SASUKE逆行伝   作:koko22

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35.指輪

 

 サスケ達は木の上を全力で駆けていた。

 途中かけられたトラップは先を走る我愛羅が絶対防御で防ぎつつ、片っ端から薙ぎ払っている。

 その後をサクラとテマリが並びトラップの発見と我愛羅への伝達を担い、続いてナルトと影分身がカンクロウを背負う。

 そして、最後尾。殿を務めるのはサスケだった。

 

 

「行け!塔まで絶対に、止まるな!!」

 

 

 背にひしひしと感じるプレッシャー。

 遊んでいるのか、俺たちのペースに合わせじわじわと距離を縮めてきている。

 

 

(くそ……こんなに早く接触するとはな)

 

 

 タイミングからすれば、恐らく一瞬洩れた一尾のチャクラを感知されたんだろう。

 あいつ───大蛇丸がこの森にいることはわかっていたし、どこかで鉢合わせする可能性はあった。

 だが、これ程にターゲットを絞っているとは思っていなかったのだ。

 

 しかし、これではっきりした。

 我愛羅達が大蛇丸と戦うことになったのは、俺達の代わりでも偶然でもない。最初から、狙われていたのだ。

 

 そもそも何故、奴がここにいるのか。

 一次試験の折に思い浮かんだのは木の葉崩し……砂隠れと大蛇丸が結託し、木の葉転覆を目論んだ事件だ。三代目や我愛羅達の父である風影を始めとして、何人もの忍が殉職した。

 

 それが、ここに来て我愛羅達が襲われたことでその考えが崩れた。カンクロウに至っては死にかけたのだ、わざわざ対木の葉の戦力を損なう必要はない。

 大蛇丸か、砂か。どちらかが木の葉崩しを計画している可能性はまだ残ってはいるが、この両者の繋がりはまずないだろう。

 

 しかし、大蛇丸が木の葉崩しを企んでいるとしても、この予選試験に何故出るのかが分からなかった。

 派手に動けばそれだけ警戒されるし、ましてや風影の息子が死んだとなれば大騒ぎだ。動機こそ不明だが、それを狙ったと考えればターゲットは砂の姉弟三人と言える。

 

 だが、カンクロウは現に死にかけた。大蛇丸なら怪我の程度くらい感覚で分かるはずだ。

 医療の発達が木の葉よりも遅れた砂、それも衛生的とは呼べない森の中、敵だらけの中にいるとあれば生存率はかなり低い。

 生きてるか死んでるかの確認なんて、何だかんだと詰めの甘いアイツはしない。精々が部下に確認させる位だ。

 

 そう考えるなら。こうして追ってきたということは、ターゲットは姉弟三人ではなく、その中の一人。

 可能性として高いのは───。

 

 

 

「………俺を置いていけ」

 

 

 思考を引き戻すように、サスケの目の前、ナルトに背負われていたカンクロウがポツリとそう呟いた。

 その顔は見えないが、苦しげな声に限界が近いことがわかった。傷が開いたのだろう。

 

 

「俺を置いていけって言ってんだろ!!」

 

 

 叫ぶような声に、今度は前を走っていた我愛羅達もハッと後ろを振り返る。

 走る速度が緩まったのがわかった。

 

 

「足手まといにしかなんねぇ。傷も開いた……これ以上はっ……!」

「無理だ。そういう、契約だからな」

 

 

 これ以上は、無理だ。

 続けようとするカンクロウの言葉を遮り、サスケは一つ息を吐いて、ゆっくりと足を止めた。

 振り返った五対の目が見開かれるのが、暗闇の中でも見てとれた。

 

 

「サスケ!!?おい、何して……」

「止まるなって言った筈だ、ウスラトンカチ。───行け。俺が食い止める」

 

 

 反論を眼差し一つで抑え込む。強い眼力にナルト達が息を呑んだ。かつて輪廻眼をも宿したその目は、逆らうことなど許さない。

 有無を言わせるつもりはない。何故、どうして、そんな問答をしている暇はなかった。

 

 

