SASUKE逆行伝   作:koko22

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カンクロウ視点


31.恐怖

 

 

 数日前から我愛羅の様子がおかしい。

 例えば、いつも口出しすれば身の凍るような視線をよこすのに、珍しく言うことを聞いたり。狂気を孕んだようなチャクラが凪いでいたり。

 相変わらず化け物みたいに強くて、向かってくる敵には容赦がないが、それでも何かが違っていた。

 

 

(何があったんだ?)

 

 

 そんな我愛羅をカンクロウは訝しんでいた。いや、テマリもだろう。我愛羅の手前、声には出さないがチラチラと我愛羅をもの言いたげに伺っている。

 視線を交わせば困惑したように目を揺らして、それでもどこか嬉しそうにそんな我愛羅を見ていた。

 

 けれど、カンクロウは素直にその変化を嬉しいとは思えなかった。

 生まれてこの方、ずっとこの弟が恐ろしかった。自分の力は理解しているし、敵うはずもない。向こう見ずにも我愛羅を狙った奴が返り討ちにされ、顔の判別すら出来ない肉塊になったのを何度も何度も見せつけられている。

 文字通りに血の雨を降らせる、そんな姿を見慣れてしまったからだろう。

 

 

(………気味悪いじゃん)

 

 

 強い殺気に晒されている時よりも、不気味で仕方ない。

 だから、いつもより心持ち距離を置いて、カンクロウは我愛羅の後に続いて暗い森の中を歩いていた。

 

 試験開始からおよそ一時間半。

 日も落ち始める頃には既に塔は目前にあった。

 

 途中、戦闘を経て巻物は手の内にある。一本は天の書、もう一本は地の書。

 驚くべきことに、ここまで我愛羅が出した死者はゼロだった。

 

 理由は簡単で、単に命乞いする奴らを我愛羅が見逃したためだ。無論、無傷ではないし何人かは忍として生きていくのは不可能な状態になっただろうが。

 しかし、普段なら命があること事態有り得ない。『目があったら皆殺し』が常なのだから、今は異常とも言えた。

 

 だが、今は機嫌がよくても、いつまた豹変するかわかったものじゃない。

 だからこそ、早く離れたかった。だから、塔が見えた時はホッと息を吐き出して強がったのだ。

 

 

『あーあ、もう塔着いちゃったじゃん。中忍試験とか言ってもこの程度なんてな』

『御託はいい……行くぞ』

 

 

 そして、塔へと一歩踏み出した瞬間。

 突風、いや暴風が俺たちを襲った。

 

 

『………!?』

『なっ……!」

『カンクロウ!!』

 

 

 咄嗟にチャクラ吸引で地面に足を固定しようとしたが、塔に気を取られていた俺は一瞬、反応が遅れた。

 風が俺の身体を吹き飛ばし、テマリと我愛羅の姿が木々に隠されていく。全身に当たるそれはむしろ鈍器のように重い。宙に浮く身体は満足に体勢を立て直せなくて、掴まろうとした木の枝が手を打った。

 チャクラ吸引は早々に諦め、手の痛みに呻きながら必死にチャクラを練りあげる。指先から出したチャクラ糸を太い幹に伸ばして括りつけ、それ以上飛ばされぬように歯を食いしばり糸を引いた。

 

 

『はぁ……はぁ……』

 

 

 ようやく風の直撃を受けない木の影に隠れ、息を整える。

 その数秒後には暴風も収まり、明らかに何者かの意図を感じた攻撃に眉を潜めた。

 

 

(敵襲かよ……ったく、我愛羅が珍しく暴れなかったってのに。馬鹿な奴じゃん)

 

 

 なかなか強い風遁使いだが、テマリにだって出来る程度の術だ。その分、油断していた自分の未熟さが苛立たしい。

 我愛羅には睨まれそうだが、いずれにしてもきっと戻る頃には片付いているだろう。

 問題は、とカンクロウは目の前の巨大な影を睨みつけた。

 

 

『この森、何でこんなのばっかなんだよ』

 

 

 道中で見かけた巨大熊然り、巨大虎然り……この巨大蛇然り。

 一体どんな生態系を築いているのか気になるところだが、この大蛇もまた間違いなく上位には入っているのだろう。

 

