SASUKE逆行伝   作:koko22

36 / 102

 蛇の目が爛々と輝く。
 その細い瞳孔は獲物をしかと見定め、逃がすつもりなどないことを如実に物語っていた。


────ミツケタ。


 長く赤い舌が唇を舐めた。


34.敵襲

 

 中忍試験三日目の夜更け。

 カンクロウの体力も少しは戻り、肩を貸しつつ塔を目指し歩いていた時。先鋒を務めていたサスケは、ふと走った悪寒に足を止めた。

 

 

(幻術……トラップか)

 

 

 グニャリとその先の景色が微かに歪んでいる。しかし、よくよく注意していなければ、見過ごしてしまう程度の違和感だ。

 感覚としては一次試験の際の幻術と同系統のものだが、それに比べれば格段に上の術だろう。

 

 

「サスケ君、これって……」

「ああ。だが……ここを迂回したとしても、他のトラップにかかることはどの道避けられない。それに、仕掛けた奴ら以外、わざわざトラップとわかって近寄ろうとはしないだろうから隠れ蓑にはなる。───進むぞ」

 

 

 一早く気がついたサクラにそう答え、サスケはその幻術に一歩足を踏み入れる。

 途端に襲った微かな視覚の揺れもすぐさま収まり、先程までと寸分も変わらぬ景色が目の前に広がった。

 

 

(中枢系ではないな……視覚支配か)

 

 

 幻術は知覚を支配するものだ。だが、いくつかパターンもある。

 大きく分ければ、末梢系と中枢系。末梢系が視覚や聴覚を支配するならば、中枢系は思考や精神、身体の動きを支配するもの。無論、難易度・強度共に中枢系が勝る。

 

 この幻術は末梢系、視覚支配。最初は現実と同じものを見せ、徐々にズラし、感覚を狂わせていくタイプだ。

 恐らく、踏み入れば延々と同じ場所を歩かされる。

 

 乱れたチャクラの流れを変えて強引に幻術を解くことも可能ではあるが、術を解くということはかけた術が強ければ強いほど術者に返る。これはごく弱いタイプで、解いてもそうそうダメージは与えられない。

 つまり、術を解けば俺たちがここにいることが相手に悟られてしまうだけということだ。時間稼ぎや索敵の役割が大きい。 

 

 ならば、後はゴールするだけとなった今、それは得策ではない。

 敵に気づかれる前に距離を縮める方が優先的といえた。

 

 

「ふん、気に食わんな。トラップにわざわざかかりにいくとは」

「幻術なら惑わされなければ実害はない。それに、なるべく戦闘は避ける……最初にそう決めた筈だろ?」

「…………」

 

 

 そう、何しろ───奴に見つかるわけにはいかないのだから。

 警戒しつつ先を進むサスケの後を、サクラ、カンクロウと肩を貸すナルト、テマリが続く。そして不満げな我愛羅もまた、渋々ながら幻術の中に足を踏み入れた。

 

 そうして進み続けること、およそ一刻。

 手負いだったカンクロウの顔色が悪くなり、足元がもつれ始めた頃、サスケ達は一旦休憩を挟むことにした。

 

 

「大丈夫か?」

「はっ、大丈夫に見えるのかよ。くそ……身体が言うこときかねえじゃん」

 

 

 悔しげなカンクロウだが、それもその筈。昨日まで重症で死にかけていたんだ、すぐに動く方が間違っている。

 だが、悠長にはしていられなかった。既にゴールしている奴もいるだろう。そして、脱落者も同数以上は。

 そうなるとターゲットは絞られ、時間が経てば経つほどに見つかる確率が上がる。

 

 

「大分進んだ。もう少しの辛抱だ」

 

 

 歩くこと一刻、塔まで10kmであることを考えれば、あと1、2kmという所か。

 湿度の高さに滲んだ汗を拭いつつ、水筒を取り出しカンクロウに手渡していると、ナルトが不思議そうに頭を捻った。

 

 

「そうかぁ?何か、ちっとも進んでねえ……っていうより、遠ざかってる気がするってばよ」

「確かに……もうかなり歩いたのに、近づいた感じはしないわね……」

 

 

 ナルトとサクラが彼方に見える塔を仰ぎ見る。

 確かに、先程よりも塔の姿は小さいが、それこそが敵の罠だ。

 