「我愛羅。こいつらを頼む」

 

 

 我愛羅を見詰めれば、一瞬瞳が揺れる。しかし、微かに頷くのを見届け、サスケは絶句するナルト達に背を向けて両手にクナイを携えた。

 

 

「早く行け。必ず、追いかける」

 

 

 切迫感のない、酷く静かな声が落ちた。

 ざり、と再び木を蹴る音がする。一人、また一人。最後の一人が、その場を去る。

 それを感じ、サスケは内心ホッと胸を撫で下ろした。

 

 

(せめて、塔まで保てばいい)

 

 

 相手は三忍の一人。その強さをサスケはよくよく知っていた。

 無論殺されてやる気はないが、写輪眼を使うならいざ知らず、チャクラの不足する今勝てると思うほど自惚れてはいない。

 

 だが、時間稼ぎくらいはできるだろう。

 この死の森は中忍であっても命を落とす危険を秘めている。つまり、塔周辺に監視員として配置されているのは上忍ということだ。

 それに、少なくとも試験官のみたらしアンコはいる筈。大蛇丸の侵入もそろそろ発覚してもいい頃だ、運が良ければ暗部も集まっているかもしれない。

 絶対とは言い切れないが、少なくとも森の中よりは安全なのは間違いない。

 

 そこまで、時間が稼げればいい。

 いや───必ず、守りきる。

 

 

ナルト達の気配が遠ざかる。

大蛇丸の姿が迫る。

 

 

 構えていたクナイを放った。

 それは真っ直ぐに宙を飛び、狙い違わず奴の足元へと突き刺さる。

 動きを止めた大蛇丸の前に、サスケは立った。

 蛇のように光る瞳がその姿を収め、三日月のように歪んだ。

 

 

「あら。誰かと思えば、サスケ君じゃない」

 

 

 ねっとりとした声に名を呼ばれ、サスケは微かに眉を顰める。“サスケ”、その名を知られている。

 つまり、大蛇丸のターゲットは我愛羅達だけじゃない。俺達もだったのだ。

 

 それならば。なおさら、ここを通すわけにはいかない。

 

 

「フフ……君一人なのね。置いていかれたの?」

「………」

「本能がいいわ。“獲物”が“捕食者”に期待できるのは、他の餌で自分自身を見逃してもらうことだけですものね」

「フン……馬鹿言うな、俺は俺の意志でここに立っている。それに、アンタの言う所の“獲物”は俺達じゃない───尾獣だろう?」

 

 

 瞬間、大蛇丸の顔がピクリと引き攣った。

 尾獣……ナルトの、そして我愛羅の腹の中に眠るチャクラの化生だ。

 こいつは尾獣に興味はない。一次試験の様子からも、それは分かっている。

 だが、最早考えられるのはそれしかなかった。

 

 

「……よく分かったわねぇ。その通りよ、私たちの獲物は君達や巻物じゃない。どう?二人の場所に案内すれば、君は見逃してあげてもいいわ」

 

 

 そう言って大蛇丸は不気味な笑みを深めた。

 途端に、本気の殺気がビリビリと皮膚を刺す。

 膝をつく、そう信じて疑わぬ大蛇丸に、サスケは口角を上げた。それに気づいた大蛇丸が訝しげにする様子に、堪えきれず笑みが零れる。

 

 

「断る」

「っ!?」

「断ると言ったんだ。ここは絶対に通させねぇ」

 

 

 一介の下忍はおろか上忍さえ竦ませる程の殺気を、サスケは軽く受け流した。

 それもその筈、大蛇丸よりも強い奴らと何度も戦ってきた。中には人在らざる者までいたし、膝を屈したこともあったが、それでもここまで生き残ってきた。

 そして。必ず後を追うと約束をした今、死を考える筈もない。例え勝ち目のない状況だとしても、それに怯える嘗てのサスケではなかった。

 

 

「……ただの獲物じゃなさそうね」

 

 

 面白い、というように大蛇丸はペロリと舌なめずりした。

 

 

「なら、始めましょうか。───殺し合いを」

 

