「お待たせしました。少々トラブルもありましたが、予選は続行となります。えー……では、さっそく次の試合を始めますね」
ヨロイの件で何やら話し合っていたらしい火影、アンコ、ハヤテが戻り、予選試合が再開された。
サスケは柵へ体重を預けつつ、電光掲示板を見詰める。その鼓動はといえば、自身の名が記された時以上に高鳴っていた。
何しろかつては第一試合終了後、呪印を封じるためこの場から去らねばならず、試合結果は聞いていたもののこれが始めての観戦である。
この目で見たかった───そんな過去の悔恨がこのような形で叶うとは。
それに、今回は音忍がいない。組み合わせも必然的に変わるだろうことを思えば、期待半分、不安半分といった所だ。
どうなることかと固唾を呑んで見守る中、電光掲示板は第二試合の2名を示した。
『ハルノ サクラ』vs『ヤマナカ イノ』
その名に隣を振り返れば、当のサクラは呆然と掲示板を見上げていた。まさか、七班から連戦者が出るとは思わなかったのだろう。
しかし、すぐさまその状況を理解したのか、ごくりとつばを飲み込む音が聞こえてくる。
サクラといの。
この二人は以前から競い合う姿を度々見かけていたが、一見犬猿の仲……のように見えて、実際には互いに認め合うライバルである。
その実力はほぼ互角。
いのは猪鹿蝶と呼ばれる忍御三家、山中家の一人娘。アカデミー入学前の幼い頃から、忍となるべく鍛えられており、一般家庭の出のサクラとはそもそもの出発点が違う。
加えて山中家秘伝の忍術を継いでおり、忍術の扱いようも心得ている。術を実践の中でどう活用するか、どのような影響をもたらすか。それは戦況を大きく左右するものであり、手強い所だ。
一方のサクラにおいては、チャクラコントロールはこの頃からピカイチ。木登り所か水面歩行までたった一度でマスターした。こればかりはサスケさえも上回っている。
そして、その細やかなコントロールを活かした術の効率性は基礎体力の不足を十分に補うもので、体術もいのに負けず劣らずといったところか。
(長引きそうだな……)
実力は拮抗しており、どちらも譲らぬ性格で負けず嫌い。恐らくギブアップだけはしないだろうことを考えれば、すぐに決着がつくとは思えなかった。
自分が言えたことではないが、第一試合も思いの外時間が超過しており、中々重たい始まりとなりそうだ。
つらつらとそんなことを考えつつ、サスケは緊張に胸の前で手を握ったサクラの顔を覗き込んだ。
「サクラ───頑張れよ」
「!!!??」
ボン、とサクラの顔が一瞬で真っ赤に染まってくらりとよろめく。
それに慌てて背を支えながら、体調が悪かったのか?などとトンチンカンなことをサスケが考えていると、サクラがよろりと幽鬼のごとく立ち上がった。
「もちろんよ。絶対に、負けないんだから。……サスケ君に格好悪いとこなんて見せるか、しゃーんなろーー!!!!」
サクラの背に熱い炎のような幻影が見え、サスケは回していた手を引っ込めた。
何はともあれ、緊張も吹き飛ばし、やる気が出たようで何よりだ。
「両者、前へお願いします」
「行ってくるわ!サスケ君、ちゃんと見ててね!」
「あ、ああ……」
「サクラちゃんならやれるってばよ!!」
「ふふん、当然よ!」
「恋の力は百人力か……ま、行ってこい」
「はい!!」
ナルトやカカシの激励にも明るく答え、サクラは意気揚々と駆けていく。
既に待機し2階のやりとりを見ていたいのは、満面の笑顔を浮かべ降りてきたサクラに苛々と歯を噛み締めた。
そんないのへ、サクラはふん、と鼻で笑った。
「いの……今となっては、アンタとサスケ君を取り合うつもりもないわ」
「何ですって?」
「サスケ君とアンタじゃ釣り合わないし、もう私は完全にアンタより強いしね!さっきのも見てたでしょ?アンタなんか眼中ナシ!!」
「サクラ……アンタ、誰に向かって口きいてんのか分かってんの!!?ちょっとサスケ君に優しくされたからって、図に乗んなよ!泣き虫サクラが!!」
いのの額に青筋が浮かび上がる。これは相当キレたようだ。
それにしても、何故サクラはあれほど挑発するのだろう。その目は先ほどの浮かれようとは打って変わって真剣そのもの。いのが言うように図に乗っているとは到底思えない。
だが本音でもないのだろう、そこに感情は乗せられず、わざとらしさが隠せていない。
出汁に使われたらしいサスケは、サクラの狙いが分からず内心で首を傾げた。
「サクラちゃん言い過ぎだってばよ……いのの奴、すんげー目してコエーもん……」
疑問を抱くサスケの背中へ、くノ一達のプレッシャーに怯えたナルトが隠れる。
