「クソ……またハズレだってばよ!」
「また!?もう……ウソでしょ……」
「これで三連続か……」
サスケ達は巻物を見つめてがっくりと肩を落とした。
巻物は四つ。三つは川辺で休んでいた奴らを奇襲し手に入れたもの、もう一つは元々俺たちが持っていたものだ。
巻物は手に入れた。奇襲は上手く行き、それほど困難だった訳じゃない。
しかし、書かれている字は全て───“天”。
全部で巻物は26、天の書は13。そのうちの四つを持っているというのもすごい話だろうが、合格するためにはもう一つの巻物───“地”の書が必要となる。いくら天の書を集めても意味がないのだ。
ルールで巻物を開いては失格となるから、中身を確認する事も出来ない。よって、本物と証明する手立てがないため、交換を申し出ても罠だろうと判断され、最終的には戦闘になり。やむなく巻物を奪ったはいいが、地の書はなかった。
つまり、またチームを探すことから始めなくてはいけない訳で。
「「「はぁ……」」」
運命とやらは、そう簡単にクリアさせてはくれないらしい。
◆
中忍試験の中で最も危険なのはと聞かれたなら、この二次試験と迷わず答えるだろう。
何故か。それは、試験官の目が届かないからだ。だから、大蛇丸は接触出来た。
その後の試合も危険といえば危険だが、火影や上忍やらが集まっている。大蛇丸も本戦までは表立って目立つ行動はしない為、ある意味安全といえた。
そんな訳で、なるべく早くゴールしたいとサスケは考えていた。日は既に落ちてはいたが、他チームが活動を控えるこの時間帯は狙い目だ。
休憩を挟んで身体も休まり、そろそろ出発しようかと考えていた、そんな時。
ふと、サスケの第六感が警鐘を鳴らした。気持ちを素早く切り替え、意識を研ぎ澄ませる。
一、二………いや、三人。チームで動いているところを見ると、恐らく大蛇丸ではない。
しかし、様子がおかしい。
(追われているのか?)
こちらに気づいている様子はなく、ただ、何かから逃げるように急ぎ足で近づいてきている。
一人はやけにチャクラが希薄だ。怪我をしているのかもしれない。
「ナルト、サクラ。どこかのチームがこっちに来る。とりあえず隠れるぞ」
サスケの顔色が変わったことに気づいていた二人は、コクリと神妙に頷く。
木の影に身を潜めて一分。ガサリと草陰が揺れた。
(…………我愛羅?)
現れたのは我愛羅だった。
しかし、いつもの余裕のある風情ではない。一言でいうならば、満身創痍というやつだ。
服はボロボロ、あちらこちらに血が滲んでいる。砂の絶対防御を誇る鎧がサラサラと剥がれかけ、顔色は悪い。
何があったのか、と眉をひそめたサスケは直ぐに目を見張った。
我愛羅の後ろからよろめきながら現れた、テマリとカンクロウ。正確に言えば、カンクロウに。
濃い血臭が少し離れたこちらにまで漂ってきた。チャクラはかなり薄い。テマリが肩を貸して何とか歩いているものの、意識も朦朧としているのか、足取りはフラフラだった。
まさに重症、このままでは────死ぬ。
ゴクリとナルトとサクラが息を飲んだ。
波の国任務がなかったものだから、死どころか血に対してもさほど耐性がない。動揺し、それと同時に気配が漏れたのも仕方がない反応だと言えた。
「誰だ……出てこい……!」
だから、我愛羅が気づくのも当然のことだった。
手負いの獣の如く、血走った薄緑の瞳が闇の中で爛々と輝く。殺気も普段より荒んでおり、ナルトとサクラの足が震えるのが分かった。
相手は手負いでチャクラも消耗している。今ならば、逃げることなど容易い。巻物を奪う事も出来るかもしれない。
しかし、ボロボロの我愛羅達を襲う気にはなれないし、今見捨ててはカンクロウの命が危ういだろう。
サスケは一つため息をついて、木の影から姿を見せた。
「久しぶりだな、我愛羅」
「お前は……サスケ、だったか」
我愛羅の目が一瞬だけ丸く見開かれ、殺気が僅かに緩んだ。
どうやら覚えてくれていたようで、すぐさま砂で攻撃される事態にはならなかったことにホッとした。
しかし、そんな我愛羅とは逆にテマリに睨みつけられる。抱えるカンクロウがいなければ臨戦態勢に入っていただろう、そんな気迫を感じた。
「で……何だい?私らの巻物を奪おうっていうなら、容赦しないよ!」
「そんな状態で言われもな。まぁ今のところ……お前らに害を加える気はない」
今のところ、の下りでチラリとナルトとサクラに目配せすれば、コクリと頷かれた。戸惑うような視線からは任せる、そんな思いが透けて見えた。恐らくは我愛羅達と知り合いと悟ったからだろう。