 そんなことをつらつらと考えながら、カンクロウはその場を飛び退いた。

 直後、その地面にものすごい勢いで大蛇が大地に突進した。地面が抉れて冷や汗が流れる。

 この大蛇は俺を獲物と決めたようで丸呑みしようと動いていた。その毒牙を喰らうのも御免だが、蛇の晩飯になるのも嫌過ぎる。

 カンクロウはフウ、とため息を付きながら背の荷を下ろす。

 

 

『最近、色々ストレス溜まっててさァ。………ちょっと付き合ってもらうじゃん』

 

 

 シュルリと解けてゆく包帯の中、カタカタと傀儡が歯を鳴らした。

 

 

 

 

『ちょっと時間かかっちまったな………我愛羅にどやされそうじゃん』

 

 

 襲ってきた大蛇は傀儡でズタボロにし、二人の元へ戻るべく急ぎ足でカンクロウは塔を目指す。

 随分と飛ばされたな、と思いつつ駆けていたのだが、ふいに何かが意識を掠めた。

 

 

(……地震か……?)

 

 

 立ち止まり意識を足元に向ければ、確かに揺れを感じ取った。

 思い違いでなければ、震源の方向的には───塔。足を進める度に時々感じる揺れは、少しずつ大きくなった。

 まるで、何かが激しくぶつかり合うかのような。

 

 

(まさか……まだ戦ってんのか!?)

 

 

 二人と別れてから、少なくとも十分は経過していた。

 我愛羅相手に十分、いや現在進行形で戦闘がなされているとしたら。それは、相手の実力がカンクロウの手には負えないレベルの忍ということになる。

 途端、向かう足が重く感じた。ジトリとした汗が背を伝うのがわかった。

 

 

(我愛羅が、負けるはずが………!)

 

 

 無いと思いたかったし、ただの勘違いであればいい。

 けれど。何か、嫌な予感がしていた。

 そわそわと落ち着かぬ胸を抱え、カンクロウは木の枝をつたい駆ける。

 

 そして、カンクロウが見たものとは───木に叩きつけられようとする、テマリの姿だった。

 

 

『テマリッ……!』

 

 

 慌てて木とテマリの間に身体を滑り込ませ、テマリを受け止めた。それでも衝撃は逃せず息が詰まり、鈍い痛みが背に走る。

 だが、そんなものに関わっている隙もなく、テマリを抱きかかえカンクロウは木の葉の影に身を潜めた。

 

 掴まる幹が揺れる。

 そっと息を殺してその発生源に目を向け、カンクロウは絶句した。

 

 我愛羅は、異形の姿と化していた。

 まだ、全身という訳ではなく、片手のみではあるが、それでもその桁違いの強さを嫌というほど知っている。

 それなのに、我愛羅は明らかに押されていた。

 長い髪の、草隠れの忍に。

 

 

『フフ………そんな力任せじゃ、私を倒せっこないわよ』

『か、はっ……』

 

 

 我愛羅の攻撃を軽くいなし、奴はその細身の体躯に合わぬ力で我愛羅を地面へ打ちつけた。たった一撃で砂の鎧はほとんどが剥がれ落ちた。

 笑みすら浮かべるその不気味な白い顔には、焦りなど一つもない。

 いや………理解できてしまった。あれは圧倒的な強者であり、俺たちは敵ですらない。

 

 

────ただの、獲物に過ぎないのだと。

 

 

『カンクロウ……?』

 

 

 名を呼ばれ、ハッと我に返り腕の中の姉に目を戻す。

 どうやら深い傷はなさそうだと判断してゆっくりと降ろした。

 

 

『おい………アレ、何なんじゃん』

『早く……早く、逃げるんだ!あいつは戦えるような奴じゃない……!!』

『お、おい。落ち着けって』

『巻物をよこせ。両方だ!それと引き換えに見逃して───!』

『テマリッ!』

 

 

 引き留めようとした手をすり抜けて、カンクロウのポーチに入っていた巻物を奪い取り、テマリは木の影から姿を晒す。

 それに気づいた奴はこちらへと目を向けた。

 

 

『あら。あの大蛇を見事に倒してきたようね、カンクロウ君』

 

 

 身体を骨などないかのように木に巻き付けた奴は、そう言ってねっとりした視線を俺に浴びせる。蛇みたいな奴だ。

 その釣り上がった目に写っているというだけで、身体が縛られるかのような威圧を感じる。

 やばい奴だと一発でわかった。それこそ、我愛羅が可愛く思えて来るほどに。

 