 

「あれは幻術だ。視覚型だからな、目に頼ればそれだけ幻術に嵌まる」

「じゃあ、何で進めんの?本当にこっちで合ってんのかってばよ?」

 

 

 むう、と口を突き出すナルトに見ろ、とサスケは夜空を見上げた。隣にいたサクラが、あっ、と声を上げる。

 

 

「???何もねーってばよ?」

「お前な……アカデミーで何を学んでたんだ……」

「へ?」

 

 

 ナルトは本気でわからない、という面をしている。

 アカデミーのテストの詰め込みに付き合った過去を思い浮かべると、何だか切ない気分になってくる。イルカが泣くぞ。

 

 

「星で方角を見るのよ。アカデミーでも何回もテスト出たじゃない」

 

 

 サクラの言葉通り、何度も教えた筈なのだが。

 テヘへ、そうだっけ?と頭をかいているが、そんなことしたって誤魔化せねえぞ、ウスラトンカチ。

 

 サスケはため息を一つ吐いて、頭上を見上げた。木々の合間から満天の空が広がっている。その中に浮かぶ、決して動くことのない星───北極星を指さした。

 

 

「俺たちが出発したのは東、そこから南下して我愛羅達と接触したのが南東だ。そこから更に南下して、川を越え、今日出発した所が南。今は北側の塔……あの北極星に向かって歩いている訳だ」

 

 

 他にも方角を知るための方法はいくつかある。日の影、太陽や月の位置、年輪、羅針盤、苔。他にもあるが、今現在使えるもので最も信頼性の高いであろうものが北極星だった。

 とはいっても、星の見えにくくなった未来ではこんなことさえ難しくなるのだが。

 

 

「んっと……とりあえず、北に向かってるってことだろ。でもさ、でもさ!星だって目で見てるだろ、幻術かもしんねーじゃん」

「そこまで緻密な術じゃない。現に、星も月も動いている。違和感を与えないためでもあるだろうが………微細に動くものまで幻惑するのは、この程度の幻術では無理だろうな」

「ふーん……そんなものかぁ?」

 

 

 納得したような、納得してないような。

 そんな表情のナルトに、サスケは苦笑して───近づく気配にスッと視線を鋭くした。

 

 

(一、二……三人。気づかれたか)

 

 

 時間をかけすぎたのだろう。真っ直ぐにこちらへ向かってきている様子からすると、こちらの位置も既に把握されている。

 

 相手は三人。気づかれた以上、逃げるか戦闘かの二つに一つ。しかし、今のカンクロウの状態ではそう遠くまで逃げられない。

 ならば、選択肢は一つだ。

 

 

「───来るぞ。敵は三人、迎え撃つ」

 

 

 声を落として注意を促せば、すぐさま予定していたフォーメーションに移った。

 カンクロウをサクラ、テマリが囲み。我愛羅、ナルト、サスケがその前に立ちはだかる。

 サスケ達がクナイを構えた先、暗い森の中で何かが蠢いた。

 

 

「ククク……大漁、それも足手まといが一匹……ラッキー!!」

 

 

 ゾロリ、と地中から這い出るように姿を現したのは黒服の男。額宛てには雨隠れの印が刻まれていた。

 その数は十、いや二十を超える。姿形は同じ人物、本人でないことは明白だった。

 

 

「かなりの数……分身ね」

「へへっ!分身なら負けねーってばよ───影分身の術!!」

 

 

 白い煙と共にナルトの影分身が敵を囲み、一斉に敵に向かって飛びかかっていく。

 数は圧倒的にナルトの方が多い、が。

 

 

「……っ!!え……!?」

 

 

 ナルトの攻撃は当たった。だが、敵は攻撃を受けたにも消えることはなかった。

 手応えはなかったのだろう、ナルトが驚きの声を上げる。戸惑いに動きを止めたナルト目掛けて敵の一体がクナイを投げ、砂の壁がそれを阻んだ。

 

 

「砂瀑送葬!」

 

 

 砂の塊が敵をまとめて握りつぶすが、それさえも効果はないのか、新たに敵が増えるだけだった。

 サスケは砂に弾かれたクナイを手に取り、その刃をくるりと回す。

 

 

(クナイは本物か)

 