だから、サスケは自身の中で決定している事実を述べた。
そう、心情云々を抜きにしても、この世界の未来にとってここで死んでもらっては困る。
「ナルト、サクラ。急いで止血草を採ってきてくれ。種類は任せる」
「え?お、おう!行こうぜ、サクラちゃん」
「止血草って……あんた分かるの!?」
「まぁ、少しだけどよ。あ、そういやさっき川辺に……」
何やかんやと慌ただしく二人は駆けていった。
本当にお人好しな奴らだ。会ったこともない、ライバルである我愛羅達を助ける、そのことに難色一つ示さずに走るのだから。
だが、そんなあいつらだからこそ救われる奴がいる。
呆れつつも眩しげに二人の背中を見送る。森の中に二人が消えるのを見届けて、サスケは表情を引き締めた。
「どこをやられた?」
「ハッ……お前らを信用出来る訳がないだろ……!」
尤もなセリフだ。一度しか会ったこともない、しかも受験者同士。
サバイバル戦のまっ最中なのだから、いい人ぶって近づいてグサリと殺られても文句はいえない。
だが、こうして言い争っている間にもカンクロウの命は危うさを増していた。もう意識が途絶えたのかぐったりとしており、モタモタしている時間はなかった。
テマリの鋭い視線にどうしたものかと頭を悩ませていると、それまで静かにサスケを観察していた我愛羅が口を開いた。
「………右脇腹だ」
「我愛羅!!」
「黙れ。これはサバイバル戦……俺たちに医術の心得がない以上、このままならカンクロウは死ぬ。そうなれば俺たちはどの道脱落だ。それでもいいのか?」
「そう、だけど………」
テマリはチラリとこちらを伺う。信用に足るか見定める視線の奥に揺れる、不安。
もはや試験など考えていなかったのだろう。何せ、テマリにとってはカンクロウは弟だ。ただ、死なせたくない、けれどよく知らない奴に預けるのも怖いというところか。
しかし、やがて覚悟を決めたようで、そっと地面に青褪めたカンクロウを横たえた。
(毒はなさそうだな。内臓も無事、出血は続いているが主要血管じゃないのが救いか。焼く事も出来るが、この森の中じゃ感染を起こすリスクの方が高い)
傷口を調べてそんなことを考えつつ、掌にチャクラを集める。
傷はそこそこ深い。拙い医療忍術じゃ気休めにしかならないが、無いよりはマシというものだ。
「サスケ!採ってきたってばよ!」
そんな所に、ナルト達が息を切らせて戻ってきた。
ナルトの腕にはヒメガマの穂やヨモギ、ドクダミやらが抱えられている。サクラは水筒に水をくんできていた。教えた薬草の知識をどうやら忘れていなかったらしい。
手早く傷口を洗い、止血草を塗り込める。造血草は後で丸薬か薬湯にでもするつもりだ。
伊達に長年旅をしていない。僻地では病院などある訳もなく、自身で材料確保から全て行っていたものだ。
そうして医療忍術を使い続けること数時間。真夜中となる頃にはカンクロウの浅かった呼吸は落ち着き、焚き火に照らされた顔色もだいぶ良くなっていた。
「あとは熱が引いて目を覚ませば……峠は越える」
チャクラを送っていた両手を離し、ドサリと座り込んで凝った肩を回せばゴキゴキと嫌な音が鳴る。
ここで誰かに襲われても対応出来るようチャクラ量は調節していたが、医療忍術はそもそも専門外の分野だ。
慣れないチャクラコントロールをすると同時に周囲の警戒もしていたから、正直なところかなり疲弊していた。
そんな疲れも、ホッとしたように薄っすらと涙を浮かべるテマリを見てしまえば、何だか軽くなってくるというもので。
我愛羅は相変わらず何を考えているのか、その無表情からは読み取れないが………それでも、苛立つように舞っていた砂が落ち着きを見せたことに本人は気づいていないのだろう。
それにしても。
「まさか、お前らがやられるとはな……相手は誰だ?」
考えてみればおかしな話だった。
何せ、この砂の三姉弟の実力はどう考えても下忍レベルじゃない。我愛羅に至っては、相性もあるだろうが上忍すら屠れるし、カンクロウやテマリもそこまではいかなくても十分強い。
だからこそ、そんな彼らをボロボロにする相手は自ずと限られている。最悪の相手が頭に浮かんで、サスケはどうしても確かめずにはいられなかった。
「草隠れの忍だ。一人だったが……奴は化物だ!」
憎々しげにテマリが吐き捨てる。
“化物”という言葉にナルトと我愛羅がピクリと反応したが、テマリは気づかなかった様子で………というより、今この場にいない弟を殺しかけた敵のことしか頭にないのだろう。襲われた時のことを滔々と語った。
テマリの説明をまとめると。