 

(さっきの大蛇はこいつの仕業かよ……つーか、俺の名前知ってるってことは、最初っから目をつけられてたってことか)

 

 

 ギリ、と奥歯を噛み締めた。

 狙いは何か、考えればすぐに答えは出た。

 

 

『巻物ならお前にやる。頼む、これを持って引いてくれ……!』

 

 

 巻物を放り投げようとしたテマリを、寸でのところで押さえつけた。

 

 

『テマリ、何トチ狂ってんじゃん!』

『余計なことをするな、カンクロウ!この状況が分かっているのか!?』

『分かってねぇのはお前じゃん。こいつがどんだけ強えーのか知らねぇけど、巻物渡したってオレたちを見逃すって保証がどこにあんだよ!』

『……………!』

 

 

 ハッと目を見開いたテマリの目に、普段の理知的な光が戻る。

 きっと、我愛羅より強い奴に当てられて取り乱していたんだろう。普段ならオレよりもよっぽど頭の回る姉だ。冷静になれば、恐らく何かしら突破口を見つけてくれるはずだ。

 内心ホッとしていると、クツクツと笑う声が静まり返った空間に響いた。

 

 

『正解よ。─────私たちが欲しいのは巻物なんかじゃないもの』

 

 

 やはり、とカンクロウは身体に力を込めた。

 何故、俺たちを狙ったのか。ゴールを目指すなら、もっと弱い奴らがざらにいる。それなのに、名前まで調べてわざわざ俺たちを選んだ。

 こいつの狙いは、恐らく。

 

 

『私はあまり興味はないんだけど、まぁ……少しは楽しめそうだからいいわ。それに巻物だって、殺して奪えばいいんだからねぇ……!』

『!!』

 

 

 ガリ、と奴は親指を噛む。ぷつりと浮かぶ赤色に、何をする気か悟ったカンクロウは傀儡を操った。

 しかし、それは一瞬間に合わなかった。

 

 

『口寄せの術!』

 

 

 そいつを中心に、煙が渦を巻く。

 現れたのは蛇だった。しかも、さっきの奴よりもデカい。そんなのをうじゃうじゃと使役するような、チャクラも技術も途方もないものだと知らしめる。

 

 しかし。

 ちらりと背後を伺えば、未だダメージの抜け切れていないテマリ。それから、地面に叩きつけられてフラフラと身体を起こそうとしている我愛羅。

 

 汗がたらりと額を伝い落ちていく。我愛羅で多少慣れているとはいえ、向けられる殺気とすら言えないような威圧に足はガクガク震えている。

 我愛羅を圧倒するような化物に、俺が敵うはずもない。

 

 

────それでも。

 

 

『烏!』

 

 

 引けないものがあった。

 チャクラ糸を結びつけて、傀儡を操る。本来なら術者は隠れてひたすら攻撃、翻弄するのだが、こいつ相手にそんな小細工は通用しない。ただ、なりふり構わずってやつだ。

 案の定、その蛇の尾に叩き落とされ、“烏”は一瞬でバラバラになった。

 

 

『脆いものね………人形を失えば傀儡師にはもはや手はないわ。とりあえず、喰らっておきなさい』

 

 

 蛇が大口を開けて俺に迫る。

 そして俺は飲み込まれた────ように、見せかけた。

 

 

『…………?どうしたの?』

 

 

 突然のたうち回り出した大蛇に、奴は訝しげに木の上に飛び移る。

 やがて、大蛇は大口から紫の霧を吐き出し、息絶えた。

 

 

『なるほど、毒煙玉ね。でも、蛇をたった1匹倒したところで……』

 

 

 再び、奴が血を呼び出し印であろう腕の入れ墨に近づけ……俺は傀儡を操る。

 奴の背後にいる、“黒蟻”を。

 

 

『何っ!?』

 

 

 “黒蟻”の腹にやつを捕らえた。

 先程バラバラになった───いや。もともとそうあるべき姿の“烏”の刃を“黒蟻”に、そしてその中にいるやつに向ける。

 

 

『黒秘技機々一髪!!』

 

 

 突き刺さる何本もの刃は、そいつを串刺しにした。………そのはずだった。

 

 

『フフフ……なかなかやるじゃない』

 

 

 “黒蟻”が弾け飛んだ。バラバラに崩れ、もはや使いものにならない程に、砕かれる。

 内側にいたやつは、かすり傷一つなくそこに立っていた。

 

 

(クソッ………!)