それをちらりと見やったカカシは、んー、としばし考え込んだ。
「サクラはいたずらに自分の力を誇示したり、人を傷つけるような子じゃない。……いのに容赦されたり手加減されるのが、イヤなんだよ」
「……なるほどな」
熱く闘志を漲らせる二人の姿に、遠い日の己とナルトの姿が被さった。
ライバルだからこそ。認め合うからこそ、虚偽や哀れみなど屈辱だった。
例え勝てなくとも、その屈辱を受ける位なら徹底的にボロボロにされる方がマシとさえ思うのだから、ライバルとは難儀なものである。
熱くなっているかと思いきや、ふと無言となった二人は見つめ合った。
それだけで、何かが通じ合ったのだろう。
サクラがしゅるりと額宛を髪から解く。それを受け、いのもまた腰にかけていた額宛を解いた。
それを両者同時に、額へと結びつけた。
「それでは───第二試合、始めてください」
ハヤテの言葉と同時に、サクラといのは床を蹴った。
サクラは走りながら印を組む。分身の術だ。
それにふん、と笑ったいのが動きを止めた。本体を見極めるつもりなのだろうが、実践では動きを止めることこそ命取りだ。
案の定、サクラはそれに口角を上げると、足へチャクラを通し地面を弾いた。
その速さに目を見開いたいのは、次の瞬間に吹き飛ばされる。サクラの拳が頬を捕らえたのだ。
「今までの泣き虫サクラだと思ってると痛い目見るわよ。本気で来てよ、いの!」
「そう言ってもらえると嬉しいわ……お望み通り、本気で行くわよ……!」
こうして、互いに譲らない戦いが始まった。
片方が一撃を入れるたび、もう片方が一撃を返す。
つかみ合って膠着状態になったかと思えば、飛び退って手裏剣を放ち、同じ軌道上でぶつかり合って届くことはない。
そして、拳と拳が交錯し合うと、両者共に頬へ拳がめり込んだ。
「うわぁ……」
「このままじゃキリが無いな……」
およそ、10分。
そんな殴り合いが続き、段々ボロボロになっていく二人へナルトがおののきの声を洩らす。
カカシが呆れたように呟くが、本人達からすれば真剣そのもの、時間の感覚などもはや無いのだろう。
このままどちらかが気絶するまで続くかと思われた戦いだったが、ついにこの果てのなさに我慢できなくなったのであろういのが、長く伸ばしていた髪をクナイで断ち切ったことで流れが変わった。
「邪魔よ、こんなもの……!!もう、さっさとケリつけてやるわ!すぐにアンタの口から参ったって言わせてやるんだから!!」
そう叫んだいのは印を結んだ。
その独特な印へサスケはまさか、と顔を曇らせる。
───山中家秘伝忍術、心転身の術。
術者が自分の精神エネルギーを丸ごと放出し敵にぶつけることによって、相手の精神を数分間乗っ取りその体を奪い取る術である。
使いようによっては非常に強力で、潜入や工作に適しているが、残念ながら戦闘向きとは言えないものだった。その術には幾つかの重大な欠点があるためだ。
サクラもまたそれを知っていたのだろう、無駄よ、と不敵に微笑んだ。
「まず第一に、術者が放出した精神エネルギーは直線的かつ、ゆっくりとしたスピードでしか飛ばない。第二に、放出した精神エネルギーは相手にぶつかり損ねてそれてしまった場合でも、数分間は術者の体にも戻れない。さらに言うなら、その間術者……つまりあんたの本体は、ピクリとも動かない人形状態!!」
サクラの言葉通りだ。そもそも、猪鹿蝶の秘伝忍術は連携術でもある。将来的には克服するものの、現段階ではいののみで成功する確率は低く、あまりにもリスクが高い。
それを知るシカマルが、柵を乗り出しやめろと怒鳴っているのがその証拠だろう。
だが、それをいのが知らぬはずもない。
自暴自棄になったというのも否定は出来ないが、しかし、それを果たしてライバルに仕掛けるだろうか。自分は負けても、という前提での捨て身の攻撃を、まだ余力が残っているというのにやるだろうか。
もしも俺がその立場にいたとしたら、絶対にそんなことはしない。
何か企んでいるのか、とサスケはジッとその動きを見詰めた。
「忍法、心転身の術!!」
ガクリといのの体から力が抜ける。
サクラが俯いていた顔を上げた。
「フフ……残念だったわね、いの」
術はかかっていなかった。だが、その時ピクリといのの指先が動く。
その指先からチャクラが流れ───いのの髪を伝ったそれが、サクラの足に絡みついた。
「こ、これは……!」
「かかったわね、サクラ。ふぅ、やっとつかまえた……!」
いのがスッと体を起こす。
術ははったりだったのだ。別に印を組んだだけで術は発動する訳じゃない。忍術はそこにチャクラを練り込み、イメージし、形とする。
