SASUKE逆行伝   作:koko22

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 鳥を描いた。空を描いた。建物を描いて、木々を描いた。
 目的は特にない。ただ、この目に映ったものを描いていただけだ。

 意味のないことをしている。
 そう思っても、筆を置くことができなかった。


『お、次は風景画か。ちょうどよかった、よかったらこれ使ってみてくれ』
『絵の具?これどうしたの?』
『この前、街におりた時に買っておいたんだ。そろそろ無くなるって言ってただろ?』
『ありがとう、兄さん!この絵にピッタリの赤色だ。……でも、いっつも僕ばっかり……』
『気にするな。俺はお前の絵のファンだからな』
『じゃあ、この絵が完成したら兄さんにあげるよ!』
『そうか。楽しみにしておくよ』


 上手いでもなく、ただ好きだと。
 その優しい微笑みを忘れることができなかった。



38.仲間

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 日もすっかり沈み、虫の鳴き声だけが暗闇に響いている。その中をサスケ達はただ黙々と歩いていた。

 

 先導する香燐がちらちらと戸惑うような視線をよこすのには気付いていたが、こういった状況下で解決できるだけのコミュ力を持っていない俺は、内心で詫びつつ隣を歩く男の横顔をそっと伺った。

 

 貼り付けた笑顔の奥、こいつは一体何を考えているのだろうか。読めないそれに、声をかけることが躊躇われる。

 こんな時にナルトがいてくれたなら、きっとこんな空気も何のその、この場を明るく照らしてくれていただろう。しかし、ここにその肝心のナルトはいなかった。

 

 

『塔のすぐ側、滝の裏側の洞窟に隠れてんだ。まあ、昨日の時点でだけどさ、あんま本体からのチャクラに変わりはねえから、戦闘とかで他に移ったとかはないと思うってばよ』

 

 

 その言葉通り、香燐の感知によれば川の辺りに五つチャクラがあるという。

 ナルトに道案内を頼むという手もあったが、しかし影分身にしても希薄過ぎるチャクラに違和感を感じた。

 

 よくよく話を聞くに、ナルトは俺と別れて早々、援護として数体の影分身を残していったらしい。しかし、件の雨隠れの幻術を解いていなかった影響から、影分身達も方向感覚を失い迷子になった挙げ句、他のチームと戦闘になって消えたそうだ。

 それでもナルトは諦めず、サスケを探すために影分身を作り続け……今や、流れてくる本体のチャクラが底を尽きかけてる、と。

 

 今一つ間の抜けた展開にため息をつき、諦めねえド根性に呆れ、幼いながらも膨大なチャクラに驚嘆し、垣間見えた絆に少しだけ頬が緩み。

 そして、最後の言葉を聞くと同時に、現状をあっけらかんと話す影分身を冷たい眼差しで睨み付けた。

 

 色々と言いたいことはあったが、中でも最後の言葉だけは聞き流せない。チャクラが足りないだけならまだいい。問題は、限界まで使い切ること───チャクラ枯渇にある。

 

 チャクラ枯渇とは簡潔に言うならばチャクラ、つまりスタミナ切れを指す。基本的にぶっ倒れて身体が動かなくなるというもので、ナルトとの戦闘を始め俺自身も何度かなったことがあった。

 しかし、大怪我を負っていたりチャクラ生成能力が未熟な子供の場合は、命の危険を伴う。多重影分身が封じられた理由もそこにあり、チャクラを継続的に流す影分身はその限界を越えてしまうリスクが高い術の最たるものだ。

 

 ナルトの場合は死ぬことはないだろうが、代わりに九尾の暴走の危険がある以上、暢気に道案内を任せている場合ではない。

 九尾の件は伏せつつも、手短に“死ぬぞ”と脅しつければ、影分身は真っ青になって慌てだした。

 

 

『ぜったい、話聞かせてくれってばよ!!』

 

 

 そう香燐に一方的に言い残して、ナルトは煙を残して消え失せた。

 しかし、そうナルトの都合だけで決めていいことでもない。香燐の立場としては、危険な森に何時までもいるより先にリタイアした方がいいだろうと思ったのだが………反対したのは当の香燐だった。