 

 

 ならば“烏”を、と指を動かそうとしたが、固まったように動かない。

 そのチャクラ糸の先へと視線を動かせば、“烏”は何匹もの小さな蛇に絡みつかれていた。

 

 

(いつの間に……!)

 

 

 打つ手はなくなった。傀儡がなければ、戦う手はカンクロウにはほとんど残っていない。

 早くしろ、と姿を隠した姉を心の中で呼ぶが答えはなく。

 

 

『そろそろ飽きたわね。観念して………!』

 

 

 ぐぐ、と唸る獣の声。それと同時に、奴が吹っ飛んだ。

 

 

『我愛羅………!』

 

 

 とんでもないスピードでそれを成したのは、我愛羅だった。しかしその目は既に人の姿を留めていない。

 唸る姿は異形の獣そのものだった。

 

 

『暴走……まだ、本格的な覚醒はしていないけれど────尾獣化されると流石にバレてしまうかしらねぇ』

 

 

 我愛羅の突進に地面に埋まりこんだ奴は、そう言いながら何でもないかの如く立ち上がった。

 不死身なのかと口元が引きつる。

 

 そして、我愛羅も手応えのなさに気づいたのか、再びそいつに飛びかかっていく。

 それを避けず………奴が、我愛羅の腹へ何らかの術を施したのが見えた。

 

 

『五行封印!』

 

 

 途端に我愛羅の砂が崩れだし、化物の姿を形どっていた砂の中から、本来の我愛羅が呻きながら這い出てきた。

 

 

『随分と弱っているようだけれど……まぁ、人柱力は回復が早いものね』

 

 

 ズルリ、とそいつは口から剣を取り出した。

 あいつの身体はどうなっているのだろうか。同じ人とは到底思えず、カンクロウは息を飲む。

 しかし、そんなことを考える間もなく、その剣は我愛羅へと向けられた。

 

 我愛羅は避けられないだろう。暴走をむりやり解かれたダメージは大きすぎる。

 ただ、その翠の目が剣を見つめている。もはや諦めたような虚ろな我愛羅に、何かがカンクロウの中で切れた気がした。

 

 

『ぐっ……カハッ………』

 

 

 腹が、熱い。

 脇腹に刺さる剣が体内を焼いているかのようだ。いや、細胞を殺しているというのなら、焼いているのとそう変わらないだろう。

 コポリとこみ上げる血の鉄臭い味が気持ち悪い。

 

 

『何故……』

 

 

 我愛羅が呆然とつぶやく。

 後ろを目だけで振り返れば、大きく開いた瞳にかち合う。

 気づけば、俺は我愛羅を庇っていた。

 だが、意識してのことじゃない。

 

 

『知るかよ………身体が……勝手に、動いちまったんじゃん……』

 

 

 まるで、操られたかのように。

 ただ、考えるより先に身体は動いていた。“黒蟻”も“烏”も使えない今、操れるのは自分自身しかなかった。

 

 何故、と自分に問いかける。

 ずっと、この弟が恐ろしかった。向けられる殺気も、禍々しいチャクラも、降らせる血の雨も、それから濁った翠の目も。

 恐ろしかったはずなのに。

 

 

 

 

 始めて会ったのは我愛羅が三歳くらいだったと思う。

 それまで身体が弱かった我愛羅は隔離されていて、幼かった俺には突然告げられた弟という存在をよく理解できなくて。

 その目がキラキラと輝いているのが、綺麗だと思った。兄さま、と呼ぶ舌足らずな声に戸惑いつつも悪い気はしなかった。

 

 しかし、いつしか幼心に理解するようになったのだ。こいつは皆に嫌われているのだと。

 風影である父は、俺やテマリが我愛羅に近づくのにいい顔はしなかった。

 世話役や、里の民も、友人たちも。皆が皆、我愛羅を避けているのが分かっていった。

 

 だから、と責任転嫁するようだが、俺も周りに合わせて避けるようになった。

 空気を読んだといえば聞こえはいいが、ただその冷たい視線が次は俺に向けられるのではないかと恐ろしかった。そんな弱虫だった。

 