 

 大蛇丸が動くよりも先、サスケは構えていたクナイを口に咥え走り出した。

 ポーチへと手を伸ばし、右手に新たにクナイを、左手に手裏剣を掴み取る。

 

 大蛇丸の風遁を跳んで躱し、チャクラ吸着で木の幹から幹へ飛び移りざま、大蛇丸を狙う。

 避けた拍子にわずかに体勢を崩した大蛇丸の頭上へ、踵を落とした。

 

 ニヤリ、と笑う唇が足の、そしてガードされた腕の隙間から覗く。

 それを認識すると同時に、繰り出された回し蹴りを避ける。

 そしてまた距離を縮め、脚を、拳を。躱し、躱され、ガードし、ガードされ。

 サスケの目には、その動きが全て映っていた。

 

 

(右、下、右、左、下、上───ここだ!!)

 

 

 大蛇丸の攻撃に空いた、僅かな隙間。

 そこにサスケは拳を振り上げた。顎を捉えた感触が、固く握り締めた指先に響く。

 

 

(……まだだ!)

 

 

 開いた距離を詰め、追撃を加える。

 ガードしようと動く腕を制し、その体に、顔に、足に。容赦なく攻撃を打ち込んだ。

 

 

「……!」

 

 

 しかし、ふと感じた違和感にその場を飛び退った。サスケの立っていた地面から大蛇丸の腕が覗く。

 倒れていた大蛇丸は泥のように溶けていった。

 

 

(変わり身か……!)

 

 

 地面を刳り、迫る大蛇丸の頭上を飛び越える。

 地面から顔を出そうとする大蛇丸に、サスケは宙で身体を捻り寅の印を結んだ。

 

 

「火遁!豪火球の術!!」

「っ……!」

 

 

 今度は手応えがあった。だが、それもほんの一瞬。

 すぐさまワイヤーを木に掛け、方向を変える。木の裏へ回り込めば、手傷を負い、半分面の皮が捲れた大蛇丸が目を見張った。

 

 

「アナタ、私の動きを……ぐっ…は…!!」

 

 

 遠心力を乗せた脚が、大蛇丸の腹にめり込んだ。

 ワイヤーから手を離し、地面に降り立つと同時。吹き飛ばされた大蛇丸が、グシャリと大地に投げ出された。

 

 大蛇丸は動かない。だが、サスケは構えを崩さなかった。

 仮にもサスケが師としたのだ、この程度で死ぬような奴ではない。

 

 

「……ふふっ、ハハハハハッッ………!!!」

 

 

 狂ったような笑い声が、森に響き渡った。

 倒れたまま、動くことなく笑い続けるその姿は不気味を通り越し、おぞましい。

 ゾワリとたった鳥肌に、思わず身体が固くなる。それを見ていたかのように、大蛇丸は人形のようにカクカクと立ち上がった。

 笑い声がぴたりと止まる。俯いたその顔は見えない。

 

 

「………!」

 

 

 唐突に伸ばされた大蛇丸の腕は無数の蛇へと変化し、牙を剥いたそれがまっすぐサスケに迫る。

 クナイを片手にくねる蛇の合間をすり抜ける。取り逃がして尚追いかけてくる蛇の頭を落とす。一瞬おいて舞い散る血の飛沫をかぶるよりも先に、サスケは大蛇丸の喉元にクナイを突きつけた。

 

 クナイがその喉を貫こうとした刹那、ギラギラと光る目がサスケに狙いを定めた。

 昏い瞳に浮かぶのは紛れもない、“欲”だった。

 

 

「サスケ君────アナタが、欲しい………!!!」

「……っ!何っ!!?」

 

 

 大蛇丸は、避けなかった。

 ズブリとその首筋にクナイが埋まっていく。だが、その首を落とすにはこの細い腕では力が足りない。

 大蛇丸はサスケの手首を掴むと、それを捻り、ガツリと木にサスケを押さえつける。その首にクナイを刺したままに。だらだらと流れ落ちた血が、サスケのサンダルを汚した。

 