 

 硬質な、冷たい鋼。これは幻術ではない。

 

 

「こいつら何なの!?分身は攻撃できないし、影分身……?でも、影分身は直接攻撃受けたらやられて消えちゃう……消えないってことは、やっぱり幻術……?」

 

 

 カンクロウを庇いながら、サクラが混乱したように呟く。

 サスケも飛び交う手裏剣を躱し、ジッと敵を見据えた。

 

 

「いや……こいつらは幻影───敵の幻術だ。敵はどこかに身を隠し、攻撃動作に合わせて別の場所から攻撃しているんだろう」

 

 

 狙いは無駄に攻撃させ体力を奪うこと、そして惑わせ精神力を疲弊させること。

 ───だが、そう簡単に狙い通りになってなどやらない。

 

 サスケはスッと目を閉じた。

 ナルト、我愛羅、サクラ、テマリ、カンクロウ………幻術にかかり、乱れるチャクラ。

 そこに入り交じる、波のないチャクラが三つ。姿を消しながら動く、微かな綻び。

 

 

「……ここだ!!」

 

 

 サスケの投げたクナイは幻影を通り抜け、グサリと地中に埋まった。

 途端に顔を出したのは、肩から血を流した本体。

 

 

「ぐっ!!」

「あれが本体だ、地中にいるぞ!」

「……そうか。なら、話は早い」

 

 

 サスケの言葉に真っ先に反応したのは、我愛羅だった。

 

 

「砂縛柩!」

 

 

 地面が抉れた。砂は見る間に形を変えると、拘束した三人を地中から引きずり出していく。

 

 

「う……くそっ……!」

「アン、ラッキー………」

「くっ……こんなもの………!」

 

 

 敵は身体に力を込めるが、そんなもので解けるような拘束ではない。

 

 

「無駄だ」

 

 

 ビクともしない砂に、雨隠れの忍の顔が青ざめていくのがわかった。

 サラサラと砂が舞い、我愛羅は敵へ向かって手を伸ばす。捕らえられた本体がそれと共に身体を締め付けられ、敵は大きな悲鳴を上げた。

 

 

「死ね……!!」

 

 

 我愛羅はその悲鳴にも、嘆願にも耳を貸さず。

 薄い翠の瞳が歪な笑みに細められ。

 当然の如く、その手が閉じられて───。

 

 

「我愛羅、もういい」

 

 

 咄嗟にその手を掴んだ。ハッとしたようにサスケを見つめ返す我愛羅にホッと息を吐く。

 途端に砂がドシャリと崩れ、解放された雨隠れの忍は脇目もふらず、その場から逃げ去った。

 

 

(……やはりな。封印術が解けかかっている)

 

 

 雨隠れの忍に慈悲を与えたわけではない。命を狙うならば、奪う覚悟もあって然りだ。殺し方には若干、物言いたくもあるが。

 しかし、我愛羅のチャクラが一尾に支配されていくのがわかったからこそ止めたのだ。

 

 大蛇丸の封印術は一尾のチャクラを抑えている。

 それにより精神的に安定したかに思えたが、簡易的なもの故か、憑依型との相性故か、既に綻びが見える。

 恐らく今の不安定な状態では、血を見ればその凶暴性は増し封印はすぐに破れ、反動によりその手はこちらにも伸びるだろう。

 そうなれば、後々傷つくのは我愛羅だ。

 

 

「……っ離せ」

「我愛羅……」

 

 

 怯えるかのように、パシリ、と手を振りほどかれた。

 そんな行き場のなくなった手を下ろせなくなったサスケの隣。

 駆け寄ってきたナルトが、蒼い目をキラキラと輝かせた。

 

 

「何なに、今の術?お前、スゲー強いんだなっ!かっこよかったってばよ!!」

「!?」

 

 

 興奮冷めやらぬといった様子で迫るナルトと、その勢いにたじろぐ我愛羅。

 ブンブンと尻尾が振られているのが見えるほどだ。

 空気も何も、読んだもんじゃない。しかし、明らかに何かを吹き飛ばしたかのような。底抜けの明るさに、曇っていた心が軽くなっていた。

 

 

「あ、さっきさ、オレのこと助けてくれたよな!ありがとな、我愛羅!」

「………大したことはしていない」

 

 