 

 

『し、仕方ないから、ウチも一緒に行ってやる。その方が一緒にいられるし……。そ、それに!ウチなら、ナルトがどこにいるか分かるんだから!だから、絶対に行くから!』

 

 

 その了承の言葉に、実を言えば内心少しホッとしていた。

 実際に血は繋がってないにしても、親のいないナルトにしてみれば姓が同じということは大きな意味を持つ。唯一の、他者との共通点。始めから持つ、決して変わることの無い繋がりだ。

 

 ナルトの親のことは俺には伝えられない。未来の知識に含まれるのか、話すことは出来なかった。

 アカデミーでそれをからかわれ、唇を噛んで俯く姿を何度も見ていた。だから、ほんの小さなことでも教えてやりたい、そう思っていた。

 そんな香燐を利用するような下心に罪悪感を抱きながらも、ナルト達と合流することがそうして決まった。

 

 そして。

 問題は残されたこいつ───サイだ。

 

 

『僕も途中まで一緒に行くよ』

 

 

 その言葉によって、サスケ、香燐、サイという摩訶不思議な組み合わせで共に塔に向かっていた。

 だが、サイとの接点もほぼなく、香燐に至っては初対面。紹介はしたが気まずい現状である。

 

 

(……どうしてこうなったんだ?)

 

 

 大蛇丸が暁を抜けておらず、中忍試験に香燐が参加しており、サイはカブトと入れ替わっている。

 度重なるイレギュラーに頭を抱えたくなった。たった一日で、考えなければならないことが積み重なっている。

 

 大蛇丸のことは、よくよく考えれば理解出来た。奴が暁を抜けたのはイタチが関わっていたとカブトから聞いた覚えがあった。

 しかし、イタチは今木の葉にいて暁には入隊さえしていないのだから、大蛇丸が暁を抜ける理由が無い。無論、留まるからには目的があるだろうが。

 

 しかし、香燐とサイ。この二人に関しては、どうしても分からない。

 

 似通いながらも、どこか異なる世界。多少誤差はあるにせよ、既に筋書きがあり、それをなぞっているかのようだと思っていた。

 しかし、そこに矛盾はなかった。必ず、原因があり結果があった。一人一人が悩み、考え、決断し、そして今に至っていた。

 

 ならば、何故この二人はここにいるのか。

 中忍試験に参加した目的は何だ?その背後にいるのは誰だ?

 

 俺は過去の全てを知っている訳じゃない。だから、こいつらが前も参加していたかどうかすら分からず、それ故に答えがでない。

 知ったところで、何も変えられないのかもしれない。

 それでも、時間は過ぎていく。後戻りはできないのだ。ならば、今出来ることをするだけだ。

 

 

「……サイ。ナルトを助けてくれたことだが、礼を言う」

「ああ、気にしないでいいよ。君のためにやったわけじゃないから」

 

 

 乏しいコミュ力を振り絞り、唯一の接点であるナルトを出汁に話しかけた。

 にこやかに、表情を変えずに答えるサイ。当たり障りがない答えの筈だが、どこか毒を感じるのは気のせいだろうか。

 そう思いながらも、サスケは会話を続けようと笑顔のサイを見つめて素直に頷いた。

 

 

「分かってる。だが、ナルトと俺は同じチームの仲間だ。仲間として礼を言う」

「仲間……」

 

 

 サイは少し思案すると、懐から取り出した巻物にさらさらと……いや、墨が切れたのか、掠れた“仲間”を書いた。

 

 

「“仲間とは、同じ目的を持ち共に行動する者である”……本にはそう書いてあったけど、別行動していても仲間って言うんだね」

「はぁ?」

 

 

 よく分からないことを言い出したサイに困惑したが、そんな俺には気付いてないのか、それとも気にしていないだけなのか。戸惑うサスケを置き去りに、サイは話を続けた。

 

 