オカマ口調の草隠れの忍だった。
舌がやけに長く、巻物を飲み込んで見せた。
殺気だけで動けなくなった。
身体は骨など無いように木に巻き付いた。
大蛇を操り、その身体から出てきた。
我愛羅の絶対防御を簡単に破った。
カンクロウの傀儡を壊した。
巻物の代わりに見過ごすよう言ったが、興味がないと無視された。
我愛羅が暴走しかけたが何らかの術で止めた。
チャクラがうまく練れなくなった我愛羅を背に庇い、カンクロウが刺された。
テマリが起こした暴風を目くらましに、命からがら逃げた。
出血が止まらず、とりあえずは川辺に向かおうとしていた所にサスケたちがいた。
そして、今に至ると。
(予想的中、か……当たって欲しくなかったが)
最初の一行で正体が分かるというものだ。化物的強さをしたオカマ口調の大蛇使い。まず間違いなく大蛇丸だ、大蛇丸しかいない。
そんな変態かつ変体じみた奴がそうそう居てたまるか。
未だ大蛇丸を罵るテマリに適当に相槌を打ちながら、ズキズキと痛くなってきた頭を押さえたくなる。
要するに、サスケ達が遭遇するはずだった大蛇丸を避けたことで、我愛羅達に矛先が向かったということだろう。本来ならゴールまで最短記録を打ち立てていた筈なのにな、と若干罪悪感を覚える。
まぁ、治療もしたことだ。それでチャラにして貰おう。
しかし。一つだけ、腑に落ちない点があった。
(砂は、大蛇丸と繋がっていないのか?)
大蛇丸が砂を唆して加担していた筈の、木ノ葉崩し。
なのに、何故大蛇丸は味方とも言うべき砂の忍を襲った?砂は無関係、木ノ葉崩しには参加しないのだろうか。
考えを巡らせるが何かがおかしい。全体像が見えてこない。
以前と似通うのに、違う。これも前の世界の共通点……補正、とでもいうのか?
試験が始まってから今までのことを振り返った。
何かを見逃している─────いや、見逃した。そんな気がしてならなかった。
【ドクダミ】(開花時期:6〜7月、この時期が薬効が高い)
・ハート型の葉をしており、白い花弁4枚の十字型の花を咲かせる。匂いは結構強く、青臭い感じの匂いがする。加熱すると匂いは軽減され、天ぷらなどにして食べることも出来る。
・ドクダミとは毒を矯める(収める)効果からの命名。別名『十薬』とも呼ばれ、十種の薬効があるとされる。
・生の葉は強い抗菌作用があり、止血や炎症予防が出来る。その他、茶では利尿作用、高血圧、動脈硬化の予防作用などがある。アレルギーや蓄膿、肌荒れにも効果があるという。
・副作用として高カリウム血症などが生じることがある。肝機能や腎機能が低下している場合は摂取は止めたほうがよい。
【蒲(ガマ)】(開花時期:6〜8月、水辺に自生)
・穂はフランクフルトみたいな独特な形をしている。穂も食べられるとは聞いたことがあるが、詳細は不明。地下茎は茹でることで食用にする事ができる。
・蒲には三種あり、ガマ→ヒメガマ→コガマの順に開花する。本編は7月設定であるためヒメガマとしている。
・花粉は『蒲黄』と呼ばれ、止血や傷薬となる。古事記にも登場。因幡の白兎が毛を毟られ、蒲黄に転がって治ったという。内服すると利尿作用や通経作用があるとされる。
・穂からは綿が取れ、昔は布団の材料となった。布団を『蒲団』と呼ぶことがあるのはこのため。
・かまぼこの語源となっている。
・妊婦さんは絶対使っちゃ駄目!
【ヨモギ】(旬:3〜5月、薬効高いのは旬が過ぎてからで9月くらいまで採取可能)
・日本全国、どこにでも自生。
・ハーブの王様と呼ばれ、様々な薬効があり多用できる。
・草餅などに使われ食用となる。
・止血作用や造血作用、他抗酸化作用、殺菌作用、鎮痛作用、美容など色々な薬効がある。かなり多いので詳細は省略。ご興味のある方はお調べください!
・お灸の材料(もぐさ)ともなる。
・有毒なトリカブトやニリンソウなどと間違える危険性がありますのでご注意ください。
【芍薬】(開花時期:5〜6月)
・「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」と称されるように、紅や白系統の綺麗な花を咲かせる。
・薬用には乾燥した根を使うが、本編ではサスケが火遁で乾燥させたとかいう無茶振り設定。
・薬効は鎮痛鎮静作用、補血作用や循環をよくする作用、整腸作用などがある。これにより古来から婦人病薬として使われてきたらしい。
【当帰】(開花時期:6〜8月)
・薬用には乾燥した根を使うが、本編ではサスケが火遁で乾燥させたとかいう無茶振り設定。
・薬効は芍薬とほぼ同じ。