 ふい、と視線を逸らす我愛羅だが、その頬は赤い。

 テマリとよく似た仕草に、何だか微笑ましくなってくる。

 

 

「そうだな……流石だ。助かっ────!!?」

 

 

 突然、ゾワリと肌が泡立った。

 迫る気配。向けられる冷たい視線。おぞましいチャクラ。

 

 

───もう、すぐそこに。

 

 

「塔まで走れ!!行け!!!」

 

 

 声の限り叫んだ。

 ハッとするナルト達。

 目にも止まらぬ速度で、クナイを振り上げた。

 

ザクリ。

 

 肉を断つ音。

 続いて、ドサリと───蛇の首が地面に落ちた。

 

 

「あら……なかなかいい動きをするわねぇ」

 

 

 蛇の頭を残して誰もいなくなったその場に、ねっとりとした声が響いた。

 暗闇の中に、真っ白い顔が浮かび上がる。

 

 

「さあ、“狩り”を始めましょうか」

 

 

 彼らの去った闇。

 それを追うのは、捕食者の眼。

 




豆知識:方角を知る方法

①日の影

 日の影は太陽の反対側に伸びます。その影の方向から方角を推定するものです。
 太陽は東→南→西へと進みますので、影はその反対、西→北→東へと伸びることになります。ただし、おおよその時間は把握しておくこと、また使えるのは日中のみという点にご注意ください。

 また、夏至(6月22日前後)は最も日が伸びます。日が伸びるというのも、太陽が昇る位置が高くなるということで、真東よりも北側から昇り、真西よりも北側に沈みます。その為、日の昇る頃、沈む頃の影はその反対、正確な方角より南側に伸びていくことになります。
 冬至(12月22日前後)は反対に、最も日が短くなる日です。日が短くなるということは、太陽が昇る位置が低くなるということで、真東よりも南側から昇り、真西よりも南側に沈みます。その為、日の昇る頃、沈む頃の影はその反対、正確な方角より北側に伸びていくことになります。
 春分(3月21日前後)、秋分(9月23日前後)では、太陽は真東から昇り真西に沈むので、影も真西から真東に伸びます。
 こうした季節による誤差は太陽を使って方角を知る場合、共通の問題点。

②腕時計

 腕時計の短針を太陽に合わせ、短針と文字盤の12との鋭角から方角を知る方法です。
 短針と文字盤12の間の鋭角を二等分した所が南、もしくは北です。例えば、10時の短針と太陽を合わせたとすると、12との二等分線上は11、その方角が南となります。
 ただし、時間によって北・南が変わるので注意してください。
 午前6時から午後6時では、鋭角の二等分線は南を指します。
 午後6時から午前6時では、鋭角の二等分線は北を指します。
 デジタル時計でも、時間さえわかっていればそれを地面や紙に書いて求めることができます。水平にしてくださいね。

③北極星(ニ等級星、別名ポラリス)

 皆さんご存知、北極星。これはかなり有名ですね。
 地球が西から東に自転しているため、星は東から西に動くように見えます。(自転と同じく24時間程度でもとの位置に戻る)その自転軸の延長に北極星は位置しているため、北極星はずっと同じ位置にいるように見えるということです。
 また、地球は太陽の周りを約一年かけて公転しています。そのため、地球が周り移動することによって、地球から見える星座は季節によって変わっているように見えるそう。

 さて、その北極星を探すためには、北斗七星、カシオペア座から探すというのが鉄板。
 北斗七星はひしゃくのような形をしている星座です。ひしゃくの先の部分を、その長さの5倍ほど延ばした先に北極星があります。
 カシオペア座はWのような形をしている星座です。Wの下の角二点を外線にそって結び、それをWの上に向かって5倍ほど延ばした先に北極星があります。……説明難しい(゜-゜)
 高度はだいたい、緯度と同じくらいの高さだそうです。一年中見ることはできますが、上空に位置するのが北斗七星は春、カシオペア座は秋となっています。見つけやすい方で考えてみてください。
 ちなみに、南半球では北極星は見つけられないようです。

※素人なので誤りがあるかもしれません。あくまで参考程度にし、興味を持たれた方は調べて見てください。
※これらは全て、その土地の地形や緯度・経度、季節などによって誤差があります。目安としてお考えください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。