「本で調べたんだ。他人とすぐに打ちとける方法とかね。それで、本には名前を呼び捨てにしたり、あだ名や愛称で呼べと……そうすれば親近感が出てすぐに仲良くなれるって」

 

 

 でも、とサイは巻物に目を落とす。

 

 

「一緒に行動していても、笑顔を作っても、あだ名や愛称で呼んでも……“仲間”にはなれないみたいでね。……仲間って何なのかなって、今考えているんだ」

 

 

 首を傾げて尋ねるその言葉に、一次試験前の混沌とした空気を思い出す。

 確かに向こうから話しかけてきた。笑顔だった。あだ名をつけてもいた。しかし……ぶっ飛びすぎだ。

 あれで仲間になりたかったとは、気付ける奴がいたら相当な捻くれ者だけだろう。

 

 

(仲間、か)

 

 

 何気なく使っていたから、意味といわれると答えが難しい。

 しかし。果たして、定義で括れるようなものだろうか。

 

 仲間と聞いて真っ先に思い浮かべたのは第七班だが───過去、敵対した事実もあった。

 

 嘗て、俺は復讐に囚われ大蛇丸の元へ自ら下った。止めるカカシやサクラ、ナルトを始めとして、木の葉の仲間を裏切って。そして、挙げ句には木の葉を潰そうとまでしたのだ。あの時の俺は間違いなく、ナルト達、木ノ葉隠れの敵だった。

 ナルトはそれでも俺を友と呼んだ。しかし、敵と友が両立出来たとしても、敵と仲間は相反するもの。どちらかでしかない。

 

 立場、目的、信念、損得、守りたいもの。

 敵か仲間か、それ以外か。その線はいくらでも左右され、変わり得る。決して一つとは限らないし、その規模も距離感も、それぞれ違うだろう。

 しかし、それを決めるのは己自身だ。

 

 

「共に在りたいと思える者───それが、俺の“仲間”だ」

 

 

 俺は木ノ葉のサスケ。そして、第七班のメンバーだ。

 そうあることを望み、選んできた。それが今の俺の全てだった。

 

 

「サイ、そういう奴はお前にはいないのか?」

「………いるよ」

 

 

 その問いに、一瞬、サイの笑顔が消えた。

 伏せられた瞳に、暗い何かが過ぎる。

 

 

「でも、もう少し増やしたくて。君も仲間になってくれないかな」

 

 

 瞬き一つで、その垣間見えた闇は消え失せていた。

 きっと前を知らなければ、気のせいだったと思ってしまうような、完璧すぎる笑顔で隠された。

 

 

(こいつは、“根”か)

 

 

 木の葉には光と闇がある。葉は鮮やかで、その根は暗い。今、こいつもまだ闇の中で苦しんでいる。

 そして、仲間がいる。それは救いか───それとも。

 

 浮かぶ思いを心の内に押し込めて、唇にほんの少し笑みを乗せた。

 今のこいつの立場は分からない。知れば、変わってしまうかもしれない。それでも、今だけは何も知らないフリをした。

 

 

「俺でよければな」

「いいの?ありがとう。君がお人好しでよかった」

 

 

 一言多いのは最早どうしようもないのだろう。聞かなかった振りをして、足を止めた香燐に倣って立ち止まった。

 

 森の中央にそびえ立つ塔を見上げる。

 二次試験のゴールだ。しかし、川はもう少し先にある。

 

 

「じゃあ、僕はここで。勉強になったよ、ウスラトンカチ」

「名前で呼べ。そう呼び続けるなら仲間は撤回だ」

「気に入らなかったかな?うーん……まあ、ならサスケでいいか」

「お前………いや、もういい」

 

 

 言葉に関しては諦めて別れようとしたが、『サスケ』と引き留められる。

 何だと振り向けば、サイは俺に手を差し出していた。

 

 

「仲間は、別れる時に手を握るって本に書いてあったんだ」

 

 

 伸ばされた手を、そして仮面のような笑顔を見つめる。その読めぬ黒眼に、表情の乏しい俺の姿が映っていた。

 その青白い手を握り返せば、ひんやりとした冷たさが伝わってくる。

 

