・アンコ達に連れられてきた場所を南とし、そこがゲート1とする。
・反時計回りにゲート番号は等間隔で振られている。
南〜東→1から11ゲート
東〜北→12から22ゲート
北〜西→23から33ゲート
西〜南→34から44ゲート
ゲート6(南東)→我愛羅、カンクロウ、テマリ
巻物 : 地
ゲート12(東)→うちはサスケ、春野サクラ、うずまきナルト
巻物 : 天(×6)
ゲート15(北東)→大蛇丸様
巻物 : 地
ゲート16(北東)→日向ヒナタ、犬塚キバ、油目シノ
巻物 : 天
ゲート27(北西)→奈良シカマル、秋道チョウジ、山中いの
巻物 : 天
ゲート38(南西)→サイ
巻物 : 地
ゲート41(南西)→日向ネジ、ロック・リー、テンテン
巻物 : 地
大蛇丸様が北東(鬼門)、サイが南西(裏鬼門)
サスケ達は東にいたのですが、フェンス沿いに南下。奇しくも大蛇丸様達と離れることに。