 やがて、我愛羅も物心がつき。里を歩き、誰かを傷つけた。

 俺は我愛羅が里の人たちに歩み寄ろうとしていたのを知っていた。けれど、受け入れられることはなかったことも。

 しかし、そんな過程など人は考えない。ただ、傷つけられたという噂が広まっていく。

 我愛羅は忌み子として避けられるばかりでなく、危険物として嫌われていった。

 

 

『“あの”我愛羅の兄』

 

 

 そんな立場が嫌でたまらなくなっていた。

 ある日のことだ。友人たちと立ち話をしている間に我愛羅の話になって。

 

 

『俺の弟じゃない。あいつはただの、バケモノじゃん』

 

 

 笑いながらそう言った。

 カタリと小さな音がして、赤い髪がちらりと見えた。

 その日から、我愛羅は俺を兄とは呼ばなくなった。

 

 

 ああそうだ。

 兄であることを捨てたのは───俺だ。

 

 

 腹に走る激痛に意識が戻る。まだ、我愛羅は俺を見ていた。

 走馬灯って言ったら幸せなもんだと思うが、どうやら埋もれさせていた後悔だって見せつけるらしい。

 それが何だか滑稽で自嘲がこぼれた。

 

 

 今更。ああそうだ、今更だ。

 今更、兄貴面して、あれこれ言って。

 最低としか言いようがない。

 

 

『今まで、悪かった………我愛羅、』

 

 

 それでも。

 何故、庇ったのかと訊かれたならば、答えはこれしかないのだろう。

 ニ、とカンクロウは口端を上げる。

 ただ、嬉しかった。はじめて自分を誇らしいと思えた。

 

 

『やっと………兄貴らしいこと、できたじゃん』

 

 

 怖かった。恐ろしかった。

 けれど、それでも。たった一人の弟を、守れたのだから。

 

 

 それを最後に、俺は崩れ落ちて────その後のことは何も分からない。

 身体は冷たくて熱かった。ここで死ぬのか、と漠然と感じていた。

 だが、どうやら悪運は強かったらしい。

 

 

「……生きてるじゃん」

 

 

 ゆっくりと目を開けて、目に入ってきた光と腹の痛みに顔を顰める。

 まばたきをして、ぐらぐらと揺れていた視界を少しづつ捉える。

 光は、どうやら焚き火のものだったらしい。パチパチと弾ける火花をぼんやり見つめ、辺りの暗闇から夜なのだと思い至る。

 

 

「目覚めたか。薬湯くらいは飲めるか?」

 

 

 突然、すぐ隣からかけられた声に、息が止まるかと思った。

 いくら怪我をしていても、気配に気づかないなんて致命的だ。

 むりやり身体を起こそうとしたが、寝ていろ、と呆れたように言うそいつに指一本で簡単に押さえ込まれた。

 

 

「お前……あの時のっ……!」

「覚えていたのか。まぁ、それはいい。今は敵じゃないから、大人しくこれを飲め」

 

 

 木の葉でチビに絡んでいたときの、ムカつく奴。

 そいつから渡された黒々とした液体の盛られた椀。その異臭にこの物体は何だ、いやそもそも何故こいつがと色々混乱する。

 とりあえず椀を突き返そうとしたのだが、むりやり口に押し流された。

 

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

 

 苦い。なんとも言えないえぐみが口から鼻へ突き刺さる。酸味が絶妙に効いていて、とんでもない不味さを助長している。

 毒を盛られたかとも思った程だ。だが、こんな死にかけに毒を使う意味もないか。

 

 続いて渡された水を奪うように飲み干せば、くく、と笑うその男。

 何だか負けたようで苛立つが、次第に忘れかけていた痛みがじくじくと襲ってきて、瞼を上げているのすら億劫になってくる。

 

 

「疑問は色々あるだろうが、とりあえず今は寝ておけ。また起きたら説明してやる」

 

 

 そんな言葉がかけられる。

 そうだ、色々と知りたいことばかりだ。我愛羅やテマリはどうなった。あの草隠れの奴は。何故俺は生きてる。

 

 ぐるぐると疑問は巡る。

 けれど、ふと慣れた気配をすぐそばに感じホッとした。

 我愛羅とテマリがいる。チャクラも安定していて、ちゃんと生きている。

 それがわかっただけで、もういいかとすら思った。

 

 そっと目を閉じる寸前、我愛羅の安らかな寝顔が見えた気がしたが………きっと都合のいい夢だったのだろう。

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