 

「またな」

 

 

 今度こそ、サイに背を向ける。香燐も結局サイと一言も話さないまま、俺の隣に駆け寄ってきた。

 一人残されたサイの表情は予想できる。きっと、何もない。

 

 仲間になりたい、仲間を増やしたい。その思いが作り物のように思うのは、俺の邪推だろうか。

 背後に浮かびあがる老人の姿。俺たちの仲間にさせようとする、その真意は何だ。サイを、何に使ってる。

 

 募る苛立ちとも怒りともつかない感情を押さえつけ、思考を巡らせていると、ふと遠慮がちな手が俺の腕に触れて我に返った。

 不安そうな香燐に、知らず寄せられていた眉間の皺が緩んでいくのを自覚する。

 

 

「どうした?」

 

 

 努めて優しく声をかければ、香燐は躊躇うように視線を彷徨わせていたが、じっと見詰めていれば、思い切ったよう息を吸い込んだ。

 

 

「サスケ……ウチは、仲間か?」

 

 

 思いがけない質問に目を瞬かせて、一瞬の後、先ほどのサイとの会話のことだと思い至る。

 その揺れた赤髪が、“前”と重なった。

 

 

『よ、よう。久しぶりだな、サスケ』

『誰かと思ったら、君か。久しぶり。……あー、だからさっきから香燐が髪とかしたりそわそわして───』

『てめぇ、水月!』

『サスケ、久しぶりだな。今日はどうかしたのか?大蛇丸様なら今外に……』

『いや。通りがかっただけだ。すぐに出る』

『えっ……も、もうちょっといても、ウチは構わねえけど……』

『君、相変わらず素直じゃないよねぇ。ま、もう遅いし、今晩くらい泊まってけば?』

『部屋を用意してくる。奥で待っていてくれ』

『待て重吾、俺は………』

『そういや、サラダちゃんは今どうしてるんだよ?話聞かせてもらうからな!』

 

 

 騒がしい声が聞こえた気がした。

 

 そうだ、一つ抜けていた。不安そうに唇を噛む香燐に頬を緩め、その額をそっと小突いた。

 

 

「ああ」

「…………!!」

 

 

 仲間。その境界線は難しい。

 それでも、確かに絆があった。

 

 

「行くぞ、香燐。道案内を頼む」

「わ、分かってるよ!!集中できないじゃん、サスケの馬鹿ァ!!」

「……?」

 

 

 挙動不審な香燐にサスケは首をかしげながらも、二人は仲間の元へと歩き出した。





 塔に一人残された少年は、数日前に渡されたばかりの白い本を握り締めていた。真新しい表紙には何も書かれていない。


『───報告は以上です』
『フフ、ご苦労さま』
『……約束です。これを』
『分かっているわ。あら、綺麗な夕焼け。まるで───あの子の血みたい』
『………』
『ああそういえば……あの子からも、これをあなたにって頼まれていてねェ。開けてご覧なさい』
『これは───』


 不意にガサリと揺れた茂みに、少年は本をそっと仕舞い込む。


「遅いぞ」
「ちょっと、ゴタゴタに巻き込まれてしまって」
「それで?無事に終わっただろうな」
「……中で話すよ、ここは騒がしいから」
「チッ、かわいげのねぇ餓鬼だ」
「そう言わないでよ、ヨロイ。ちゃんと任務は果たしたよ」


 塔の扉が開かれる。ヨロイとミスミの背後からついてきていた気配は、いつの間にか消えている。
 それを確認し、先を行く二人に続いて塔へ足を踏み入れた少年は、ふとサスケ達の去った森を振り返った。


「またね───サスケ“君”」


 扉を閉めるその白い顔が、僅かに歪んでいたことを知る者は誰もいない。
 少年本人すらも、知り得ることはなかった。



 根には、名前はない。感情はない。過去はない。未来はない。あるのは任務。
 そう教わってきた………その筈なのに。

 僕の名はサイ。
 兄さん。貴方に会いたい。
 ただ、それだけなんだ。


【烈伝記念投稿】
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