 

「うっ……」

「その容姿、その力……尾獣に興味はなかったけれど、思わぬ発見をしたわね」

「クソッ、放せ!!」

「ふふ、威勢がいい所も気に入ったわ。……私の器に相応しい」

 

 

 ニイ、と釣り上がった唇。大きく開いた口に伸びる鋭い犬歯。

 何をされるか悟ったサスケは、最後の手段を用いるべく眼にチャクラを込めようとした───が。

 

 サスケの腕を掴む、その蒼白い左手。

 否。その小指に嵌った指輪に、サスケは抵抗を忘れた。

 

 “空”と書かれた指輪。

 それ自体は初めて見るものだ。しかし、それとよく似た、“朱”と刻まれたそれを、サスケは形見として長く所持していた。だから、見間違えるはずもない。

 

 

 大蛇丸は───暁を抜けていない。

 

 

 その導き出された答えに、ドクリと心臓がざわめいた。

 そして、動きを止めていたのはサスケだけではなかった。大蛇丸もまた剥き出した牙もそのままに、目を見開いていた。

 

 

「これは……」

 

 

 大蛇丸が凝視するそこにあるのは、かつて刻まれた呪印。

 未だくっきりと残るそれに、大蛇丸ははっきりと顔を歪ませた。

 

 

「このチャクラ……まさか……」

 

 

 苦々しげな声。

 それと共に、サスケの腕が放された。

 

 

「………いいわ。今回は見逃してあげる。私も知りたいことができたからねぇ……?」

 

 

 大蛇丸はそう言って、塔とは反対側、来た道へと足を進めた。

 未だ呆然としていたサスケを振り返り、ふと微笑む。

 

 

「私の名は大蛇丸。また会いましょう、サスケ君」

 

 

 そう言い残し、大蛇丸は闇の中にかき消えた。

 それをぼんやりと見送り、体力の尽きたサスケはばたりと地に背をつけた。

 

 見上げる空は白み始めている。

 中忍試験は、四日目を迎えた。





 サスケを解放した大蛇丸はその足で集合場所へと急いでいた。予想以上に時間が過ぎ、集合時刻はもう過ぎている。


(本当は今のうちに尾獣を、と思っていたけれど。まぁまだ急ぐ必要はないものね。それより……)


 大蛇丸達の任務は二つ。
 尾獣はそのうちの一つだったが、まだ時期尚早なためそれほど重要ではなかった。あわよくば弱いうちに、というようなもので、今の人柱力の所在を特定するだけで任務は完了していた。
 それよりも、あの呪印を刻まれた少年。その姿を思い浮かべ、大蛇丸の顔は上機嫌に緩む。
 普段なら、既に誰かの物であれば興味は失せている筈。だが、その信条さえ無視し、何故か何としても手に入れたいと思う自分に大蛇丸は驚いていた。


(あの少年……サスケ君に、何が隠されているのかしら?フフフ、面白いわねぇ)


 呪印から感じ取ったチャクラを思い返し、目を細める。
 何かを封じる力、そして支配する力を感じた。それも、相当強く、根深いもの。付けられてもう長いのか、顔を近づけるまで気が付かない程に馴染んでいた。解呪は相当困難だろう。

 そんな代物を抱えるのだ、何かがある。大蛇丸の殺気に顔色一つ変えなかったのだから唯の子供でないのは明白で、写輪眼を持たない分、素の能力はイタチ以上の逸材だった。
 その子供が持つ秘密を解き明かしたくて堪らない。
 逸る心を抑え、大蛇丸は森を駆け抜けた。


「おや、珍しいですねぇ。アナタが時間に遅れるとは」
「ふふ……面白いモノを見つけてね」
「そうですか。道理で上機嫌な筈だ。それで、任務の方はどうです?」
「完了よ。あなたこそ、どうだったの?」
「ええ……。完了しましたが、どうやらこちらも面白いことになっているようで───ああ、来たようですねぇ」


 黒い影が、三つ。
 木の葉の薄闇に佇んでいた。
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