「またね、祭りのお兄ちゃん!イタチさま!」
「ああ。またな」
「アナゴ、その子を頼むぞ」
「ニャ」
子供と猫達に別れを告げ、サスケとイタチは居住区の門戸をくぐり抜ける。
里の中心街ヘ数時間前に通った道を遡ろうとして、ふと振り返れば、陽光に照らされた一族の紋とその下に揺れる小さな腕と尾が見えた。
それに手を振り返そうとした時、横から吹きぬけた湿り気を帯びた強い風に阻まれる。
「………」
「サスケ、どうした?」
「……いや。何でもない」
訝しげなイタチにゆるく首を振る。
舞い上がった木の葉を追っているうちに、子供達の姿は消えていた。何故かざわめいた心に蓋をして、返し損ねた手を下ろし今度こそ木ノ葉の中心街ヘと歩き出す。
二人を見下ろす青空には、遠く大きな入道雲が高く伸びていた。
「本戦は一ヶ月後か……修行はカカシさんにつけてもらうのか?」
「ああ。明日からちょうど一週間後に修行を始める。それまでは療養しろと言われた」
「一週間後……お前、守る気がないだろう?」
「………」
「まったく、経絡系のダメージを甘く見るなと言った筈だ。焦る気持ちはわかるが、無理はするなよ」
人気のない土手を歩きがてらそんな話になって、図星を刺されたサスケは口籠った。そんなサスケに苦笑したイタチは、忠告めいたことを言いつつも、カカシに告げ口をする気はないようでホッと胸をなでおろす。
だが、カカシの言葉がふと蘇り、久方ぶりのイタチとの会話に弾んでいた気持ちも沈んでいく。
『修行は見てやる。だが、あの術───千鳥は教えられない』
存外、千鳥伝授をばっさり断られたことが尾を引いているらしい。その理由は理解できるものの、納得はまだできていなかった。いや、諦められない、と言った方が正しいだろうか。
なにせ百年以上に渡り愛用していた術で、未だに咄嗟に使いそうになるのを堪えている現状だ。しかし、カカシの開発した固有忍術でもあり、書で学んだだの見て覚えただのと誤魔化しは効かない。
大手を振って使うには、カカシから伝授された、その事実こそが必要だった。
(いっそ……アンタが修業をつけてくれれば今回くらいは諦めもつくんだがな)
こうして並んで歩いていると、昔イタチにつけてもらった修業の道中を思い出し、そんな願望が浮かび上がる。
戦闘スタイルを大きく変えることは今更難しいが、火遁や手裏剣術、幻術、剣術……イタチから学べることは未知数だ。それと引き換えであれば、とは思うものの明日からイタチも芽の総隊長としての任務があるそうだし、先程明かした情報の件でも苦労をかけることだろうから口には出せない。
───いっそ、写輪眼を見せるか?
ふとそんな思考がよぎる。呪印を入れられてからは使ってはいないが、使おうと思えば使えることは分かっていた。
千鳥を伝授される為に必須であれば、それも致し方ないのかもしれないが……上層部に利用されないとも限らず。眼を取られたとしても文句をつけられない立場で、それがダンゾウの手に渡り使い捨てにされる位なら潰した方がマシとさえ思えた。
「サスケ?浮かない顔だが……何かカカシさんに言われたか」
突然黙り込んだサスケを訝しんだイタチは、やはり何でもお見通しなのだろう、足を止め顔を覗き込んでくる。
純粋に案じている、そうありありと伝わる眼差しに噤んでいた口も緩んだ。
「……千鳥は……写輪眼がなければ教えられない、そう言われた」
「……ッ!」
イタチが息をのんだ。その目が見張られている。それほど驚くことだろうか。
そんな疑問が浮かぶと共に、どこか青ざめた顔でイタチに両肩をつかまれていた。
「写輪眼は、使うな」
「……?そもそも俺は使えないぞ」
「ッ、ああ……そうか、そうだったな……」
イタチはかがんで視線を合わせていた為、俯いたその表情は伺えない。ただその開いては閉じる口元だけが見えて、何と言えばいいのかと言いあぐねているようだった。
(大蛇丸に狙われているからか?それとも……何か約定があるのか?)
