木ノ葉隠れの里の象徴として名高い顔岩。その真下には、岩壁から生えたかのような神社がひっそりと建てられている。
木ノ葉創立に伴ってつくられた神社であり、建設当初は土地神を祀っていたというが、時代を経て現在では歴代火影の英霊を祀る場となっていた。本殿から岩壁を這うように伸びる階段は、非常時の避難宿舎にも繋がっている。
普段は人気もなく、厳かな空気に包まれている神社だが。年に一度の今日ばかりは、鳥居から本殿、手水舍に至るまで訪れた参拝客がひしめきあっていた。
境内には露天が並び、子供達は寒さなど気にも止めずはしゃいでいる。御籤を結ぶ男女や、絵馬を書く老夫婦、カラカラと鈴を鳴らしている少年少女。
そんな盛況な神社に当代火影は微笑み、一礼をして年月と共に少しばかり塗装の剥げた赤塗りの鳥居をくぐった。
本殿へと続く参道橋を歩き出せば、里民から自然と道を譲られる。時間のない身にはありがたいことだった。
過去と現在と未来を表す参道橋は、振り返らず、立ち止まらず、躓かず。そうして渡りきるならば、邪念を払うことができるのだと言われている。
けれど渡りきって尚、当代火影こと猿飛ヒルゼンの胸中から暗雲が晴れることはなく。憂いを含んだため息は、白く染まり大気へと溶けて消えた。
(全く……どうしたものか)
ヒルゼンは拝殿に立ち、手水にかじかんだ両手をそっと合わせた。
目を瞑りながら歴代の火影達を脳裏に描き、抱える想いを白い吐息に乗せて先立った彼らへ問いかける。
(初代様、二代目様、ミナト…わしは一体どうしたらよいのですかのう……)
明日、うちはの件で上層部と話し合いが持たれる。
うちは側の言い分もわかる為何とかしたいのは山々だが、ダンゾウをはじめとした相談役はうちはを毛嫌いしており、さらにクーデターが現実味を帯び始めていた。
もはや一刻の猶予もない中、先日内密に告げられたうちはシスイの提案は魅力的に思えた。
シスイの万華鏡写輪眼『別天神』。無意識の内に幻術にかけ、操ることの出来る恐ろしい術だ。相手は術中にあることも知らぬまま生涯を遂げることとなる。
しかし意思を操る、それは酷く残酷なことだ。中には術を受け入れられず、発狂した者も過去にいたそうだ。
それをシスイは家族とも呼べる一族郎党、実の母や父にさえその術をかけると言う。その苦しみは、覚悟は、如何ばかりだろう。
このままでは、いずれその術に頼らざるを得なくなる。だが、果たしてそれが最善なのか。心を歪めたその先に、果たして平和はあるものだろうか。
嫌な予感ほどよく当たるもので、あの日………全てを変えたあの夜も同じ気分を味わったことを思い出す。九尾襲来の夜のことだ。
里に甚大な被害及び死者を出し、四代目火影ミナト並びに人柱力のクシナが殉職した。あの一夜で失ったものは数え切れない。
思えばうちはへの疑念もそこが起点である。それまでは共に戦った者同士、多少の偏見はあれど今程関係は拗れてはいなかったのだ。
それが今や疑いが疑いを呼び、溝は深まり続けている。
だが、うちは当主の妻ミコトとクシナは親友であり、その繋がりからうちは当主フガクとミナトも友人関係にあったという。又、当時のうちはに里を襲う理由が見当たらない。
やはり、間違えたのだろうか。あの時うちはを信じ、前線に出していれば……。
幾度も考え悔やんだことだが、時は戻らない。今は火影としてクーデター阻止のため動かなくては。
───どこかで、鈴の音が鳴った。
『■■■■■■■■』
「…っっっ!!?」
ふと脳裏をよぎった考えに、ヒルゼンはハッと目を開いた。
打ち消せど打ち消せど浮かんでくるその策に、背筋を嫌な汗が流れていく。
(だめじゃ……それは、ならん!!そんなことをすれば逆に火に油を注ぐようなもの!危険すぎる!)
だが天啓のようなそれは、何故か消せば消すほどに色濃く胸中に染みていく。
まるで、暗示でもかけられたかのように───。
「……様、火影様!!」
「ん?おお、どうした?」
「火影様、どうかしたんですか?後ろでみんな待ってるんですけど……」
「おお、すまんすまん!すぐにどくぞ!」
幼い子供の言葉に後ろを振り返れば、ズラリと並んだ人垣ができていた。
再び動き出した列に背後からホッとしたような息が漏れる。恐らくは火影であるヒルゼンを急かすことは出来ず、待っていてくれたのだろう。
先程の子供にもう一度礼を言い、ヒルゼンは火影邸で待つ孫の元へ帰路を急いだ。
心に落ちた黒い染みは、何時までも消えなかった。
その一方。
ヒルゼンに声をかけたその子供はというと、嬉しそうな表情を隠さず、向拝所の傍で静かに佇む男の元へと駆け寄った。
「あ〜、緊張した!ねぇ、これでよかったの?」
「……ああ、みんな助かった。ありがとう」
「いいのよ。だって私、火影さまに褒められたもの」
「そうか……ほら、ようやく迎えが来たようだぞ」
「え?っ、ママ!!」
「ああ、良かった……。全く、手を離しちゃ駄目って言ったでしょ、心配したのよ!」
「ごめんなさい……。あのね、お兄ちゃんが一緒にママのこと探してくれたの!」
「あらそうだったの。それでそのお兄さんは?」
「え?ここに───」
子供が振り返った場所には、先程の男の姿はなかった。キョロキョロと辺りを見回すも、背の低い子供には混み合う雑踏の中まで探すことは出来ず、戸惑ったように指差した細い腕がゆっくり落ちてゆく。
そんな落ち込む我が子の様子に、母親は励ますようにその手を握る。
「もう帰っちゃったのかなぁ。私もありがとうって言いたかったのに……」
「きっとまた会えるわよ。早く行きましょう、サクラ。今度はパパを探さないと」
「……そうだよね。きっと、また会えるよね!……あ、さっき私ね、火影さまに褒められたのよ!」
「まあ凄い、何があったの?」
「えっとね───」
去り行く親子を木の上から眺めていた男は優しく眼を細め、瞬きと共に姿を消した。
サクラちゃん初登場!
ただしサスケさんは誰ぞやに変化してました。うちはの監視をスルーできる人物に。
初恋を勘違いしてしまうサクラちゃん……そのうち三角関係勃発しそうですね。
でも、いつかきっと気づく。愛の力って凄いね展開です。
ちなみに本作の神社は映画RORD TO NINJAに出てきた建物をイメージしてます。鳥居とか参道橋とか石段とか、神社っぽいなって。違ったらすみません(汗)
誤字脱字報告ありがとうございます。
また、お気づきの点あればご指摘よろしくお願いしますm(_ _)m