いのの術は実体がない分、発動の有無は本人にしか分からない。そこが盲点だったと言える。
サクラは縄を解こうと試みるも、元はいのの髪だ。いののチャクラを通しやすいのは無論、流せるチャクラ量も普通の縄とは桁違いというもの。
動けないサクラへ、いのは再び印を向けた。
「心転身の術!!」
正面から向けられる術を、今度は避けられない。
「フフ……残念だったわね、サクラ!」
サクラが───いや、サクラの中に入ったいのが、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「なあなあ……何か、サクラちゃん様子が変だってばよ?」
「サクラの精神は完全にいのに乗っ取られた。サクラの中には……今、いのがいる」
心転身の術を知らないナルトの疑問へ、どこか悔しげにカカシが答えた。
サクラの体にいるいのだが、しかし、自分へダメージを与えられる筈もない。と、すれば……いのの狙いは恐らく。
「私、春野サクラは……この試合、棄権───」
そんなサスケの予想を辿るかのように、サクラの腕がおもむろに上げられ、操られた唇が負けを宣言しようとした時。
サスケの隣にいたナルトが柵を強く握り締め、深く息を吸った。
「ダメだってばよ、サクラちゃん!!ここまで頑張ってきたのに、そんなバカ女なんかに負けたら女がすたるぞーー!!……おい、サスケ!!お前も何か言ってやれってばよ!!!」
酷い言い草のナルトの叫びに目を瞬かせる。続いてがっしりと両肩を掴まれ、揺さぶられた。
手助けはフェアじゃない。だが、声援くらいなら……いいだろう。
サスケはナルトに倣い、静かに息を肺へと流す。
「負けるな、サクラ」
ポツリと落ちた声。声量は決して大きくはなかった。だが、響いた。
うめき声を上げ、サクラが頭を抱え始める。
「棄権なんかして、たまるもんですか!!しゃーんなろーー!!」
それはいのではない、サクラだった。
精神力だけで術を打ち破ったのだ。
術を解かれたいのが、信じられないとばかりにサクラを凝視する。
だが、サクラの負けん気の強さはナルトと同様に筋金入りだ。でなければ、とっくに里を抜けたサスケのことなど諦めていただろう。
驚くでもなくニィと口角を上げたサスケに、やったってばよ、とはしゃぐナルトが肩を組む。
しかし、勝負はまだ終わっていなかった。チャクラはもうほとんど残ってはいないだろうにも関わらず、二人はふらふらと立ち上がり───拳を構える。
これが、最後。勝負が決まる。
誰もがそう悟った。
二人が走り出し、スピードを乗せた最後の一撃が振りかぶられる。それは重なることは無く、頬を抉り、額宛を弾き飛ばした。
両者共に、倒れたまま動かない。
「両者続行不可能……ダブルノックダウンにより、予選第二回戦通過者無し!!」
第二回戦はこうして終わった。
通過者はいない。しかし、サクラは負けなかった。
「あの頼りなかったサクラまでが、こんなに成長しているとはな……。この中忍試験に出して良かったと、心から思ってるよ」
気を失ったサクラを抱え、戻ってきたカカシがサクラを見下ろしにっこりと笑う。
そう、成長しているのだ。一歩ずつでも、確実に。
いのと共に横たえられたサクラの姿に、サスケは目を細めた。
「よくやった。流石───」
俺の妻とは、まだ言えないけれど。
いずれ、嘗てと同じ関係を築けることを。彼女が再び応えてくれることを、願っている。
【原作の予選対戦表】
第一回戦:うちはサスケ(木)VS 赤胴ヨロイ(木)
➡️うちはサスケ
第二回戦:ザク・アブミ(音)VS 油女シノ(木)
➡️油女シノ
第三回戦:剣ミスミ(木)VS カンクロウ(砂)
➡️カンクロウ
第四回戦:春野サクラ(木)VS 山中いの(木)
➡️引き分け
第五回戦:テンテン(木)VS テマリ(砂)
➡️テマリ
第六回戦:奈良シカマル(木)VS キン・ツチ(音)
➡️奈良シカマル
第七回戦:うずまきナルト(木)VS 犬塚キバ(木)
➡️うずまきナルト
第八回戦:日向ヒナタ(木)VS 日向ネジ(木)
➡️日向ネジ
第九回戦:我愛羅(砂)VS ロック・リー(木)
➡️我愛羅
第十回戦:秋道チョウジ(木)VS ドス・キヌタ(音)
➡️ドス・キヌタ
【予選通過者】
木の葉:うちはサスケ、油女シノ、奈良シカマル、うずまきナルト、日向ネジ
砂:カンクロウ、テマリ、我愛羅
音:ドス・キヌタ
【烈伝記念投稿】
①9/15
②10/10
③1/4
④3/28
⑤6/9
⑥7/23
感謝〆!!(*´艸`*)