うちはと里で結ばれた契約の内容は知らない。きっとクーデターのことを教えたくなかったのだろうし、当事者とはいえ子供に話すようなことでもない。記憶を消す予定だったなら尚更だ。
だが、その態度で、写輪眼を見せれば碌な結果とならないことが察せられた。
「……頼む……」
掠れた懇願に込められた、その思いの深さは底知れない。頷きたくても、それに答える術はない。
どう伝えれば良いだろうかと、言葉を選びながら掴まれていた肩を解くよう一歩下がる。一瞬ビクリと震えた腕は、呆気ないほど簡単に外れた。
「……俺は写輪眼を使えない」
「………」
「でも、何年かかったとしても、千鳥を諦める気は無い」
「…………」
「だから、他の方法を考えているんだ」
イタチがようやく顔を上げ黒い瞳が瞬く。それが紅に染まる様を思い出していると、ふと同じ紅の、けれど写輪眼とは異なる眼が重なった。
「イタチ。時空間忍術に心当たりはあるか?」
「時空間忍術……?」
「ああ。例えば───人や物を瞬時に入れ替えるような、そんな術だ」
◆
写輪眼無しに千鳥を使う。そんな機会が、かつてたった一度だけあった。
遠い昔、それこそ百年以上前のことだ。贖罪の旅を始めて間もない頃、忍が失踪するという事件が起きた。それに重なるように、起爆人間が各国を襲撃し、独自に調査を進める内に御屋城エンという人物が絡んでいるという情報を掴んだ。
彼と接触するべく忍び込んだのは、忍達が玩具のように戦わせられていた胸糞悪い闘技場。
血継限界コレクターだという御屋城と対面するため大蛇丸に嵌められるような形で参加したが、気づけば自身を餌にその場にいた全ての忍達を解放するため戦っていた。
写輪眼を使わなかったのはただの意地ではあったが、それを可能にしたのは『天手力』──相手との場所を強制的に入れ替える、その能力による所が大きい。
あの力があれば、相手のカウンターを見極める必要が無い。だが、今輪廻写輪眼を欲した所で無いものねだりというものだ。
天手力の代替………そう考えた時、ふと浮かんだ術があった。
『いいよな~お前のその能力。なんか父ちゃんの術に似てかっけェしな!』
あのウスラトンカチがそう評したのは───飛雷神の術。
ナルトの父、四代目の代名詞とさえ言える術だ。黄色い閃光という異名はこの術から取られたという。もとは二代目扉間が考案したもので、強力ながらその使い手は少ない。
今や実質失われたような術だったが、流石にもイタチは思い至ったらしく、険しい顔で考え込むように顎に指をかけた。
「……心当たりはある。だが……時空間忍術は才能が無ければできないし、あれは習得難度S級。数日でモノにできるような術ではないぞ」
難色を示されるも、既に思いは決まっていた。写輪眼、千鳥、天手力───この三術を基盤とした戦い方をしてきたのだ。この中忍試験だけのためではなく、今後の戦闘を左右することになるだろう。千鳥同様、たとえ何年かかろうとも諦めるつもりはなかった。
「写輪眼なしに千鳥を使うには、それくらいしか思い浮かばない。少しでも、手がかりがほしい………頼む」
じっとイタチの眼を見つめる。
そんなサスケにイタチはため息混じりに笑うと、ちょいちょいとこまねきした。その仕草は、昔修業を強請るサスケの我がままを諌めた時を彷彿とさせる。やはり駄目かと少し肩を落としながら一歩近づけば、あの頃と同じように、その指が額へと伸びてきてギュッと目を瞑った。
「わかった……お前がそこまで本気なら、かけ合ってみよう。明日朝、火影邸前に来い」
コツリと額を突かれ告げられた言葉に、パッと目を開く。
あの頃よりも強さを増した、柔らかな目がサスケを写している。突然曇っていた視界が晴れたような心地がして、サスケはくしゃりと泣きそうに、或いは笑い出しそうに目を細めた。
「ありがとう───」
兄さん、と口の中だけで呟いた。
今回短いのでおまけを置いておきます~
チャクラ属性について
【】内は、基礎事項・豆知識。(wiki・他参照) 映画、アニオリなどは省いています。
【血継限界での性質変化】
血継限界によって2つの性質変化を一度に合わせ新たな性質を作り出す能力が存在する。3つを合わせる場合は血継淘汰と呼ばれる。
【チャクラ属性(推測含む)】
土⇒水⇒火⇒風⇒雷⇒土
※炎遁は火遁の上位置換と考える
※デイダラの爆発術は禁術で得たものなので土遁と考える
・風遁+土遁+火遁=塵遁(土影オオノキ、土影ムウ)公式
・土遁+水遁+陽遁=木遁(火影柱間、ヤマト)公式※ヤマト解説
・土遁+水遁=泥遁(飴雪)※暁秘伝
・水遁+火遁=沸遁(水影メイ、人柱力ハン)公式※水影解説
・火遁+風遁=灼遁(パクラ、ナルト+サスケ)公式※ミナト解説
・雷遁+土遁=鋼遁※我愛羅秘伝
・土遁+火遁=熔遁or溶遁(水影メイ)公式※水影解説
・土遁+風遁=磁遁(トロイ、風影羅砂)
・水遁+風遁=氷遁(白)公式※カカシ解説
・水遁+雷遁=嵐遁(ダルイ)公式※腕の入れ墨より
・火遁+雷遁=?
・風遁+雷遁=?
公式情報で、追加修正ありましたら教えて頂ければ嬉しいです〜(*´ω`*)